最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

26話 総力戦ってなんだかかっこいい

 ホワイトオーク。
 ミノタウロスより弱い魔物だが、一年半で俺がどれだけ強くなったか試すには十分な相手だ。


「行くぞ!」


 俺はテンペスターを大きく振りかぶり振り下ろす。
 が、このテリア山に住む魔物は、その過酷な環境下でも生きていけるように皮膚が耐寒耐熱、更には硬化しており、かすり傷しか出来ない。


「レイグ!俺に合わせろ。黒帝流 剣狼」

「おう!」


 俺の突きがオークの腹にヒットするが、剣が刺さったのは数センチ。
 分厚い脂肪に阻まれ、テンペスターは簡単に跳ね返される。


「ちっ……黒帝流 二連剣狼」

「はぁぁぁ!」


 右上からの斜め斬りとレイグの大剣による左上からの斜め斬りが重なりオークの腹にクロスの傷ができる。
 が、浅い。熱い脂肪に硬い毛皮。防御面に関していえば一級と同等のそれだ。


「クロト、レイグ! どけ!」


 オークが動き始める前にガイナが畳み掛ける。
 ディアバレスを両手で振り上げフルパワーで振り下ろす。


「ウォォォォ」


 ゴンッと鈍い音が響きディアバレスがオークの腕にめり込む。
 が、それでも骨を断つことは出来ず、ディアバレスが半分腕にめり込みオークが叫ぶ。


「炎術 炎の衝撃フレイムインパクト

「氷術 氷の弾丸アイスブレッド

「お、おい ちょっとま…………」


 赤く光る小さな球体がオークの元へ集まったかと思ったら、激しい炎を伴いながら爆発した。
 何が起こったか理解できていないオークへ更に追撃と言わんばかりに氷の氷柱が飛んでいく。


「ウォォォォ」


 オークは腕でガードするも数本は体に刺さった。痛みに吠えるが俺たちもそれどころじゃない。


「あぶねー! 殺す気か!!」


 お、ガイナはなんとか抜け出したようだ。


「畳み掛けるぞ! ガイナ!レイグ!」

「おう!」


 俺はテンペスターに雷を纏わせ大きく上に飛ぶ。
 レイグは大剣のリーチを活かし正面からオークを刺すことで距離を保ちつつオークに攻撃を仕掛けている。
 ガイナはオークが動けない隙きを狙って一気に斧を振り下ろす。が、オークも馬鹿ではなく再び腕でガードした。
 先程よりも力が入ってなかったのか傷が浅い。


「うっ……」

「ぐは…………」


 次の瞬間、戦況は一気に変わった。
 俺が空中で剣を振り下ろすまでの間にオークはガイナを斧ごと投げ飛ばし、レイグの大剣を素手で掴み柄の部分でレイグの腹を殴り飛ばした。


 ガイナは離れたところで大の字に倒れている。
 レイグはゴロゴロ転がったあと木に激突して積もっていた雪の中に埋もれて消えた。


 そして空中で剣を振り上げている俺を一目睨むとレイグの大剣で俺へ攻撃してくる。
 横に薙ぎ払った大剣を受け止めるため俺はテンペスターを盾のように構え、体を丸める。


「クロト!」


 あの声はエヴァか。
 なんて考えているととんでもない衝撃が左側から全身に走る。
 俺はあっけなく吹き飛ばされ木に激突する。


「クロト!大丈夫?」

「あ、ああ」


 背中を強く打ち付けたせいでうまく呼吸ができない。
 頭も打ったらしくフラフラする。


「炎術 炎龍」


 マナの手から放たれた炎が龍へと形を変えオーク目掛けて飛ぶ。炎龍は空を焼き尽くしながらオークに直撃。しかし、寒冷な山で過ごすオークの剛毛が炎を遮断しダメージは殆ど無さそうだ。


「エヴァ、合わせろ」

「う、うん!」

「雷術 雷砲」

「氷術 氷の大砲アイスキャノン


 雷を纏った氷柱がオークと飛来。雷で貫通力を上乗せした氷は今までで一番の威力を誇る攻撃だが、それでもオークの剛毛を打ち破ることは出来ない。


「ホ、ホワイトオークの皮膚は……耐性があって、攻撃が通らないことで有名らしいぜ」 

「ガイナ、大丈夫か?」

「ああ、なんとかな」


 ゴホゴホと咳き込みながら立ち上がるガイナを横目に俺はさっき聞いた情報を思い出す。
 皮膚は耐性がある。雪山に生息している以上、氷に耐性があるのは理解できるが、マナの炎術ですら大したダメージになって居なかった事を考えれば魔術に対する耐性が高いのだろう。おまけに物理耐性もある。が、魔術に対する耐性より、物理に対する耐性の方が若干弱い。
 責めるなら剣による攻撃のほうがいい……いや、アレを試してみるか。


「ガイナ!レイグ! 十秒でいい あいつの動きを止めてくれ!」

「おう!」

「わかったよ」


 二人共結構ダメージを受けてる。
 そう長く戦えば暫く行動できなくなるだろう。この魔物だらけの雪山で足を失うのは不味い。早急に決着を付けないと……
 エヴァとマナはオークよりも恐怖と戦ってる感じだ。こっちもあまり長引かせるわけにはいかない理由だ。


「うぉぉぉぉ!」


 ガイナが振った斧がレイグの大剣を捉えそのまま絡めとり、地面に叩き落とす。対人ならば武器を持っている相手すらもひれ伏させる体術だが、流石に巨体のオークを組み伏せる事は厳しい。
 武器を失ったオークは素手でガイナを殴ろうとするが、それは水の刃に阻まれた。


「水術 水刃」

「ナイス! 土術 土牢」


 雪の下から突き出た土がオークを挟み動きを止める。更にそこへレイグが追い打ちをかける。


「水術 水鉄砲」


 レイグの背後を流れる川の水を操り、十ほどの細い水柱を生成してオークの顔面に直撃させる。視界を奪われ、顔に攻撃を受けた事で一瞬怯んで動きが止まる。


「よし、もういいぞ! 二人とも下がってくれ。マナ、二人の治療を!」

「ええ」


 俺はテンペスターを鞘に戻し、手に魔力を込め雷を纏わせる。ヂヂヂと激しい雷鳴を響かせて稲妻を光らせる。
 それを一旦手の中に収め、一気にホワイトオークに接近。急な接近に対応しきれず、更に土牢のせいで身動きが取れないオークはあっさり後ろを取られる。


「食らえ、俺の最大火力。雷術 雷撃ライトニングボルト


 留め続けた雷を一気に放出し、超高電圧の雷撃をオークに浴びせる。雷は表面を焦がし、体内にまでダメージを与える。


「いくらお前の皮膚に耐性があろうと、この技は内側から破壊する」


 シューと煙を上げながら気絶するオーク。恐らくは死んでいるはずだが、ここは安全を期すためにもとどめを……
 テンペスターを振り上げ、とどめを刺そうと構える。が、突然視界が暗くなり、足元がよろける。魔力を消費しすぎたんだ。


「大丈夫か? クロト」

「ああ。でも、もう魔力がほとんど残ってない」

「ひとまず……キャンプ場に戻ろう。いきなりこんな全力の戦いになるとは思わなかった」


 俺はガイナに支えられながらキャンプへと歩き出した。


「ウォォォォ」

「嘘、だろ……」


 川が流れている場所からキャンプまでは森を挟んでいるが、俺たちが行こうとしたちょうどその方角の森からもう一匹のホワイトオークが現れた。


「ク、クロト!」

「ガイナ、レイグ。行けるか?」

「ほとんど限界に近いが……やるしかねーだろ」

「どうする? 本当に戦うのか?」

「一旦逃げるのが得策だろうな。ただ、逃してくれるかどうか……」

「ひ…………」


 マナとエヴァは完全に恐怖にやられてるな。全員で力を尽くしてようやく一体倒せたのに、満身創痍のこの状況でもう一体と相手しないといけないなんて……
 ふと、イザベラさんと古代魔術習得時にしていた話を思い出す。





「クロト、古代魔術の習得には全力を注ぎなさい。ただ、使う時には一つだけ約束をしてちょうだい」

「約束?」

「ええ、古代魔術を使っていいのは『仲間を守る時』だけよ。わかったわね?」

「……はい、もちろんです! でも、どうしてそんな事を?」

「古代魔術は大きな力。それこそ人を暴力に溺れさせるような魅力もある。ただそれ以上に大きな代償も付きまとう」


 代償……? 大量に魔力を消費してしまう事だろうか?


「だからここぞという時以外は使わないでね」

「わかりました!」





『仲間を守る時』


 やるか、この残り少ない魔力でも雷化・天装衣ラスカティグローマなら問題ない。それに今はまさに、仲間を守る時!


「雷術奥義 雷化・天装衣ラスカティグローマ


 鏡盾シュピーゲルによって跳ね返された雷が俺に降り注ぎ魔力を急激に高める。そして体質を雷へと変換させ、雷化を完了する。


「全員下がれ! ここは俺がやる」

「で、でも!」

「いや、あれなら大丈夫だ。下がるぞ!」

「ちょ、ちょっとガイナ!」


 ガイナがエヴァとマナを担ぎ後ろへ下がった。レイグもそれに習う。


「ま、そんな大層な事をするわけじゃない。ちょっと……無理をするだけだ!」




ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
26話読んでいただきありがとうございます!

16話の種族の話で、設定に変更があったため修正しておきました。
また時間があればご覧ください。




アリス「26話読んでくれてありがとうね

最近思うんだけど、私とイザベラってキャラかぶってないかしら……
これは作者に文句言わないと…………

あ、そうそう 作者から伝言を預かってるわ えーと、

『皆様 いつも読んでいただきありがとうございます。

もうすぐ第一章も終わります。
1話2000〜4000文字もあるけして短くはない駄文をいつも読んでいただいて、本当に感謝しかないです。

コメントやいいねは私の活力にさせてもらってます!

これからもどうぞよろしくお願いします。』

だって、じゃあ私はこれで
またね〜」

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