最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

5話 新しい相棒が強すぎる

「んーと、ここをまっすぐ行って……ここを右………………違う 左だ
……あれかな」


俺は今国民区にある武器屋、剣鉄に来ている。
昨日イザベラさんとの訓練で使っていた剣の真ん中にでかいヒビが入ってしまったので新しいものを買いに来た。


しかし、はじめて国民区に来たが騎士団区と違ってかなり賑わってるなぁ。
人。人。更に人。
表通りには数百はいるであろう商人達が店を出していてゆっくり見て回りたい衝動に駆られるがここはぐっと我慢し裏通りに入った。


重い木の扉を開け薄暗い店内に入る。
結構広い店で棚に多種多様のあらゆる武器が掛けられている。
俺は見回しながら奥へ足を進める。


「……お前さん なぜここに来た?」


突然声をかけられびっくりしながら声のした方を見る。
薄暗い店の中でも特に暗い場所にカウンターがあり、その向こう側に五十代ぐらいのおっさんがこっちをキッと睨んでいた。


「剣が欲しくて……」

「そういうことじゃねぇよ
武器屋なら表通りにいくらでもある。
なぜうちへ来た?どう見ても入りづらい店だろうに」

「あ、ああ そういう事……
俺の恩人のイザベラさんがこの店が一番だと教えてくれたので」

「なにぃ!?
って事はお前、イザベラの嬢ちゃんが拾ったって言ってた『センスのある子』か!」

「あ、えーと……センスがあるかはわかりませんが多分そうです」

「ガッハッハッハ
それならそうとさっさと言え
イザベラの嬢ちゃんから話は聞いてるぜ」

「あ、そうなんですか」


イザベラさん、わざわざ話してくれてたんだ。
帰ったらちゃんとお礼言わないと。


「ほらよ これがイザベラの嬢ちゃんから聞いた話を元に作った剣だ」


剣鉄の店主はカウンターの下から一本の剣を取り出す。
赤黒い鞘に茶色い革が巻かれた柄。
一見普通の剣だが、オーラが全然違う。


「す、すごい……ありがとうございます!
えーと……」

「ガーデルだ
よろしくな」

「ありがとうございます ガーデルさん」

「良いってことよ」

「あ、お代は……」


俺はイザベラさんから金貨一枚を貰ってる。
それで適当な剣を買いなさいって言ってたけどこんなことなら先に言っておいてくれれば良かったのに。


ちなみにリブ村ではお金自体に縁がなかったので俺はお金という概念に初めて触れた。
村の中では物々交換が普通だったし、野菜を売りに行っていたのは父さんだけで、父さんも売上で買い物してきていたからな。


主流通過は金貨、銀貨、銅貨で、金貨一枚で銀貨八枚分 銀貨一枚で銅貨十六枚分の価値がある。金貨1枚で銅貨百二十八枚分だ。
安い食事なら銅貨二枚で済む。三食食べたとしても一ヶ月で銅貨百八十枚 つまり金貨一枚とは一ヶ月弱食べていけるほどの価値があるのだ。


そんな大金、と思ったがイザベラさんは騎士団長。その程度軽いのかもしれない。


「んなもん良いんだよ
その代わりこいつを大事にしてやってくれよ」

「え、でも……
いえ、ここは有り難くいただきます」


俺はカウンターの上に置かれた剣を持つ。普通の剣より重いな。
全長百二十センチほどで柄が二十センチほどあるため刃の部分は百センチほど。
今の俺には少しでかいが先のことも見据えて、だろう。


「剣の名はテンペスター」

「嵐……?」

「そうだ
白い刀身はミスリルを使い、更に特殊魔術によって強力に鍛え上げた一振りだ
お前さん 独自の流派やってるんだってな
かなりのパワーとスピードだってイザベラの嬢ちゃんから聞いてる
だからそれに耐えられる剣に鍛えたつもりだ
更に素材がミスリルだから魔力が乗りやすい 必ず役に立つはずだぜ」

「本当にありがとうございます
大事にします」


俺はテンペスターを腰に下げ剣鉄をあとにする。
とりあえずまっすぐ家に帰ろう。
早く帰ってイザベラさんにお礼して、一戦交えて貰わないとな。






「イザベラさん ガーデルさんに事前に話していてくれたんですね
おかげでとってもいい剣と出会えました」


と、イザベラさんが帰ってきて開口一番に報告した。
イザベラさんもにっこり笑う。


「なら良かったわ
ガーデルおじさんの打つ剣は本当に素晴らしいのよ
どれどれ…………うん!すごくいい剣じゃない さすがガーデルおじさん」


イザベラさんはテンペスターを眺めながら言う。


「でも本当は学園を卒業した後にあげようと思ってたんだけど、ガーデルおじさん仕事が早すぎるわね
まぁそのおかげで今手に入ったんだけど」


そうだったのか。通りで今の俺にはでかいわけだ。


「さぁ、使ってみたいんでしょ?
訓練所行きましょうか!」

「やっぱりバレてましたか
疲れてるところすいません」


大丈夫よ、とすぐに家を出て普段から使っている訓練所に行く。


「ではお願いします」

「ええ、お願いね」


お互いに剣を抜きそれぞれ構える。
少し重いな。慣れていかないと。
俺は左手を前に出し、テンペスターの矛先をイザベラさんに向ける。


「こいつの名前はテンペスターです」

「テンペスターね、いいじゃない
ちなみに私の剣はローズレイン よろしくね」


ニコッと笑うがその目はすでに戦闘モードだ。


「行きますよっ……
黒帝流 剣狼」


俺も魔装衣を発動させで高速で接近し強力な突きを繰り出す。


剣狼は元々疾風流 撃突と言う技なのだが、さっきみたいに流された時かなりすきができるため改良したんだ。
そして疾風流とローガン師匠の動きをかけ合わせた剣術を黒帝流と読んでいる。


イザベラさんはローズレインで軌道を上手く流し俺の背後に回る。


「ふふ、次はこちらから行かせてもらうわよ
豪傑流 撃鉄」


「剣狼は二撃以上続く技
黒帝流 二連剣狼」


イザベラさんは豪傑流の構えから一気にローズレインを振り下ろす。
負けじと俺もそのまま左回りに身体を回転させ、遠心力をフルに使い横一閃にイザベラさんに斬りかかる。


ガキィィンとテンペスタージとローズレインがぶつかり合う音がし衝撃でお互いに後ろに下がる。
テンペスタージを見ると全く欠けてない。流石 普通の剣なら折れてた。


「あら……」


イザベラさんの方をよく見るとローズレインの刃が欠けている。


「あ……すみません」

「同じガーデルおじさんの剣なのにローズレインの方が欠けるなんて……全く、羨ましいわね」






ミノタウロス襲撃から約半年。
イザベラさんに助けてもらったのが夏で入学は春だから残りだいたい3ヶ月だ。


昼間は主に帝国図書館で無属性魔術を学ぶか自主訓練をし、夜は昼間帝国図書館に行った日は魔術の復習し、自主訓練を行った日はイザベラさんに相手してもらうか、色々な事を教えてもらっている。
入学に向けて詰めれることは詰めておきたいからな。


剣術のみの勝負ならイザベラさんとどっこいどっこいってところだ。
だが、イザベラさんの強さは魔術を駆使した戦い方にある。
だから魔術ありの勝負になると手も足も出ない。


テンペスターの強度は普通の剣とは比べ物にならないほど強く、切れ味もかなりのものだ。
さらにイザベラさんに魔鉄ーー魔装衣の武器バージョンで武器に魔力を纏わせることで強度や切れ味と格段に上げるものーーを教えてもらったおかげでテンペスターは本当に大地でも斬れるほどの強度と切れ味を手に入れた。


「んー!今日も美味しい!!!」

「ふふ、そう言ってもらえると作ってる甲斐があるわ」


ちなみに今まで特に気にしていなかった、というか気にすることが多すぎてそこまで気が付かなかった事だが、イザベラさんの手料理は最高に美味しい。


「本当に美味しいです!もうすぐ食べられなくなるかと思うと悲しいですよ……」

「え?どうしてもうすぐ食べれなくなるのよ」


あ、そうか、イザベラさんにはまだちゃんと伝えて無かったんだ。


「俺、エルトリア学園の寮に入ろうと思ってます
いつまでもイザベラさんにお世話になるわけには行きませんし……」

「んー、そっか
まぁそれもいいかもね 楽しみなさいよ」

「はい、ありがとうございます
ところで、その、イザベラさん…」

「ん?」


俺は三ヶ月ほど前から思っていた事を話すことにした。


「俺はこれからどうすべきなんでしょう
今まではミノタウロスに復讐するためエルトリア学園に行くことが目標でした
しかし、ちゃんと考えて見ればミノタウロスはすでに消えている
もしイザベラさん達が見つけられなかっただけだとしても、これだけ時間が経てば移動してますし、もしかしたら別の人に倒されている可能性もあります」

「…………そうね、クロトには話しておきましょう
私達天馬ペガサス騎士団は今、ミノタウロスの謎を最前線で追っているの」

「…………!」

「ふふ、反応したわね
私達の調べではミノタウロスは誰かに召喚されたっていうのが一番ありえるってことになってるわ
理由は二つ 一つ目は突然現れ、突然消えるなんて召喚術でなければできないような事だから
二つ目は残留した魔力を調べた限り村の人達とミノタウロス以外の魔力がリブ村からは発見されなかった
つまりミノタウロス達を率いていた魔物、もしくは魔族はいないってことになる
十数体ものミノタウロスがリーダーもなしに統制できるわけないわ
つまり影でミノタウロスを操っていた人がいると考えるのが妥当よ
召喚術は召喚したものに簡単な命令を聞かせることができるからね」

「……ってことは…」

「そう、ミノタウロスの裏に何者かが潜んでるってのが私達のたどり着いた見解 今はその証拠となるものを集めるため西へ東へ走り回ってるわ」

「ならそいつらのせいで……」

「ええ、ただこの説には不可解な部分もあるわ
例えばミノタウロスを数十体も召喚し、操るほどの魔力の持ち主がそう簡単には居ない事とかね
でもこのミノタウロス襲撃、簡単な問題じゃない だから力はつけておきなさい
いつか必ず、必要になるわ」

「…………はい!」







ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
5話読んでいただきありがとうございます!

テンペスターはこれから何度も出てくるのでぜひ覚えてくださいね〜!


ガーデル「お、読んでくれてありがとさん
気に入ったらグッド&フォロー&コメントよろしく
じゃあな」

イザベラ「ガーデルおじさん簡潔過ぎよ」

ガーデル「す、すまん……」

コメント

  • 相鶴ソウ

    確認しました。ありがとうございます!

    0
  • ラテ

    テンペスターがテンペスタージになっているところがあります。

    2
  • 相鶴ソウ

    わぁ!ありがとうございます(≧∀≦)

    なかなか自分ではわからない所もアドバイスしていただけるとめちゃくちゃ助かります!

    これからもよろしくお願いします(*^^*)

    また梅雨姫さんの作品にお邪魔させていただきます(^^)

    2
  • 梅雨姫

    内容、とても凝ってますね!
    一話の描写が巧みなので、その後の話もスルスルと入ってきます。
    また、この文字数を一日に数話あげるだけの想像力は感服ですし、事前のストーリー構成に思考を凝らしたのだと思いました。

    一度読んだからには続きが読みたくなるというもの。
    更新を待つ者の一人とさせていただきます✨

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