最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

相鶴ソウ

2話 命の恩人は新たな家族

エルトリア帝国からはるか東の地に赴き、今はその帰り。


東の地に行った理由は五日前に入ったある報告だ。
『はるか東の地で一級魔物ミノタウロスが大量発生』と。
王はこれを緊急事態と判断し私達、天馬ペガサス騎士団を調査に向かわせた。


私達は報告を受けてすぐにエルトリア帝国を出発した。最速でも二日を要したが、十数体のミノタウロスがそんな短期間に移動できるはずがない。と思っていたのだが実際は違った。
東の地にミノタウロスの姿は一体たりとも発見できなかった。
誤報という可能性はゼロだ。理由はとある村ーーリブ村ーーにしっかりとミノタウロスの形跡があったからだ。
家々は破壊され、人々は残虐な殺し方をされていた。
さらに村の様子や魔粒子の残留から推測するに少なくとも一日以内、つまり二十四時間以内に十数体のミノタウロスは移動したことになる。
一日調査し、この村以外の手がかりを得ることができなかった私達は村人達をささやかではあるが弔い、エルトリア帝国へ帰還した。


そして今、エルトリア帝国から約一日程の距離にいる。


「イザベラ先輩〜」

「どうしたの? エイナ」


この子はエイナ。私の後輩で天馬ペガサス騎士団副団長。


「ミノタウロスの件、どう思いますか?」


「謎が多すぎるわ
まず第一にミノタウロスなんて一級魔物、本来大魔森やテリア山にしか生息しないはずなのに東の地に、しかも数十体も
更にあの村の近くにある森や平原にミノタウロスの魔粒子は残っていなかった。
て事は突然現れ、突然消えたことになる。」

「突然現れて突然消える…………召喚術って事は無いですよね〜?」

「無いでしょうね
一級魔物なんて召喚しても制御しきれないし、しかも十数体なんて…………
少なくともオリハルコン級の魔術師と同等もしくはそれ以上の魔力が必要だわ さらに召喚術師の実力もミスリル級でなければ無理だわ」

「ですよね〜
なら一体どうやって…………ん? 先輩 あれなんでしょう?」


エイナが指さした方を向くと川のすぐ近くに黒い物体が。
若干赤く濡れている………………人!?






「ん…………んん……」


ここは……どこだ?
俺は確か……薬草を取りに行って…………


!! そうだ、ミノタウロスにやられて……
う、思い出したら身体中が痛い……


「ん、起きた? 少年」


痛みに顔を歪めていると視界ににゅっと女の人が入り込んだ。
綺麗なエメラルドグリーン色の髪を肩ぐらいまで伸ばしている。
まつ毛の長い薄い青色の目は切れ目で、ひと目でかなり美人だとわかる。
この人は誰だろう。


「あの……あなたは……ここは…」

「気になるのはわかるけど、もう少し寝てなさい
まだ疲れが取れてないんだから」


確かに身体が全然動かない。
返事代わりにううっと呻いてそのまま眠りに落ちた






川の近くで死にかけていた少年はエルトリア帝国に連れ帰り手当てしたおかげで身体的な傷や怪我はだいたい治った。
でも全く目を覚まさず、医務室からも追い出されてしまった。 結構酷いわよね。
仕方ないので私の家で看病する事にしたんだけど、なかなか目を覚まさず三日前やっと一度目を覚まして一言、二言話したっきりまた眠っちゃった。
まだダメージが残ってるみたい。


でも、そろそろ起きてもいい頃じゃないかしら。
もう二週間は経とうとしている。


「う………ん?…………」


お、起きたみたい。


「少年 起きた?」

「あ、ああ……あなたは?」

「私はイザベラ 天馬ペガサス騎士団の団長よ あなたは?」






「俺の名前はクロト……です」

目の前にいる女性は一度目を覚ました時にも居た人だ。
相変わらずエメラルドグリーンの髪がきれいな美人。
そんなことより、なんとか騎士団ってなんだ?


「そう、クロトね よろしく」

「あ、えっと、よろしくお願いします」

「で、早速話聞いてもいい?
クロト、どうしてあんなところに倒れてたの?
死んでもおかしくないレベルの怪我だったし
喧嘩にしてはやり過ぎだわ」

「あんなところ?」

「エルトリア帝国のすぐ横を流れる川のそばでボロ雑巾みたいに倒れてたのよ?」


そうだったのか。
確かミノタウロスに殴り飛ばされて、それで川に落ちて……そういうことか、
あの川は帝国まで続いてたんだな。


「俺は……」


俺はあの日の事を説明した。
薬草を取りに行った事、帰ってきたらミノタウロスの群れが村を襲っていた事、母さんと父さんが殺された事、そのミノタウロスに殺されかけた事。
すべてを包み隠さず話した。


「なるほど……そういう事だったのね」

「はい………あ、そういえばここはどこですか?」

「ここはエルトリア帝国騎士団区にある私の家よ」


わざわざ家で看病してくれてたのか。ちゃんとお礼しないとな。


「看病、ありがとうございました」


と言いつつ身体を起こしベットから出る。少しふらっとしたが、まぁ問題ないだろう。
服が村で着ていた物と違う。おそらくイザベラさんが買ってくれたんだろう。
……今度返しに来よう。
そのまま出口へ向かう。


「待ちなさい」


と腕を掴まれる。
振り向くと、イザベラさんが真剣な表情で聞いてくる。


「どこ行く気?」

「ミノタウロスに……復讐しに行きます」

「ミノタウロスは私達が探したけど一匹たりとも見つけられなかった。
しかもミノタウロスは一級魔物、今のクロトで倒せる?
ここを出てどうやって生きていくの?明日すら生きれるか分からないのにミノタウロスなんて倒せるの?」


う……たしかにそのとおりだ。
俺はまだ十三歳 地位もなければ金もない。
頼れる宛もない。


「……」

「はぁ、やっぱり何も考えてなかったのね」

「……はい」

「わかったわ
今日からここがあなたの家よ」

「……え?」

「この国に知り合いもいないんでしょ?
じゃあここに住みなさい」

「でも、迷惑じゃ……」

「そんなことないわよ
それに私も一人暮らしでちょっと寂しかったしね!」


確かにここから出たところで行くところも無い。
野垂れ死ぬのは目に見えてる……
なら……


「じゃあ、お願いしてもいいですか……?」

「もちろんよ!」


そんなこんなで少し強引に押された気もするが、俺はこの人、イザベラさんと暮らすことになった。


「さて、クロトは強くなりたいのよね?」

「はい!」

「なら『エルトリア学園』に入学したらどうかしら?」

「エルトリア学園?」

「そう!
エルトリア帝国にある優秀な冒険者、兵士、その他の人材を育てるための学園
魔術、武道はもちろん魔物の生態とか、色んな事を学べるのよ」

「へぇ……」


そんなところがあったなんて。
リブ村にいた時にはそんな情報すら入ってこないから知らなかった。


「四年間そこで勉強して、強くなってからミノタウロスを倒しに行きなさい
今行ったところで殺されるのは目に見えてるわ」


確かに、イザベラさんの言うとおりだ。
現にミノタウロスに殺されかけて今こうしているわけだ。
なら答えは一つしかない。


「……はい そうします」

「うん!
ところで、クロト 今いくつ?」

「十三です」

「良かった!
エルトリア学園に入学できるのは十四歳からなのよ!」

「そうなんですね」

「ええ! 入学は来年になるわ
それまでゆっくりしてるといいわ」

「はい……あ、イザベラさん」

「ん?」

「イザベラさんって騎士団の団長なんですよね?」

「ええ、そうだけど……
どうかした?」

「剣術を、教えてください」


俺は断られても仕方ないと思いつつも頭を下げる
一年間じっとなんてしていられない。
イザベラさんが騎士団所属の人ならその人から剣術を教わる機会なんてそうそうない。
母さん達を殺したミノタウロスを殺すためだ。なんだってしてやる。


「…………わかったわ
その代わり私の訓練は甘くないわよ?」

「! よろしくお願いします!」



ーあとがきーーーーーーーーーーーーーー
「最弱属性魔剣士の雷鳴轟く」2話、読んでいただきありがとうございます!

クロト君の物語がついに始まりますね〜
しばらくはこの作品の設定を解説する話が増えるとは思いますが、読みやすいように書いて行こうと思ってますので、よろしくお願いします!


エイナ「ども〜2話 命の恩人が新しい家族に を読んでいただきありがとうございま〜す

それにしてもイザベラ先輩も出てくれるって約束だったのに……

あ、そうそう 作者から伝言で 『この作品!毎話のタイトル?もこだわってるので、ぜひ見てみてください!
伏線も隠れてたり……?』だそうでーす

良かったよーって方はグッド&コメント&フォローお願いします!
ここどうなってるの? という方はコメントにてお願いします!

ではまたねー!」

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