ロストアイ

ノベルバユーザー330919

闘交会―知識部門―@お昼



 打ち上げ花火が上がった。ということは一時休戦。お昼の時間ランチタイムだ。


「あー、残念。次の地区に近付きたかったんですけどね」
「さすがに無理があるよ。今だって信じられないペースだからね」


 結局、午前中だけで計七か所しか回れなかった。正直、今にして思えば五十箇所回るとか舐めプだったわ。反省。

 私にとっては簡単な罠でしかなかったとはいえ、ジミー先輩のことも考慮した動きしかできなかったし、それがストレスとして精神に負担が掛かったせいもあって、余計移動に神経使ったし。普通に無理だったわ。

 ストレスのお裾分けに、偶然持ってた今日の朝食バナナの皮も、かなり早い段階で活用することになってしまった。

 どこぞの見知らぬペアよ、ギャグみたいな見事な滑りっぷりの披露、ご苦労。これで午後からも頑張れそうだ。ありがとう。


「今、三百十五ポイント、か……」
「お、結構行きましたね!」


 かなりいい線行ってるのではなかろうか?

 しかし、ジミー先輩は喜ぶどころか、なぜか苦しそうな表情を浮かべている。素直に喜べばいいのに。何かマズいことでもあっただろうか。


「……あれ、もしかして良くない、とかですか……?」


 もしかしたら、ポイント効率が低いのかもしれない。もっと千ポイントでも目指すぐらいがいいんだろうか。私の疑問の言葉に、先輩が違う、と少し躊躇った後に否定してくれた。


「悪いことは無い。むしろ褒められるべき成績だ。これはかなりの上位、というより、トップ成績なんじゃないかな?」
「え! めちゃくちゃいいじゃないですか!」


 なあんだ。上位のペアとして食い込んでるなら別にいいではないか。何をそんな苦々しくする必要があるのか。これも作戦勝ちってやつよ……!


「ただ、この後どうするかになるかな……」
「何がですか?」
「――まさか、これも知らないのかい……?」


 先輩の顔が、呆れていいのか、怒ったほうがいいのか、それとも諦観すべきか、かなり微妙な表情になった。最終的には諦めたのか、この時間内で詳しく説明してくれることとなった。誠に面目ない。


「いいかい? 知識部門と武闘部門で分かれている、というのは大丈夫?」
「もちろんですよ! 私をなんだと思ってるんですか!」
「…………」


 私の主張に先輩がシラケた視線をよこした。私はそっと、振り上げた拳を元の鞘に戻すことにした。私が聞く態勢になったことを確認して、先輩が続きを説明し始めた。


「……今、やっている知識部門。お題目は色々とあるけど、実のところ、武闘部門への布石でしかないんだ」
「ふむふむ」
「この知識部門で稼いだポイントは、勿論、来年のそれぞれの状況に影響があるけど、そこは付属だと思ってもらっていい」
「えー! 散々脅しかけておいて、付属ってなんでですかー!」
「…………」


 茶々を入れてしまった私をまたしてもシラケた視線をよこして制するジミー先輩。茶々をやめて、真面目に聞く態勢へ戻る。そうしてまたジミー先輩が話し始めた。

 ……なんだか、段々と私の扱いが上手くなっているような気がしないでもない。


「このポイント制度は後から出来たものなんだ。初めはこんな制度なかったんだけど……」
「へー」
「始まりは一人の生徒がもっと盛り上がる催しを行いたいと言って、周りが賛成してどんどんと形作られたんだけど、」
「ほー」
「内容としては、多く得点を稼いだ人には褒美、その逆には罰ゲーム、という簡単なルールだったんだ」
「ふーん」
「…………」
「あ、聞いてます聞いてます!」


 私の相槌がよろしくなかったらしい。興味深く真面目に聞いてたというのに、どこがダメだったのだろうか。シラケた視線のまま、先輩が続ける。


「……そう。続けるけど、そこで、得点が被ってしまった生徒たちが居たんだ」
「あれ、ご褒美は一人分だったってことですか」
「そういうこと」


 なるほどなるほど。段々と話の流れが分かってきたぞ。行きつくはやはり脳筋だった、ということね。たぶん。念のため、続きを確認することにした。


「つまり、結局は褒美の取り合いで喧嘩騒ぎになってしまって、見かねた教師を挟んでからは正式な決闘へもつれ込み、そのままとんとん拍子に企画を進めているうちに周りからも参加表明の声が上がり始め、それで現在の闘交会システムになったんだ」
「由来はそんなことだったんですね」


 神妙な顔で頷きつつも、改めてこの世界の脳筋比率について一部思考が飛んでいた。下手したら八割がた脳筋ではなかろうか。もういっそ脳筋人として歴史に新たな種族名が載ってもおかしくない。


「で。ここで本題なんだけど、このポイント制度は今言った話の内容から検討がついているようだけど、分かるかな?」


 ちょっとした問題形式に先輩が質問してくる。というより、普通に答えを言ってくれてるのに、これで外したら私も脳筋人として個体名の登録をされかねない。……どこの人工知能に、とは言わないけど。


「……つまり、武闘部門では知識部門で稼いだポイントをもとに対戦相手が決まる、ということですか?」
「正解!」


 良かった。当たりらしい。まあ、普通に考えれば分かるけどね。だって、ヒントありまくりですもん。同じポイント同士の喧嘩騒ぎ、とかね。あからさまよね。

 でもそうなると気になるのはどの程度が高ポイントの基準になるのか、ということである。先程の反応からして、成績としてはいいけど、この後を考えるとあまりよろしくない数値なのではなかろうか。

 思い切って恐る恐る聞いてみた。


「あ、あの。毎年の平均値とかって、どのくらいなんですかね……?」
「……平均値、で考えるなら約百五〇ぐらいかな」
「さ、最高は……?」
「……去年は確か、二二〇、だったかな?」
「「…………」」
「……これもう私たち暫定トップじゃないですか」
「うん。たぶんね」
「「…………」」


 目立ちたくないのなら、午後は自重したほうがいいのだろうか。と思考をかすめる誘惑。しかし、そのまた一方でポイント貴族になりたい私がちらつく。

 そして、現在暫定トップなのに今更自重しても遅い、という結論へ早々に至り、自重案は貴族案によって闇に葬られた。仕方ない。次からは気を付けよう。

 ……手遅れ感は激しいけどね!


「……ジミー先輩。とりあえず、お昼食べましょうよ」
「……そうだね」


 後のことは後で考えるべし。これぞ前世の堕落しきった私の信条よ……。と冗談はさておき、近くに居たお掃除アンドロイドに昼食を注文した。

 午後からも走り回るので軽いサンドウィッチを注文した。そして持参した経口補水液で水分補給も欠かさない。よく噛んで胃に流し込む。

 ……昼食時間、約三分で終了してしまった。


「早いね」
「先輩のそれは何ですか?」


 ジミー先輩はなにやら真四角の錠剤みたいな大き目の粒を三つ用意していた。まさかアレがお昼なのだろうか。さすがに少なすぎるのでは?

 私の伺う表情に全てを察したのか、先輩がにこっと教えてくれた。


「これは魔法薬。魔薬の一種だよ。これを食事と共に摂ると、エネルギーへの変換効率を上げてくれるんだ」


 魔薬……!

 字面だけなら、なんてファンタジーな響きなんだ!


「……これ単体だと危険だから興味本位で触らないように」


 興奮して身を乗り出した私に先輩が待ったをかける。これは個人ごとに調薬するものらしく、ジミー先輩が持っているのは、ジミー先輩専用の配合薬らしい。

 これを他人が持つと猛毒に変わるようで、本人以外が触らないように取り扱いには十分気を付けなければならないそうだ。

 ……なんか、今思い出したけど、幼女の頃にママの研究施設に同じような錠剤があったような気がする。何故だか記憶がおぼろげだけど、興味本位で怪しい施設に入って痛い目にあったときに見た気がする。

 今でもママが研究活動するあそこ周辺、領域一帯が恐怖区域トラウマゾーンだ。

 当時自作した、「ここより先、危険区域デッドゾーンの為、立ち入るな、私!! 回れ右!!」の看板には何度お世話になったか知れない。


「分かりました……」


 当時をおぼろげに思い出して、神妙な顔つきのまま先輩から距離をとった。ちょっと驚かれたけど、人として当たり前である。

 むしろ危険物だと言われてそのまま近くに居られる驚異的な精神をもつ人の気が知れない。

 私の感性は至って一般のソレだ。ちょっと世間知らずなのかもしれないと最近思うようになったけれど、感性だけは元々一般人レベルだと主張して止まない。

 ……誰も取り合ってくれないけど。


「結局、午後からはどうしましょうか」
「どうしようか」
「…………」


 質問を質問で返さないで。私が聞いてるのよ、答えて先輩!

 普段、聞けばうささんがすぐにでも全てを教えてくれるので、こうしたやり取りが我慢できなくなっているようなのだ。我ながら短気になったものだと思う。前世ではそんなことなかったのになあ。


「……かなりポイントを稼いだことだし、午後からは共通教室の問題でも解いてればいいんじゃないかな?」


 私の無言の圧に屈したのか。もしくは私から妙案なんぞ出るわけないと思い直したのか、ジミー先輩が案を出してくれた。

 共通教室の問題は何度でも挑戦できる簡単なもののため、そこら中に救済措置としてパネルが設置されている。ただし一度開いた問題を解かない限り、次のパネルを見つけても問題が出てこないという鬼畜仕様だ。

 ポイントも一問につき五ポイントなので、うまみも少ない。真なる脳筋バカのための救済措置だ。上級生と下級生、二人がかりで問題が解けないのであれば、もう今後の生活維持QOLを諦めるしか道はない。

 成績としてはもうトップと言っても過言ではないので、午後からは地味に稼ぐというのもそれはそれで攻略ゲーみたいで楽しそうだ。コンプリートしたところで何もないけど。


「十分なポイントを稼いでますし、午後はそれで行きましょう。共通教室には行ったことないんで、内容が気になりますし」
「そういえばそうだったね。世間の常識的な内容だから面白味は無いと思うけど、予想以上の好成績にこれ以上ポイントは必要無いから、午後からは余裕もって攻めようか」
「はい!」


 一先ず、午後からの作戦が決まった。

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