ロストアイ

ノベルバユーザー330919

闘交会―知識部門―@前半戦



 ――ついにこの時がやってきた。

 開始の合図として、日中なのにハッキリと見える不可思議な打ち上げ花火が特大の音と共に空へ放たれた。


「行きますよ、ジミー先輩!」
「そっちは逆方向かな」
「ぐぇ!?」


 勢いあまって飛び出そうとした私の首根っこが掴まれた。危ない。本気ではないとはいえ、一歩間違えればジミー先輩事引きずることになっていた。中々肝が据わってるな。


「いいかい? 私の指示通りに動くんだ」
「らじゃー!」


 元気よく返事をして、その場で膝をついてしゃがむ。背中に先輩がおぶさったことを確認して、今度こそ移動を開始する。

 昨日、結局先輩の体力の無さが鬼門となり、私が、「あ、じゃあおんぶしますか?」と言って、最終的に私の意見が採用されたのだ。

 ちなみに抱っこだと手が塞がるので除外した。おんぶにしても何やら先輩の中で激しい葛藤があったようだけど、実際におんぶした状態の移動を体感して決心してくれたようだ。

 最後までブツブツと「……体裁なんか気にしてはいけないんだ。無になるんだ。恥ずかしいことではない。これは立派な戦略なんだ……」とかなんとか言ってたけど。そこはまあスルーしました。面倒なので。


「ここから近いのは、拳闘、料理、騎士、魔飼、剣舞、考古、柔術、魔法陣、魔装教室だね」
「……いや、ところどころ気になる構成内容ラインナップですけど、行くなら最後の二つですかね」
「そうだね。とりあえず一番近い魔法陣教室に行ってみようか。あそこは難易度が高いから、早々に取られないし、ポイント効率も良い」


 私の背中で位置情報を確認しながら先輩が決める。早々に取られないってのは、つまり単一細胞バカどもは避けるってことですね。了解です。

 途中、罠らしき突っ張ったロープがあった。飛び超えた先の着地地点らへんに分かりにくい第二のロープが張ってあったが、ここは迷わず突き進む。

 最初のロープを足場に空中を蹴って罠を突破だ。簡単に言ってるけど、身体強化した状態で足元を多めの魔力で満たして小さな足場を作るように空気を蹴っているのだ。かなりの集中と魔力を要するので連続では使わないようにしている。


「そこは右だよ」
「らじゃ!」


 ノリよく返事して、突き当たりの壁を利用して方向転換する。今居る地区は建物ドームが比較的密集しているので、スイスイ壁を蹴って進める。

 開始から数分と掛からずに目的の魔法陣教室が見えてきた。焦らず中に入り、用意されていたパネルに触れる。


《問題です。魔法陣の欠点を二つ述べよ》


 パネルが起動すると、うささんとはまた違った感じの機械声が問題を読み上げパネルに映し出す。私も考えてみたけど、そも
そも魔法陣とか幼女時代に興奮したママの言葉で知ったくらいだし。欠点とか知るはずもない。

 完全にお手上げなので、先輩を伺ってみた。少し考え込んだみたいだけど、どうやら回答に問題は無いようで、直ぐにスラスラと答えた。


「――まず、魔法陣に設定された範囲外の魔法へ改変が出来ない。そして、魔法陣が起動するまでの手順に時間が掛かるため、対面戦闘時では使いにくい、ってところかな。挙げればまだあるけど」
《正答を確認しました。おめでとうございます。それぞれに四十ポイントが加算されます》
「おお!」


 特に問題なく答えたことで、結構なポイントを貰えたようだ。幸先がいいな。喜びもつかの間、ガンガン攻めていくつもりなので、さっさとジミー先輩をおんぶして次の場所へ向かう。

 道中の罠だけど、本当に嫌がらせ程度の罠しかなかった。踏むと発煙するとか、通ろうとすると斧が横切るとか、たらいが上から落っこちてくるとか、まあ子どもの遊び。としか思わず余裕でスルー。

 期間は短いが、数だけは多いのでまだ油断は出来ない。しょぼい罠でも引っかかるときは引っかかる。すれ違ったペアがバナナの皮ですっ転んでたのはお約束と言うものだ。ちなみに私が去り際にちょろっと仕掛けたんですけどね。


「思ったよりなんてことない罠ばっかじゃないですか。焦って損しました」
「……そうだね。君が考えた罠のほうがよほど辛辣だからね」
「え?」
「え?」


 あの程度で辛辣とか何言ってんだジミー先輩。辛辣というのはね、児戯に対して用いる言葉ではないのですよ。真の悪魔の罠に用いるべきなのだ。


「殺傷能力が低いって条件だったので、あの程度はむしろ甘めの罠だと思いますよ?」
「……え?」
「え?」


 どうやら意見の相違があるようだ。もしかしてママ基準で考えてる私が違うということなのだろうか。あれ。もしそうだとしたら、私ってやっぱ過酷な環境に居たってことになりません!?


「……あれ以上の罠があるとは考えたくないね、ハハ」
「大丈夫ですよ! 味方じゃないですか!」
「……味方だから分かりたくないこともあるんだけど、まあいいよ。どうせ来年で卒業だし」


 ちょっと投げやり気味に先輩が渇いた笑いを上げた。そんなバカなやり取りをしながらもどんどん罠を回避して教室を回りまくる。

 最初に確認した近くの教室はほぼすべて回り切った。

 拳闘は心構えとかの問題だった。迷わず「気合いっ! 根性っ! 我慢っ!」て精神論を答えたら正答だった。これだから脳筋は。と思いながらさっさと突破した。ここで先輩からの可哀想な子を見る視線があったことは悲しき勘違いだったけど、深い問題ではないと先に言っておくとしよう。

 料理教室は意外や意外。今はもう過去の料理となった絵の名前を答えよ、って問題だった。ちなみに絵はスパゲッティ―とラーメンだった。引っ掛け問題だったらしいけど、私には関係ない。

 先輩は苦戦してたけどね。これを素早く答えて脳筋バカではないと見直してもらえるかと思えば、「食い意地が張ってるの?」って真面目に聞かれた。解せぬ。

 この美少女が食いしん坊キャラに見えるのだろうか。とまたしても顔に出ていたのか、「いつも美味しそうな食べ物の匂いがしている」という衝撃の発言があった。

 私は雷に打たれたかのように衝撃を受けた。フローラルな香りではなく、食欲をそそるご飯の香り、だと……?

 後で素敵な香水か無香料の香水の購入を検討することにして、ひとまずその話は流した。ありがとう、先輩。これから先、乙女に匂いについて言及したあなたの勇気は忘れない。


《問題です。フランメル王国騎士道十三か条のうち、最新のものを答えよ》


 騎士教室では普通にそれっぽい問題だった。私のイメージだと、「弱きを助ける!」とか。「敵に背を向けてはいけない……」とか?

 正答は、


「……鍛錬ばかりではなく、たまには伴侶を探せ」
「…………」
《正答を確認しました。おめでとうございます。それぞれに十ポイントが加算されます》
「「…………」」


 私たちは無言でその場を去った。


「あの、」
「聞かないで……」


 というやり取りが後で行われたわけだけど、次が詰まってるので無かったことにした。それにしてもフランメル王国か。念のために記憶に残しておこう。理由は言わないでおく。

 些細なことは忘れてさっさと次に進む私とジミー先輩。次の教室に行くまでの間、お互いにほぼ無言だったのは、まあ御愛嬌ってことで。

 魔飼教室。ここでは弱い魔獣を使い魔としたり、召喚で魔獣と契約したりといったことの基本の基本が学べる教室らしく、魔獣の生態や飼い方といった知識を学ぶのだ。実際に契約や召喚するための教室は上位の教室として別で存在しており、段階を経ないと学べないタイプの教室だ。

 私にもスカウトの書が来ていたのだけど、ママから学べるのでスルーしたのだった。

 そんなこんなで魔獣の名前と生態をあっさりとジミー先輩が答えて次へ移動を開始した。


「フロングって、カエルの魔獣なんですね」
「そうだね。見た目はちょっと変わり果ててるけど元はカエルらしいよ」
「へー」


 たまに先輩の雑学を聞きながら平和に進んでいた。罠に引っかからないだけでこんなにスムーズにいくとは思わなかったとは先輩の感想だ。

 その次にやってきたのが剣舞教室。ただ、時間も経っているせいでここの問題は終了していた。地図にバツ印をつけて次に行くことにした。

 次に目をつけたのが考古教室。ここは脳筋バカとは真逆の属性だ。案の定まだ誰も解けていなかった。正確に言えば人は居たんだけど、皆頭を抱えて苦戦していた。無理だと悟ってすぐに移動しているペアと、奇声を上げながら問題と格闘する人たちで別れた。


「えーっと、どれどれ……?」


 皆が頭を抱えている問題だ。きっと恐ろしく高レベルで高得点な問題に違いない。そう思ってパネルに近付き問題を確認する。


「《問題です。今や死者の迷宮デスダンジョンと化しているこの絵の建築物は本来、何のために建てられたのか簡潔に答えよ》? ふーん」
「これは……」


 ジミー先輩が私の後ろで問題を確認したのか、険しい表情になった。絵を見る前に先輩に向き直り、解けるのか、と目線で訴えたら首を横に振られた。

 先輩も分からないなら仕方がない、と、さっさとしゃがむと問題の下に出ていた絵が目に入った。


「~っ――!?」


 びっくりして急に立ち上がったら、おぶさろうとしていた先輩の顎にクリーンヒットしたようだ。しかし私は謝るどころではなく、目の前の絵に釘付けになっていた。


「私、これ、分かります」
「「「えっ!」」」


 ジミー先輩と、近くで頭を抱えていた他のペアが「嘘だろ?」みたいに注目してきた。失礼な。ただの脳筋バカと一緒にしないでほしい。

 私の素晴らしき知性を示すべく、パネルに向き直って堂々と言ってやった。


「――墳墓! つまり、王の墓!」
《正答を確認しました。おめでとうございます。それぞれに百五十ポイントが加算されます》
「「「えええ!?」」」


 ふっ。私が本気を出せばこんなもんよ、とドヤ顔を披露しているものの、別に私が今世の知識に博識だからとかではない。単純に前世の記憶のおかげだ。

 そもそもダンジョン化してるってのも知らなかったし、こんな先の未来まで建築が残ってたとかは勿論初耳だ。

 ちらりと先程まで映されていた絵を思い出す。ありゃあ完全にエジプトにあったという金字塔ピラミッドだった。

 有名な観光地だったけど、今や死者の迷宮デスダンジョン。間違いじゃないけど、なんか複雑だ。あそこってそもそも前世でも死者の呪いとかの噂が絶えなかった気がしたけど、マジもんに進化してるし。

 危なそうだし、近づかないでおこう。うん、そうしよう。


「「「え……」」」


 そうしてもうここに用は無いと、今度こそしっかりしゃがむと先輩が慣れたものだと素早くおぶさった。外野が呆気に取られていたけど、構わずその場を後にした。

 次に柔術教室に向かったんだけど、ここでも一歩遅かったのか、問題は終了していた。仕方ない。雑学系や知識系ならともかく、脳筋系は攻略される割合も高いのだ。

 むしろ先に拳闘に行っておいて正解だった。もしかして考古で頭を抱えてた連中って、他の教室の問題が解けないからあそこでたむろっていたのだろうか。……哀れだな。手加減はしないけど。

 午前中はあと少しで終わる。お昼になると花火がまた上がり、再度午後の再開花火が上がるまでの間、花火が上がった時点で立っていた場所を一定範囲動いたり、問題を解くとペナルティーが発生するのだ。

 最悪、ポイント失効も考えられる。花火が上がる前に距離を稼がなければならない。


「……後、十分くらいでお昼になる。行けるかい?」
「余裕ですね! 次の攻略先への道順を考えておいてください!」


 実際には厳しいが、言ったからには実行せねばと、身体強化に力を入れる。そうして三分前には魔装教室へ辿り着いた。

 その頃にはぜえぜえと少し息が荒くなっていた。

 ずっと成人男性の体重に近いジミー先輩をおぶって、さらに身体強化しながら移動していたので、案外と消耗していたようだ。


《問題です。魔装の判別方法を答えよ》
「――魔力を喰うか、魔法を喰うか、魔法を喰うのが魔装と呼ばれている」
《正答を確認しました。おめでとうございます。それぞれに二十ポイントが加算されます》


 難なく問題が解けたようだ。安心して次のところへ向かおうと外へ出ると、最初に見た、昼間でも目立つ花火が打ち上げられたのだった。

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