ロストアイ
余計なお世話
「困ったな。ここは休憩室ではないのだが」
「いや、困ってるのは私なんですけど」
気絶者が二人も出てしまい、仕方がないので陽気に踊ってる植物の横に寝かせておく。
先輩は役立たずだ。近くに来てもパクリとされそうになってしまう。……私と気絶した二人には手出ししないというのに。
舐められてるのか、愛されてるのか、イマイチ分からない植物だ。それに、結局二人を運んだのも私だし、介抱してるのも私だ。先輩マジ役立たず。
「ハッハッハッ! 頼りにしてるよ!」
入口付近で無責任にも先輩が威勢よく告げる。突っ立っているだけで特に役に立たない。
私は近付けないでいる先輩をよそに、清潔なタオルを敷いた床に寝る二人をマジマジと観察する。
普段は気高いお嬢様みたいに振る舞っているリアは、寝ていると年齢相応にあどけない子どもの顔みたいだ。とても可愛らしい。
その横で眠るのは、まだ子ども特有に顔の輪郭が幼いけれど、目を閉じていても伝わる美貌をお持ちの少年だ。というか、寝ているからか、先程感じたすさまじいオーラが抑え込まれている。
一点に吸い寄せられることも無いため、遠慮することなく御尊顔をガン見だ。本当に生きているのかと疑うほどにビスクドールのように綺麗で整った造形をしていらっしゃる。ていうか、睫毛長っ!
――リアには悪いけど、完全に負けてるよね。私もだけど。
まあ、なんていうか、立ってる土台からして違うよ。結構な美少女に生まれ変わったと思ってたけど、上には上がいるね、羨ましい……。
「それにしても、未だに先輩と血縁関係があるようには見えません。養子とかですか?」
「いや。生みの親も同じで正式な姉弟だよ。似ていないと言われることは多いがな」
今度はマジマジと先輩の顔を凝視する。言われてみれば顔はやっぱり似てないけど、色合いや雰囲気はどことなく似ているかもしれない。前髪が若干被さって、影を作る先輩の目の色が夕焼け色に近いからか、完全に似てるとは言えないけど。
「それにしても、なんでこの、ヤマトくん? がココの子たちに食べられてたんですかね?」
「それはおそらくなんだが、私たちが賑やかにやっているところに驚いて、ココへ誤って入ってしまったのではないかと推測できる」
もしかして、さっき私が燃やしたり洗浄したりとかしたことを遠回しに非難していらっしゃるのかな? スルーしますけど。
「それにしたって、驚くほどの大騒ぎはしていないと思いますが」
私も暗に、そんな小っちゃいこと気にすんな! 忘れろ! とばかりに疑問を装い先輩に聞いてみる。
「ヤマトは極度の人見知りだと言っただろう? 家族であっても控えめなのに、見ず知らずの他人に対してはもっと酷いものだ。それに、小さな物音でさえも敏感でね。脱皮の如く逃げてしまって、面白いものだよ」
いや、面白がってる場合か。さっきの様子を見る限り、見られただけでもアウトっぽいじゃん。この子、これからどうやって生きてくの……?
「何か原因とかあるんですか?」
「へ?」
先輩が不思議そうに私の顔を見た。
……なんだ、急に。私の顔に何かついてるのかってくらい凝視すんな、気になるでしょうが。
……あれ、そういえば、今朝のオムライスって米粒残さず食べきったよね。誰も何も言わなかったけど、もしかして実は変なところに米粒が付いてたりして……。
「あいちゃんはヤマトを見て何も思わないのかい?」
私がさりげなく自分の髪や制服なんかに米粒がついていないかチェックしていると、先輩が変な質問をしてきた。
「何も思わないって、何がですか? 確かに、物凄い美少年だとは思いましたけど。ん~。それ以外とかでも、ちょっとレベルが違い過ぎて嫉妬心すら一瞬で彼方に葬り去られたくらいですかね。後、名前呼びしないで下さい」
「そうか……」
相変わらず、人の顔を不思議そうに凝視している。先輩に答えながらも一応確認していたけど、なんと、米粒はあった。白髪だからとても見えにくい。
そして気付かれたか分かんないけど、気付かれてないならと、気付かれないうちに話途中、さりげなさを装い速攻で取り除いた。くっ、顎下とは気付かなんだ……!
「そうか……!」
私が米粒を酸の海へ突き落としたところで、先輩が嬉しそうにキラキラとし始めた。さっきから笑ったり、真面目になったり、人を凝視したりと情緒不安定だな。いつもか。
「ヤマトは友達が居なくてな。家族でさえも姿を見ることが稀で、非常に珍しいのだよ。幻になってしまう前に、あいちゃんならきっと、ヤマトも懐いてくれそうだ!」
「だから名前呼びしないで下さい。しばきますよ」
人の話はちゃんと聞きましょう。それと、弟を希少な未確認生物扱いですか。しかも、さりげなく友達が居ないって暴露してるし。
やめて。私も心当たりがあるから絆されそうだ。絶対厄介ごと間違いないのに……。
「いや、私でなくても他に適任は居るんじゃないんですか?」
面倒くさそうなので、適当に躱しておく。私、女の子の友達は大歓迎だけど、男の子って正直扱いが分かんないんだよね。
普段からよく会ってないと名前も顔も覚えられないくらいキャパが狭いので遠慮しておきます。
「心配しなくとも大丈夫だ。ヤマトは人見知りだが、頭もいいし、とても優秀な子だから言うことはしっかりと聞いて守るよ。それに、食べ物の好き嫌いは無いし、どこでも寝られるんだ。あ、出来れば早朝に一緒に散歩はしてほしいけど」
「いや、だから、」
――それ、ただのペットじゃん。言いかけた言葉を呑み込む。
先輩の押しつけはまだ続く。一体、私に何をさせようとしてるの。それ、友達じゃなくて、ただのペットのお世話じゃん。私を飼育係にでも仕立てようとしてるのか。そうなのか。
「ああ、そうだ。それと、さっきも言ったが、突然の物音なんかを察知すると、脱兎の如く逃げてしまうか、隠れてしまう習性があるんだ。普段は大人しいから、それほど手間はかからないと思うが、どうだい?」
「いや、どうだって言われましても」
――それ、ただの飼うのが至難なペットじゃん。めちゃくちゃ手間がかかるペットってだけじゃん。
――こうして結局、本人の預かり知らぬところで、私が先輩からお世話係に任命されるのだった――どうしてこうなった。
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