ロストアイ
二度あることは三度ある
リアの後を大人しくついていくこと、かれこれ十数分。先程見たドーム型に似ているが、入口はしっかりと目視が出来る、周囲に比べて少々小ぶりな建物が見えた。……やっと目的地。
校内はかなりの広さの為、教室を移動するだけでも苦労をしたな。
「あそこの建物に魔草薬学、魔法秘薬の両教室があるようですわ」
リアがスカウトの書を確認しながら教えてくれる。それぞれの教室は特性も様々なため、教師が自由に建物を造り直しているようだ。いったいどこからそんな金が捻出されているのか。私たちの税金……ではなく、一部の方々からの寄付金で成り立っている。豪勢なことだ。
「そういえば、ジルニク君もここを見学するの? なんなら外で待っててもいいけど……」
迷子として捕獲して連れてきたけど、正直、ジルニク君はこういう薬品研究って感じでもないからと、確認をしてみる。
「あ? 俺がここを見学しちゃいけねぇのかよ?」
「冥王星とは環境的温度差があると思って……」
太陽系迷子属性男子だし……。冷たさとは逆の属性を感じるね。赤だし。
今一度、ズボンのポッケに手を突っ込みながら凄むジルニク君を観察。毎回毎回喧嘩腰で返事をしてくれるけど、それ、カッコいいとか、超クールとか思いながらやってるのかな。男の子って謎ね。
「めいおーせー? なんだそりゃ。なんだか知らねぇが、お前らだけだとまた何されるか分かったもんじゃねぇしな」
気のせいかな。ほとんど私を見ながらの発言なのですが、これいかに……?
「……ジルニクさんっ、とても心強いですわ! 一緒に参りましょう」
どちらでもいいけれど、なんとなく待ってて、話の成り行きを見守っていたリアが突然にジルニク君の同行に賛成しだした。どうしたんだ、急に。
「さ、行きますわよ」
「あ、ああ」
そう言うと、私とジルニク君の手をはしっと掴み、進んでいく。ママポジを気に入っているようだ。
そして、リアの張り切りように、ジルニク君も若干おろおろしている。……いや、それにしてはちょっと挙動不審かも。
リアに引っ張られながらも、じーーっとジルニク君の様子を横目で伺う。何やら繋がれた手に対して視線があっちこっちと移動している……。……。ぬぬぬ!? …...ジルニク君や、さてはお主。実は女の子と手を繋いだことも無い初心だったか……! やるな、どんどん属性を増やしよる。最後は銀河系でも作るのかな? ……永遠に帰らなそう。
「ここですわ」
私が宇宙と属性の神秘について考察している間に、どうやら到着したらしい。目の前には前世でも御馴染の、普通のスライド式の教室ドアがあった。なんだか懐かしい。これ、自動なのかな。
疑問に思いながらも、我先にとドアの取っ手の窪みに手を入れ横にスライドする。そうしてカラカラと音がしながらも慎重に開ける。
「やあ、まっ」
――カタッと軽い音を立ててドアをそっ閉じした。
視界に不純物が写り込んだ。どうやら、教室を間違えてしまったみたい。やれやれ。私の方向音痴も大概だな。
「今、扉の向こう側に誰か居ませんでしたの?」
「え? 何も居なかったよ? やだなあ、怖いこと言わないでよ、リア。勘違いだよ、勘違い」
「勘違いですの? おかしいですわ。確かにここの教室だと書かれていると思いましたのに……」
「似たような造りだし。そういうこともあるよ」
落ち込んでしまったリアを慰めるように言葉を紡ぐ。私の言葉に元気を取り戻したのか、「それでは、こちらの扉かしら」と、リアが今しがた開けたドアの、反対側を指示しながら告げる。位置的に、一番近くにジルニク君が居たため、今度はジルニク君がドアの取っ手に手を掛ける。
「…………」
――ジルニク君がドアをそっ閉じした。
ドアを閉めて、その背はふるふると小刻みに震え出していた。そして、そのまま私たちの方へぎこちなく顔を向ける。心なしか顔色が悪い。というか青いぞ。大丈夫か。
「どうしましたの!?」
尋常じゃないジルニク君の様子に、リアが慌てて駆け寄る。一体何を見たというんだ……気になる。
「おやめなさい!」
ジルニク君が何を見たのか、好奇心に駆られた。ドアを開けようとする私をリアが目敏く見つけて連れ戻す。あー! 気になるー!
「どういうことですの。どちらにも誰も居ないだなんて……」
リアが怪訝そうに言う。私がドアの向こうの秘密に関心を向けている間に、ジルニク君から誰も居なかったと聞き出したようだ。そうなると、この周辺で残っているドアは一つだけ。
「当たりはこっちだったってことじゃない?」
そう言いながらも、最後のドアに向かって手を掛け開けようとする。しかし、その前にリアに止められてしまった。
「怪しいですのっ! 迂闊に触ってはいけませんわっ!」
ジルニク君の様子に危機感を覚えたのか、リアが私を止める。えー、面白そうだったのになあ……。
「慎重に。慎重にっ! 開けるのですわ……!」
そう言うと、リアがゆっくりとドアを開けた。しかし、人差し指一本入る隙間程度にしか開けられていない。
「何してるの。もっと大胆に開けようよ」
ここまでこれば女は度胸である。ジルニク君は青褪めているままだし。リアは隙間を開けて目を両手で覆ったままだし。とりあえず、遠慮することも無く思いっきりドアを開けてみる。
「…………」
「やあ、待ってい「『発火』」
「だぎゃあああああ!!??」
――私はドアをそっ閉じした。
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