ロストアイ
パパのお仕事
なんだかシリーズ化しそうな勢いね。それでは参りましょう!
……前回はなんだか不穏な感じで終わりましたけど。
――そんなこたぁかまいやしませんぜ!
大事なのは今!
現在進行形!
ナウなのですよ……!
過去の栄光なんて、そんなものに縋り付いても碌なことはないからね!
えぇ、ほんとにっ……!
『現実には直視しなければ進めない物事もありますが』
ハッハッハ。笑止……!
……私は進むぞ、どこまでも。
後ろは振り返らない主義なんだ……!
もう振り返らない。振り返らないったら、振り返らないんだからーっ!!
『さようでございますか。それで、今回はどういった暇つぶしで?』
暇つぶし言うな。確かにやることないから勝手に始めたことだけども……。
だってよくよく考えてみたら私、自分の両親のことについてもはっきりと知らないでしょ?
そんなの普通におかしいでしょ?
一般的な普通の五歳児なら結構色々と知り始めるおませな時期なのよ?
もうこの衝動を抑えられないのっ……!
胸のドキワクが止まらないのよっ……!
『不整脈ですか。まだ数日前にワクチンを打ったばかりですから、細胞が活性化している影響でしょう。先日も混乱と興奮状態に陥っていましたし』
――え。……なにそれ。聞いてませんが……?
『しかし特に問題視することはありません。もしダメであった場合は不死を施しますので』
「…………」
……それ、大丈夫じゃないよね?
ダメならって……ダメな場合があるの?
しかも不死を施すから問題ないって……。
遠回しに見放さないでくれませんか。ねぇ……?
『前回は母親の仕事についてでしたから、今回は父親の仕事についてでしょうか』
あ、そうそうそのつもり。
といっても、ママよりヤバいことはないって信じてるけど……。
――って、違う違う違う!
話逸らすな!
聞いてたよね……?
さっきのこと軽く流そうとしないでよっ!
――泣くよ?
泣いちゃうよっ?
ガン泣きしちゃうよ……!?
『ヤバい、という基準については未だ図りかねますが……。父親の仕事については伝えられます』
……ぐす。
……どうぞ。無視するならもう、いいよ。
パパのお仕事、聞かせてちょーだいよ。
確か、……すんごいお金持ちだったんだっけ?
この前ちょっと外を歩いた時は玄関なんて見当たらなかったから、かなり広い屋敷に住んでいることは分かるけど。
というよりかはほとんど会ったことが無いから、どんな仕事か見当もつかないな。
――もしかして石油王、とか?
『願望としての検討はつけられているようですね。しかし、違います』
えー!
でも、お金持ちと言われて思い浮かべるものと言えば石油王とハリウッドスターぐらいだけど……。
――え!
……もしやうちのパパって、ハリウッド俳優並みのスーパースターだったりする?
パパラッチされちゃう系のお仕事なの……?
『さようでございますね。要素としては間違っていません』
おおおぉぉぉ、なんだか期待値がどんどん上昇していくよ……!
それでそれで?
結局どんな仕事してるの?
もったいぶらずに教えなさいよ。
『二十一世紀風に変換するのであればヤクザ。……いえ。マフィアのボス、といったところでしょうか』
「…………」
……はい。そんな気がしてましたー。
やけに引っ張るなって思ってたからさ。なんかあるなって、ちょっと身構えてたんだよね。
だって。
思い返してみたら今まで会ったパパの恰好、なんか、それっぽいもん。
あれはただの趣味だ……!
って自分に言い聞かせていたけれども。今ガッチリと腑に落ちたよ、うん。よくよく思い出せば後ろにSPみたいなの控えてた気がするもん。
……誰だ、あれを背景の一部と化していたのは……私か。幼児の脳が風景として認識するって相当だよ。
……ちなみにですが。今風に言うとどんな職業なのかな?
『今風と言いますと。そのまま闇の商人でございます』
……どこが?
どこら辺がっ!?
……なんかよっぽど悪そうな気がするけど……さらに進化してどうするの?
裏で暗躍してる黒幕臭がプンプンしてるけどもっ……!
『悪徳商売はやっておりませんよ。誠実な運営をしています。あっ……』
――え、何、その最後の「あっ……」て。
……やめてよ。
ねぇ、まさか前回みたいなことは無いよね?
勘弁してよ……。
『いえ。そういったことはございません。ただ、先程こちらへ向かうと連絡が入りましたので』
紛らわしいなおい。
でもなんだ、ただの連絡か。それなら話した通り、とくに悪いこともせずに誠実に商売してるのね。良かった……。
って誰がこっちに来てるって?
まさかまたワクチン……。
『いえ。たった今話をしていた方です。それとワクチンは一度打たれれば問題のないものです』
あ、そうなの?
それは良いことを聞いたな。
――ん?
あれ、てことはパ「あいちゃーん! パパが来たよ! 構って構って!」
開口一番、娘に構ってちゃん発言。
しかも私に許可を取ることもなく流れるように抱き着かれた。この初登場で何となく漂う残念感……。
なんて、
「残念な……」
『心の声が漏れていますよ』
「あ、やば」
「あいちゃん……」
いけね。
イケメンなのに台無し感が強すぎて……。
つい、心の声が漏れてしまった……。
長身のイケメンがしゅんとしている姿は何とも微妙。娘としてさらに複雑な気持ちになる。家族に対する言動が残念すぎるわ……。
そう失礼なことを思いながら、私から見上げる形でへこんでいるらしいパパを観察してみた。パパはママと違って髪が黒い。綺麗な真っ黒だ。ママとは違うけど、こちらもこちらで艶々と光り輝いている。しかもサラサラとしたスッキリな短髪。
――癖毛に悩む乙女に対する嫌味ですか。そのサラサラ遺伝子は一体どこへ消えたというのか……。
私の僻みが通じたのか、へこむパパと目が合った。私と同じ綺麗な赤だ。だらしなく眉尻が下がってるけどね。今はそうでもないけど、本当は普段、鋭く切れ長だ。
「…………」
目が合って何が嬉しいのか、再び抱き着こうとするのでスッと回避する。口調もそうだけど、いちいち行動が鬱陶しいんだよね。特に精神年齢が上がった今だと。
「…………」
ひらり、ひらりと。
可憐に躱す私に必死で縋ってくる。
だから、離れろ。
――鬱陶しいことこの上ないな!
ちびな私を捉えようとするパパの体格は長身で、一見すらっとしてる。触ってみるとしっかりと筋肉がついていて鍛えられているのが分かる、というのが娘的にポイント高い。
しかし小柄な私のすばしっこさには対応出来無いようだ。それでも諦めずに、「ハア、ハア、」と息を荒げ追いかけてくる。
……絵面がヤバいから近づかないでほしいんですけど。
そしてそんな攻防を繰り広げながらも私は思った。
あれ?
なんか両親が並ぶと悪役みたいだな……。
「…………」
……気付きたくなかった。
まだしっかりと確認してないけどもしかして私も釣り目なのかしら。
……まさか悪役令嬢みたいなポジションじゃないよね?
え、やめてよ。これ以上はシナリオが混雑しちゃうよ?
「あいちゃんあいちゃんっ」
思い当たった不吉な可能性のせいで動揺してしまい、その僅かな隙を突かれパパに拘束されてしまった。
……これはしばらくされるがままになっていないと解放されない。なのでしばらくは大人しく生きた抱っこぐるみと化す。
――まあ、なんだ。あくどいことはやってないって知っただけでも収穫だよね……。
私は無心になってパパにされるがままになった。アメリカンホームドラマのように抱き上げられ、くるくる振り回されながら鬱陶しくもパパの声が至近距離で頭に響く。ウザい。
私を振り回して煩くはしゃぐパパに完全に気を取られた。なので私は気付かない。まだ話が途中であったことを――。
『――闇の商人。裏社会の秩序をまとめるトップの称号とも言い換えられます。……しかし聞こえてないようですね。仕方ありません』
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