近距離魔法使いの異世界冒険記 ~妹と二人で転生しました~

駄菓子オレンジ

第22話

 私は眠っているエイリーを起こさないように、こっそりと部屋から出る。まだ日が沈んだばかりなうえに今日はほぼ昼まで寝ていたので、今はあまり眠くない。なので村の中を見て回ろうと外へ出たのだ。

「おや、お出かけですかな?」

 宿屋から出ると、商人に声を掛けられた。

「はい、まだ眠れそうにないので村を見て回ろうと思いまして」
「そうですか。でしたら、向こうの方にある公園なんかがおすすめですぞ。そこに咲いている花がとても綺麗でして、私もこの村に寄る時にはよく見に行きますな」

 商人が指さした方向を見ると、葉のない大きな木が生えていた。恐らくその下が公園だろう。

「ありがとうごさいます、行ってみます」
「暗いですからな。お気を付けて」

 商人に見送られて木に向かって歩いていると、公園の入口らしきものが見えてきた。隣に看板があり「チーザ村公園」と書かれているので、ここが公園で間違いないようだ。……そういえばこの村って、チーザ村って名前だったのか。
 公園に入ると、入口付近には遊具が5つほど見つかった。ブランコやシーソーなど、見覚えのある遊具ばかりだ。
 少し奥まで進むと、木の周りにベンチや花壇が並んでいる広場があった。

「わぁ……本当に綺麗……」

 商人の言っていた通り、咲いている花はとても綺麗だった。

 私はなんとなく木が気になり、木を見上げた。この木は何か花を咲かせたりはしないのだろうか。そう思ってよく見ていると、枝の色々な場所に何かが付いているのが見えた。
 もしかして、と思い「視力強化しりょくきょうか」の魔法をかけて見てみると、案の定花のつぼみだった。幹や蕾の見た目からして、この木は桜だろう。

「この世界にも桜ってあるんだ……」

 身近なものがある安心感からか、つい口に出してしまった。

「あれ?エンシーさんでしたか」
「ひゃっ!?」

 驚いて振り向くと、そこにはロイズとミツが居た。

「驚かせてしまってすいません。少し魔法の気配がしたもので……」
「いえ、大丈夫です。それよりも……さっきの、聞こえてましたか?」

 この世界がどうとか言っているのを聞かれてしまっていたらマズい。言い訳するにも、かなり面倒なことになる。

「さっきの……?いえ、特に何も聞いてませんが」
「何か言ってたんですか?」
「聞こえてなかったならそれでいいです。むしろ、聞いて欲しくない事だったので」

 反応や表情を見るに、本当に聞こえていなかったようだ。良かった。

「ところで、2人はどうしてここに?警備はしてなくて大丈夫なんですか?」
「はい。あの馬車の付近には、内側では魔法を発動させず、外側からの魔法は弾く結界が貼られているので。まぁ、夜の間だけですが」
「それに、近付こうものならあのおじさんが返り討ちにしますからね。商人になる前は冒険者だったらしいので、実際強いですよ。……ボクも勝てる自信無いくらいには」

 商人にしては体格がいいと思っていたら、そういうことだったのか。……なぜ冒険者から商人に転職したのか、とは思うけど。
 でもたしかに、護衛に裏切られることもほとんどなりそうだし、商人が元冒険者であるメリットもいくらかありそうだ。

「なるほど……なら大丈夫そうですね」
「はい。ところで、エンシーさんも商人さんに勧められてここへ?」
「はい、本当に綺麗な花ですよね。生命力が溢れているというか」

 実際、生命力……と言うより、魔力が溢れている。土に魔力が豊富なものを使っているようで、それを吸い上げて溜めているようだ。

「ええ、この千年桜せんねんざくらももうすぐ咲きそうですし」
「……この桜、千年桜って言うんですか?」
「あれ?知りませんでしたか?結構有名だと思うんですけど……」

 ロイズは少し困惑してる。
 私はほとんど村から離れずに魔術の本を読んだり魔法の練習をしていたりしたから、片道で1日かかる場所のことなんて知らなかった。
 ずっとただ魔法の知識と経験を積んできた弊害かな……。

「えっと、この桜は実は樹齢何年かわかってないんです。ですが、恐らく少なくとも1000年は経っているだろうということで、千年桜と名付けられたそうです」
「それと、この桜は毎年咲くんですが、咲くときに1年間溜め込んだ魔力を一気に放出するんです。なので、一時的にこの辺りの魔力が濃くなるんですよ」
「へぇー……それは1回来てみたいですね」

 前に読んだ本によると、人間は魔力の濃い場所に居ると心地よく感じるらしい。なので、魔力が濃い場所はよく公園などにされて、リラックスするために人が集まるらしい。
 私はまだそれを体験したことがないので、1度してみたい。

「やっぱりその時期になると人は集まるんですか?」
「あー……ある意味集まりますね」
「……ある意味、ですか?」
「はい。魔力が濃くなることの弊害で、周囲の魔獣が活性化してしまって暴れ出すんです。なので、それを抑えるために冒険者ギルドに依頼が来るんですよ」
「なるほど、その依頼を受けた冒険者が来るという意味では、人が集まるということですか」
「そういうことです」

 こんな観光名所になりそうな場所なのにあまり発展していない村なのは、そういう理由もあるのかもしれない。
 でもせっかくだし、満開になったこの桜は見てみたいかな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品