近距離魔法使いの異世界冒険記 ~妹と二人で転生しました~

駄菓子オレンジ

第21話

「そういえば、強さといえばレベルもありましたね。最近は確認していなかったので丁度いいです」

 ロイズはエイリーの反応なんて全く気に留めていないかのようにそう言って、何かのカードを取り出した。

 それにしても、レベルなんてシステムは私ももうすっかり忘れてたな。

「それは何ですか?」
「あぁ、ギルドカードですよ。冒険者ギルドに登録していると貰えるカードです。元々名前やランクは書いてありますが、それ以外にもこれには特殊な魔法が付与されていて、自分のレベルや所属パーティが確認できるんです」

 ロイズがギルドカードに魔力を少し流し込むと、空中に文字が浮かび上がってきた。
 その文字を読んだロイズは、心なしか嬉しそうに見える。

「今のレベルは17ですね。1年前よりも2レベル上がってます」
「それって高いんですか?」
「そうですね……冒険者も農民も、人類全員をまとめて考えれば高い方ですね。各年齢ごとの平均値は、その年齢を3で割った値だと言われていますし。ですが、冒険者だけで言えば、平均より少し上くらいでしょうか」

 へぇ……そんな風に言われてるのか。
 でも、そう考えると確かに高く感じる。それでも冒険者の中では平均くらいなら、冒険者はかなり努力しなければならないのかもしれない。

「なるほど……やっぱりロイズさんは強いですね」
「それ、勝ったエンシーが言う?」
「ハハハ、でも、ありがとうございます。それに、ここまで努力できたのも、一度負けた悔しさからですから。それも、年下の女の子に」

 そんな話や世間話などをしていると、いつの間にか夕方になっており、遠くに村が見えてきた。

「あの村で停めますぞ。体力の消費を抑えるルーンを持たせているとはいえ、馬もそろそろ限界ですからな」
「了解です。停車の許可を貰ってきます」

 商人に返事をしてロイズは馬車から飛び降り、身体強化を脚にかけて村へと走って行った。

 馬車がスピードを落としながら村へ近づくと、ちょうど村に着く頃に、ロイズが宿屋らしき建物から出てきた。
 そのまま宿屋の横に移動して手を振りだしたので、そこに馬車を停めた。

「大銅貨1枚で停めさせてもらえるそうです」
「わかった。払ってくるから、警備は任せましたぞ」

 商人が宿屋に入った後にふと御者席の方を見ると、ずっと周囲を警戒していたもう一人の護衛が伸びをしていた。
 そういえばまだ挨拶もしていなかったし、話すにはちょうどいいタイミングだろう。

「ずっと警戒お疲れ様です」
「あぁ、ありがとうございます。えっと……エンシーさんでしたっけ?それともエイリーさん?」
「私がエンシーです。で、向こうでナイフを見てるのが……って、本当に好きだなぁ」

 エイリーは武器屋の店先に並んでいるナイフを眺めていた。
 私たちが居たアルマイラ村はかなり小さく、武器屋どころか店と呼べる建物が無かったので、久々にあれだけの数のナイフが並んでいるのを見て興奮しているのだろう。

「あれがエイリーさんですか」
「はい、エイリーはナイフが好きなんですよ。コレクションしてた頃もあったくらいです」

 まぁ、この世界でじゃないけど。

「そんなになんですか。……あ、ボクはミツといいます」
「ミツさんですか。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」

 話した感じ、かなり感じのいい少年のようだ。恐らく私よりも年上だけど、全く見下す様子も無いし。
 まぁ年下とは言ったけど、私の今の年齢に16程度足したのが記憶的な年齢だから、実質私の方が年上にはなるけど。

「あ、そうそう。よく間違われるので言っておきますが、ボクは女です」
「えっ!?あ、すいません。勘違いしてました」

 どうやら少年ではなく、少女だったらしい。これは申し訳ない勘違いをしてしまった。

 と、軽く話をしていると、エイリーが戻って来た。

「うぅ……欲しかったけど、お小遣いだけじゃお金が全く足りない」
「はいはい、またそのうち買いに来ればいいでしょ」
「それはそうだけど……」
「ふむ……?どうかされたのですかな?」

 ちょうど商人も戻って来たようだ。

「いえ、なんでもないです。気にしないで下さい」
「そうですかな?ならまぁ、それはさておき、お二人は宿屋でお休みになって下され」
「え?いえいえ、そんな訳には。それに、お金も無いですし」

 たとえお金があっても、私たちだけ宿屋に泊まらせてもらうのも気が引ける。

「お金なら心配ご無用ですぞ。お二人のご両親から頂いたお金で、既に支払ってありますからな」
「いえ、でも……」
「すいません、ありがとうございます」
「え?」
「ほら、エンシー、行くよ」
「えぇ!?ちょ、ちょっと!」

 エイリーは私の腕を掴んで、宿屋に引っ張って行く。かなり強く掴まれていて、振りほどこうにもほどけない。
 そのまま宿屋の部屋まで連れて行かれた。

「で、どうして無理やり連れてきたの?」
「だって、あのままじゃ二人とも引かなかったでしょ。それにたぶん、今回は私たちが引くべきだったからね」
「確かに引かなかったとは思うけど、引くべきだったってどういうこと?」

 別に私たちが引いたところで、商人側にメリットがあるように思えないんだけど。

「まず、既にお金が払われてたんだから、泊まるしかないでしょ。返金してもらうにしても迷惑かかっちゃうし」
「うっ……それは、確かに」
「次に、支払いに使ったお金。あれはたぶん、お父さんとお母さんが私たちの宿泊用・・・に用意したお金だよ」
「私たちを乗せてもらう費用じゃなくてってこと?」
「そういうこと」

 ……確かにあり得る。あの両親なら過剰に心配して、そういうこともやりかねない。

「ならまぁ、うん。わかる」
「で、最後ね。これは推測だけど、たぶんあの商人さんは評判を落としたくないんだよ」
「もし風邪でもひかせたら……ってこと?」
「うん。試験のために王都に向かっているのに風邪をひかせて、試験を受けれなくなった……なんて事になったら、間違いなく評判は落ちるからね」
「確かに……間違いなくそうなるね」
「更に言えば、あの商人さんはかなり稼いでそうだったからね。売上がいい今、評判を落としちゃったら、一気に売上も悪くなるだろうし、それは避けたいはずだしね」

 確かにこれだけ理由があれば、私たちが引くのが良かったと言えるだろう。
 商人側も引かなさすぎれば、逆に私たちからの評価が下がるからいずれは引いただろうけど。それはそれで商人からすれば悪い事だっただろうし。
 それにしても……

「……空気読みすぎじゃない?」
「えっと……それは褒め言葉?」
「良い意味でも、悪い意味でも」
「なにそれ、ひどい!」

 なんて茶化して、私はふかふかのベッドに潜り、エイリーもベッドに潜ってすぐに寝息を立て始めた。

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