近距離魔法使いの異世界冒険記 ~妹と二人で転生しました~

駄菓子オレンジ

第2話 どうやら、転生するらしい

「死因は、さっき言った通りだ。そして犯人は、君ならわかってるだろう?」

 私に向けて言われた。

「あの男子のこと?」
「そう、君が振ったあの男子だ」
「お姉ちゃん、また告白されてたの?」

 愛百合が羨ましそうな視線で見てくる。別に、されたくてされてる訳じゃないんだけど。

「ともかく、彼が君に麻酔薬を送り付けた。ところで、君は彼の事をどのくらい知っているんだい?」

 突然の質問に戸惑ったけど、思いつくことは言ってみた。

「クラスメイトで、学校中の女子から人気があって、裏では気に入らない人をいじめてるって噂がある……くらいかな」
「なるほど。次の解説のために補足しておくと、彼は学年で成績が2番目に良い。たぶん君は、2位以下に興味は無かったってことかな」
「……合ってる」

 入学してからずっと学年1位の成績を取り続けたから、他の順位は気にしてなかった。

「さて、そろそろ解説を始めるよ」
「……」
「まず、前提として、彼は君に恨みがあった。学年で1位の成績を取り続けたこと。それと、学校中の男子だけでなく、女子からも人気を集めていたことだ。彼はとても負けず嫌いだったようだね」

 たしかに、勝負事で負けると、いつも悔しがっていたような気もする。

「そして彼は、その恨みから君を気に入らない人に認定して、負の渦に閉じ込めようと考えた。その第1歩が告白だ」
「どういうこと?」
「振られた場合は、今回みたいに麻酔薬を送り付けたり、手紙と共にイタズラを仕掛けようとしていたんだろう。何回でもね。付き合った場合は、しばらく普通に付き合って、その後残酷なことをする。浮気とかね」
「それで?別れればいい話でしょ?」
「いや、そうはいかない。別れれば、振られた時と同じように、何回もイタズラを仕掛けていただろうね。だからといって復縁すれば、残酷な結果が待っている。そんな負の渦だ」

 なるほど、そうしてどんどん不登校にでも追い込もうとしていたのか。

「ただ、君たちが死んだことは誤算だっただろうね。まぁ、死ぬような環境を作ったのは君だけど」
「……私?」
「そう君のずぼらな性格だ。ドアをよく開けっ放しにするから、部屋のドアにドアクローザーを取り付けていただろう?」

 たしかに、取り付けていた。まさか、それのせいで死ぬとは。

「それと、君は空気の入れ替えをほとんどしないからね。窓も閉まっていた状態だった。だから、空気中の麻酔薬の濃度がどんどん高くなって、過剰摂取に至ったという訳だ。納得してくれたかい?」
「……」

 答えはしないものの、私たちは2人とも頷いた。

「じゃあ、今度は僕の話だ。協力してくれる約束だろう?」
「何をすればいいの?」
「君たちには、異世界に転生して、その世界で魔王を倒して欲しい」

 いきなり、聞きなれない言葉が並べられたな。

「異世界?転生?魔王?」

 愛百合はとても混乱している。
 私は、原作がわからないと面白くないゲームもあるから、ラノベもたまに読む。だから、この状況もある程度整理出来てる。
 だけど、愛百合は真面目で、ラノベや漫画はほとんど読まないから、混乱しているのかもしれない。

「まぁ、話を聞きながら理解してくれればいいさ。今の魔王は特殊でね。普通なら魔族がなるんだけど、今の魔王は魔神と呼ばれる存在なんだ」
「魔神?」

 愛百合の混乱はどんどん加速していく。

「闇堕ちした神のような者だ。つまり、もともとは僕達の仲間だったってこと」
「闇堕ち?神?仲間?」

 混乱しすぎて、普通の単語さえもわからなくなってきている。
 これはさすがに止めなければ。

「悪いけど、一旦説明止めて。愛百合の混乱が落ち着くまで待って」
「おっと、すまないね。やっと協力者が現れてくれたから、興奮していたんだ」
「???」
「もう、しばらく喋るな」

 もはや声さえ出さず、首をかしげるだけになってしまった。

「愛百合、目を閉じて」

 素直に閉じる。

「息を吸って……吐いて」

 深呼吸をする。

「今、愛百合は家で料理をしてる」
「……うん」
「玄関でドアが開く音がして、見てみると、私が居る」
「おかえりー!お姉ちゃん!……はっ」

 愛百合は私に抱きつき、我に返ったかのように驚いた。

「落ち着いた?」
「う、うん」

 愛百合の頬は、少し赤くなっている。

「よし、そろそろ喋っていいよ」
「……神に向かって、なんて口の利き方だ」

 ランペスは呆れたように言った。

「まぁ、いいや。説明は大体終わったし。何か言いたいことはあるかい?」
「死んだ理由の説明の対価にしては高すぎない?」

 ランペスは少し困ったような顔になった。

「うーん……たしかに、そうかもしれないね。わかった、じゃあ、こうしよう。君たちが魔王を倒してくれたら、生き返らせてあげる」
「そんなことできるの?」
「あぁ、できるさ。神だからね」

 ふつうなら、こんな怪しい話には乗らない。
 だけど、未練はありまくるし、こんな場所にいてもすることは無いから、乗ることにした。愛百合も同じみたいだ。

「わかった。それでいいよ。協力してあげる」
「ありがとう。ただ、神に向かって上から目線はやめてくれないかな、自分の立場がわからなくなってくる」
「……わかりました。ふつうなら、そんな出来もしない約束はしませんもんね」

 ランペスは、不満気な顔をしながら、ため息をついた。

「……もう、それでいいよ。とりあえず、転生させるからね。ただし、今までの記憶を取り戻すのは5歳の誕生日だ。最初から言葉を理解出来た方が都合がいいだろう?」
「ありがとうございます」
「はぁ、君は最後まで威圧的だな」

 ランペスがそう言うと、私と愛百合の身体は光に包まれた。そこから先の記憶は無い。

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