彼処に咲く桜のように
十二月二十五日(二)
改札を抜けると、さくらはこちらに笑いかけてきた。
「ふふ、時間ちょうどとはやりますね」
「色々あったんだ、待たせたな」
「私も今来たとこだよ。行こうか」
クリーム色のダッフルコートに身を包んでいるさくらは、手袋に包まれた指先しか出ていない袖をこちらに向けて来た。
誠司は緑と黒のチェック柄のPコートの袖から、骨ばった手を差し出す。
デートらしく、二人はまず駅ビル内をウィンドウショッピングすることにした。
「そういえば熱、もう平気だったのか?」
「うん! ちゃんと治してきたから」
ビルの中は冷え込む外と打って変わって暖房が効いていた。同じようなことを考えていた他のカップルが、ビル内を埋め尽くしていた。
人は多く、賑やかだ。
「なんだか賑やかだが、クリスマスはこんなもんなのか」
「そうだよ。みんな思い出を作ることに精一杯なんだよ」
なるほど。さくらの言うとおり思い出作りとして見てみれば、一見無駄な散歩とも思える行為も納得できる。
思い出は宝だと、みんな知っているんだな。
思い出作りをするため、二人は談笑しながらひたすら歩き続けた。誠司の表情は次第に柔らかくなっていき、それに合わせるようにさくらの表情も明るくなっていく。
二人は休憩がてら自販機で飲み物を買い、ビル内に設置されたベンチに腰掛けた。
「たくさん歩いたね!」
「思い出作りというのも体力がいるな」
「でもなんか楽しいでしょう?」
さくらが横から顔を覗き込んできた。誠司は鼻で少し笑いながら真っ直ぐに答えた。
「ああ、楽しいな」
まさか歩いているだけで楽しいと思える日が来るとはな。一緒にいる人が、大きな影響を与えているのだろう。忘れてはいけない、大切な感覚だ。
二人はウィンドウショッピングを終え、駅ビルの外に出た。
「わぁぁっ!」
「本当にクリスマスに降るものなんだな……!」
真っ暗な空から白い粒が舞い降りてきた。さくらが出した手の上にふわりと落ち、すぐに溶けていく。
「あっ、雪が酷くなる前に、あそこに行こう?」
「この程度なら、傘も買わずに行けそうだな。なら早く行こうか」
『モミの木公園』
二人の声が重なった。今日のメインとも言えるイベントだ。
商業ビルを抜けて大通り沿いを進んで行くと、いつか来たモミの木がそそり立つ公園へと辿り着いた。
公園の出入り口からでも、その立派なクリスマスツリーに扮したモミの木を眺め見ることが出来た。
見上げるほどの大きさと、光る電飾、それに反射して雪が輝いて見える。幻想的とも言えるその光景に、その場の誰もが魅了された。
「すごい! 誠司君すごいね!」
半ば興奮気味のさくらが駆け出した。
「おいおい……走らなくともモミの木は逃げたりしないぞ」
仕方なく誠司もさくらの後を追った。そのとき、どこからか視線を感じた。左右に振り向いて確認するも見知った顔はない。
「咲辺りがストーキングしていないだろうな……。さすがにないか」
モミの木公園にはその巨大なクリスマスツリーを一目見ようと多くの人々が集まっていた。
写真に収める人、目に焼き付けるように見つめる人、雰囲気を楽しんでいる人、それぞれの楽しみ方をしながらモミの木を皆幸せそうに眺めている。
「誠司君! こっちー!」
モミの木の元でさくらが手を振っている。頬をピンクに染めて、まるで子供のようにはしゃいでいた。
誠司が追いつくと、さくらは改めてモミの木を見上げた。
「確か、前に来た日だったよね。イヌホオズキとアリウムをプレゼントし合ったの」
「五月末ごろだったな。もちろん今日も……」
誠司が首にかけているイヌホオズキを取り出す前に、さくらが先に首に巻いたマフラーの奥からアリウムを取り出していた。ネックレスはしっかりと首にかかっている。
「付けて、平気なのか? 肌が荒れると言っていただろ?」
「持ってるだけじゃなく、身につけていたいんだ。一日くらい平気だよ」
誠司もイヌホオズキを取り出し、互いの想いを確かめるように見せ合った。
「私ね、昔は恋人ができるなんて思ってなかったんだ。体の弱いこんな私を好きになってくれる人なんて、絶対いないと思ってた」
「手帳にあったな」
「最初、興味本位だった誠司君のことも、知っていくうちに惹かれていった。運命なのかもしれないね!」
「よくそんな照れるようなことをニコニコと……。そんな運命だけであれば良いんだがな」
二人は笑い合ってから改めてモミの木を見上げる。
真冬の外のはずなのに、顔はつんと冷えているはずなのに、その瞬間だけは何故だか暖かかった。
「ふふ、時間ちょうどとはやりますね」
「色々あったんだ、待たせたな」
「私も今来たとこだよ。行こうか」
クリーム色のダッフルコートに身を包んでいるさくらは、手袋に包まれた指先しか出ていない袖をこちらに向けて来た。
誠司は緑と黒のチェック柄のPコートの袖から、骨ばった手を差し出す。
デートらしく、二人はまず駅ビル内をウィンドウショッピングすることにした。
「そういえば熱、もう平気だったのか?」
「うん! ちゃんと治してきたから」
ビルの中は冷え込む外と打って変わって暖房が効いていた。同じようなことを考えていた他のカップルが、ビル内を埋め尽くしていた。
人は多く、賑やかだ。
「なんだか賑やかだが、クリスマスはこんなもんなのか」
「そうだよ。みんな思い出を作ることに精一杯なんだよ」
なるほど。さくらの言うとおり思い出作りとして見てみれば、一見無駄な散歩とも思える行為も納得できる。
思い出は宝だと、みんな知っているんだな。
思い出作りをするため、二人は談笑しながらひたすら歩き続けた。誠司の表情は次第に柔らかくなっていき、それに合わせるようにさくらの表情も明るくなっていく。
二人は休憩がてら自販機で飲み物を買い、ビル内に設置されたベンチに腰掛けた。
「たくさん歩いたね!」
「思い出作りというのも体力がいるな」
「でもなんか楽しいでしょう?」
さくらが横から顔を覗き込んできた。誠司は鼻で少し笑いながら真っ直ぐに答えた。
「ああ、楽しいな」
まさか歩いているだけで楽しいと思える日が来るとはな。一緒にいる人が、大きな影響を与えているのだろう。忘れてはいけない、大切な感覚だ。
二人はウィンドウショッピングを終え、駅ビルの外に出た。
「わぁぁっ!」
「本当にクリスマスに降るものなんだな……!」
真っ暗な空から白い粒が舞い降りてきた。さくらが出した手の上にふわりと落ち、すぐに溶けていく。
「あっ、雪が酷くなる前に、あそこに行こう?」
「この程度なら、傘も買わずに行けそうだな。なら早く行こうか」
『モミの木公園』
二人の声が重なった。今日のメインとも言えるイベントだ。
商業ビルを抜けて大通り沿いを進んで行くと、いつか来たモミの木がそそり立つ公園へと辿り着いた。
公園の出入り口からでも、その立派なクリスマスツリーに扮したモミの木を眺め見ることが出来た。
見上げるほどの大きさと、光る電飾、それに反射して雪が輝いて見える。幻想的とも言えるその光景に、その場の誰もが魅了された。
「すごい! 誠司君すごいね!」
半ば興奮気味のさくらが駆け出した。
「おいおい……走らなくともモミの木は逃げたりしないぞ」
仕方なく誠司もさくらの後を追った。そのとき、どこからか視線を感じた。左右に振り向いて確認するも見知った顔はない。
「咲辺りがストーキングしていないだろうな……。さすがにないか」
モミの木公園にはその巨大なクリスマスツリーを一目見ようと多くの人々が集まっていた。
写真に収める人、目に焼き付けるように見つめる人、雰囲気を楽しんでいる人、それぞれの楽しみ方をしながらモミの木を皆幸せそうに眺めている。
「誠司君! こっちー!」
モミの木の元でさくらが手を振っている。頬をピンクに染めて、まるで子供のようにはしゃいでいた。
誠司が追いつくと、さくらは改めてモミの木を見上げた。
「確か、前に来た日だったよね。イヌホオズキとアリウムをプレゼントし合ったの」
「五月末ごろだったな。もちろん今日も……」
誠司が首にかけているイヌホオズキを取り出す前に、さくらが先に首に巻いたマフラーの奥からアリウムを取り出していた。ネックレスはしっかりと首にかかっている。
「付けて、平気なのか? 肌が荒れると言っていただろ?」
「持ってるだけじゃなく、身につけていたいんだ。一日くらい平気だよ」
誠司もイヌホオズキを取り出し、互いの想いを確かめるように見せ合った。
「私ね、昔は恋人ができるなんて思ってなかったんだ。体の弱いこんな私を好きになってくれる人なんて、絶対いないと思ってた」
「手帳にあったな」
「最初、興味本位だった誠司君のことも、知っていくうちに惹かれていった。運命なのかもしれないね!」
「よくそんな照れるようなことをニコニコと……。そんな運命だけであれば良いんだがな」
二人は笑い合ってから改めてモミの木を見上げる。
真冬の外のはずなのに、顔はつんと冷えているはずなのに、その瞬間だけは何故だか暖かかった。
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