彼処に咲く桜のように

足立韋護

七月二十四日(二)

 それから自然と、話題は夏休み中の予定へと移り変わっていった。もちろんそれは、誠司と咲だけのものではなく、さくらと太一、葵も含めてのことだった。不満そうに頬を膨らませている咲を放っておき、誠司とさくらで話を進めていた。


「この辺の夏休みって、何かイベントあるのかな」


「戸井高校の東側の、駅とは反対方向で祭りが毎年行われているらしいというのは、聞いたことがあるな」


「お祭り、行きたいなぁ。今年は友達、たくさん出来たから……」


 大切そうに手帳を胸に抱えて微笑むさくらを見た誠司は、家に帰ったら皆で行く計画を立てよう、と考えた。


「ウチ置いて勝手に話し進めんなよー! 夏といえば海とかプールじゃんか!」


「海! 海!」


 今度は満面の笑みで咲と誠司を交互に見たさくらは、髪を上下に揺らしながら飛び跳ねた。一度は友達と行ってみたかったと言わんばかりに、夏休みのイベントを挙げられる度に彼女は喜々としていた。
 結局、夏休みに行きたいイベントとして、海、祭り、花火大会に決定した。そのどれも、誠司とさくらは友人と行ったことがなく、全くの無知であった。


「海ならあそこだしぃ、花火大会ならあれだしぃ……どれが良いかなー」


 こういう時に、数々の遊びこなしてきた咲が驚くほどに頼りになった。次々に候補地を挙げていき、その中でも交通費や立地などを考えて選定してくれた。


「でも、太一君と葵ちゃんに予定を聞く必要があるよね。今日はまだ生徒会の集まりなのかな」


「あー、ならウチ、生徒会長の連絡先知ってっから、それで二人の予定聞いとくわ。大月、一応お前の連絡先も教えろや」


「え、あ、家の電話で良い?」


「は? ケータイとか、スマホとか、色々あんだろ?」


「ごめん、ないんだ」


「え、ええ!」


 さくらは顔を赤くしながら、目を細めながら視線をそらしている。制服のスカートをきゅっと握っている。大袈裟に驚いている咲は、その様子から本当であることを確信し、むしろ咲のほうが反応に困っていた。


「俺だってないんだ、別に恥ずかしがることじゃない」


「ええぇ……」


 咲は驚くことに疲れたようで、最後にはクラスメイトのイスにもたれかかった。俯いていたさくらが、パッと顔を上げて、眉を高くしながら誠司を見つめる。


「誠司君……」


「家の電話番号を教えてやれば良い」


「うんっ!」


 最近のさくらは、声を張るようになってきた。友達が出来て、本当に楽しいのだろうな。俺だって、楽しいと思えることのほうが増えてきている。
 そういえば……俺とさくらの関係は一応恋人なんだよな、多分。あれから何一つ進歩していないのだが、これが普通なのだろうか。さくらはどう思っているのだろう。夏休み中にでも聞いてみたいところだ。


────それにしても、俺にはもったいないほど、充実した日々だ。

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