彼処に咲く桜のように

足立韋護

七月十日

 その日から、誠司はさくらや各クラスより選出された他の実行委員ら、生徒会のメンバーとともに精力的に活動を始めた。体育祭の企画から進行、生徒の誘導、予行演習なども自ら買って出る。それをよく思わない生徒も少なからずいたが、多くの生徒達は誠司を認めようとしていた。


 七月十日。クラス対抗体育祭当日。この日は予報通り快晴に恵まれ、生徒達の望まない天候となっていた。校庭には一年から三年までの全校生徒およそ九百人が、それぞれの椅子をクラス別に整列させていた。誠司とさくらを含めた体育祭実行委員は主に進行に努め、その甲斐あって予定通りプログラムは進行していった。
 誠司と太一は、唯一のお笑い枠となるはずの障害物借り物競争、さくらと咲は真剣勝負である百メートル走に出場する予定だ。一方葵は別のクラスの騎馬戦の大将になっていた。


「次は障害物借り物競争か」


「誠司君、頑張ってみんなの笑いをとってね」


「酷なことを言うな」


 体育祭実行委員のために用意されているテントから出た誠司は、競技のための入場門付近に向かう途中で、太一と出くわした。既に予行演習のときに同じレーンであることはわかっていた。別々のクラスのため、勝負しなければならない。


「おっ、誠司! お疲れさん!」


「雑用がこれほど困憊する作業だとは、思っていなかった」


「疲れてる誠司が相手でも、本気で勝ちに行くからな!」


「俺が負ける光景など微塵も想像できないがな」


 レーンへと並ぶ二人の間には、目には見えない何かが火花を散らしていた。先発の一年生が終わり、いよいよ誠司達二年生の番となった。


 初めは縄状の網をくぐり、その次に一番高いハードルを跳ぶかくぐる。これを倒してしまった場合は直してから進まなければならない。その後は平均台を突っ切り、竹馬に乗る。そして竹馬で指定された場所まで行けば箱があり、その箱の中にある紙を取り出すとランダムで何か指定されるので、それを持ってきて初めてゴール出来る、という至極単純なルールだ。
 予行演習のとき、散々手本としてやらされてきたんだ。今更失敗する要素はどこにもない。悪いが勝ちは確定しているぞ、太一。


 そして誠司達のレーンへと順番が回ってきた。横に並ぶのは誠司と太一、それに他クラスの運動部員が二名だった。陸上部員のスターターが前へと出てきた。生徒達が見守る中、校庭に破裂音が鳴り響くとともに皆は一斉に飛び出した。
 まずは運動部員らが前へと進んでいき、急いで巨大なネットをしゃがんだ状態でくぐっていく。それに追随する形で誠司と太一も網を抜けた。その後の高いハードルを皆が律儀に跳んでいく中、誠司はその下をくぐっていく。


 ふん、わざわざリスクを冒す意味がない。倒してしまえば大きなタイムロスになってしまう。何にせよ、この障害物借り物競争は迷えば負けるんだ。


 運動部員の一人がハードルを何度も倒してしまい、最下位になったところで他三人はハードルをクリアした。ほぼミスなくハードルを跳んだ二人に、誠司は若干離されていた。待ち構える平均台の終盤で失敗してしまったもう一人の運動部員は、平均台やり直しを強制され三位にまで転落していた。平均台を難なくクリアした二人の前には、竹馬が用意されていた。
 竹馬を軽々と乗りこなした誠司は、乗りながら走り始める。その後に続いて太一が竹馬で歩き出した。誠司は身を翻して、後ろ歩きで太一の様子を窺う。


「うおっ。誠司、そんな特技があったのかよ」


「小さい頃はこれとホッピングしか遊ぶものがなかったのでな」


「こんなときにイジリにくい話題出すな!」


「先に行かせてもらうぞ」


 片足を軸にして反転した誠司は、軽快な走りで一気に他を引き離した。ついに一番乗りで箱にまで到着した誠司は、箱の中から取り出した紙には『あなたの思う可愛い人!』と丸っこい字で書いてあった。


「誰だこれ書いた奴……。物にしろとあれほど……まあいい。今の俺にならクリア出来る」


 迷うことなく誠司が向かった先は、体育祭実行委員のテントだった。


「さくら!」


「せ、誠司君?」


「来てくれ!」


 誠司の伸ばした手を、さくらがしっかりと掴んだ。さくらと手を繋ぎながら、誠司はゴールへと足を運んだ。審判である葵が書かれた内容と、交互に見てニヤついた。


「これ竹馬王子に当たったんだー。へぇー」


 それ書いたのお前か。それとその名前は認めないぞ。


「よしよし、合格! 一位は秋元だ!」

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