彼処に咲く桜のように
五月二十八日(四)
────勉強会が終わり、それぞれ充実したテスト勉強であったと感じていた。
夕日の差し込む帰り道、太一に玄関前まで見送られながら誠司達の駅を目指した。相当に勉強したおかげで、皆は若干くたびれた様子だ。中でも特にやつれていたのは咲だった。
「あぁーあ、疲れた疲れた」
「倉嶋さん、お疲れ様」
体を伸ばしている咲の後ろから、さくらが肩を揉みながら笑いかける。
「あー、肩揉み上手いじゃん大月ィ~。ぎもぢぃぃ」
「ふむ、確かに倉嶋は特に肩が凝りそうだねぇ、秋元」
口元を悪戯に緩ませながら、葵は誠司へと話題を振った。
「……俺に振るな。さくら、肩揉みなんぞしてやらんでもいいだろ」
「だって、本当によく頑張ってたからさ。倉嶋さんの、元々の頭の良さもあって、すごく進められたんだよ」
さくらのベタ褒めに、誠司は呆れ、咲はほんのりと頬を赤く染めた。もちろんそれは背後のさくらには見えていない。
「お、お前の教え方が、上手かったんじゃね? ウチは前からずっとバカだから」
「倉嶋さんは、地頭が良いのかもしれないよ」
「な、なんだよそれ。褒めてもなんも出ねえぞ!」
「地頭の良さは、元々の頭の良さ。理解が早いのも、覚えるのが早いのも、倉嶋さんの地頭の良さのおかげかもしれないってことだよ。少なくとも、私は倉嶋さんの何倍も勉強しなくちゃ覚えられない」
「うぐ、ううぅ……」
か細い声を出した咲はとうとう顔を真っ赤に染め上げ、頭を抱えながらしゃがみこんだ。誠司と葵は、まさかさくらが咲をこのような状態にするとは思ってもみなかった。
「褒められてここまで弱るのも、なかなか難儀だね、こりゃ」
ふらつく咲を無理矢理起こし、それを駅前まで皆で支えながら歩いた。駅前に着く頃には、すっかり日も暮れ、咲も自らで歩けるようになっていた。
「誠司君、今日は楽しかったよ。ありがとうね」
「生徒会がなければ大体暇だから、是非いつでも呼んでほしいところだよ」
「はぁー、テストかぁ。クソだるいわぁ。さてじゃあ、秋元、また明日学校で!」
三人は手を振りながら、改札を通って駅構内へと消えて行く。誠司はため息を漏らしながら、自宅へと帰ることにした。大変だった、の一言でしか形容できない二日間であったが、その中にはやはりどこか充実感が介在し、誠司を大いに悩ませていた。
「結局、小っ恥ずかしいせいで、これはまだ身につけていないな」
ポケットから、つい昨日さくらからプレゼントされたイヌホオズキのネックレスを手のひらに乗せて、街路灯の光に当てる。暗い空間にネックレスだけが反射して、そこだけが輝いているように見えた。
ネックレスの後ろにある、引き輪をプレートから外し、首の後ろに回して再び留める。白い花が、誠司の着る黒々とした服装と対照的であった。
「案外、悪くないか」
そう言った誠司は、それを服の裏側に隠して、再び歩き出した。
夕日の差し込む帰り道、太一に玄関前まで見送られながら誠司達の駅を目指した。相当に勉強したおかげで、皆は若干くたびれた様子だ。中でも特にやつれていたのは咲だった。
「あぁーあ、疲れた疲れた」
「倉嶋さん、お疲れ様」
体を伸ばしている咲の後ろから、さくらが肩を揉みながら笑いかける。
「あー、肩揉み上手いじゃん大月ィ~。ぎもぢぃぃ」
「ふむ、確かに倉嶋は特に肩が凝りそうだねぇ、秋元」
口元を悪戯に緩ませながら、葵は誠司へと話題を振った。
「……俺に振るな。さくら、肩揉みなんぞしてやらんでもいいだろ」
「だって、本当によく頑張ってたからさ。倉嶋さんの、元々の頭の良さもあって、すごく進められたんだよ」
さくらのベタ褒めに、誠司は呆れ、咲はほんのりと頬を赤く染めた。もちろんそれは背後のさくらには見えていない。
「お、お前の教え方が、上手かったんじゃね? ウチは前からずっとバカだから」
「倉嶋さんは、地頭が良いのかもしれないよ」
「な、なんだよそれ。褒めてもなんも出ねえぞ!」
「地頭の良さは、元々の頭の良さ。理解が早いのも、覚えるのが早いのも、倉嶋さんの地頭の良さのおかげかもしれないってことだよ。少なくとも、私は倉嶋さんの何倍も勉強しなくちゃ覚えられない」
「うぐ、ううぅ……」
か細い声を出した咲はとうとう顔を真っ赤に染め上げ、頭を抱えながらしゃがみこんだ。誠司と葵は、まさかさくらが咲をこのような状態にするとは思ってもみなかった。
「褒められてここまで弱るのも、なかなか難儀だね、こりゃ」
ふらつく咲を無理矢理起こし、それを駅前まで皆で支えながら歩いた。駅前に着く頃には、すっかり日も暮れ、咲も自らで歩けるようになっていた。
「誠司君、今日は楽しかったよ。ありがとうね」
「生徒会がなければ大体暇だから、是非いつでも呼んでほしいところだよ」
「はぁー、テストかぁ。クソだるいわぁ。さてじゃあ、秋元、また明日学校で!」
三人は手を振りながら、改札を通って駅構内へと消えて行く。誠司はため息を漏らしながら、自宅へと帰ることにした。大変だった、の一言でしか形容できない二日間であったが、その中にはやはりどこか充実感が介在し、誠司を大いに悩ませていた。
「結局、小っ恥ずかしいせいで、これはまだ身につけていないな」
ポケットから、つい昨日さくらからプレゼントされたイヌホオズキのネックレスを手のひらに乗せて、街路灯の光に当てる。暗い空間にネックレスだけが反射して、そこだけが輝いているように見えた。
ネックレスの後ろにある、引き輪をプレートから外し、首の後ろに回して再び留める。白い花が、誠司の着る黒々とした服装と対照的であった。
「案外、悪くないか」
そう言った誠司は、それを服の裏側に隠して、再び歩き出した。
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