彼処に咲く桜のように
五月二十八日(二)
「おっまたせー」
「何故お前が来たんだ」
誠司の厳しい言葉に対して、咲は上機嫌に返した。
「この前、生徒会長に連絡先聞かれてさぁ。そんで、なんか今日秋元の私服見れるし、勉強も見てもらえるとか聞いて、飛んできたワケよー!」
横目で葵を見下ろすが、葵は見て見ぬ振りをしている。さくらは少し怖がりながらも、笑顔で出迎えることが出来ていた。来てしまったものは仕方ない、と誠司は潔く諦める。新戸井駅から徒歩十五分ほどに位置する、太一の家へと四人は足を運んだ。
日差しが強く、アスファルトに反射してわずかに汗ばむ。町並みは、戸井駅周辺に比べるとビルは少なく、背の低い一軒家やアパートなどが集まる町である。その狭い歩道を、誠司達はぽつぽつと会話しつつ並んで歩いて行く。
「そーいえば、大月ィ」
「うっ、うん? どうしたの?」
唐突に咲から話しかけられ、さくらは素早く瞬きしながら少しばかり背の高い咲を見つめた。その後、すぐに話し始めるわけでもなく、咲はもごもごと何か言いかけているようだった。前を歩く誠司と葵も、その会話に耳を傾けている。
「その、よ。前に、ちょっかい出して悪かったよ。この数日お前が話してんの見たり、たまーに話したりして、クソみたいな奴ではなさそうだって、わかった。それに秋元とのきっかけを作ってくれたのもあるし、うん。だからその、つまり、悪かったよ」
継ぎ接ぎのような言葉ではあったが、さくらはそれでも素の表情で咲を見つめる。
「私は平気だよ。これからは仲良くしてほしいです」
「た、たまになら……。あくまでテメェは恋敵だかんな! そん時は容赦しねぇ!」
頬がほんのり赤くなる咲に、さくらは拳を軽く前に突き出した。本当に恋敵という、友達のような、ライバルのような、そんな関係を二人は互いに感じていた。
「負けないからねっ」
……俺のこの気持ちは、今確実にさくらへと傾きつつある。だが、これが突然、倉嶋の方へと振り切ることはあるのだろうか。人を好きになったことがないわけではない。しかしある時から、ここ最近まで、恋や愛などの言葉とは無縁だった。果たしてこの気持ちは本当なのか、それすらわからない。
「おーい誠司ー!」
遠くから太一の低い声が聞こえてきた。車道を挟んだ向かいの歩道に、半袖と半ズボン姿の太一が豪快に手を振っていた。近くの横断歩道から渡り、太一と合流する。
「おうおう、今日は多いこと多いこと。まあなんでも良いけどな!」
太一は快活に笑いながら、先導して行く。それについて行った四人は、やがて大きめの三階建て一軒家の前へと到着した。誠司は見慣れていたが、その新築のような小綺麗さに他三人は感心していた。
玄関の前で太一は振り返り、一人一人の顔を見てきた。
「ここで少しだけ守ってほしいことがあんだけどさ。二階から上は親の寝室とかあるから、行かないでほしいんだ。勉強は一階の俺の部屋でやるから、用はないと思うんだけどな。一応これだけ守ってくれりゃ、自由にしてくれて構わないぜ!」
「なーんだ、秋元の友達ってケッコー心広いじゃん? あんがとねツンツン頭!」
「おうよ、元ヤン!」
その呼び名は互いに悪気はなく、会話してすぐに意気投合していた。そんな光景も、葵にとっては非常に面白いことのようでニマニマと笑っている。
ドアを開けて、家の中に入ると、すぐにフローリングの廊下へと繋がっていた。太一は、その廊下から二つ目のドアを開けて、手で指差して中に入るよう指示した。
こうしてようやく、緊急中間テスト対策勉強会は開かれた。
「何故お前が来たんだ」
誠司の厳しい言葉に対して、咲は上機嫌に返した。
「この前、生徒会長に連絡先聞かれてさぁ。そんで、なんか今日秋元の私服見れるし、勉強も見てもらえるとか聞いて、飛んできたワケよー!」
横目で葵を見下ろすが、葵は見て見ぬ振りをしている。さくらは少し怖がりながらも、笑顔で出迎えることが出来ていた。来てしまったものは仕方ない、と誠司は潔く諦める。新戸井駅から徒歩十五分ほどに位置する、太一の家へと四人は足を運んだ。
日差しが強く、アスファルトに反射してわずかに汗ばむ。町並みは、戸井駅周辺に比べるとビルは少なく、背の低い一軒家やアパートなどが集まる町である。その狭い歩道を、誠司達はぽつぽつと会話しつつ並んで歩いて行く。
「そーいえば、大月ィ」
「うっ、うん? どうしたの?」
唐突に咲から話しかけられ、さくらは素早く瞬きしながら少しばかり背の高い咲を見つめた。その後、すぐに話し始めるわけでもなく、咲はもごもごと何か言いかけているようだった。前を歩く誠司と葵も、その会話に耳を傾けている。
「その、よ。前に、ちょっかい出して悪かったよ。この数日お前が話してんの見たり、たまーに話したりして、クソみたいな奴ではなさそうだって、わかった。それに秋元とのきっかけを作ってくれたのもあるし、うん。だからその、つまり、悪かったよ」
継ぎ接ぎのような言葉ではあったが、さくらはそれでも素の表情で咲を見つめる。
「私は平気だよ。これからは仲良くしてほしいです」
「た、たまになら……。あくまでテメェは恋敵だかんな! そん時は容赦しねぇ!」
頬がほんのり赤くなる咲に、さくらは拳を軽く前に突き出した。本当に恋敵という、友達のような、ライバルのような、そんな関係を二人は互いに感じていた。
「負けないからねっ」
……俺のこの気持ちは、今確実にさくらへと傾きつつある。だが、これが突然、倉嶋の方へと振り切ることはあるのだろうか。人を好きになったことがないわけではない。しかしある時から、ここ最近まで、恋や愛などの言葉とは無縁だった。果たしてこの気持ちは本当なのか、それすらわからない。
「おーい誠司ー!」
遠くから太一の低い声が聞こえてきた。車道を挟んだ向かいの歩道に、半袖と半ズボン姿の太一が豪快に手を振っていた。近くの横断歩道から渡り、太一と合流する。
「おうおう、今日は多いこと多いこと。まあなんでも良いけどな!」
太一は快活に笑いながら、先導して行く。それについて行った四人は、やがて大きめの三階建て一軒家の前へと到着した。誠司は見慣れていたが、その新築のような小綺麗さに他三人は感心していた。
玄関の前で太一は振り返り、一人一人の顔を見てきた。
「ここで少しだけ守ってほしいことがあんだけどさ。二階から上は親の寝室とかあるから、行かないでほしいんだ。勉強は一階の俺の部屋でやるから、用はないと思うんだけどな。一応これだけ守ってくれりゃ、自由にしてくれて構わないぜ!」
「なーんだ、秋元の友達ってケッコー心広いじゃん? あんがとねツンツン頭!」
「おうよ、元ヤン!」
その呼び名は互いに悪気はなく、会話してすぐに意気投合していた。そんな光景も、葵にとっては非常に面白いことのようでニマニマと笑っている。
ドアを開けて、家の中に入ると、すぐにフローリングの廊下へと繋がっていた。太一は、その廊下から二つ目のドアを開けて、手で指差して中に入るよう指示した。
こうしてようやく、緊急中間テスト対策勉強会は開かれた。
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