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足立韋護

意地

「サダオさんは、どうしてまだここに?」


「気になる! どうしてー?」


 アキとクオンの眼差しに、サダオはどこかやつれたような眼差しを返してきた。


「ほんの少し長くなるが、聞いてもらえるか?」


「ええ。そのために来たようなものですから」


 サダオは一つ礼をすると、厚ぼったい唇を開いた。


「アキ坊が旅に出てしばらくした頃、アキ坊が崖から落ちたと聞いた。そっからだよ。ようやくこの事件がどれほどのものかを自覚したのは。
 しばらくはフラメル嬢と連絡を取り合う程度で、情けねぇことにほぼここに引きこもってた。フールギャザリングが台頭してからは手を尽くしたが、やつらの横暴も止めることすらできなかった。
 そんな折、精鋭隊がディザイアに帰ってきた辺りだったか、フラメル嬢からアキ坊の旅の目的が単なる人助けと聞いたんだ」


「いつの間に……テンマ辺りがこぼしたのか」


「本人を前にして少し悪ぃこと言うが……こんな成人もしてねぇ子供が命張ってんのに、大人は家の中で引きこもり。そんなのカッコ悪すぎて吐き気がしちまう。
 それから、テンマ嬢から聞いた崖下の家の情報を基にして、フラメル嬢と俺ら有志でその場所へ向かったのさ」


「あの話、サダオさんも絡んでいたんですか!」


「おうとも。幸いにもモンスターと出くわすことが少なくてな、すぐに到着できた。その先からは特に話が早かった。
 フラメル嬢が織笠って女に、『アキが危ないかもしれない』と話してみると、あの金髪のチビがドラゴンを用意したもんだから驚きだ。この先は、多分もう聞いてんだろ?
 アキ坊達の力になれて俺は嬉しい。まだ力になれることがあるかもしれない。そう考えてよ、まだこうやって待機だけは一丁前にしてんのよ」


 この気持ちが誰かを行動するまでに奮い立たせ、それが結果として大勢の命を救った。それは光栄で、そしてなぜか気恥ずかしかった。


 だが、残された問題といえばオルフェと協力者のみ。これ以上は、無理させることはできないとアキは判断した。
────ログアウトしてほしいと伝えようとしていたアキだったが、とあることが頭をよぎり、ふと閃いた。


「サダオさん、ありがとうございます。では最後のお願いをさせていただけませんか?」


「もちろん。ここまできたら、何があっても驚かんぜ」


 サダオは前のめりになって耳を傾けた。


「これはまだみんなに話していませんでしたが、ディザイアに残ったプレイヤーがいないか確認しに回ろうかと、テンマに提案されていたところです。その手伝いをしていただけませんか?」


「そんな程度のことか! もちろん手伝わせてもらうぜ!」


「人手があるのは助かります。では明日十三時、時計塔の下に集合して下さい。精鋭隊は少し早めに集まって、内容の確認などするつもりですので」


「アキ~、私そんなの聞いてないよ!」


「そりゃあテンマと二人で決めたことだから仕方ないだろ。これからみんなに連絡するとこだったんだ」


「ムムー。それならいっか」


「サダオさん、これからいつ何が起こるかわかりません。もし『想定外の出来事』が起こった際には、絶対に身の安全を最優先にして下さい」


「へっ、何を今更────」


 アキの眼には強い意志が宿っていた。冗談やただの気遣いはない。明日『想定外の出来事』の起こる可能性が高い、ということをサダオは悟った。


「……わーかったわかった。だから、そんな怖い顔すんなって」


「ありがとうございます。長居しちゃったな……では俺達はそろそろ行きますね」


「そうかそうか。アキ坊もクオン嬢も達者でな」


「ええ、ではまた明日」


「またねー!」


 アキが工房から外へ出て、時計塔の針を確認すると十五時を回っていた。


『作戦決行まで残り、二十一時間』

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