エタニティオンライン
始動する協力者
オルフェが、俺の本名を知ってる?
金髪の友人もいない。顔はもちろん、お面のボイスチェンジャーで声も判然としない。
アキは恐る恐る顔を近づける。
「いったい、誰なんだ……?」
「やはり、今身分は明かせません。その代わり、現実世界で会ったときに教えますね」
オルフェは踵を返して、ログアウトホールへと歩いていった。
しかし、その足はログアウトホールに着くことなく、不自然に立ち止まった。
「オルフェ?」
よく見るとオルフェの膝が小刻みに震えている。アキが駆け寄ってみるとオルフェは視線を虚空へ向けたまま、呼吸を荒くしていた。
「メ、メッセージが……!」
「前に言ってた、鎧の奴からか!」
オルフェはぎこちなく頷く。
「ここへ来るまでの間に、来ていたみたいです。『二日後までログアウトを禁ずる。一人で二日後まで自宅待機せよ。以前のように逆らった場合、西倉の都合に関係なくログインしている者を抹殺する』とだけ……」
アキは自分の足に拳を打ち付けた。
「クソッ! どうしていつも……」
喚いたあとで、ふと少し冷静に考えてみると、今回の件とテンマの仮説が新たな繋がりを見せたことに気がついた。
仮説を裏付けるような、オルフェを付け狙う行為。
「……動機は、本当に仮説通りなのか」
────アキはカトレアやクオンに事情を説明し、青空の下、オルフェを連れてログアウトホールのある時計塔からフラメラーズホテルへと行くことにした。
一つ予想外だったのは、話を聞いていたテンマまでもついて来ると言い出したことだった。
結局、三人でフラメラーズホテルへと向かうこととなった。
フラメラーズホテルであれば設備の整った環境で、更に個室に籠ることができる。
フラメルの了承をもらうことが前提であったが、察しの良い彼女なら理解を示してくれる確信があった。
アキは隣を歩くオルフェに、いくつかアイテムを手渡した。
護身用のナイフから、回復アイテム、食糧。考えられる様々な状況を想定してのことだった。
「ありがとう、ございます」
オルフェは申し訳なさそうに頭を下げた。先程までの余裕が嘘のようだ。
「大丈夫。ほとんどがもう俺が使う機会のないアイテムだから」
そう言うとオルフェは安心したように軽くため息をついた。
フラメラーズホテルへの道は長い。
アキは「そういえば」と、背後を歩くテンマに顔を向けた。兜をつけていないテンマは長い髪を揺らしながら首を傾げた。
「『羅刹天』、どうしてテンマが持ってるんだ」
若干つり目を見開いたテンマは、あたかも当然の如く答えた。
「強いからだ」
「ユウの消えた後、故意に拾ったんだな。軽々しく扱える武器じゃないことは承知のはずだろ」
語気の強まるアキに、隣を歩くオルフェは二人を交互に見始めた。
「軽々しく扱っているつもりなどない。私は、ただ目的を達成したい。それをするには強さが必要なのだ」
アキはとうとう立ち止まった。それに合わせてテンマとオルフェの二人も足を止める。
「テンマが他人を疑うように、俺だってテンマを疑ってる。俺を仮説で混乱させようとしてるんじゃないかとさえ考えてるんだ。
これ以上強くなる意味はあるのか? 他に何か理由があるんじゃないのか?」
テンマは、視線を石畳の地面へ落とした。
「……私は、この世界を存続させたい。そのために障害となる人物は排さねばならない」
「それは、誰だ」
ここで納得のできる答えが返ってこなければ、俺はテンマを一層怪しむだろう。
テンマの仮説の存在を考えると、『協力者』の可能性は半分程度だ。
テンマは意志の強い面持ちで顔を上げた。
「障害となる人物、それはアキの言う『協力者』だ」
「ん、なんだって……?」
テンマは諦めたように大きく頷いた。
「信じなければ疑われるも必然か。仕方あるまい、私もアキを信じて全て教える。ただし、メッセージでだ。あとで送信しておく」
アキは頭の中でおさらいするように、テンマの言葉をよく思い出した。
『……正直に話せば、目的はある。察しの良い者には通じると思うが、私は今も『本来の目的』のために動いている。しかしヴァルカンで、『本来の目的』の前に私がすべきである『避けて通れない目的』を見つけた。今はそれを達成することのみ目指しているのだ』
アキの背筋に電流のようなものが走った。
そういうことか……。
『本来の目的』はこの世界の存続。そのままの意味だった。この世界を存続させるためには、まず悪用する人間を見過ごすわけにはいかない。それが世界のバランスを崩す力を持つ人間ならなおさらだ。
この世界を悪用している者、ヴァルカンでテンマに教えた存在、『避けては通れない目的』────それが『協力者』だったんだ。
なぜこの時、俺にだけ伝わるように教えたか、というのは仮説の内容が十分な理由になる。
動機は……ヴァルカンで話してくれたな。
俺は、とんだ勘違いをしていたみたいだ。
金髪の友人もいない。顔はもちろん、お面のボイスチェンジャーで声も判然としない。
アキは恐る恐る顔を近づける。
「いったい、誰なんだ……?」
「やはり、今身分は明かせません。その代わり、現実世界で会ったときに教えますね」
オルフェは踵を返して、ログアウトホールへと歩いていった。
しかし、その足はログアウトホールに着くことなく、不自然に立ち止まった。
「オルフェ?」
よく見るとオルフェの膝が小刻みに震えている。アキが駆け寄ってみるとオルフェは視線を虚空へ向けたまま、呼吸を荒くしていた。
「メ、メッセージが……!」
「前に言ってた、鎧の奴からか!」
オルフェはぎこちなく頷く。
「ここへ来るまでの間に、来ていたみたいです。『二日後までログアウトを禁ずる。一人で二日後まで自宅待機せよ。以前のように逆らった場合、西倉の都合に関係なくログインしている者を抹殺する』とだけ……」
アキは自分の足に拳を打ち付けた。
「クソッ! どうしていつも……」
喚いたあとで、ふと少し冷静に考えてみると、今回の件とテンマの仮説が新たな繋がりを見せたことに気がついた。
仮説を裏付けるような、オルフェを付け狙う行為。
「……動機は、本当に仮説通りなのか」
────アキはカトレアやクオンに事情を説明し、青空の下、オルフェを連れてログアウトホールのある時計塔からフラメラーズホテルへと行くことにした。
一つ予想外だったのは、話を聞いていたテンマまでもついて来ると言い出したことだった。
結局、三人でフラメラーズホテルへと向かうこととなった。
フラメラーズホテルであれば設備の整った環境で、更に個室に籠ることができる。
フラメルの了承をもらうことが前提であったが、察しの良い彼女なら理解を示してくれる確信があった。
アキは隣を歩くオルフェに、いくつかアイテムを手渡した。
護身用のナイフから、回復アイテム、食糧。考えられる様々な状況を想定してのことだった。
「ありがとう、ございます」
オルフェは申し訳なさそうに頭を下げた。先程までの余裕が嘘のようだ。
「大丈夫。ほとんどがもう俺が使う機会のないアイテムだから」
そう言うとオルフェは安心したように軽くため息をついた。
フラメラーズホテルへの道は長い。
アキは「そういえば」と、背後を歩くテンマに顔を向けた。兜をつけていないテンマは長い髪を揺らしながら首を傾げた。
「『羅刹天』、どうしてテンマが持ってるんだ」
若干つり目を見開いたテンマは、あたかも当然の如く答えた。
「強いからだ」
「ユウの消えた後、故意に拾ったんだな。軽々しく扱える武器じゃないことは承知のはずだろ」
語気の強まるアキに、隣を歩くオルフェは二人を交互に見始めた。
「軽々しく扱っているつもりなどない。私は、ただ目的を達成したい。それをするには強さが必要なのだ」
アキはとうとう立ち止まった。それに合わせてテンマとオルフェの二人も足を止める。
「テンマが他人を疑うように、俺だってテンマを疑ってる。俺を仮説で混乱させようとしてるんじゃないかとさえ考えてるんだ。
これ以上強くなる意味はあるのか? 他に何か理由があるんじゃないのか?」
テンマは、視線を石畳の地面へ落とした。
「……私は、この世界を存続させたい。そのために障害となる人物は排さねばならない」
「それは、誰だ」
ここで納得のできる答えが返ってこなければ、俺はテンマを一層怪しむだろう。
テンマの仮説の存在を考えると、『協力者』の可能性は半分程度だ。
テンマは意志の強い面持ちで顔を上げた。
「障害となる人物、それはアキの言う『協力者』だ」
「ん、なんだって……?」
テンマは諦めたように大きく頷いた。
「信じなければ疑われるも必然か。仕方あるまい、私もアキを信じて全て教える。ただし、メッセージでだ。あとで送信しておく」
アキは頭の中でおさらいするように、テンマの言葉をよく思い出した。
『……正直に話せば、目的はある。察しの良い者には通じると思うが、私は今も『本来の目的』のために動いている。しかしヴァルカンで、『本来の目的』の前に私がすべきである『避けて通れない目的』を見つけた。今はそれを達成することのみ目指しているのだ』
アキの背筋に電流のようなものが走った。
そういうことか……。
『本来の目的』はこの世界の存続。そのままの意味だった。この世界を存続させるためには、まず悪用する人間を見過ごすわけにはいかない。それが世界のバランスを崩す力を持つ人間ならなおさらだ。
この世界を悪用している者、ヴァルカンでテンマに教えた存在、『避けては通れない目的』────それが『協力者』だったんだ。
なぜこの時、俺にだけ伝わるように教えたか、というのは仮説の内容が十分な理由になる。
動機は……ヴァルカンで話してくれたな。
俺は、とんだ勘違いをしていたみたいだ。
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