エタニティオンライン
最後の仮説
テンマは「盗聴対策だ」と言い、アキへとメッセージを送った。
ここに、テンマの出した最後の答えが書かれているのか……。
アキは意を決して、暫しの間送られてきたテンマの仮説に目を通した。
その表情は怪訝なものに変わった。
文章を読み終える頃には、アキは口を開きつつ視線を泳がせながら思考を巡らせていた。
混乱しきった頭を整理することに努めてみる。この仮説の辻褄が合っていることはわかっていた。
受け入れられないのは、個人的な思いが邪魔をしているせいだと理解できた。
「これを聞かせたくなかったから、わざわざ怒らせた上で本音引き出して、さっさとログアウトさせるつもりだったのにねぇ……」
「芝居が無駄になったな青龍」
「ま、良いけど」
困惑しているアキに対して、テンマは努めて優しく問いかけた。
「さあアキ、どうする? 今のお前には二つ選択肢がある。逃げるか、試すか……いや違うな。
疑うか、信じるか、だ」
アキは暫し黙りこくったまま動かない。川のせせらぎだけがやけに耳に入ってくる。テンマと青龍は、静かにアキの答えを待った。
やがて何かを決断したように、顔を上げた。
「信じてみる。もしテンマの言う通りなら、俺が話をつけなくちゃいけない。『協力者』の全てを知らなきゃならない。そう、感じたんだ」
「……本当にそれで良いのか?」
「ああ。違った場合は、もう織笠文からの頼みは諦めることにする。そろそろうちの母さんも心配してる頃だしな!」
「わかった。では街へ戻ろう。作戦はメッセージに書いた通りだ。数日は残った人々をログアウトさせつつスキルを溜めておく。良いな?」
「……わかった」
「あーあ、ホントキレさせた意味ないじゃーん」
アキは口を尖らせる青龍に向き直った。
「青龍に言われるまで自分の素直な感情を自覚できてなかったんだ。使命とか覚悟とか、そんなのにばっかり固執してた。これじゃあ現実に帰る頃には精神が参ってたかもしれない。
本当にありがとう。殴ったりしてごめん」
青龍はほんの一瞬だけ真顔を作ってから、おどけたようにひらひらと手を振って見せた。
アキはテンマと青龍に本音をぶつけてから、心にのしかかっていた重いものが取れた気がした。
きっと人間離れしすぎた感情を求めすぎていたんだ。俺はどう足掻いたってただの高校生。その証拠に、少し突かれただけで感情が溢れ出した。
青龍に焚きつけられなかったら、いずれ人の死にすら興味を持たない人間に成り果てていたかもしれない。
この事件を引き起こした、西倉修のように。
「死んでたまるか。絶対に生きて帰るんだ」
────モンスター達を返還してから街の時計塔へ戻ると、クオン、白虎、カトレアの三人が人質だったプレイヤー達をログアウトホールへと誘導していた。
そこにはアキが見たことのない、槍を背負った信者の男が一緒になってログアウトを手伝っていた。
カトレアなどが別段騒ぎ立てない辺り、何がしかの理由があって協力しているのだろうと察した。
「あーっ! やっと帰ってきた!」
アキ達の帰りを見つけたクオンは、いともあっさり誘導を投げ出して、アキの元へと駆けてきた。
突撃してくるクオンを避けてから、苦笑いしつつ遅れた理由を話した。
「残りの洞窟を確認してたんだ。残された人はいなかったよ」
「そうだったんだね。ひとまずアキ、ご苦労様」
クオンは優しく微笑んでアキに手を差し出した。アキはクオンの手を取り、力強く握手する。互いの温もりは、やはりデータであったとしても生きている実感を与えてくれた。
「クオン、サボってないで誘導しなさい!」
カトレアに首根っこをつかまれたクオンは、アキに両手を伸ばしながら連れて行かれた。
アキは「はは、何やってんだか」と鼻で笑った。
「あのっ……」
ふとアキが声のする方へ向くと、狐のお面をつけた金髪のプレイヤーが立っていた。アキの心臓が高鳴った。
「オ、オルフェ!」
「白虎さんから、聞きました。アキさん達が、私達を助けてくれたこと」
オルフェはもじもじと、しきりにお面の奥からアキを見上げている。
背後にいたテンマと青龍は気を利かせたのか、口笛を吹きながらカトレア達の元へと歩いて行く。
アキは照れながら頭を掻いた。
「みんなの力あってこそ、だよ。でも、オルフェも災難だったな。エタオンを始めてすぐに事件に巻き込まれるなんてさ」
「確かに、そうですね」
「なんだ、結局最後の最後まで仮面の下は見せずじまいか?」
「まだあの鎧の人が生きていて、どこかから見ていたなら、現実世界で会ったとき何かされるかもしれない。だから外せない……。身分も明かせない」
鎧の人、というのは『協力者』のことだとアキは認識できた。
「でもね、これだけは言える」とオルフェは語気を強めた。
口調の変化にアキは瞳を見開く。
「このゲームを始めて良かった。あなたの違う一面を見ることができたから、真田暁影君」
「え、え、えぇぇ!?」
アキは大きくたじろいだ。
オルフェはそんなアキを見て、口元を手でおさえてくすくすと肩を上下させた。
ここに、テンマの出した最後の答えが書かれているのか……。
アキは意を決して、暫しの間送られてきたテンマの仮説に目を通した。
その表情は怪訝なものに変わった。
文章を読み終える頃には、アキは口を開きつつ視線を泳がせながら思考を巡らせていた。
混乱しきった頭を整理することに努めてみる。この仮説の辻褄が合っていることはわかっていた。
受け入れられないのは、個人的な思いが邪魔をしているせいだと理解できた。
「これを聞かせたくなかったから、わざわざ怒らせた上で本音引き出して、さっさとログアウトさせるつもりだったのにねぇ……」
「芝居が無駄になったな青龍」
「ま、良いけど」
困惑しているアキに対して、テンマは努めて優しく問いかけた。
「さあアキ、どうする? 今のお前には二つ選択肢がある。逃げるか、試すか……いや違うな。
疑うか、信じるか、だ」
アキは暫し黙りこくったまま動かない。川のせせらぎだけがやけに耳に入ってくる。テンマと青龍は、静かにアキの答えを待った。
やがて何かを決断したように、顔を上げた。
「信じてみる。もしテンマの言う通りなら、俺が話をつけなくちゃいけない。『協力者』の全てを知らなきゃならない。そう、感じたんだ」
「……本当にそれで良いのか?」
「ああ。違った場合は、もう織笠文からの頼みは諦めることにする。そろそろうちの母さんも心配してる頃だしな!」
「わかった。では街へ戻ろう。作戦はメッセージに書いた通りだ。数日は残った人々をログアウトさせつつスキルを溜めておく。良いな?」
「……わかった」
「あーあ、ホントキレさせた意味ないじゃーん」
アキは口を尖らせる青龍に向き直った。
「青龍に言われるまで自分の素直な感情を自覚できてなかったんだ。使命とか覚悟とか、そんなのにばっかり固執してた。これじゃあ現実に帰る頃には精神が参ってたかもしれない。
本当にありがとう。殴ったりしてごめん」
青龍はほんの一瞬だけ真顔を作ってから、おどけたようにひらひらと手を振って見せた。
アキはテンマと青龍に本音をぶつけてから、心にのしかかっていた重いものが取れた気がした。
きっと人間離れしすぎた感情を求めすぎていたんだ。俺はどう足掻いたってただの高校生。その証拠に、少し突かれただけで感情が溢れ出した。
青龍に焚きつけられなかったら、いずれ人の死にすら興味を持たない人間に成り果てていたかもしれない。
この事件を引き起こした、西倉修のように。
「死んでたまるか。絶対に生きて帰るんだ」
────モンスター達を返還してから街の時計塔へ戻ると、クオン、白虎、カトレアの三人が人質だったプレイヤー達をログアウトホールへと誘導していた。
そこにはアキが見たことのない、槍を背負った信者の男が一緒になってログアウトを手伝っていた。
カトレアなどが別段騒ぎ立てない辺り、何がしかの理由があって協力しているのだろうと察した。
「あーっ! やっと帰ってきた!」
アキ達の帰りを見つけたクオンは、いともあっさり誘導を投げ出して、アキの元へと駆けてきた。
突撃してくるクオンを避けてから、苦笑いしつつ遅れた理由を話した。
「残りの洞窟を確認してたんだ。残された人はいなかったよ」
「そうだったんだね。ひとまずアキ、ご苦労様」
クオンは優しく微笑んでアキに手を差し出した。アキはクオンの手を取り、力強く握手する。互いの温もりは、やはりデータであったとしても生きている実感を与えてくれた。
「クオン、サボってないで誘導しなさい!」
カトレアに首根っこをつかまれたクオンは、アキに両手を伸ばしながら連れて行かれた。
アキは「はは、何やってんだか」と鼻で笑った。
「あのっ……」
ふとアキが声のする方へ向くと、狐のお面をつけた金髪のプレイヤーが立っていた。アキの心臓が高鳴った。
「オ、オルフェ!」
「白虎さんから、聞きました。アキさん達が、私達を助けてくれたこと」
オルフェはもじもじと、しきりにお面の奥からアキを見上げている。
背後にいたテンマと青龍は気を利かせたのか、口笛を吹きながらカトレア達の元へと歩いて行く。
アキは照れながら頭を掻いた。
「みんなの力あってこそ、だよ。でも、オルフェも災難だったな。エタオンを始めてすぐに事件に巻き込まれるなんてさ」
「確かに、そうですね」
「なんだ、結局最後の最後まで仮面の下は見せずじまいか?」
「まだあの鎧の人が生きていて、どこかから見ていたなら、現実世界で会ったとき何かされるかもしれない。だから外せない……。身分も明かせない」
鎧の人、というのは『協力者』のことだとアキは認識できた。
「でもね、これだけは言える」とオルフェは語気を強めた。
口調の変化にアキは瞳を見開く。
「このゲームを始めて良かった。あなたの違う一面を見ることができたから、真田暁影君」
「え、え、えぇぇ!?」
アキは大きくたじろいだ。
オルフェはそんなアキを見て、口元を手でおさえてくすくすと肩を上下させた。
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