エタニティオンライン
闇夜の森
────アキ達は善戦していた。
視界の悪い森の中とはいえ、アキの喚起したエンジェルとサキュバスはアイアンゴーレムの陰から的確に敵を狙い撃ちすることができた。
カトレアと青龍に関しては、まるで赤子の手をひねるように手加減しながら武器を振るっていた。
自分達のような上級者集団とは違い、信者達は中級者ばかりであった。装備からそれを悟った二人は、『時雨の渓谷』でのプレイヤー救出時までスキルを温存することにしたのだ。
こちらには数の利がある。この戦い、どうやら戦力差で押し切れそうだ。
「このままではいけませんね。離脱陣形へ」
アキが戦いに確かな手応えを感じた瞬間、モガミが護衛に素早く指示を出した。
重装備の前衛職四人のうち、三人の男と白い法衣を着た後衛職の女がその場に残り、『時雨の渓谷』へと走り出すモガミに重装の男が一人付く。
「逃げちゃうよ! アキ!」
後を追うにも、この場に残った四人の信者が道を塞いでいた。
戦況の見極めはちゃんとしているみたいだな。ここで戦いから逃走して味方の多い『時雨の渓谷』へ急ぐのは堅実だ。
モンスター達を喚起している今の俺に機動力はあまりない。ここは他のメンバーを行かせたほうが賢明か。
「カトレア、青龍、俺が道を開けるからモガミを追い討ちしてほしい。アイアンゴーレム、逃げた敵を追ってくれ!」
月光に反射する青白い鎧はその巨体を大きく前傾させ、道を塞いでいた信者らを弾き飛ばした。
アキの考えに同意したのか、カトレアと青龍もアイアンゴーレムの背後に追従し、開いた道からモガミを追っていった。
呆気にとられている信者達へ、アキは威嚇するように睨みつけた。
「もうこんなことはやめるんだ。あの二人と違って俺は手加減する気はない」
「私も、手加減はできないよー?」
四人の信者達の前方にアキとクオン、後方にエンジェルとサキュバスが立ち並び、挟撃の形をとった。
白い法衣の女はアキの言葉に戸惑い、前衛職三人を視線を向けた。しかし三人とも覚悟のできている表情だった。その一人、ロングソードを担ぐ男が重々しく口を開いた。
「命はいつか滅ぶ。死してこその生という考え方もあるだろう。だがオレは理不尽な死が許せない。今まで自分の中で育んだものはどうなる? 皆はどうして死を自然の摂理として受け入れられる?
自由な世界で限られた命を全うするか、限られた世界で永遠の命を享受するか。
たとえそれが極々微小な可能性であったとしてもオレはモガミ様に賭けたい。そう考えている」
「……話がわからないみたいだな。お前達の考えはもう関係ないんだ」
「人を助けるためにオレ達を殺すのか?」
アキは奥歯を噛み締めた。輝く塵となっていった知り合いや友人の顔を脳裏に浮かべ、深々と息を吐いた。
「やるしかないなら、手段は選ばない」
アキは水神鞭をしならせて激しく空気を叩きつけた。涙目の法衣の女はロングソードの男と顔を見合わせ、しきりに首を振っている。少し間を空けてから男はため息をつきながらアキへと顔を向けた。
「……ここで死んでは元も子もない、か。通れ」
クオンは「話せばわかるじゃん!」と、意気揚々と開かれた道を歩いていく。アキもその後に続いて歩き出した。
アキが信者達の横を通り過ぎようとした時、突如ロングソードの男がアキに斬りかかった。
「手加減はしないと言ったはずだ」
アキの周囲から水の触手が現れ、ロングソードを絡め取った。思わぬ出来事に男は怯んだ。ロングソードの銀色の刃はアキの背中を斜めに斬る角度と距離で振り下ろされようとしていた。
「バ、バカ! 何やってんの!」
法衣の女は涙を流しながら、地団駄を踏んでいる。他の前衛職の男二人も続いて攻撃を加えてこなかった。アキはこの無謀な不意打ちが、ロングソードの男による独断と判断した。
「さてどうしよう────」
アキが言葉を続けようとしたところで、目の前の男は右方向へと飛ばされていった。左足を内股で前に踏み込み、左手の拳を左胸に添え、右拳を大きく突き出しているクオンが男の代わり立っていた。拳の位置から男の側頭部を殴打したとアキは察した。
水神鞭の御手はロングソードの所持者がいなくなったことで、水神鞭の中へと戻っていく。
「クオン……!」
「『デストラクションアーム』発動」
殴り飛ばされた男へと歩いていくクオンの両腕は腕力が上昇した証拠に、ほのかに紅く輝き始めた。アキの前を通っていくクオンの表情は、見たこともない程に冷徹だった。
ロングソードを持っていた男は両手で側頭部を押さえ、痛みのあまり転げ回っている。
クオンは男を見下ろせる距離にまで近づいた。
男の腕を強引に掴み上げ、無理やり立たせる。クオンは混乱している男の顔を正面から殴り飛ばした。背後にあった木に寄りかかった男は、視線が安定せず、意識が朦朧とし始めているようだった。
終始無言のクオンは男の首を締め上げ、鎧のない顔面に一撃食らわせると、木が激しく揺れた。男の顔は一度ひどく歪んでから、荒く息をし始めた。
それからクオンは執拗に男の顔面を殴打し続けた。それはいつものクオンとは違い、コンボも何も考えない、純粋な憎しみによる暴力だった。
視界の悪い森の中とはいえ、アキの喚起したエンジェルとサキュバスはアイアンゴーレムの陰から的確に敵を狙い撃ちすることができた。
カトレアと青龍に関しては、まるで赤子の手をひねるように手加減しながら武器を振るっていた。
自分達のような上級者集団とは違い、信者達は中級者ばかりであった。装備からそれを悟った二人は、『時雨の渓谷』でのプレイヤー救出時までスキルを温存することにしたのだ。
こちらには数の利がある。この戦い、どうやら戦力差で押し切れそうだ。
「このままではいけませんね。離脱陣形へ」
アキが戦いに確かな手応えを感じた瞬間、モガミが護衛に素早く指示を出した。
重装備の前衛職四人のうち、三人の男と白い法衣を着た後衛職の女がその場に残り、『時雨の渓谷』へと走り出すモガミに重装の男が一人付く。
「逃げちゃうよ! アキ!」
後を追うにも、この場に残った四人の信者が道を塞いでいた。
戦況の見極めはちゃんとしているみたいだな。ここで戦いから逃走して味方の多い『時雨の渓谷』へ急ぐのは堅実だ。
モンスター達を喚起している今の俺に機動力はあまりない。ここは他のメンバーを行かせたほうが賢明か。
「カトレア、青龍、俺が道を開けるからモガミを追い討ちしてほしい。アイアンゴーレム、逃げた敵を追ってくれ!」
月光に反射する青白い鎧はその巨体を大きく前傾させ、道を塞いでいた信者らを弾き飛ばした。
アキの考えに同意したのか、カトレアと青龍もアイアンゴーレムの背後に追従し、開いた道からモガミを追っていった。
呆気にとられている信者達へ、アキは威嚇するように睨みつけた。
「もうこんなことはやめるんだ。あの二人と違って俺は手加減する気はない」
「私も、手加減はできないよー?」
四人の信者達の前方にアキとクオン、後方にエンジェルとサキュバスが立ち並び、挟撃の形をとった。
白い法衣の女はアキの言葉に戸惑い、前衛職三人を視線を向けた。しかし三人とも覚悟のできている表情だった。その一人、ロングソードを担ぐ男が重々しく口を開いた。
「命はいつか滅ぶ。死してこその生という考え方もあるだろう。だがオレは理不尽な死が許せない。今まで自分の中で育んだものはどうなる? 皆はどうして死を自然の摂理として受け入れられる?
自由な世界で限られた命を全うするか、限られた世界で永遠の命を享受するか。
たとえそれが極々微小な可能性であったとしてもオレはモガミ様に賭けたい。そう考えている」
「……話がわからないみたいだな。お前達の考えはもう関係ないんだ」
「人を助けるためにオレ達を殺すのか?」
アキは奥歯を噛み締めた。輝く塵となっていった知り合いや友人の顔を脳裏に浮かべ、深々と息を吐いた。
「やるしかないなら、手段は選ばない」
アキは水神鞭をしならせて激しく空気を叩きつけた。涙目の法衣の女はロングソードの男と顔を見合わせ、しきりに首を振っている。少し間を空けてから男はため息をつきながらアキへと顔を向けた。
「……ここで死んでは元も子もない、か。通れ」
クオンは「話せばわかるじゃん!」と、意気揚々と開かれた道を歩いていく。アキもその後に続いて歩き出した。
アキが信者達の横を通り過ぎようとした時、突如ロングソードの男がアキに斬りかかった。
「手加減はしないと言ったはずだ」
アキの周囲から水の触手が現れ、ロングソードを絡め取った。思わぬ出来事に男は怯んだ。ロングソードの銀色の刃はアキの背中を斜めに斬る角度と距離で振り下ろされようとしていた。
「バ、バカ! 何やってんの!」
法衣の女は涙を流しながら、地団駄を踏んでいる。他の前衛職の男二人も続いて攻撃を加えてこなかった。アキはこの無謀な不意打ちが、ロングソードの男による独断と判断した。
「さてどうしよう────」
アキが言葉を続けようとしたところで、目の前の男は右方向へと飛ばされていった。左足を内股で前に踏み込み、左手の拳を左胸に添え、右拳を大きく突き出しているクオンが男の代わり立っていた。拳の位置から男の側頭部を殴打したとアキは察した。
水神鞭の御手はロングソードの所持者がいなくなったことで、水神鞭の中へと戻っていく。
「クオン……!」
「『デストラクションアーム』発動」
殴り飛ばされた男へと歩いていくクオンの両腕は腕力が上昇した証拠に、ほのかに紅く輝き始めた。アキの前を通っていくクオンの表情は、見たこともない程に冷徹だった。
ロングソードを持っていた男は両手で側頭部を押さえ、痛みのあまり転げ回っている。
クオンは男を見下ろせる距離にまで近づいた。
男の腕を強引に掴み上げ、無理やり立たせる。クオンは混乱している男の顔を正面から殴り飛ばした。背後にあった木に寄りかかった男は、視線が安定せず、意識が朦朧とし始めているようだった。
終始無言のクオンは男の首を締め上げ、鎧のない顔面に一撃食らわせると、木が激しく揺れた。男の顔は一度ひどく歪んでから、荒く息をし始めた。
それからクオンは執拗に男の顔面を殴打し続けた。それはいつものクオンとは違い、コンボも何も考えない、純粋な憎しみによる暴力だった。
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