エタニティオンライン
テンマ宅での雑談
それにしてもテンマとの連絡がやけにスムーズだ。俺の知らないところで、継続して連絡を取り合っていたのかもしれない。
「事情はわかった。助けてくれてありがとう。名前は?」
「シャドウ・リベリオン。親しい友人にはリベリィと呼ばれている」
「お、おお、すごい名前だな……。リベリィ、よろしく」
「これからテンマの待つ場所へと向かう。ついてきて」
クオンが追いついたと同時にリベリィは細道の中を軽やかに駆け出した。アキとクオンはリベリィに追随すべく、地面を踏み出した。
「アキ、あの子は?」
「テンマの使いだよ。俺を守るよう言いつけられて来たらしい」
「テンマ団長、アキが無茶するってわかってたんだね」
クオンが悪戯っぽく笑うのを見て、アキは「俺ってそんなに分かりやすいか」と苦笑いした。
やがて着いた場所は、ディザイア北にある一軒の小さな家であった。その単純な木造建築から、あまり建設に金をかけていないことがわかった。
リベリィがノックもせずにさっさと入っていったので、アキ達もそれに続いた。玄関から続く短い廊下の先にはリビングがあり、そこには鎧も鎖かたびらも着けていないテンマの姿があった。長い茶髪を後ろで一つに束ね、純白のティーカップに紅茶を注いでいる。
「うむ、来たな」
そう言ったテンマは紅茶の入ったティーカップをいくつか並べてから、一つずつ差し出してきた。
「まずは座って飲め。話はそれからだ」
アキとクオンは言われた通りテーブルに備えられた椅子に座り、出された紅茶をすすった。嫌味な味はなく、豊かな香りが鼻から抜けていく。
アキとクオンの対面にテンマとリベリィが着席した。
「この家は、私がまだ蒼龍月華にいた頃に無理やり手に入れた。土地取引からの建設ではとても金が足りなくてな。既存物件取引で、ようやく家だけは手に入れたのだ」
テンマが突然自らの昔話を始めたが、アキは真剣に耳を傾けた。テンマが突拍子もない言動をするとき、いつもそこには的を得た理由が付きまとっていたからだ。
「まだ普通のノーマッドだった頃か」
「……違う自分になりきる。それが出来れば良かったのだ。ノーマッドでも、プリーストでも、あるいはファーマーでも。ただひたすらにこの世界を楽しんだ結果が、今の私だ」
「楽しんだ結果でそんなに強くなれたんでしょ? 良いことじゃん!」
前のめりになるクオンのティーカップには、既に一滴の紅茶も残されていなかった。
「そうだ。私はそれほどまでにこの世界が楽しいと感じている。こんな状況下であっても、治安が著しく低下している面を除けば、単純に現実世界へ近づいたにすぎない。だから私はまだここにいるのだ。
一度聞いた者にも改めて聞くが、お前達は何故まだこの世界にいる?」
それが本題か。
『立ちはだかる者は全て退ける。この世界を存続させる。私が、この世にいる限りな』
テンマは前にこんなことを話していた。もしかしたら、この会話はエタオンを存続させるための布石なのかも。毎度思うけど、回りくどい言い方が好きなのかな。
テンマには織笠文や『協力者』に関する俺の事情を説明してある。残りの二人に話せばどこからか情報が漏れてしまうかもしれない。ならとりあえず、今はその情報だけは抜いておこう。
「誰かを守りたい、助けたい。だから俺は周りの仲間達がログアウトするまでは、この世界にいなくちゃならない。もう二度と、ユウやラインハルトみたいな悲劇は生み出したくない」
「私はアキのパートナーだから、アキがログアウトするまで手伝うよ。それに、私もこの世界は好きだからね」
流れるように答えていったが、一人だけ顔を俯かせている人物がいた。リベリィである。
「ついこの前までは、テンマがログアウトするまでついて行こうと考えてた。でもきっと親も心配しているし、いつまでもエタオンにいるわけにいかない。ログアウトホールも怪しいけれど、運営を待っていられるほどの余裕もない。事実、人々の言動が正常でなくなってきている」
リベリィの言うことにも一理ある。モガミの演説も、冷静に聞いてみれば単なる妄言にしか聞こえない。正常な判断が出来る人間なら、あんな怪しげな人物について行くわけがない。
でもリベリィとは違った捉え方もある。そもそも怪しいとはいえ、ログアウトホールをご丁寧に開いてもらい、更に何人ものプレイヤーが助かっているという報告まである。
この状況で残るプレイヤーは、運営の告知そのものすら怪しむような相当に注意深い人間か、エタオンに何らかの目的がある人間。そして、現実逃避したいがためにエタオンへ下らない幻想を抱いている人間くらいだろう。
人々がおかしくなったんじゃない。元々どこかおかしな人々が残ったとも捉えられるんだ。もしくはその両方か。
「事情はわかった。助けてくれてありがとう。名前は?」
「シャドウ・リベリオン。親しい友人にはリベリィと呼ばれている」
「お、おお、すごい名前だな……。リベリィ、よろしく」
「これからテンマの待つ場所へと向かう。ついてきて」
クオンが追いついたと同時にリベリィは細道の中を軽やかに駆け出した。アキとクオンはリベリィに追随すべく、地面を踏み出した。
「アキ、あの子は?」
「テンマの使いだよ。俺を守るよう言いつけられて来たらしい」
「テンマ団長、アキが無茶するってわかってたんだね」
クオンが悪戯っぽく笑うのを見て、アキは「俺ってそんなに分かりやすいか」と苦笑いした。
やがて着いた場所は、ディザイア北にある一軒の小さな家であった。その単純な木造建築から、あまり建設に金をかけていないことがわかった。
リベリィがノックもせずにさっさと入っていったので、アキ達もそれに続いた。玄関から続く短い廊下の先にはリビングがあり、そこには鎧も鎖かたびらも着けていないテンマの姿があった。長い茶髪を後ろで一つに束ね、純白のティーカップに紅茶を注いでいる。
「うむ、来たな」
そう言ったテンマは紅茶の入ったティーカップをいくつか並べてから、一つずつ差し出してきた。
「まずは座って飲め。話はそれからだ」
アキとクオンは言われた通りテーブルに備えられた椅子に座り、出された紅茶をすすった。嫌味な味はなく、豊かな香りが鼻から抜けていく。
アキとクオンの対面にテンマとリベリィが着席した。
「この家は、私がまだ蒼龍月華にいた頃に無理やり手に入れた。土地取引からの建設ではとても金が足りなくてな。既存物件取引で、ようやく家だけは手に入れたのだ」
テンマが突然自らの昔話を始めたが、アキは真剣に耳を傾けた。テンマが突拍子もない言動をするとき、いつもそこには的を得た理由が付きまとっていたからだ。
「まだ普通のノーマッドだった頃か」
「……違う自分になりきる。それが出来れば良かったのだ。ノーマッドでも、プリーストでも、あるいはファーマーでも。ただひたすらにこの世界を楽しんだ結果が、今の私だ」
「楽しんだ結果でそんなに強くなれたんでしょ? 良いことじゃん!」
前のめりになるクオンのティーカップには、既に一滴の紅茶も残されていなかった。
「そうだ。私はそれほどまでにこの世界が楽しいと感じている。こんな状況下であっても、治安が著しく低下している面を除けば、単純に現実世界へ近づいたにすぎない。だから私はまだここにいるのだ。
一度聞いた者にも改めて聞くが、お前達は何故まだこの世界にいる?」
それが本題か。
『立ちはだかる者は全て退ける。この世界を存続させる。私が、この世にいる限りな』
テンマは前にこんなことを話していた。もしかしたら、この会話はエタオンを存続させるための布石なのかも。毎度思うけど、回りくどい言い方が好きなのかな。
テンマには織笠文や『協力者』に関する俺の事情を説明してある。残りの二人に話せばどこからか情報が漏れてしまうかもしれない。ならとりあえず、今はその情報だけは抜いておこう。
「誰かを守りたい、助けたい。だから俺は周りの仲間達がログアウトするまでは、この世界にいなくちゃならない。もう二度と、ユウやラインハルトみたいな悲劇は生み出したくない」
「私はアキのパートナーだから、アキがログアウトするまで手伝うよ。それに、私もこの世界は好きだからね」
流れるように答えていったが、一人だけ顔を俯かせている人物がいた。リベリィである。
「ついこの前までは、テンマがログアウトするまでついて行こうと考えてた。でもきっと親も心配しているし、いつまでもエタオンにいるわけにいかない。ログアウトホールも怪しいけれど、運営を待っていられるほどの余裕もない。事実、人々の言動が正常でなくなってきている」
リベリィの言うことにも一理ある。モガミの演説も、冷静に聞いてみれば単なる妄言にしか聞こえない。正常な判断が出来る人間なら、あんな怪しげな人物について行くわけがない。
でもリベリィとは違った捉え方もある。そもそも怪しいとはいえ、ログアウトホールをご丁寧に開いてもらい、更に何人ものプレイヤーが助かっているという報告まである。
この状況で残るプレイヤーは、運営の告知そのものすら怪しむような相当に注意深い人間か、エタオンに何らかの目的がある人間。そして、現実逃避したいがためにエタオンへ下らない幻想を抱いている人間くらいだろう。
人々がおかしくなったんじゃない。元々どこかおかしな人々が残ったとも捉えられるんだ。もしくはその両方か。
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