エタニティオンライン
不選択の心
アキは支部の空き部屋の、柔らかなベッドへと横たわった。一時の平穏がアキを包む。
アキは仰向けのまま、久々に緊急告知の無機質な画面を開く。ずいぶん前から何回かに分けて更新されていたようだ。その中の最新の告知に目を通す。
『ログイン中のプレイヤーの皆々様へ。
現状、いまだにシステムの制御は出来ず、警察と協力し様々な解決法を模索しております。
なお、犯人の手によって使用可能となったログアウトホールで脱出されたプレイヤー様に関して、多くの方々が成功し、今後プレイヤーリストとの照らし合わせが行われる予定となっております。
エタカプ内における生体保存液は正常に動作しており、一ヶ月間はログイン状態のまま生存が可能となっています。現在のログアウトホールに不安の感じる方は、大変恐縮ではありますが、システムが復旧するまで今しばらくお待ちいただくようお願い申し上げます』
何回か更新されたであろうその文章は、一番初めの告知と大して変わりなく、事態の進展のなさをアキに悟らせるには十分だった。
ため息を吐いたアキは、続いてメッセージ画面を開いた。と同時に「あっ」と声を上げて額に手を当てる。フラメルからのメッセージが三通ほど来ていた。すっかり返事を忘れてしまっていた。
内容は主にアキに対する心配と、ログアウトホールの安全性についてであった。
まだログアウトしてなかったんだ。犯人がわざわざ開けてくれるログアウトホールを怪しむのも当然か……。
もしログアウトホールの開閉を西倉修の『協力者』がやっているのなら、何らかの目的があるはず。
織笠文の話が全て本当なら、やっぱりこの世界にいらない人間を排除してるとしか思えない。
「そうか!」
きっと狙ったプレイヤーを強制的に脱出させる方法がないんだ。
エタオンはアップデートする範囲を一時的に封鎖することで、二十四時間いつでもプレイ出来ていた。そもそも、そのシステムを作る必要がなかった。
でも、それならまた疑問が浮上してくる。何故ログアウトホールの開閉を頻繁に行ってるんだろ。いつでも入れるように開けっ放しでも良いじゃないか。
「結局、仮面の一味も『協力者』とは無関係みたいだったし……。さて、これからどうするかなあ」
アキはフラメルのメッセージを再び眺め、敢えて返信せずにそれを閉じた。
その時、突然部屋のドアが開け放たれた。
アキがあたふたとしながら半身を起き上がらせる。開けたままのドアの前には左手を腰に当てながら、右手で指差してくるクオンが仁王立ちしていた。
「ここかー!」
「び、びっくりさせるなよ!」
ニヤッと笑ったクオンはアキの座るベッドへと飛び込んだ。アキは赤面しつつ逃れるようにベッドから飛び出た。ベッドの上に横たわるクオンはアキを見上げている。
「ねね! ディザイア戻ろ!」
アキは想定外の提案にきょとんとした表情で立ち尽くした。
「いやさー、私達あれから長いことディザイアに戻ってないでしょ? フラメルさんから何回も顔見せるよう言われて、そろそろかなーって」
今のところ、行くべき場所も『協力者』の手がかりもなくなった。クオンの言う通り、ディザイアに戻ってみるのも悪くはないのかもしれない。
「……わかった。明日テンマに伝えてみるよ」
「やったー! 久々にフラメルさんのココア飲める!」
相変わらず、クオンは能天気だな。
この乗っ取り事件以前との決定的な差は、死亡の概念と五感機能の障害、ログアウト不能の三つくらい。そう考えると悪さをするプレイヤーさえいなければ、いつもと変わらないエタオンなんだ。
ラインハルト、お前の言うことにも一理あったのかもな。俺は、守るための手段は選ばないことにしたよ。
クオンが、思案にふけるアキに声をかけた。
「アキ、一緒に寝るー?」
「いや、でもこの部屋にはベッドが一つしかないよ」
「だからぁ……こ、こ、で! 一緒に!」
クオンは自らの横たわるベッドをボフボフと手で叩いた。
「『バーンウルフ』喚起」
「……へ?」
アキの真横に燃え盛る白い狼が現れ、室内にもかかわらず遠吠えを響き渡らせた。
「あのプレイヤーを部屋から放り出してくれ。ゴブリンの生肉あげるから」
バーンウルフは「ワァウ」と返事して、クオンの皮防具に噛みついた。そして首の力だけで開けっ放しのドアの向こうの廊下へと投げ飛ばした。
「おやすみ。クオン」
「そ、そんなー!」
バーンウルフが器用にドアを閉めた。アキはバーンウルフに生肉を与えてから返還させた。それからやつれた顔でベッドに胡座をかいて座った。
たとえ理性を守るためであっても、手段は選ばないからな。
アキは仰向けのまま、久々に緊急告知の無機質な画面を開く。ずいぶん前から何回かに分けて更新されていたようだ。その中の最新の告知に目を通す。
『ログイン中のプレイヤーの皆々様へ。
現状、いまだにシステムの制御は出来ず、警察と協力し様々な解決法を模索しております。
なお、犯人の手によって使用可能となったログアウトホールで脱出されたプレイヤー様に関して、多くの方々が成功し、今後プレイヤーリストとの照らし合わせが行われる予定となっております。
エタカプ内における生体保存液は正常に動作しており、一ヶ月間はログイン状態のまま生存が可能となっています。現在のログアウトホールに不安の感じる方は、大変恐縮ではありますが、システムが復旧するまで今しばらくお待ちいただくようお願い申し上げます』
何回か更新されたであろうその文章は、一番初めの告知と大して変わりなく、事態の進展のなさをアキに悟らせるには十分だった。
ため息を吐いたアキは、続いてメッセージ画面を開いた。と同時に「あっ」と声を上げて額に手を当てる。フラメルからのメッセージが三通ほど来ていた。すっかり返事を忘れてしまっていた。
内容は主にアキに対する心配と、ログアウトホールの安全性についてであった。
まだログアウトしてなかったんだ。犯人がわざわざ開けてくれるログアウトホールを怪しむのも当然か……。
もしログアウトホールの開閉を西倉修の『協力者』がやっているのなら、何らかの目的があるはず。
織笠文の話が全て本当なら、やっぱりこの世界にいらない人間を排除してるとしか思えない。
「そうか!」
きっと狙ったプレイヤーを強制的に脱出させる方法がないんだ。
エタオンはアップデートする範囲を一時的に封鎖することで、二十四時間いつでもプレイ出来ていた。そもそも、そのシステムを作る必要がなかった。
でも、それならまた疑問が浮上してくる。何故ログアウトホールの開閉を頻繁に行ってるんだろ。いつでも入れるように開けっ放しでも良いじゃないか。
「結局、仮面の一味も『協力者』とは無関係みたいだったし……。さて、これからどうするかなあ」
アキはフラメルのメッセージを再び眺め、敢えて返信せずにそれを閉じた。
その時、突然部屋のドアが開け放たれた。
アキがあたふたとしながら半身を起き上がらせる。開けたままのドアの前には左手を腰に当てながら、右手で指差してくるクオンが仁王立ちしていた。
「ここかー!」
「び、びっくりさせるなよ!」
ニヤッと笑ったクオンはアキの座るベッドへと飛び込んだ。アキは赤面しつつ逃れるようにベッドから飛び出た。ベッドの上に横たわるクオンはアキを見上げている。
「ねね! ディザイア戻ろ!」
アキは想定外の提案にきょとんとした表情で立ち尽くした。
「いやさー、私達あれから長いことディザイアに戻ってないでしょ? フラメルさんから何回も顔見せるよう言われて、そろそろかなーって」
今のところ、行くべき場所も『協力者』の手がかりもなくなった。クオンの言う通り、ディザイアに戻ってみるのも悪くはないのかもしれない。
「……わかった。明日テンマに伝えてみるよ」
「やったー! 久々にフラメルさんのココア飲める!」
相変わらず、クオンは能天気だな。
この乗っ取り事件以前との決定的な差は、死亡の概念と五感機能の障害、ログアウト不能の三つくらい。そう考えると悪さをするプレイヤーさえいなければ、いつもと変わらないエタオンなんだ。
ラインハルト、お前の言うことにも一理あったのかもな。俺は、守るための手段は選ばないことにしたよ。
クオンが、思案にふけるアキに声をかけた。
「アキ、一緒に寝るー?」
「いや、でもこの部屋にはベッドが一つしかないよ」
「だからぁ……こ、こ、で! 一緒に!」
クオンは自らの横たわるベッドをボフボフと手で叩いた。
「『バーンウルフ』喚起」
「……へ?」
アキの真横に燃え盛る白い狼が現れ、室内にもかかわらず遠吠えを響き渡らせた。
「あのプレイヤーを部屋から放り出してくれ。ゴブリンの生肉あげるから」
バーンウルフは「ワァウ」と返事して、クオンの皮防具に噛みついた。そして首の力だけで開けっ放しのドアの向こうの廊下へと投げ飛ばした。
「おやすみ。クオン」
「そ、そんなー!」
バーンウルフが器用にドアを閉めた。アキはバーンウルフに生肉を与えてから返還させた。それからやつれた顔でベッドに胡座をかいて座った。
たとえ理性を守るためであっても、手段は選ばないからな。
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