エタニティオンライン
懐疑の視線
アキが部屋へ向かって歩いていると、向こうからシンがやってきた。支部長ともなるとその業務は多忙を極めるようで、何かぶつぶつと呟いていた。
アキを見つけると、その温厚そうな顔に笑みが宿る。
「やあ玄武!」
「シンは元気そうだなあ。見習いたいよ」
「私は心の強さだけが取り柄なんだ。そういえばテンマに聞いたんだが、君もアルケミストなんだってね」
「君も……? まさかシンもアルケミストなのか!」
シンは満足げに頷いた。一都市の支部長がアルケミストだったのは、アキにとって意外、というよりは尊敬に値した。
モンスターテイマーはひどく嫌われているだけで特別弱いというわけではない。むしろモンスターさえ捕まえる努力を怠らなければ強力とさえ言える。しかしアルケミストは作れるものが多い代わりに、それがどれも店で売っているもので、効果はそれほど高くない。何より、そのくせ戦闘スキルが皆無という点が人気の下落を加速させていた。
ファーマーとアルケミストは戦闘スキルがないため、この二つを選んだプレイヤーは商売向けのプレイを強制されることになる。
「ってことは昼間大量に飲んでた薬って……」
「あれは私が作ったものなんだ。珍しいことに、このゲームには薬に使用制限はない。あらかじめ大量作成しておき、戦闘時飲み続けていれば実質無敵。私はそう考えている」
「う、うーん確かに……。でも大量に作成する時点で、かなり時間を必要とする。材料だって無限じゃないんだし」
「そこは薬屋の店主である君がよくわかっているんじゃないか? 安く材料を仕入れて、薬としてNPCの店より安く、材料費より高く売る。これを繰り返せば、実質無限錬金することができる。そうすれば自然と材料には困らなくなるんだよ。時間は必要だがね」
この人は無敵だの無限錬金だのといった夢物語を頭を使うことで実現して、それを楽しんでいる。一見まともに見えても、ロールプレイ好きな騎士団の一員には変わりないんだな。
でもアルケミストを戦闘で利用する方法なんて、まったく思いつきもしなかった。多少強引ではあるものの、備えてさえいれば死ぬ確率を下げることが出来るかもしれない。
「おっと、カグネに呼ばれているんだった。それではね」
「参考になったよ。アルケミスト同士、頑張ろう!」
シンは力強く頷くと、早足で背後の廊下を進んで行った。
アキは二階へ上がるまでに、例の洋館から一緒に脱出したプレイヤー達を何人か見かけたが、どれも疲れきった顔をしていた。ラインハルトと白虎のことがよぎったが、今更……と頭を振って自室に入った。
『結局、ヴァルカンへ行ってしまわれたんですね。ディザイアのプレイヤーも、大半がログアウトホールへ入って行きました。しかし、私やサダオさんも参加している集まりでは、現段階でログアウトホールに入ることは危険と判断して、しばらく残ることにしました。
アキさん、無理を承知でお願いしています。ディザイアで一緒に過ごせませんか』
あっちはあっちで、新しいグループが出来ているみたいだ。
ディザイアに戻るのはまだ当分先になる。フラメルさんには悪いけど、まだ一人で居てもらうしかない。
アキがベッドに座り、フラメルへとメッセージを返信し終えたところで部屋のドアがノックされた。
「はーい、いるよ」
「テンマだ、少しばかり話がある」
「テンマ? 珍しいな、入って良いよ」
ドアを開けて姿を見せたテンマは、いつもの厳つい鎧の姿ではなく私服の上に鎖帷子を装着している軽装姿であった。
「話って?」
テンマは馴れ馴れしく隣に腰掛けてきた。
「私はPKにプレイヤーが殺されるところを移動中に目撃した。どうやら頭部を切断、またはその類の攻撃をされるとその時点で死亡確定する」
「洋館のプレイヤー達はそこまでされていなかったから、復活薬で治ったんだな。なるほど」
「腕や足の切断もあるが、これは回復薬などを使い、恐らく一定以上回復すれば元に戻るようだ」
「よく調べたなあ。さすがだよ」
テンマはしばらく口を閉ざした。アキは、テンマが本当に話したい、もしくは聞きたいことがあるというのを理解していた。
「ペナルティタイム終了、超高度からの落下、モンスターによる捕食。そして頭部の切断、または破壊がここに加わるわけだ。これらの死亡確定の条件、忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れるわけないだろ、何が言いたいんだ?」
「私は白虎から、『アキが崖から落ちた』と聞いた。白虎以外のラインハルトやクオンも見ていたらしいな」
「ああ、確かに落ちた」
「……お前、どうして生きている?」
アキはテンマから向けられる目線が、心配ではなく懐疑のものであると悟った。崖から落下して生還することなど実際ではあり得ない。
他の仲間達は「良かった」で済ませてくれたが、テンマはそういうわけにはいかなかった。
このままはぐらかしてしまえば、最悪の場合、犯人側の人間ではないかと疑われかねない。
「誰にも言わないって約束してくれるなら、話そう」
テンマはただ事ではないとわかったようで「約束する、ただし騙そうとはするなよ?」、と釘を刺しつつも約束してくれた。
アキは崖から落下し、それから織笠とマーベルという人物に会ったことを話した。今回の犯人が西倉修であることも、『協力者』がいるのではないかということも、ありのまま全てを話した。
テンマが西倉修の『協力者』でないことを信じて。
アキを見つけると、その温厚そうな顔に笑みが宿る。
「やあ玄武!」
「シンは元気そうだなあ。見習いたいよ」
「私は心の強さだけが取り柄なんだ。そういえばテンマに聞いたんだが、君もアルケミストなんだってね」
「君も……? まさかシンもアルケミストなのか!」
シンは満足げに頷いた。一都市の支部長がアルケミストだったのは、アキにとって意外、というよりは尊敬に値した。
モンスターテイマーはひどく嫌われているだけで特別弱いというわけではない。むしろモンスターさえ捕まえる努力を怠らなければ強力とさえ言える。しかしアルケミストは作れるものが多い代わりに、それがどれも店で売っているもので、効果はそれほど高くない。何より、そのくせ戦闘スキルが皆無という点が人気の下落を加速させていた。
ファーマーとアルケミストは戦闘スキルがないため、この二つを選んだプレイヤーは商売向けのプレイを強制されることになる。
「ってことは昼間大量に飲んでた薬って……」
「あれは私が作ったものなんだ。珍しいことに、このゲームには薬に使用制限はない。あらかじめ大量作成しておき、戦闘時飲み続けていれば実質無敵。私はそう考えている」
「う、うーん確かに……。でも大量に作成する時点で、かなり時間を必要とする。材料だって無限じゃないんだし」
「そこは薬屋の店主である君がよくわかっているんじゃないか? 安く材料を仕入れて、薬としてNPCの店より安く、材料費より高く売る。これを繰り返せば、実質無限錬金することができる。そうすれば自然と材料には困らなくなるんだよ。時間は必要だがね」
この人は無敵だの無限錬金だのといった夢物語を頭を使うことで実現して、それを楽しんでいる。一見まともに見えても、ロールプレイ好きな騎士団の一員には変わりないんだな。
でもアルケミストを戦闘で利用する方法なんて、まったく思いつきもしなかった。多少強引ではあるものの、備えてさえいれば死ぬ確率を下げることが出来るかもしれない。
「おっと、カグネに呼ばれているんだった。それではね」
「参考になったよ。アルケミスト同士、頑張ろう!」
シンは力強く頷くと、早足で背後の廊下を進んで行った。
アキは二階へ上がるまでに、例の洋館から一緒に脱出したプレイヤー達を何人か見かけたが、どれも疲れきった顔をしていた。ラインハルトと白虎のことがよぎったが、今更……と頭を振って自室に入った。
『結局、ヴァルカンへ行ってしまわれたんですね。ディザイアのプレイヤーも、大半がログアウトホールへ入って行きました。しかし、私やサダオさんも参加している集まりでは、現段階でログアウトホールに入ることは危険と判断して、しばらく残ることにしました。
アキさん、無理を承知でお願いしています。ディザイアで一緒に過ごせませんか』
あっちはあっちで、新しいグループが出来ているみたいだ。
ディザイアに戻るのはまだ当分先になる。フラメルさんには悪いけど、まだ一人で居てもらうしかない。
アキがベッドに座り、フラメルへとメッセージを返信し終えたところで部屋のドアがノックされた。
「はーい、いるよ」
「テンマだ、少しばかり話がある」
「テンマ? 珍しいな、入って良いよ」
ドアを開けて姿を見せたテンマは、いつもの厳つい鎧の姿ではなく私服の上に鎖帷子を装着している軽装姿であった。
「話って?」
テンマは馴れ馴れしく隣に腰掛けてきた。
「私はPKにプレイヤーが殺されるところを移動中に目撃した。どうやら頭部を切断、またはその類の攻撃をされるとその時点で死亡確定する」
「洋館のプレイヤー達はそこまでされていなかったから、復活薬で治ったんだな。なるほど」
「腕や足の切断もあるが、これは回復薬などを使い、恐らく一定以上回復すれば元に戻るようだ」
「よく調べたなあ。さすがだよ」
テンマはしばらく口を閉ざした。アキは、テンマが本当に話したい、もしくは聞きたいことがあるというのを理解していた。
「ペナルティタイム終了、超高度からの落下、モンスターによる捕食。そして頭部の切断、または破壊がここに加わるわけだ。これらの死亡確定の条件、忘れたわけじゃないだろうな」
「忘れるわけないだろ、何が言いたいんだ?」
「私は白虎から、『アキが崖から落ちた』と聞いた。白虎以外のラインハルトやクオンも見ていたらしいな」
「ああ、確かに落ちた」
「……お前、どうして生きている?」
アキはテンマから向けられる目線が、心配ではなく懐疑のものであると悟った。崖から落下して生還することなど実際ではあり得ない。
他の仲間達は「良かった」で済ませてくれたが、テンマはそういうわけにはいかなかった。
このままはぐらかしてしまえば、最悪の場合、犯人側の人間ではないかと疑われかねない。
「誰にも言わないって約束してくれるなら、話そう」
テンマはただ事ではないとわかったようで「約束する、ただし騙そうとはするなよ?」、と釘を刺しつつも約束してくれた。
アキは崖から落下し、それから織笠とマーベルという人物に会ったことを話した。今回の犯人が西倉修であることも、『協力者』がいるのではないかということも、ありのまま全てを話した。
テンマが西倉修の『協力者』でないことを信じて。
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