エタニティオンライン
風巻の山脈
ラインハルトの大剣を見た瞬間アキと白虎の目が、わずかに開いた。
「これ『アスカロン』じゃないか! レアの武器を持ってるなんて、意外だなあ」
「……相変わらず、洗練された造形だ」
「始めたばかりの時、偶然やってた『竜狩りの秘宝』でゲットしたんだ! 大きなギルドに寄生してて良かったよ」
「なるほど。その報酬だったんだな」
────ラインハルトの自己紹介後、アキ達が拘束した双剣使いに事情を聞くと、どうやら強制的にアイテム譲渡をさせるためにラインハルトを襲ったらしい。殺すつもりは毛頭なかったと言っていた。
アイテムは、自分の身から手放してしまえば、誰のものでもなくなる。また手渡しや報酬として設定することによっても譲渡は可能である。
事件より前は、他プレイヤーに危害を加え、通報されるとペナルティとなる。そのため、このような事例はあまり聞かなかった。
ひとまず双剣使いを解放して逃がしたところで、ラインハルトから再び話を聞くことにした。
「そういえばどこへ行くつもりだったんだ? ソロでこんな洞窟通るなんて」
「アビスからヴァルカンに行こうと思ってさ。幼馴染の様子を見に行こうってね。あっ、もしかして君たちもヴァルカンに? こっちのルートは危険だからいつもは避けてて、まだ来たことがなかったんだ」
「ああ、俺達もヴァルカンに用事があって。それにしても初見のルートか……。よし、ならヴァルカンまで一緒に行こうか」
ラインハルトの人懐こそうな顔が、みるみる明るくなった。
「え! 良いのかい!」
アキが同意を求めるようにしてクオンと白虎を見つめた。
「もー、しょうがないなあ」
「……戦力は多いに越したことはない」
「よし、決まり。俺はアキ、こっちの小柄なほうがクオンで、この金色の鎧は白虎だ」
「わかった! 良かった、一人じゃあ不安で……。じゃあ僕も照らさなくちゃいけないね」
杖を構えたラインハルトは、スキルメニューからスペルを選び出した。『フォローライト』と唱えると、光球がラインハルトの周りを飛び始め、周辺を鮮明に照らした。
水神鞭に手を当てたアキは、多対一の命がけの戦闘によって自身が誰かの力になれることを実感し、心に引っかかっていたものが、ストンと落ちた気がした。
こうして四人に増えた一行は、うねる洞窟をひたすら進む。ところどころが登り坂になっており、岩山を内部から登っていることがわかる。
「あ! アキ、光が見えてきたよ!」
「ようやくだなあー」
長々と進んだ道の先に、洞窟の出口が確かにあった。皆の口から、わずかに安堵のため息が聞こえる。暗黒の中を歩き続けるのは、ゲーム内とはいえ明らかに萎えるものであった。
出口から外へ行くと、空はすっかり橙色に染まっていた。一行の立つそこは、高々とそびえる灰色の岩山の中腹。三メートルほどの山道より右に行けば、先の見えない崖下へと落ちてしまう。
周囲にも急角度でそびえ立つ岩山がいくつもあり、地形のせいもあり風が強く吹きつけ、まともに前を向くことができない。目を凝らすと、岩山の隙間からは荒野が望めた。
アキ達は、上級フィールド『風巻の山脈』へと到達したのだった。
「僕は、こんなとこを一人で行こうとしていたのか。絶望的だ」
「ひとまず少し進めば横穴があるはずだから、そこで朝まで待とう! 夜にここを行くのはさすがに危ない」
強風に抗いながら進むとアキの言う通り、岩肌に大きな横穴が空いている。そこへ逃げ込むようにして入った四人は、その場に座り込んだ。
ここから、朝まで待たなければならない。視界が悪い中で下手をして崖から滑落してしまえば、テンマのような能力がないかぎり、ペナルティタイムは発生せず即座に死亡確定となってしまう。
「擬似睡眠のほうが一瞬で朝になるんじゃないのかい?」
「ここの横穴は扉がないから施錠できない。無防備な擬似睡眠中にプレイヤーから襲われたらいけないし、何よりみんなのことをもっと知る必要があると思うんだ。だから、そのための話し合いの場にしたい。ちゃんと、白虎も話してくれよ?」
「……ああ」
白虎は兜を鳴らしながら頷いた。アキは暗い横穴の中で、松明を重ね合わせ焚き火を起こした。淡い火の灯りに、皆の姿がぼんやりと浮かび上がった。
どこかで火を囲むことによって、より親睦が深まると聞いたことがある。精神衛生上、良い効果をもたらすらしい。果たしてゲーム内でもその効果が発揮されるのかわからない。けど俺達の意識、記憶、精神を抽出してるからには、何らかの効果があるんじゃないか。
精神の抽出……。詳しくはわからないけど、現実世界の精神までネット上に放流されるなら、同期するところで一緒に放流されてしまうってことだよな、きっと。死亡確定が同期のタイミング……それもクラッカーの仕業か。
たとえば、今回の事件を考えない。そう、考えずに今、エタオンプレイ中に現実世界の体が死んでしまったら? ってこれは、確か機械技術の宮下先生に、答えられないって言われたっけ。
なら今回の事件を考えず、単純に今現在、エタオンのこの意識や記憶だけがさっぱり消えたなら、俺はどうなる? エタオンの俺が消えても、現実世界の俺は普通に起き上がるのか?
感覚的に言えば、魂が現実とエタオンと合わせて二つあるってことだろ。
────そうなると、俺は一体、誰なんだ?
ダメだダメだ。難しいことを考えるのはやめよう。今は、みんなのことを知らなくちゃ。
「これ『アスカロン』じゃないか! レアの武器を持ってるなんて、意外だなあ」
「……相変わらず、洗練された造形だ」
「始めたばかりの時、偶然やってた『竜狩りの秘宝』でゲットしたんだ! 大きなギルドに寄生してて良かったよ」
「なるほど。その報酬だったんだな」
────ラインハルトの自己紹介後、アキ達が拘束した双剣使いに事情を聞くと、どうやら強制的にアイテム譲渡をさせるためにラインハルトを襲ったらしい。殺すつもりは毛頭なかったと言っていた。
アイテムは、自分の身から手放してしまえば、誰のものでもなくなる。また手渡しや報酬として設定することによっても譲渡は可能である。
事件より前は、他プレイヤーに危害を加え、通報されるとペナルティとなる。そのため、このような事例はあまり聞かなかった。
ひとまず双剣使いを解放して逃がしたところで、ラインハルトから再び話を聞くことにした。
「そういえばどこへ行くつもりだったんだ? ソロでこんな洞窟通るなんて」
「アビスからヴァルカンに行こうと思ってさ。幼馴染の様子を見に行こうってね。あっ、もしかして君たちもヴァルカンに? こっちのルートは危険だからいつもは避けてて、まだ来たことがなかったんだ」
「ああ、俺達もヴァルカンに用事があって。それにしても初見のルートか……。よし、ならヴァルカンまで一緒に行こうか」
ラインハルトの人懐こそうな顔が、みるみる明るくなった。
「え! 良いのかい!」
アキが同意を求めるようにしてクオンと白虎を見つめた。
「もー、しょうがないなあ」
「……戦力は多いに越したことはない」
「よし、決まり。俺はアキ、こっちの小柄なほうがクオンで、この金色の鎧は白虎だ」
「わかった! 良かった、一人じゃあ不安で……。じゃあ僕も照らさなくちゃいけないね」
杖を構えたラインハルトは、スキルメニューからスペルを選び出した。『フォローライト』と唱えると、光球がラインハルトの周りを飛び始め、周辺を鮮明に照らした。
水神鞭に手を当てたアキは、多対一の命がけの戦闘によって自身が誰かの力になれることを実感し、心に引っかかっていたものが、ストンと落ちた気がした。
こうして四人に増えた一行は、うねる洞窟をひたすら進む。ところどころが登り坂になっており、岩山を内部から登っていることがわかる。
「あ! アキ、光が見えてきたよ!」
「ようやくだなあー」
長々と進んだ道の先に、洞窟の出口が確かにあった。皆の口から、わずかに安堵のため息が聞こえる。暗黒の中を歩き続けるのは、ゲーム内とはいえ明らかに萎えるものであった。
出口から外へ行くと、空はすっかり橙色に染まっていた。一行の立つそこは、高々とそびえる灰色の岩山の中腹。三メートルほどの山道より右に行けば、先の見えない崖下へと落ちてしまう。
周囲にも急角度でそびえ立つ岩山がいくつもあり、地形のせいもあり風が強く吹きつけ、まともに前を向くことができない。目を凝らすと、岩山の隙間からは荒野が望めた。
アキ達は、上級フィールド『風巻の山脈』へと到達したのだった。
「僕は、こんなとこを一人で行こうとしていたのか。絶望的だ」
「ひとまず少し進めば横穴があるはずだから、そこで朝まで待とう! 夜にここを行くのはさすがに危ない」
強風に抗いながら進むとアキの言う通り、岩肌に大きな横穴が空いている。そこへ逃げ込むようにして入った四人は、その場に座り込んだ。
ここから、朝まで待たなければならない。視界が悪い中で下手をして崖から滑落してしまえば、テンマのような能力がないかぎり、ペナルティタイムは発生せず即座に死亡確定となってしまう。
「擬似睡眠のほうが一瞬で朝になるんじゃないのかい?」
「ここの横穴は扉がないから施錠できない。無防備な擬似睡眠中にプレイヤーから襲われたらいけないし、何よりみんなのことをもっと知る必要があると思うんだ。だから、そのための話し合いの場にしたい。ちゃんと、白虎も話してくれよ?」
「……ああ」
白虎は兜を鳴らしながら頷いた。アキは暗い横穴の中で、松明を重ね合わせ焚き火を起こした。淡い火の灯りに、皆の姿がぼんやりと浮かび上がった。
どこかで火を囲むことによって、より親睦が深まると聞いたことがある。精神衛生上、良い効果をもたらすらしい。果たしてゲーム内でもその効果が発揮されるのかわからない。けど俺達の意識、記憶、精神を抽出してるからには、何らかの効果があるんじゃないか。
精神の抽出……。詳しくはわからないけど、現実世界の精神までネット上に放流されるなら、同期するところで一緒に放流されてしまうってことだよな、きっと。死亡確定が同期のタイミング……それもクラッカーの仕業か。
たとえば、今回の事件を考えない。そう、考えずに今、エタオンプレイ中に現実世界の体が死んでしまったら? ってこれは、確か機械技術の宮下先生に、答えられないって言われたっけ。
なら今回の事件を考えず、単純に今現在、エタオンのこの意識や記憶だけがさっぱり消えたなら、俺はどうなる? エタオンの俺が消えても、現実世界の俺は普通に起き上がるのか?
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