エタニティオンライン

足立韋護

出立の時

 それから数分で着いた北門には、多くのプレイヤー達が見送りに集まっていた。精鋭隊の知り合いも集まっており、それぞれが知り合い達と言葉を交わしていった。
 それはアキとクオンも例外ではなく、フラメルとサダオが並んでいたのでそこへと向かって行く。サダオが豪快に手を振りながら、白い歯を見せて笑っている。


「アキ坊! なんだか大事に巻き込まれてんな!」


「サダオさん! いつの間に今日のことを知ったんですか?」


「フラメラーズホテルの店長さんが、今朝方わざわざ教えに来てくれたわけよ」


「アキさん、クオンさん……」


 フラメルはもどかしそうな表情で、アキとクオンの二人を抱きしめた。どう反応して良いかわからず、アキとクオンは視線を合わせて、照れ笑いを浮かべた。


「絶対、死なないで。向こうに着いてからでも良いので、一報下さい」


「死なない努力はします。フラメルさん、そちらもお元気で」


「フラメルさんの代わりに、アキは私が守るよっ。平気平気!」


 腕の中から解放された二人は、心配させまいと笑って見せた。話の間を察して、フラメルの横からサダオが顔を乗り出してきた。


「しかしどういう風の吹き回しだいアキ坊よ。既存物件で金は稼げたんだろ? わざわざ無理して、お前さんが調査に行かなくたって良いんじゃないのか。いくらログアウトホールがあるって言ったってよ……」


「サダオさん……」


「ほら、危険なこたぁ強い奴らに任せりゃ良いんだ。アキがいくら強いとはいえ……な?」


 サダオは爪をいじりながら、居心地悪そうに苦笑いしている。アキはわかっていた。この人は本当に心配してくれているのだと。
 まるで今から地獄へ向かう人間を見送る、そんな風にアキには見えて、この状況がむしろ面白く感じてしまった。


「ははっ。そんな強い人らに囲まれてたら心配ないって! ありがとう、でも……これは、ただの自己満足だからさ」


「……よくわかんねぇが、それならせめてこれを受け取ってくれ。俺とフラメルの嬢ちゃんで選んだ物だ。そんな装備よりは、幾分マシってもんよ」


 サダオがアイテムチェストから忙しく取り出したのは、茶色い合皮で作られた膝下まである長いレザーブーツと大きめに作られたレザーグローブ。
 そして、肩から腰かけて身につける暗い灰色のコートのような防具だった。裾は異様に長く、ローブのようにも見える。所々に薄い水色の線が入っている。


「この装備……俺に?」


「アキさん、今のあなたはもう薬屋の店主ではありません。この街の精鋭の一人。当然の待遇です」


「メイドインサダオのオリジナル防具だ! 素材も、伸縮性抜群のリトルガーゴイルの皮と、アダマントタートルの皮を贅沢に使ってる。使い心地も悪くないはずだ。俺らにできることと言やぁ、こんくらいだからよ」


「アッキー、せっかくだから装備してみなよ! なんか似合いそうだよ!」


 三人とも俺のことを見てる。俺は今まで、人の中心に立つようなことは避けてきた。目立ちたくなかった。でも、今はそれすら背負っていかなければならないほど、重大なことに関与しているんだ。初めて、自覚したかもしれない。……着てみるか。


 アキはボロボロの服の上から、それらの防具を一つ一つ、感触を確かめるように、装着していく。モンスターの合皮は、腕や身体を曲げても自在に伸縮した。
 ひとたび風が吹けば長い裾がたなびき、アキは思わず「おお」と感嘆した。それと同時に、素早くまぶたを瞬きさせ頭を指で掻く。


「す、少しこれ目立たない?」


「そんなことありませんよ。様になっています」


「うんうん、カッコイイって!」


 アキは気恥ずかしさのあまり頬を赤く染めた。


「うっし、俺らの見立て通りだな! もう何も言うこたねぇ、さっさと行ってこい!」


「ではクオンさん、アキさんをよろしくお願いします」


「任せてー! ほら行こうアキ!」


「あ、ああ。フラメルさんとサダオさんも気をつけて。この街も絶対に安全というわけじゃありませんから。それじゃあ、行ってきます」


 アキはクオンに手を引かれながら、門の前で待っていた精鋭隊の元へと走った。




 これから半日の旅が始まる。アビスに着く頃にはもう夜だ。それまで無事でいられるのか。
 ログアウトホールは本当にあるのか。それともただのガセなのか。
 ユウ、お前は一体どこにいる。あの血を吸った刀はなんだったんだ。
 運営は今何をしてるんだ。解決策は見つかったのか。
 母さんは、久野さんは、水戸先生は、俺のこと心配してくれてるのかな。


 気になることは尽きず、まとまらない。でもやっぱり、目の前にあることを必死にこなしていかなきゃ、始まらないんだ。
 今それだけは、なんとなくわかる。

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