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足立韋護

テンマの茶目

 やがてテンマの話が終わり、精鋭調査隊はディザイア北門へと歩き出した。
 北門の先にある『燦然さんぜんたる街道』があり、その先の『鬱屈の湿地帯』と『港へ続く道』を越えると、そこでようやくアビスが見えて来る。どれも中級者が対象のフィールドだが、決して短いとは言えない距離だ。
 しかしこれが、現状ディザイアからアビスへと行く最短の道なのだ。
 クオンが瞳を輝かせながら、野次馬のプレイヤー達を見回している。


「ほえーみんなすごい見てくるねーっ!」


「この状況下で有名人のテンマが動き出したんだ。そりゃ様子見くらいするよ」


「ログアウトホールなんて、ほんとにあるのかな?」


「それも含めた調査をするために行くんだろ?」


「あっ、そっかぁ」


 相変わらずマイペースなクオンに、アキはぐったりと肩を落とした。そんな二人の背後から聞き覚えのある声がした。振り返ると、金色の長髪と、首にかかっている紅色のネックレスが特徴的なカトレアがこちらを向いていた。


「あなたやっぱり、水神鞭の」


「ああ、カトレアさん。取引の時はどうも。ソロプレイヤーなのに、こんなとこで会うなんて意外ですね」


「タメ口で良いわよ。もう商売相手でもないでしょうに。
 ソロプレイヤー……ね。他人に時間を指定されて、その時間に集まる。そうやって、我慢して我慢して積み上げたものが、一瞬にして水泡に帰した経験が、私をこの道へ導いたの。『ダークネスドラゴン強奪事件』は、古参ならあなたも知っているわよね?」


「……ああ、うん。当時は話題になったから」


「その被害者よ、私は。同じクランだったテンマとはそれ以来連絡を取り続けていたのだけれど、まさかこんな面倒に巻き込まれるとはね」


「へえ! アキ、そんなすごい人と取引してたんだね!」


「……この頭の弱そうな女が、テンマの言っていたアキのガールフレンドなのね。実力はありそうだけれど、見てくれだけね。なんだか顔も整い過ぎて嘘臭いわ」


 突然の挑発に頬をパンパンに膨らませたクオンは、カトレアを睨みつける。それをカトレアは、余裕の笑みで返している。
 その話を聞いていたのか先頭を歩くテンマが、こちらも向かずに笑い混じりで話しかけてきた。


「早速仲良くなっているようで、安心したぞアキ」


「テンマ、どう見たらカトレアさんとクオンが仲良くなってる風に見えるんだよ……」


 先を歩いていたテンマが振り返る。そのまま後ろ歩きしながら、背後を歩いている一行に声をかけた。


「カトレア……ああまだ伝えていなかったな。我々はこれよりコードネーム、すなわちあだ名で呼び合うこととする」


「あだ名……?」


「そうだ。これは我々の特定を避ける効果があるのと、単に私の趣味だ」


「テンマ、その気持ち悪いロールプレイはあなたの悪い癖よ?」


「まあそう言うな。お前は火のスペル使いだから朱雀」


「確かに私は火のスペルが好きだけれどね、あなた朱雀って……」


「そこの金色の鎧の大男は白虎。緑の双剣使いは青龍」


「そしてそこの鞭使いが玄武だ」


 皆が呆れ果てているところで、クオンがのんきに手を挙げて質問した。


「あのー、じゃ私はアキの付き人みたいなものだから、玄武に絡みついてる蛇で良いー?」


「もちろん、そのつもりだ。では『二人合わせて玄武』としておこう。
 そうなると私は……さしずめ麒麟といったところか。いや、テンマだとしたら馬へんの、騏驎のほうが相応しいか?」


 異議申し立てがあるようで、不満の色を顔に浮かべている青龍がテンマの目の前まで出てきた。野次馬への愛想笑いには飽きてしまったようだ。


「でもさぁ全然イメージが違うよキリンさーん。ボクは緑の装備で、そこのデカブツムッツリは金色の鎧だよ? それが青龍に白虎ってのはどうも納得いかないよー。なんならボクのが素早いし、白虎が良いなー!」


「学がないな青龍。青龍の青というのは本来緑を指す言葉だ。五行で青龍は木、そして白虎は鉱物を表す金だ。 博識の白虎ならば、もちろん知っていただろう?」


「……うむ」


 鎧に身を包んだ大男は、顔を覆っている兜を静かに傾けた。


 まるで用意していたかのような知識。まさか、四神や五行だけでこのメンバーを決めたんじゃないだろうな。あまりに出揃いすぎてる。
 テンマ、お前はどこまで本気なんだ……。

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