エタニティオンライン
痛ましい涙
「お店?」
「そう、エタオンの状況を説明できるし、受付してくれたらバイト代だって出すよ」
オルフェは体を前のめりにして話を聞いていた。両手はしっかりと緑色のリュックのショルダーストラップに手をかけている。
「お店のお手伝い……」
「アキ、出費増やして大丈夫なの? 既存物件取引するんでしょー?」
「取引が少し延期になるだけだ。そこまでじゃないよ。オルフェ、どう?」
オルフェは再び突き抜けるような青空を見上げ、そしてアキを見据えた。
「考え、させてください……」
「まあ、そう焦ることはないよ。出来るだけ早めに返事が欲しいとこだけど、ゆっくりで良いからよく考えて。答えが出たら、オータムストアへ来てくれ」
「はい、あ、ありがとうございます……」
アキとクオンにお辞儀をしたオルフェは、メインストリートから裏道へと逃げるように去って行った。その走り去る後ろ姿にアキはどこかで見覚えがあったが、そんなことを悠長に考えている暇はない。
アキはこの日、ずっと店の手伝いと錬金術を交互に繰り返し、順調に売上を伸ばしていった。クオンも時折フラフラとどこかへ出かけてしまうものの、帰ってきたときは的確にサポートしてくれた。
最初にサキュバスを貸し出した客も帰ってきて、大量の薬を買って行った。テンマにライバル店を潰してもらったからか、心なしか昨日より客が多い気がする。
「ふーっ、終わったね!」
クオンが体を伸ばして、アキに笑いかけた。このとき、既にアキの懐には二軒分の資金が貯まっていた。在庫も元あった四分の一程度にまで減っている。一日の終わりを告げるように空が紅に染まり、アキがそれを眺めながら店を閉めようとしたとき、店の前に人影を見つけた。
「狐の仮面、ずっと付けっ放しか」
「アキ、さん」
同じく空を眺めていたオルフェは、ゆったりとアキへと体を向けた。
「答え、出たのか?」
「……ええ。お断り、させていただきます」
その答えはアキの予想を超えるものではなかった。もともと一人が好きなようだし、そんなプレイヤーはわんさといる。ただ一つだけ、アキが意外だったのは、その仮面の下から、透明な何かが滴っていることだった。
「泣いてるのか?」
「私は、アキさんと共に過ごしたかった。しかし、それを叶えることは……出来ません。」
「何か理由があるんだな。教えてくれ。既存物件取引の延期の話なら気にしなくても良い。それとも誰かに脅されてるのか? フラメルさんやユウ、クオンやテンマだって仲間なんだ。協力して何とかしてみせるから!」
「ありがとう……。でも、私にもあなた方にも、どうすることも出来ません。抗うことの出来ない絶対的な力が存在する、ということだけ、伝えておきます」
「……どうしても、ダメなんだな」
オルフェは静かに頷く。アキはオルフェの仮面の向こうにある目を見た。
「なら、一つだけ……その仮面を外してくれないか? オルフェ、お前のその仕草、どこかで見たことある気がするんだ」
オルフェの肩がすうっと上がり、仮面を抑えながら泣き崩れてしまった。しかし、すぐさま焦ったように立ち上がりながらブロンドの長い髪を揺らして走り去って行ってしまった。
「あんな髪の色した知り合いなんて、いない。でもあの反応……。髪は装飾品のウィッグ、なのか?」
絶対的な力。テンマでも敵わない力なんて、そうそうありはしない。誇張、だけじゃ泣き崩れたりはしないか。でも、彼女がああ言っている以上、無理に関わらないほうが良いのかもしれない。
今度もし会えたら、仮面の下、見せてもらえるかな。
────翌日。クオンとフラメルとユウの三人に内容を大まかに伝えてから、アキはいよいよ既存物件取引を開始した。
「そう、エタオンの状況を説明できるし、受付してくれたらバイト代だって出すよ」
オルフェは体を前のめりにして話を聞いていた。両手はしっかりと緑色のリュックのショルダーストラップに手をかけている。
「お店のお手伝い……」
「アキ、出費増やして大丈夫なの? 既存物件取引するんでしょー?」
「取引が少し延期になるだけだ。そこまでじゃないよ。オルフェ、どう?」
オルフェは再び突き抜けるような青空を見上げ、そしてアキを見据えた。
「考え、させてください……」
「まあ、そう焦ることはないよ。出来るだけ早めに返事が欲しいとこだけど、ゆっくりで良いからよく考えて。答えが出たら、オータムストアへ来てくれ」
「はい、あ、ありがとうございます……」
アキとクオンにお辞儀をしたオルフェは、メインストリートから裏道へと逃げるように去って行った。その走り去る後ろ姿にアキはどこかで見覚えがあったが、そんなことを悠長に考えている暇はない。
アキはこの日、ずっと店の手伝いと錬金術を交互に繰り返し、順調に売上を伸ばしていった。クオンも時折フラフラとどこかへ出かけてしまうものの、帰ってきたときは的確にサポートしてくれた。
最初にサキュバスを貸し出した客も帰ってきて、大量の薬を買って行った。テンマにライバル店を潰してもらったからか、心なしか昨日より客が多い気がする。
「ふーっ、終わったね!」
クオンが体を伸ばして、アキに笑いかけた。このとき、既にアキの懐には二軒分の資金が貯まっていた。在庫も元あった四分の一程度にまで減っている。一日の終わりを告げるように空が紅に染まり、アキがそれを眺めながら店を閉めようとしたとき、店の前に人影を見つけた。
「狐の仮面、ずっと付けっ放しか」
「アキ、さん」
同じく空を眺めていたオルフェは、ゆったりとアキへと体を向けた。
「答え、出たのか?」
「……ええ。お断り、させていただきます」
その答えはアキの予想を超えるものではなかった。もともと一人が好きなようだし、そんなプレイヤーはわんさといる。ただ一つだけ、アキが意外だったのは、その仮面の下から、透明な何かが滴っていることだった。
「泣いてるのか?」
「私は、アキさんと共に過ごしたかった。しかし、それを叶えることは……出来ません。」
「何か理由があるんだな。教えてくれ。既存物件取引の延期の話なら気にしなくても良い。それとも誰かに脅されてるのか? フラメルさんやユウ、クオンやテンマだって仲間なんだ。協力して何とかしてみせるから!」
「ありがとう……。でも、私にもあなた方にも、どうすることも出来ません。抗うことの出来ない絶対的な力が存在する、ということだけ、伝えておきます」
「……どうしても、ダメなんだな」
オルフェは静かに頷く。アキはオルフェの仮面の向こうにある目を見た。
「なら、一つだけ……その仮面を外してくれないか? オルフェ、お前のその仕草、どこかで見たことある気がするんだ」
オルフェの肩がすうっと上がり、仮面を抑えながら泣き崩れてしまった。しかし、すぐさま焦ったように立ち上がりながらブロンドの長い髪を揺らして走り去って行ってしまった。
「あんな髪の色した知り合いなんて、いない。でもあの反応……。髪は装飾品のウィッグ、なのか?」
絶対的な力。テンマでも敵わない力なんて、そうそうありはしない。誇張、だけじゃ泣き崩れたりはしないか。でも、彼女がああ言っている以上、無理に関わらないほうが良いのかもしれない。
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