幼馴染を追って異世界へ 〜3億課金した最強アカウント × 【超重力属性】を使って〜
29話 トルス
僕達は森での昼休憩と作戦会議を終え、またさっきまでいた場所に戻っていた。
相変わらずシェル試験官は、中央でただ突っ立ているだけなのに隙を微塵も感じさせない……化け物すぎるよまったく。
「おや?今回はちょっとやばいかもねぇ〜」
僕達を見て、シェル試験官は苦笑いしながら言う。
そりゃそうだろう、僕らはある分だけのSPポーションとMPポーションを飲みきりエーフがトルスに支援魔法『攻撃増加/アクトアップ』、『要塞化/フォートアップ』、『反応速度増加/レイトアップ』、『心中一撃/クリティカルアップ』を使った。
それによりトルスは今これまでに見たこともないオーラを発し、トルス自身の集中力が最大まで達している。
この緊張感はこの一帯を支配し、仲間の僕達でさえ最初は怯んだくらいだ。
「では、行ってくる」
そう言うと、ひと蹴りで、シェル試験官の前まで飛ぶ。僕達は呆気に取られていた。
「へぇ〜……まあその作戦が妥当だね」
シェル試験官は僕達の作戦などお見通しなのだろう、いやこんなの誰でも分かる。作戦と言うかすら怪しいが、これしか今僕達には道が残されていない。
「………」
トルスは何も答えないーーいや恐らく彼にはもう聞こえていないのだろう。
僕達は魔法の準備を始め、いつ隙ができてもいいように二人を凝視する。ここのタイミングが命、全神経を注ぐ。
エーフも僕と同じように機を窺っている。だが、この集中力は長くは持たない……頼んだよトルス。
すると、トルスがゆったりと時が止まったように感じるほど滑らかに動き出す。その動作に見とれ僕達は反応が出来なかった、あまりに一瞬の出来事で僕達の脳が追いついていない。
シェル試験官も同様で動きが止まっていた、目の前まで迫まられているのにも関わらず全く動き出す様子がない。
その瞬間、トルスはこれまで見せたこともなかったシェル試験官の隙に入り込み回し蹴りを頭めがけ放つ、支援魔法を受けた今のトルスの身体能力の攻撃は簡単には防げない。蹴りの風圧で砂埃が吹き上げ二人が包まれて少しの間見えなくなる。
だが、今の態勢からの回し蹴りは避けることも不可能これなら流石のシェル試験官も防ぎきることは出来ないとそう誰もが確信した。
だが、現実は違った。
砂埃が治り二人の姿が現れる……シェル試験官はトルスの回し蹴りを左手で掴み制しており、その状態から二人は動かない。そう、これまで見せなかった隙をわざと見せることにより相手の油断、慢心を誘う完璧なタイミング……見事としか言いようがない。初発を簡単に防ぐことによりこちらに与える影響は計り知れない、僕達はまだしもトルスにはかなりの精神的ダメージになる。
集中を掻き切るには十分だった。
そう誰もが思っていた。僕達もあのシェル試験官もーー
だがトルスはこの状況で笑っていたのだ。
その一瞬に出来たほんの少しの隙、トルスは見逃さなかった。掴まれている足とは逆の足で地を蹴り体を捻りその反動でもう一回回し蹴りを放つ。だが、ほんの少しの隙ではシェル試験官にとっては取るに足らぬものだ、もう片方の手で防がれ両足を掴まれた瞬間トルスはスキル『岩石の氷柱/ロックル』を放つと、トルスとシェル試験の間に地面から円錐型の岩の氷柱が突き出る。
シェル試験官は両手を離し、後方に飛び去る。岩石の氷柱もそれに追随するように攻撃する。
「やるねぇじゃあ海水魔法『雨雫/エキジョウカ』」
シェル試験官は地面に手を付き魔法を発動する。するとさっきまであった地面が急に泥のようにぐちゃぐちゃになり岩石の氷柱が押さえ込まれる。
本来ならこのまま液状になった地面、すなわち泥の波がこちらに襲いかかってきただろう。それぐらいのうねり具合だった。ただ、今回の試験は反撃しないというルールだから今回はこの程度で済んだ。
少し経つと液状になっていた地面が元の地面にもどる。
「さぁ次はどうする?」
そう言われた瞬間トルスは動き出していた。シェル試験官の元まで全速力で走り、ある程度近づいた時、トルスは宙に飛んでいた。そう両足でのドロップキックの体勢に入っていた。全速力の反動もあってもの凄いスピードで一直線に飛んでいく。
だが、これでは簡単に躱されてしまうだろう、どうするんだトルス。
僕が思った通り、難なくシェル試験官はトルスの最高速のドロップキックを全身を使い綺麗に何もなかったかのように受け流し躱す。
刹那ーー
「ふんっ!!」
トルスはスキル『岩石暖簾/ロックウォール』をドロップキック中に発動しており、シェル試験官の後ろには岩石の壁が聳え立っていた。その壁を使い躱されたシェル試験官の方へ反動を駆使して接近する、今度はただの拳、そう身体強化された拳を胸元へめがけ放つ。
反動を利用しドロップキックと同等の威力の一撃を打ち込むーー
だが、その拳は巨大な水の壁に阻まれ。トルスは全ての威力を殺される。そう、シェル試験官もまた自分のすぐ後ろにスキル『海水の盾/ソルドシールド』を発動していた。
びしょ濡れになり重さを持った衣服をトルスは脱ぎ始める。上を脱ぎ下も褌だけとなる。
「いい覚悟だよ〜♪」
「当然だ!!」
トルスはまた全力でシェル試験官へ突っ込んでいく。
**
あれから2時間以上経つがいまだに肉体戦は続いている。何度も攻撃を躱されては突っ込みまた躱されては突っ込みの繰り返しだ。
流石に疲労が見て取れる。対してシェル試験官は最小限の動きだけで躱し、いなす。スタミナの差は歴然だ。
「そろそろ疲れてきたんじゃない?」
「冗談だろ」
明らかに疲れているとトルスに対しシェル試験官は挑発をする。だが、トルスは負けじと食らいつく。僕達もかなり疲れていた、常にいつどこで隙ができるか分からないこの状況で一瞬たりとも集中力を切らせる事ができない。そういった攻防が続く。
「早く決めないと日が落ちちゃうよ〜」
そんなことは分かっている。
だが、ここで焦ることは絶対にしない。それは今一生懸命に戦ってくれているトルスへの侮辱だ、絶対に集中力を切らさない。そう自分に言い聞かせ、頬を叩き喝を入れる。
「じゃあそろそろ決めさせてもらおう」
「へぇ〜散々躱してきた君の攻撃はもう私には通用しないよ〜」
ふんっとトルスは鼻で笑う。
「俺が何もしないで何時間も戦うわけなかろう」
えっ!てっきりただ殴ってるだけだと思ってたよ……意外と考えて戦っていたのかーー
あの攻撃単細胞だったトルスが成長したよ〜と僕は心の中で叫び一人で蓋を閉じる。
いかんいかん僕とした事がそんな事で集中力を乱してはいけない。
その内にトルスはシェル試験官と距離を取っていた。
「じゃあ見せてもらおうかなーー」
「いくぞ!!岩石スキル『岩石龍創造/ロックドラゴンクリエイト』」
僕も聞いた事ないスキルをトルスは発動すると。地面から巨大な岩が出現する。すると、どんどん同じ岩が地面から出現しそれが次々に合体していく。そして、巨大な龍へと変貌を遂げた。
全長40mはあるその龍は咆哮を放つ。
「ぐぁガガガガガガガ!!!!」
大地は軋み、揺れ、割れる。もの凄い衝撃を放った。
「このスキルはSPを消費しない代わりに体力を消費し発動するスキルだ。発動までかなり時間がかかるしその間スキル、魔法一切使用出来なくなる。さらに、このスキルが発動するのは約2分が限界だ」
「だが、この2分間は俺は最強となるーー」
「敵にそんなこと言って大丈夫なの〜」
この龍を見てシェル試験官は全く動揺するそぶりを見せない。
「これを知ったところで関係ないここで終わらせるからな」
そう言うとトルスはシェル試験官の元へこれまで通りに突っ込む。だがひとつ違うのは後ろの岩石龍が放とうとしているスキルだ。
岩石龍は岩を食べ、口に岩を貯めスキルを発動する。すると、その溜め込んだ岩が一つの巨大な岩となり岩石龍はそれを右側からシェル試験官めがけ放つ。
その岩は最初にはなったトルスのスキル『岩石砲/ロックブラスト』と同じスピードで向かっていく。トルスとの違いは明らかに岩がでかい、バス二台分くらいの大きさだ。
放たれた岩石は真っ赤に染まり地面を抉りながら突き進む。焼け焦げた匂いが漂い、あたりが明るくなるそれほどまでに熱されていた。
トルスは左側から攻め込み一か八かの大勝負に出る。あの岩石砲に当たれば終わりだが、これなら最大の隙が生まれるはずだ。
シェル試験官は初めて焦りの色を見せる。
「これは聞いてないんだけどぉ〜」
スキル『海水の盾/ソルドシールド』を放ち二つ分の攻撃を防ぐつもりだ。さっき放ったものとは比べ物にならないくらいの大きさの水の壁が出現する。その分厚さ大きさから簡単にあの岩石砲を包み込めるレベルだ。
さっきのが本気じゃなかったのかよ!!
トルスは心の中で吐き捨て……
ニヤリと心の中で笑う。
そう、試験の相手は俺だけじゃない!
「光源スキル『聖光源の柱/サテライトピラー』!!!」「風魔法「異次元の突風/ディメンションスコール」!!!」
待っていたかのように二人は全く同じタイミングでスキルと魔法を放つ。
上空、雲の間から光の柱が降り注ぎ、周りから刃のような突風がシェル試験官を襲う。
耳を劈くような音を響かせ、あたり一帯を吹き飛ばす。木々や草花、さらにはその近くにいた魔物や地面を破壊する。
岩石砲と水の壁がぶつかり水蒸気であたりが真っ白になり、さらに魔法を放った場所は焼け果て、見るも無残な姿に代わりこの辺り一帯は森ではなく更地となっていた。
さっきまでいた岩石龍は消え、僕達も全てのSPとMPを消費し倒れ込んでいた。
なのに、トルスはピンピンとした姿で立っている事が収まりつつある水蒸気の中でも視認できる。
『化けモンかよ』僕は心の中で叫ぶ。
俺は水蒸気で真っ白になった視界の中警戒していると人影が見え徐々に近づいてくる。
「なぜ何ともないんだ?」
「危なかったわ〜少しずれたたらあなた死んでたわよぉ〜」
現れたシェル試験官は最初と変わらない口調で淡々と言う。
トルスは一瞬臨戦態勢の構えに入り半歩下がった。
「あぁ〜もう終わり終わり、試験は合格だよあとはゴール目指して頑張って〜」
そう言ってすぐに自分と僕ら3人の怪我を回復させ、あの3人が向かって行った方角へ行ってしまった。
というかあの血も恐らく俺の返り血だったんだろう。唯一与えたダメージが最後、俺の攻撃を掠らせて折った小指だけだ。
くそっ!!
そう、俺はあの時シェル試験官に助けられたのだ。完全に敗北し、実力の差を思い知らされた。
「大丈夫かトルスー」「大丈夫?」
二人が駆け寄って来ているのが見える。
ああ、大丈夫だーーと言おうとした瞬間俺は意識がぷつりと途絶える。
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