伝説の遊騎士

ノベルバユーザー327952

試験~VS黒夜~

「光!!」
楓は視界にその異様な光景を納めた瞬間、考えるより早く走り出した。


「かえで~!」
光も手を伸ばす。その手に向かって楓は飛んだ。


時間はまだある。光が影のような何かに呑まれていく速度はそれほど早くはなかった。
間に合う・・・助けられる!!
そう確信した時だった・・・その希望は臙城によって砕かれる。




まさに光と楓の手が触れあうという直前で臙城が楓に飛びかかってきたのだ。二人はそのまま地面に倒れこむ。


「おい臙城!?」
楓が臙城に突っかかろうとした瞬間、さっきまで楓が飛んでいた場所を黒い弾が通りすぎる。
それを見て楓は何も言えなくなる。
もし楓がさっきの場所にいたのなら確実に当たっていたから。
通過した黒い弾は少し先の地面に当たり大爆発を起こした。


その光景に唖然としている楓の頭に本来の目的が浮かび上がる。
「光!!」
そう思いだし振り返った先に光の姿はなく、そこにあるのは影によって作られた繭の様なものだった。


「ひ・・かり?」
声を掛けるも返事はない。聞こえていないのだろうか?そう考えた途端、胸を押し潰しそうなほどの不安が湧く。


その瞬間楓は考えることを止めた・・・正確には考えるより早く体が動き出した。すぐに立ち上がり自分の足に付けていたホルスターから銀に輝く大きめのリボルバーを抜き出し、銃口を影の繭に向け、意識を集中する。


すると楓の周りで砂ぼこりが舞い上がる。その砂ぼこりの中には光が術を出したときと同じような粒子が浮遊していた。
その粒子だけがまるで引き寄せられるかのように楓の持っている銃創に吸い込まれていく。
ほんの数秒後、銃創から淡い碧色の光が漏れたかとおもうと楓の持っていた銃から弾が放たれる。
「ひかりーーー!!」
弾は6発。光がいるであろう真ん中以外を狙って放たれた弾は3発外れ、3発的中した。
だがそれではムダだった。
影の繭にあたった弾は何も消し飛ばす事もなく遥か後方に飛んでいく。




「くそ!!」
再び銃創に弾を込めるため意識を集中しようとした時、繭の後ろから一人の男が出てきた。
その男は真っ黒な学ランを着ていた。ボタンは律儀に全て閉められている。だがそんな真面目そうな見た目とは裏腹に、そいつの目からはギラギラと剥き出しの敵意しか感じられなかった。さらには何が嬉しいのか不気味な笑みをこぼしている。


「いやー・・まさかこうも簡単に彼女を捕まえる事ができるとはね。クックックッ」


今の一言で楓の敵意が男に向く。
「お前が・・やったのか」
だがこの質問に男は答えない。


「しかも裏切りのお嬢様プリンセスまで一緒とはね!」
それどころか今度は臙城の方を向いて話しかけてくる。
「こっちの・・俺のチームに来なくていいのか?こっちなら確実に勝てるぞ!」
そう言ってまた笑う。
「ッ~~~~」
臙城は何かを言い返そうとしたが言い返さない。耐えたのか?・・・おそらく違う。言い返したくても言い返せなかったのだろう。臙城からはやるせなさが見てとれた。


(裏切りのお嬢様ってのは今聞くことじゃないかもな・・・)
そう考えた楓はいったん臙城の事はおいておく。
そんなことより気になる事があったから。


「おい、臙城!お前あいつと知り合いか?」
「あ~・・そっか知らないんだね!あいつがさっき光が言ってた常闇だよ!常闇黒夜」
その言葉に少し反応が遅れる。
「ふーん、こいつが今年一番の実力者か・・」


名前を聞いて楓は気合いを入れ替える。光に忠告されたから・・・だけではない。明らかに黒夜の纏っている空気がおかしかったからだ。まだ距離は何十メートルか離れている。なのに黒夜の存在感は近く、そして大きく感じられた。
身体中から冷や汗が出てくる。だが楓には悠長に構えている暇などなかった。なぜなら光に・・自分を守ろうとしてくれていた仲間に助けを求められたのだから。実際には助けを求められた訳ではないかもしれない。




それでも早く助け出したい。
そんな気持ちが自分でも信じられないくらいに溢れていた。そしてそれと同時にとんでもない程に焦っていた。


まだ光がやられたと決まった訳ではない。
まだあの繭の中で戦っているのかもしれない。
希望は確実にまだある。


そんなことは分かっているのに、目の前から姿が消えてしまっただけで落ち着けない自分がいる。
戦いの中で焦りや油断は自分の身を滅ぼすことくらい知っている。
だからこそ楓は焦っていたのだ。
だが現実は無情だった。焦らないように、そう考えれば考えるほどに気持ちの余裕がなくなっていく。






しかしそんな状況で他の二人の姿が目にはいる。
いつの間にか後ろの二人は武器を構えて臨戦態勢をとっていた。
 

臙城は何処から出したのか分からないが、身の丈より少し小さい位の刀を構えていた。鞘と柄は燃え上がるような朱色に染まっている。刀身は鞘から抜かれてはいないものの、臙城の周りからはとても密度の高い魔力の滞留が感じられた。


逆側の後ろでは風花がフルートのような横笛を手に相手を見据えていた。普通の楽器のようにみえるその武器は楓と同じ銀色。ただ風花からはどこか固くなりすぎている印象を感じてしまう。まぁこれだけの敵意を向けられてビビるなという方が無理な話ではあるがそれでも戦おうとしていた。


二人とも纏っている魔力や表情から緊張が感じられる。それでも逃げ出そうとする気配は感じられなかった。


その様子を見て楓は失っていた冷静さを取り戻し始める。
(そうだ。俺は一人じゃないんだ・・・)
そう考え、一度大きく息をはく。




「それで?その技お前がやったのか?」
もう一度、今度は落ち着いた声で楓は問いかける。
それでも黒夜は楓の顔を見続けるだけで答えることをしなかった。
その瞬間楓は銃の引き金を引いた。
楓は無言の反応を完全なる敵対だと受け取ったから。
黒夜もそれを待っていたかのように動き出す。
放たれた二発の弾は黒夜の体目掛けて一直線に飛んでいく・・・が、その弾は影の盾によって防がれてしまう。
それを見て楓は瞬時に魔力の量を変え、影ごと消し飛ばせるくらいの魔力を込めた弾を打ち出した。打ち出された魔力弾が黒夜に向かっていく。
「!?」
だが着弾する瞬間だった、黒夜はその弾を防ごうとはせずかわす。
まるで瞬時に魔力量の違いを感知したかのように。さらにそのまま地面に手をあて転がりながら体勢を立て直すとすぐに反撃に出てくる。
楓の撃った弾は空をきる。
それと入れ違いで楓には影の槍が迫る。
動けなかった・・・理由は明白だった。
まず1つは単純な驚きだ。黒夜は魔力を溜めることなくノータイムでの技の発動を行ったのだ。


普通、技の発動の際には〈溜め〉という時間がある。普通はこの〈溜め〉の時間が長ければ長いほどより強い魔力の塊を作ることが出来る。そして高度な技になればなるほど必然的に〈溜め〉の時間は長くなる。
この槍はおそらく下の下の魔法。3秒程の〈溜め〉で済む技だろう。
だが簡単な魔法だからノータイムで発動出来るというのは違う。


もともと魔法は空気中に無数に漂っている〈エクア〉と呼ばれる粒子を使って使用する。術者は〈エクア〉を自分の扱いやすい性質に変化させ、それを形として形成することで初めて1つの魔法を作ることが出来るのだ。
例外はイロイロとあるが基本の部分では全て同じである。


だからどんなに短縮しようとしても2つの段階は踏まないといけない。
例え熟練の魔術師でもこの手順に変わりはない。


だがこの男はその手順をなくしてノータイムでの技の発動を行ったのだ。
その驚き、焦り、それらが楓の動きを鈍らせた。
だがこれだけで動けなかった訳ではない。
楓が動けなかった最大の理由は・・・侮りだった。


消して油断していた訳ではない。ただ黒夜が楓の想像していた力の遥か上をいっていた。


(もう避けらんねぇーな)
楓は悟り諦めた。
そして視線を黒夜の方に向ける・・・実際には黒夜の背後に。





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