奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

25 蔑如のアルテミス①

生き残った人々が、ガレキの下から次々と出てくる。

みな、魔法で自分や患者かんじゃさんなどを保護していた。

生き埋めになっている人がいるかもしれない。

俺は生存者を探す。

体が思い通りに動かず、歩くのでさえ苦労だ。

「そんな体でなにをする気」

腕を組んだままのアンジェリカが、冷ややかな視線でこちらを見ている。

「なにもしないのか?」

「私はする必要ない。だいたい、私の治療を拒否したのよ、この病院は」

「なら、そうして立っていればいい」

彼女は「うざっ」と言って、近くの石材に腰を下ろし、ポケットから取り出したお見舞いの品を食べ始めた。

俺の魔法は攻撃に特化しているので、治療や救助を行えないことが、ひどく歯がゆい。

ガレキだけを燃やすことのできる赤爆せきばくは、こんなにも便利だったのか。

ひとりの男性看護師がこちらへ走ってきた。

「ムチャをしないでください、あなただって病人でしょう」

「動けますから、魔法の使えない俺でもできることはあると思います」

「作業中に容態ようだいが悪化して、病人が増えるだけです。こっちの手間が増えるんですよ」

彼は少しだけ大きな声でそう言った。

「切り傷などの軽症の手当ぐらいは、させてください」

俺は彼の案内で負傷者のいる場所へ向かう。

「バッカみたい、他人なんて勝手に生きればいい」

後ろからアンジェリカの声が聞こえた。

近くのガレキのない場所では、避難ひなんした人たちがいた。

俺はそこに着くと、病院関係者の指示に従って、負傷者の手当をしてゆく。

腕や足にいくつもの切傷を負った高齢の女性を担当する。

異物が傷口にないか確認した後、そこを消毒して、バンソウコウをはってゆく。

「すまんねえ、お兄ちゃん。こんな傷ぐらい自分で手当できるって、言うたんだがね」

真顔で応えようとしたとき、ラヴィの言葉をふと思いだす。

「お兄ちゃんさ、暗い顔してたら、その人は起きた時に、責任を感じちゃうんじゃない?」。

俺はほほえんだ表情をどうにか作った。

「気にしないでください、俺なんて若さだけが取り柄ですから」

「歳は取りたくないよ、人様に頼る機会が増えるばかりさ。

 …………、なんだアレ? 砂かぁ?」

手当を受けている女性がそう言った。

黒いきりが周囲へ大量に現れていた。

口笛のような音が長く鳴る。

それらが大型犬の形となって人々をおそう。

悲鳴が周囲からあがってゆく。

————プロメテウスの火矢————

弓の形をした炎を魔法で作りだし、弦を引く動作をする。

そして、攻撃的な霧の犬を魔法の火矢で射ってゆく。

着撃したそれは、少しの間けたたましくほえて、燃え尽きた。

数が多すぎて、処理が追いつかない。

子供を狙った霧の犬を射たとき。

おそわれていた人々が一か所へ集まっているのが見えた。

霧の犬たちが、その周囲をもうすでに包囲していた。

しかし、おそうような動きが一向にない。

「く、くるなああああ!」
「シッ、メッ、あっちへいけ、化物どもッ」
「おかああさああああん、おとおああああさんあああ!」

短い口笛のような音が、規則正しい間隔で鳴ってゆく。

霧の犬たちが、人を一か所へ追いこみ始めた。

「だれさね、こんなときに指笛ふいてるバカタレは」

俺が手当をしていた高齢の女性が、そういった。

「いだあああ、やめと、ぐあが、いでってえ、死にたくなあああい!」

霧の犬たちが、逃げ遅れた男性へかみついていた。

俺はそれらをプロメテウスの火矢で射った。

「ありがとう、ありがとう!」

彼の背後から霧の犬がもう一頭迫ってきていた。

俺は火矢を放つ。

「早く逃げてくれ、後ろだ!」

それは、抵抗できない彼の頭部をかみついた後、ワニが獲物を食いちぎるようにした。

火矢がようやくそれに刺さる。

短い指笛の音が二度鳴った。

「お兄ちゃん、横からきてる!」

彼女の声を聞いた直後、横から数頭のそれらに腹や腕をかみつかれた。

——プロメテウスの炎剣、それでおそってきた化物を切りふせる。

ふたたび、短い指笛の音が二度鳴った。

霧の犬たちが、一斉にこちらへ走ってくるのが見える。

————プロメテウスの火壁かへき。全方位を火の壁で囲む。

それらが火壁に触れるなり蒸発する。

やがて、こちらを囲んだまま動かなくなった。

火壁の魔法をといて様子をうかがう。

黒い霧が俺の前へ下りてくる。

「きえろ、ホモ・デウス」

その霧が、エヴァリューシュの姿へ変わってゆく。

彼女は、紺染めの和服ようなものを装い、体格より少し大きな黒い外衣を羽織はおっている。

葉のような深い緑のセミロングヘアは、ポニーテールにまとめられていた。

また、その背中には空の矢筒と弦のない弓がある。

「オレ様の時間にだるいんだよ、クソが」

俺に「腹ぽん」をしたときと様子がだいぶ違う。

「あたたかくなると、変なのがわくねえ……」

「くたばりぞこないのババアが、息がくせえんだよ」

エヴァリューシュがこちらへ歩いてくる。

プロメテウスの炎剣を構えるが、さきほどのダメージのせいで立つのがやっとだ。

「ぷるぷるとキメェ」

彼女の裏拳が俺の顔に入った。

俺は炎剣を手放して地面へ倒れた。

彼女が、俺が治療した高齢の女性の前で止まる。

「オレ様に二度と話かけんな」

そして、手刀で高齢の女性の首をはね、その体をブーツでり倒した。

付近の人たちが騒ぐ。

ひきつったような表情の彼女は指で耳をふさぎ、舌打ちをした。

「——狩りの勢子せこよ」

黒い霧が現れて、いくつもの大きなクマの姿へ変わってゆく。

彼女はその内の一頭のアゴを雑になでる。

そして、短い指笛を二度吹いた。

クマもどきの化物たちが、騒いでいる人々を攻撃してゆく。

——プロメテウスの火矢、それで化物どもを射る。

彼女の大きな笑い声が聞こえた。

「にげろ、にげろッ!

 オレ様にそのぶざまをじっくりと堪能たんのうさせな、ホモ・デウス」

俺は魔法の火矢を彼女へ放つ。

それは肉体に刺さりもしなかった。

動けたとしても、体の調子はまだ万全じゃないのか。

「やめろ、ヘカテ! 本を読むのはウソか」

彼女がこちらをにらんだように感じた。

「あのナメクジアマの名で、オレ様を呼ぶんじゃねえ、ガキ」

彼女はこちらとの距離を一気に詰めると、俺を何度もなぐる。

俺は地面に両膝をつき、さらには頭をつかまれた。

「アルテミス様だ、言ってみろ」

「おこちゃま様、病人相手にイキリ散らして、ご満足でございますかあ?」

いきおいの良いヒザ蹴りが顔へ入った。

彼女が背中にある弓を取って、こちらへ構える。

「——狩りの射手よ」

茶色の光が収束して、矢の形状に変化した。

「つまんねえからシんどけ、インケンブスが」

直後。

いくつもの細い氷柱つららが彼女に刺さってゆく。

そして、彼女は氷に一瞬でつつまれた後、粉々に砕けた。

「攻撃的なヤツって、たいてい大したことない」

片腕と両足のない子供を肩に抱えたアンジェリカがそういった。

彼女は子供を医者へあずけると、こちらへ来た。

多量の血が、その服の汚れに混じっていた。

「立ちなさい、みっともない。

 それとも、あれだけ自分は聖人ですって熱弁しておいて、寝ながら他人の死にざまを見物する?」

「うるせえ……、何しにきたんだ」

彼女の目が細いので、どこか冷たい印象を持った。

俺はプロメテウスの炎剣を作り、それを杖の代わりにして立つ。

彼女が、俺のおでこに血で染まった手を当てる。

「痛みは消えろ——パナケイアのいやし」

その手が緑色に少し発光する。

緑の光が俺の体を包むと、全身の痛みが和らいでゆく。

「そっちこそ、あれだけ悪態をついておきながら、子供を助けたのか」

アンジェリカは俺から目線を外す。

「……、見ていられなかった、それだけ」

俺からやや離れた場所、黒い霧がそこへふたたび集まってゆく。

現れたアルテミスが、肩や首を動かしながらこちらを見た。

「おう、ホモ・デウスのメス。気に入った、オレ様の奴隷にする」

俺は鼻で笑う。

「キッショ、ムリ。カン違いナルシスト野郎とか、見てるだけでアレルギー出てきた」

アンジェリカが自らの体をかき始める。

金属の鎖が、アルテミスの足元に生えた。

「返事は聞いてねえよ。

 出てこい、狩られた神ども——オリオン、ニュンペー、アクタイオン、ヘリオス」

アルテミスがその鎖を引き抜く。

サソリ・ウマ・シカ・ニワトリ、それぞれを模した全長十メートルほどの怪物たちが、ゲルヴァシャの大地を割って、その姿を現す。

ニワトリのような怪物をアポテネスで見たことがある。

「ヘリオス……、オマエと同じ神のはずだ」

「その脳は飾りか、ホモ・デウス。

 オレ様は狩猟を司る神だ。オレ様が狩人であり、他のもの、それこそ神でさえ獲物にすぎないッ!」

「森の神だろう!」

「おう、根本的にはな。趣味が高じて、兼任してんだよッ!」

弓を構えたアルテミスが口角を引いた。

そして、茶色の光が収束してできた矢を放つ。

ひどく大きな爆発音が鳴ると、巨木のような光がこちらへ向かってきた。

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