奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

23 いちぶのやさしさ

目を覚ます。

木もれ日が窓から見える、誰もいない木造の病室。

独りはキライだ。

体を動かしていなかった為に、全身の筋肉痛がひどい。

包帯が体のいたるところに巻かれていて、ギプスのような施術もある。

体中がとてもかゆい。

水を飲みたいが、誰かに頼む必要がある。

体感で2時間後、男性看護師がようやく来た。

「目覚めましたか、痛むところはありますか?」

声を出そうとしたが、なぜか出ない。

首をどうにか左右に振る。

そして、口をぱくぱくとし、唇をなめる仕草をする。

「もしかして、お水でしょうか?」

首を縦に動かす。

「今、お持ちしますね」

ほどなくして。

病室に戻ってきた彼が、コップで俺に水を飲ませてくれる。

ひとりの男性が、退出する看護師とすれ違いで入室してきた。

バッグを持っている彼が会釈する。

「回復したばかりのところに失礼します。

 私は、ゲルヴァシャ八世のつかいで来ました、メモーリと申します」

ゲルヴァシャさんは生きているようだ。

「いっ、たい、いい、ま、わ」

「まだうまく話せないようですね。少し、失礼」

彼はバッグから五立方センチほどの魔石を出して、俺のノドにかるく添える。

魔石が少しの間だけ緑色に発光した後、溶けるようにして消えた。

「いったい何を。……、声が戻った」

「魔石には治療作用もあります。ご存知なかったでしょうか」

たしか、アンナがそれに近いことを言っていたような気がする。

声が出たばかりでなく、筋肉痛もいくぶんか和らいだように思う。

「ありがとうございます。これでお話がようやくできます」

「いきなりの質問に、お気を悪くされないでください。

 太陽の神殿で何がありましたか?」

俺は、ヘカテ復活までの詳細を彼へ言う。

「ほぼ全滅でしたか。これではもう、ゲルヴァシャには戦力が残っていません」

月の神殿へ行った部隊も、大きな被害を出したようだ。

しばらく、彼と世間話をした。

話に区切りができた頃、彼が木製の丸椅子から立つ。

「すみません、最後にひとつだけ。ノアは無事でしょうか」

「どなたです? 旅の仲間ですか?」

「ゲルヴァシャの中央区にある病院で手術を受けた者です」

「中央区の病院には、大賢者が入院しているとしか連絡は受けていません」

ノアに会っておこう。

彼は会釈をしてから退室した。

まず、この体をどうにかしなくてはならない。

リハビリもかねて、病院の庭へ向かう。

廊下を移動中、若い女性看護師から声をかけられた。

「えええ、もう歩いてるんですかっ!?

 いろんなとこが、ぐっちゃぐちゃのバッキバッキなんですよぉ!」

やめて、想像したくない。

…………、いまさらだけど、よく助かったな。

庭へ着くと、がむしゃらに散歩を始めた。

久しぶりの太陽や夏の風が、気持ちいい。

それも最初だけだ。

数分もすれば、足を中心としてひどく痛む。

体を動かすことが、ここまで辛いことだとは思わなかった。

体感時間で一時間ほど、休憩も混ぜながらリハビリをしてゆく。

骨だとは思うが、筋肉痛とは別の痛みを感じ始めたので、病室へ戻る。

木造の廊下を進んでいると、受付で騒いでいる女をふと見つけた。

20代前半くらいの女性だ。

彼女のショッピングにでも行くような服装は、土や汗にまみれている。

しかも、そのセミロングの髪は、一週間は洗っていないほどに汚く思う。

彼女には見覚えがある、どこで会っただろうか。

「病院の都合で患者を差別するなんてありえない!

 誰でも、生まれながらにして、治療を受ける権利を持っています!」

彼女は、ボロボロのショルダーバッグを両手で握りながらそう言った。

受付の女性が、苦笑いをしたように見えた。

「何度も申し上げていますが、病院の都合ではありません。そちらの責任によるものです。

 この東区病院は国立です。国や国民へ損益を与える方の治療はできかねます」

彼女は受付台を両手で叩いた。

大きな乾いた音が鳴る。

事情は分からんが、病院の物にそこまで八つ当たりするのは感心しない。

「だ、か、らッ! それが病院の都合だって言っているのよ!

 アンタ、玄関で笑顔を作るだけの仕事かもしれないケド、医療に関わるものとして、間違っていると思わないの!?

 病に苦しんでいる人が目の前にいて、それを国家の都合で治療しないなんて、人として間違ってる!」

受付の女性が、笑顔で舌打ちを連発する。

「あなたは他国へ亡命して、このゲルヴァシャを裏切りましたよね。しかも、国立魔法学校の寮生にもかかわず。治療してはいけない、ブラックな人間の一覧にのっていますよ」

受付の女性が台から身を乗り出して、彼女へ頭突きを行う。

そして、彼女の胸ぐらをつかみ、文字通りの「眼前」で話し始めた。

「よくこの国に顔出せたな、オイ?

 その厚いツラの皮をはぐ治療なら、すぐにでもやってやるよ」

この病院では、大人しくしておこう。

周囲に迷惑をかけすぎると、眠っている間に臓器が、ぽんっ! となくなっているかも知れない。

「そんなの知らなかった。

 私には昔の記憶がない。だから、悪気があってここにいるワケじゃない!」

思い出した、彼女はアンジェリカだ。

砂漠で記憶を奪われて、治療の為にゲルヴァシャへひとりで旅立ったはず。

女性の身で傭兵をしているのは、そういう理由か。

アンジェリカが、ショルダーバッグから三立方センチメートルほどの魔石を取り出す。

「お願い、お金ならあるから。もう東区の病院しか残ってないの。おねがい、いくらでもお金は払うからっ、だから治療してください、おねがい!」

彼女は金切り声でそう言った後、その場に泣きくずれた。

受付の女性が、少しばかり困ったように見えた。

記憶を無くした状態は万能の免罪符、そうとは思わない。

俺は病室へ歩く。

「あ、変態! もしかして、ここ隔離病棟かな?」

いらんぞ、こういう運命の再開は、ホントにいらん。

俺は一切反応せずに歩く。

彼女が、体の後ろで手を組みながらこちらへきた。

「無視はやめて。あなたが私に全裸で迫ってきた件は、もう水に流したでしょ?

 それに、露出を指摘されたあげく、暴力で事態の解決をはかったのを、ひろーくカンダイな心で、許してあげたじゃない。

 失神して無抵抗になるまで、私のこと夜の砂漠で追いつめたあげくに、することしたらすぐにポイ捨した男なんだから、体液をもらしながら襲ってきたアレ(シャコウ)と違って、理性ある対応と器ぐらい大きいとこ見せなさいよ」

言葉の暴力はいけないと思います。

受付からの視線がキツイ。

俺はため息を大きく出す。

「自分に都合の良い表現をするな。被害者はむしろ俺だッ。

 それと、たかが一介の患者が、病院への紹介状を書けるとでも思ってるのか」

口角をひいている彼女は舌打ちをして、かるい声で「つかえねぇ」といった。

めんどう事には足が生えている、しかも他人と積極的に関わろうとまでする。

彼女が、急に真顔になったように見えた。

「で、変態はなんで入院してんのよ」

「さあな、おつかれ」

散歩のヒロウや体力低下がついにたたり、足がふらついてきた。

いい加減、病室に帰って休みたい。

俺は病室へ向かう。

「ふーん、そういう風に言うんだ。もう知らない」

俺はほっとしたので、息を少しもらす。

直後。

力が足に急に入らない。

俺は前へ倒れそうになる。

アンジェリカが俺を支えた。

「変態って、バカ? そんな体力のクセに、なに急いでるんだか」

「ほっとけよ」

俺は、支えを払った。

彼女がまゆをひそめる。

「さすがに、今のはないわ。アンタって、誰にでもそういう態度?」

…………、支えてくれたのか、悪かったな。

「『ほっとけよ』は言い過ぎた。支えてくれて、ありがとう」

アンジェリカが、俺の腕を自分の肩に回した。

「んで、病室どこ……。

 くっせえッ! 体は清潔にしなさいって。タオル、病室にある?」

「今日、目覚めたばかりだ。分からん」

俺は、文句の止まらない彼女に支えられて病室に戻った。

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