奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!
22ー2 封印の体⑤
ヘスティアは苦しそうな叫び声を上げつつさがっていった。
返り血にまみれたアテナが、盾を持ったままそこへ寄りそう。
「ゲルヴァシャのあの魔法か、完全な屈服には今しばし至らぬ」
ラヴィはまだ生きているのかもしれない。
残る賢者は、ロン毛の彼だけだ。
処女宮の至るところに、大小様々な血痕と肉片が散乱していた。
「目を覚ましてくれ、ステーキくらい、好きだけおごってやるからよォ!」
——プロメテウスの炎槍、それをヘスティアへ投げつける。
アイギスの盾がそれをはじく。
「どちらのホモ・デウスが御神体を持っている。差し出せば、命は助けてやろう」
「誰がアバズレなんぞに渡すものか」
ロン毛の賢者がそう言った。
アテナが衣服を口に当てて、乾いたような声で笑う。
「実に、浅慮」
そして、彼の心臓のあたりをヘパイストスの槍でつらぬく。
「アガッッ、ゥヴぉッ……、ちくしょうめッ」
彼は地面に倒れて、動かなくなった。
彼の作った照明が消えてゆく。
月明かりが神殿内へ下りてくる。
アテナが、ショルダーバッグから赤いレンガを見つけ、それを魔法で破壊した。
「依り代を出したまえ。アルテミスを、いや、今はヘカテであったな」
ヘスティアが頭を抱えながら手を正面へ伸ばす。
「——炉よりこぼれし物よ」
紫の火の粉が二柱の前に積もる。
それらは、石化しているエヴァリューシュの姿へ変化した。
黒い霧が彼女の中へ吸い込まれてゆく。
太陽の神殿に封じられている神が復活してしまう。
俺は、彼女を壊す覚悟をした。
————赤爆の焔鎌————
赤紫に光る全長1メートルほどの鎌(サイス)を振る。
斬撃は衝撃波へ変わり、鎌の刃の形でエヴァリューシュへ迫ってゆく。
盾を構えたアテナが彼女をかばう。
斬撃がアイギスの盾を割り、アテナへ食い込む。
斜めの大きな傷がその体にできた。
さすがに全力でないと、神の体をついでに燃やすほどの出力はない。
一本の乾電池で豆電球をつけることはできるだろうが、冷蔵庫を動かすのはムリだ。
「ホモ・デウスの技なれど、かの火はここまで恐ろしい」
俺との距離を一瞬で詰めたヘスティアが、ノコギリのような武器を振りおろす。
「ぶぅーーーん!」
俺は焔鎌の柄で攻撃をさばいてゆき、スキを見つけて、カウンターをうつ。
そして、すれ違いざまにその腹を引き切る。
ヘスティアが腹を押さえながら両膝を床につけた。
「ちょっと……、このホモ・デウス、なに?」
「——ヘパイストスの槍」
銀の装飾がきらびやかな槍が、こちらへ払われた。
焔鎌の柄でそれを受けて、体を一度回し、アテナの腹と槍を切る。
ひとりは楽だ、なにも気兼ねなく力を発揮できる。
でも、ひとりなら、俺は何の為に戦っているんだ。
リーシェやノア、それに賢者たちを守る為に、三処女神をこの力で討とうとしていた。
ジェイクの研究と同じ結末じゃないか、結果の為に目的を犠牲にしてしまった。
こんな力——もういらない。
「おのれ、ホモ・デウス。この体では、満足に力も出せぬ」
出血が止まらないのか、アテナは地面に座り込んだまま動かない。
俺は焔鎌を振り上げる。
アテナが弱い力で俺の足へ抱き着く。
「みじめだな」
「その目を止めろ、ホモ・デウスッ!
一柱を見下すなど、身の上を知りたまえ!」
エヴァリューシュとアルテミス、どちらも焼きつくしてしまえ。
俺は焔鎌の斬撃を彼女へふたたび飛ばす。
斬撃は、最初のものよりも大きい。
「ウチを、キレさせたよ。——炉よりくみし聖火よ」
エヴァリューシュの前に、白い炎の壁が現れる。
斬撃がその壁に衝突し、吸収された。
「やっりーッ! ウチの火が、カスどもの魔法になんて劣るわけないじゃん!」
「無駄だ、俺の炎は目標を必ず焼く」
白い炎の壁が爆発した。
赤黒い炎が、鎌の刃の形へふたたび集まりだす。
「ええッ、こんなのずるいよ!
ナシナシ、ノーカン、リトライを要求するッ!」
俺はヘスティアを指さす。
「ここで滅べ」
口をとがらせたヘスティアが、両手の中指を立てた。
視線を戻すと、黒い霧が全てなくなったのが見えた。
斬撃が元の姿を取り戻し、石化したエヴァリューシュへ衝突する。
それは砕けた後、一瞬で燃え尽きた。
アテナが衣服を口に当てながら笑う。
ヘスティアも腹を抱えて大声で笑いだす。
なにがおかしい。手早く処理して、ノアのところへ帰ろう。
「リーシェ。身勝手だとは思うが、俺を許して欲しい」
俺は焔鎌を構える。
「早く帰って、お布団でごろごろしたい」
エヴァリューシュの声が聞こえた。
月明かりの下、黒い霧が一か所に集まってゆき、彼女の姿になる。
「なぜだ、赤爆は全てを燃やした」
彼女は魔法で髪どめを作ると、それを口にくわえる。
そして、後ろ髪をお団子にまとめ始めた。
「うなじがむれる。この女、男受けを気にし過ぎだわ」
アテナの姿が周囲に見当たらない。
「アテナは逃げたぞ、アルテミス」
彼女は髪をまとめ終えると、首を左右に少し振る。
「だからなに? 帰っただけでしょ。
それと、今は病の神・ヘカテ。アルテミスはいわゆる昼職だから、今は存在しない。
ま、肉体なんて、魔法でいくらでも作れるし、近いうちに分離でもしようかな」
俺は、赤爆の指定先を間違えてしまった。
Aを討たなければならないのに、Xを指定した。
しかも、存在しないXを燃やすことなどできない。
笑顔のヘスティアが、ヘカテに正面からだきつく。
「ヘカテー、ヘカテー、ヘカヘカテー!」
「それやめて、恥かしくないの?」
「いいじゃん。アルテミスやセレナは嫌いじゃないけど、ヘカテは大好きだもん。
またいじめてあげるから、お布団いこ?」
「イヤ。それと、一緒に布団へ入ったこともないから」
赤爆の焔鎌で二柱に切りかかる。
ヘカテが、その鎌の刃を素手でつかんだ。
俺は緑の瞳と見つめ合う。
「ほかの神と違って、このカリュ大陸にある文化が好きなの。
いくら暴れても大丈夫な場所を用意するから、今日はお開きにしない?」
俺がいくら動かそうとしても、鎌はわずかさえ動かない。
「人をホモ・デウスと呼び見下すクセに、文化が好きだと?」
「そこは信じなくても結構よ。
マンガ・小説・声劇・演奏会……、封印されていた間、ずっと続きが気になってしかたがないものばかり。
特に、シュテム国の雑誌に掲載されている『狩人エックス狩人』。これは、休載が多くて待ち遠しかった。さすがにもう完結しているだろうから、コミックスで一気読みして……。
あ、やっぱいいわ、今殺そ」
ヘカテが俺の腹に手を添える。
次の瞬間。
俺は神殿をつきぬけて吹き飛び、ゲルヴァシャの外壁を破壊して、密林の木々を折り、どこかの山の岩壁に深く埋まった。
返り血にまみれたアテナが、盾を持ったままそこへ寄りそう。
「ゲルヴァシャのあの魔法か、完全な屈服には今しばし至らぬ」
ラヴィはまだ生きているのかもしれない。
残る賢者は、ロン毛の彼だけだ。
処女宮の至るところに、大小様々な血痕と肉片が散乱していた。
「目を覚ましてくれ、ステーキくらい、好きだけおごってやるからよォ!」
——プロメテウスの炎槍、それをヘスティアへ投げつける。
アイギスの盾がそれをはじく。
「どちらのホモ・デウスが御神体を持っている。差し出せば、命は助けてやろう」
「誰がアバズレなんぞに渡すものか」
ロン毛の賢者がそう言った。
アテナが衣服を口に当てて、乾いたような声で笑う。
「実に、浅慮」
そして、彼の心臓のあたりをヘパイストスの槍でつらぬく。
「アガッッ、ゥヴぉッ……、ちくしょうめッ」
彼は地面に倒れて、動かなくなった。
彼の作った照明が消えてゆく。
月明かりが神殿内へ下りてくる。
アテナが、ショルダーバッグから赤いレンガを見つけ、それを魔法で破壊した。
「依り代を出したまえ。アルテミスを、いや、今はヘカテであったな」
ヘスティアが頭を抱えながら手を正面へ伸ばす。
「——炉よりこぼれし物よ」
紫の火の粉が二柱の前に積もる。
それらは、石化しているエヴァリューシュの姿へ変化した。
黒い霧が彼女の中へ吸い込まれてゆく。
太陽の神殿に封じられている神が復活してしまう。
俺は、彼女を壊す覚悟をした。
————赤爆の焔鎌————
赤紫に光る全長1メートルほどの鎌(サイス)を振る。
斬撃は衝撃波へ変わり、鎌の刃の形でエヴァリューシュへ迫ってゆく。
盾を構えたアテナが彼女をかばう。
斬撃がアイギスの盾を割り、アテナへ食い込む。
斜めの大きな傷がその体にできた。
さすがに全力でないと、神の体をついでに燃やすほどの出力はない。
一本の乾電池で豆電球をつけることはできるだろうが、冷蔵庫を動かすのはムリだ。
「ホモ・デウスの技なれど、かの火はここまで恐ろしい」
俺との距離を一瞬で詰めたヘスティアが、ノコギリのような武器を振りおろす。
「ぶぅーーーん!」
俺は焔鎌の柄で攻撃をさばいてゆき、スキを見つけて、カウンターをうつ。
そして、すれ違いざまにその腹を引き切る。
ヘスティアが腹を押さえながら両膝を床につけた。
「ちょっと……、このホモ・デウス、なに?」
「——ヘパイストスの槍」
銀の装飾がきらびやかな槍が、こちらへ払われた。
焔鎌の柄でそれを受けて、体を一度回し、アテナの腹と槍を切る。
ひとりは楽だ、なにも気兼ねなく力を発揮できる。
でも、ひとりなら、俺は何の為に戦っているんだ。
リーシェやノア、それに賢者たちを守る為に、三処女神をこの力で討とうとしていた。
ジェイクの研究と同じ結末じゃないか、結果の為に目的を犠牲にしてしまった。
こんな力——もういらない。
「おのれ、ホモ・デウス。この体では、満足に力も出せぬ」
出血が止まらないのか、アテナは地面に座り込んだまま動かない。
俺は焔鎌を振り上げる。
アテナが弱い力で俺の足へ抱き着く。
「みじめだな」
「その目を止めろ、ホモ・デウスッ!
一柱を見下すなど、身の上を知りたまえ!」
エヴァリューシュとアルテミス、どちらも焼きつくしてしまえ。
俺は焔鎌の斬撃を彼女へふたたび飛ばす。
斬撃は、最初のものよりも大きい。
「ウチを、キレさせたよ。——炉よりくみし聖火よ」
エヴァリューシュの前に、白い炎の壁が現れる。
斬撃がその壁に衝突し、吸収された。
「やっりーッ! ウチの火が、カスどもの魔法になんて劣るわけないじゃん!」
「無駄だ、俺の炎は目標を必ず焼く」
白い炎の壁が爆発した。
赤黒い炎が、鎌の刃の形へふたたび集まりだす。
「ええッ、こんなのずるいよ!
ナシナシ、ノーカン、リトライを要求するッ!」
俺はヘスティアを指さす。
「ここで滅べ」
口をとがらせたヘスティアが、両手の中指を立てた。
視線を戻すと、黒い霧が全てなくなったのが見えた。
斬撃が元の姿を取り戻し、石化したエヴァリューシュへ衝突する。
それは砕けた後、一瞬で燃え尽きた。
アテナが衣服を口に当てながら笑う。
ヘスティアも腹を抱えて大声で笑いだす。
なにがおかしい。手早く処理して、ノアのところへ帰ろう。
「リーシェ。身勝手だとは思うが、俺を許して欲しい」
俺は焔鎌を構える。
「早く帰って、お布団でごろごろしたい」
エヴァリューシュの声が聞こえた。
月明かりの下、黒い霧が一か所に集まってゆき、彼女の姿になる。
「なぜだ、赤爆は全てを燃やした」
彼女は魔法で髪どめを作ると、それを口にくわえる。
そして、後ろ髪をお団子にまとめ始めた。
「うなじがむれる。この女、男受けを気にし過ぎだわ」
アテナの姿が周囲に見当たらない。
「アテナは逃げたぞ、アルテミス」
彼女は髪をまとめ終えると、首を左右に少し振る。
「だからなに? 帰っただけでしょ。
それと、今は病の神・ヘカテ。アルテミスはいわゆる昼職だから、今は存在しない。
ま、肉体なんて、魔法でいくらでも作れるし、近いうちに分離でもしようかな」
俺は、赤爆の指定先を間違えてしまった。
Aを討たなければならないのに、Xを指定した。
しかも、存在しないXを燃やすことなどできない。
笑顔のヘスティアが、ヘカテに正面からだきつく。
「ヘカテー、ヘカテー、ヘカヘカテー!」
「それやめて、恥かしくないの?」
「いいじゃん。アルテミスやセレナは嫌いじゃないけど、ヘカテは大好きだもん。
またいじめてあげるから、お布団いこ?」
「イヤ。それと、一緒に布団へ入ったこともないから」
赤爆の焔鎌で二柱に切りかかる。
ヘカテが、その鎌の刃を素手でつかんだ。
俺は緑の瞳と見つめ合う。
「ほかの神と違って、このカリュ大陸にある文化が好きなの。
いくら暴れても大丈夫な場所を用意するから、今日はお開きにしない?」
俺がいくら動かそうとしても、鎌はわずかさえ動かない。
「人をホモ・デウスと呼び見下すクセに、文化が好きだと?」
「そこは信じなくても結構よ。
マンガ・小説・声劇・演奏会……、封印されていた間、ずっと続きが気になってしかたがないものばかり。
特に、シュテム国の雑誌に掲載されている『狩人エックス狩人』。これは、休載が多くて待ち遠しかった。さすがにもう完結しているだろうから、コミックスで一気読みして……。
あ、やっぱいいわ、今殺そ」
ヘカテが俺の腹に手を添える。
次の瞬間。
俺は神殿をつきぬけて吹き飛び、ゲルヴァシャの外壁を破壊して、密林の木々を折り、どこかの山の岩壁に深く埋まった。
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