奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

17ー2 赤爆病

俺たちは中央区の国営病院へ救命士の魔法で搬送された。

木造の病院の廊下、俺たちはそこで検査結果を待っていた。

引き戸が開く。

短髪の医者がこちらへ来た。

「痛みは収まりました。お話がありますので、どうぞ中へお入りください」

診察室へ入る。

医療器具や仕切りの布、それに薬品棚がある。

リーシェの姿はどこにも見えない。

「リーシェはどこです?」

「今、別室で安静にしています。面会室は当分の間許可できません。

 それより、おふたりも至急、検査を受けてください」

「話の筋が見えません」

「彼女は【赤爆せきばく病】です、それも重度の汚染による急性のモノです。

 おうとやゲリ、それにほぼ全身に渡っての内出血による斑点はんてんがでています」

まさか、リーシェは俺の赤爆が原因で苦しんでいるのか。

医者が書類束の一部をこちらへみせる。

黒い紙に白インクをびっしりとたらしたような画像があった。

「これは、魔法でスキャンしたリーシェさんの骨髄こつずいの画像です。

 見ての通り、黒い部分がほとんどありません。この黒い部分は、血液のもとになる細胞です」

医者は、広辞苑ほど厚い本を棚から取り出す。

そして、その一部を開いて、俺たちに見せる。

黒い紙に白インクを数滴ほどたらしたような画像だ。

「通常はこの様に、黒い部分が多いのです。リーシェさんには、もう血液を作る細胞が残っていません」

「治りますよね?」

おそるおそる、そうたずねた。

「結論から申し上げますと、治る見込みはありません。

 骨髄をどうにか移植、あるいは健康な細胞を移しても、赤爆素という魔法素粒子がリーシェさんの体内に残ったままでは、症状が再発してしまいます。

 急性の場合、あと一週間が余命でしょう」

医者は本を閉じた。

「まってください、その赤爆素を摘出すれば助かるんでしょう」

医者は、少しだけストレスを感じた顔をする。

「ゲルヴァシャの魔法医療技術を持ってしても、それは不可能でした。赤爆素は魔法と接触すると、その魔法を焼き尽くし、さらに増殖してしまいます。

 このカリュ大陸にある、どの医療機関へ相談されても、結果は同じだと思われます」

まだアンナと行動していた過日を思い出す。

ある暗殺が笑いながらこう言った。

「お前はいずれ、周りの人間をも巻き込んで破滅する。

 そのとき、身でもって禁忌の由来を知れ」

俺はうつむく。

ノアが、衣服のソデで俺の目じりやほほをふく。

「アカヤ、僕たちも検査を受けよう」

俺たちは検査を受けた。

数時間後、検査結果が出る。

ふたたび、さきほどの診察室で医者と話す。

まゆを寄せている彼は、書類の束を注視していた。

「単刀直入に申し上げます……、ノアさんのみ陽性反応が出ました」

ノアは覚悟をしていたのか、簡潔かんけつに返事をする。

「まってください、俺は、陰性? ありえないでしょう」

彼はさらに険しい表情で書類をにらむ。

「アカヤさんは、赤爆と接触されたことは?」

接触もなにも、その魔法でこの星を割った張本人だ。

「赤爆を戦闘で使用していました」

彼が目を大きくする。

「これは、前例のないことなので、推測でしかお話できません。

 アカヤさんは、赤爆病にならない体質のようです。もし、なにか抗体のようなものがあれば、それを研究することで、おふたりの命を救えるかもしれません」

俺は女神からチート能力を補てんとして受けとった。

デメリットがないのはその影響だろう。

「その研究に協力します」

「ありがとうございます、多くの命が今後助かるかもしれません。

 ノアさんは、看護師の案内で治療を受けてください」

診察室を出ると、俺とノアは別々の方向へ歩き出した。



病院の一室で研究にかかわる誓約書へサインしてゆく。

木の格子窓の外は、もうすでに暗い。

書類を看護師へ渡す。

警鐘けいしょうが鳴る。

「火事でしょうか?」

「確認してきますので、こちらでお待ちください」

そう言った看護師が退室する。

直後、爆発のような揺れと音を感じた。

廊下へ出ると、数人の悲鳴が聞こえた。

その方向へ走り出す。

やがて、大きな欠損がある場所にたどり着く。

「何がありましたか」

「小さな女の子が、突然、なにか板のようなもので患者をっ」

そう言った男性看護師が大きな欠損を指さす。

俺はそこを通って、外へ出る。

リーシェとノアが、庭のような場所で戦っていた。

黒い女神がリーシェの背後で等身大の盾を持っている。

「オマエのメス臭が、アカヤから匂う」

リーシェが盾で攻撃しながらそう言った。

「ようやく、お腹を見せあって話せるね。

 密林で僕に見せたあの目、殺意と嫉妬だらけで、ブスさが輝いてたよ」

ノアは盾の攻撃をかわしつつそう言った。

「リーシェのオトコに、近づくの、ダメ!」

ノアが鼻で軽く笑い、両手をほほに当てる。

「えー、僕そんなのわかんなーい。

 どのみち、メンヘラかまってちゃんは、都合のいい女として遊ばれるだけだね!

 ご愁傷しゅうしょうさま、ひとりでビュッフェでも行ってきなよ」

リーシェが歯をかみしめて、息をはく。

「つぶれろ、尻軽ッ——憎悪のアテナ、アイギスの盾!」

まさか、リーシェも神と契約してしまったのか。

黒い女神が盾を十字に振る。

その速度は、曇が進むほど遅い。

ノアが余裕で避けたように見えた。

「体力が少し戻った程度で、僕に勝てるわけないだろ」

彼女の拳が、黒い女神へ何度も当たり、それをなぐり飛ばす。

「暴力抜きで、面と向き合って話をしよう。

 だから、今はゴメン」

そう言った彼女は、リーシェの足を払うと、そのアゴを掌底で打ち抜く。

フクロウの鳴き声が聞こえた。

黒い女神が、倒れたリーシェを取り込む。

そして、立ち上がり、三日月のような目と口になる。

ノアがそれから距離を急いで取った。

「ありがたいぞ、ホモ・デウス(人間の意)。ようやくこの体を手に入れることができた」

「失神している間に体を奪うなんて、下品な猿男と手口が一緒」

黒い女神が衣服を口に当てて、乾いた笑い声をもらす。

「月刊雑誌ふたつ程度の重さしかない脳に、理解など求めるはずがなかろう」

突然、ノアが痛みを訴える。

「体が、しびれてッ、ヘビ……?」

一匹のヘビが彼女の足へかみついていた。

「嗚呼、私の可愛い可愛いヘビ……、愛玩動物ほど純粋なものない」

黒い女神が、等身大の盾を振り上げる。

「アイギスの盾の角を味わえ、どのオスの突きよりも激しく痛かろう」

————プロメテウスの炎剣————

振り下ろされた盾をそれで弾く。

黒い女神は、俺の追撃をかわすと、こちらから離れていった。

「もう十分騒いだだろう、病院だぞ」

「いかな聖人の想い人とて、私の邪魔は許さぬ」

「アカヤ、こいつあのタナトスと同じだ!」

もう赤爆は使いたくない。

黒い女神が、魔法で2メートルほどの槍を作り出す。

その槍は、銀の装飾がきらびやかだ。

「つらぬきの痛みを知れ——ヘパイストスの槍」

黒い女神が槍を投げる。

後ろにはノアがいる、防ぐしかない。

————赤爆の火球————

小さな赤黒い火球を右手へ作り……、それを消す。

俺は歯を強くかみしめる。

ダメだ、これ以上は使えばノアや周囲の人が。

「バッカ、逃げて!」

こちらに来る槍へ炎剣を振り下ろす。

それらは衝突する。

拮抗状態は起きない。

ヘパイストスの槍が、魔法の炎を裂いて、俺をつらぬいた。

腹に槍がささっただけだと言うのに、立っていられない。

出血が受傷部位から始まる。

黒い女神が衣服を口に当てて、乾いた笑い声をまたもらす。

「たかが一撃、なんともろい」

「返礼だ、受け取れ」

——プロメテウスの炎槍、それを投げる。

黒い女神は、それを素手でたやすくつかむ。

その体のいたるところから、血が出始める。

リーシェの体は、限界が近いようだ。

「その気持ち、贈答記録帳へ朱で記してやろう」

彼女は炎槍をにぎり潰して、その姿を霧散むさんさせる。

俺は振り返る。

左肺へ槍の刺さったノアがそこにいた。

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