奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

14ー2 砂漠の行路④

野営所へ、探索に出ていた部隊が戻った。

例の魔物を討伐するために、撒き餌ま  えを周囲に設置してきたと、アンジェリカが言っていた。

夕日が水平線へ沈む。

どことなく、寒さも感じてしまう。

アンジェリカのはからいで、夕食つきの一泊を野営所ですごせることになった。

たき火を少人数で囲んで夕食を食べる。

俺は、リーシェの食事を優先させた。

そして、日焼けした足を膝枕にして、リーシェを休ませる。

正面にいるアンジェリカが、ときおり俺を見ていたと感じた。

「そんなに、食事させるのが珍しいか」

彼女は、スプーンを食器へ置く。

「気になってたけど、娘?」

軽く笑う。

「まさか、ただの……。旅の仲間だ」

「ふーん、三人が家族に見えたわ」

ノアがむせる。

「それより、夕食どころか一泊まで、気前がいいね。

 本当に、魔石はあれが最後だよ」

アンジェリカは少し笑う。

「ウソついているとは思ってない」

そして、ポケットから魔石を取り出す。

それは、三立方センチメートルほどの大きさだ。

「これだけの魔石を上手く売れば、半年は傭兵稼業をせずにすむ。

 一宿一飯ぐらいなら、どうってことはない。

 それに私だって、小さな子を砂漠に放りだすほど、鬼じゃないし」

彼女は自分の髪をいじりながらそう言った。

ノアが、何かを言いたそうな顔をしていたが、食事を続けた。

その夜。

俺は、たき火の前で歯をカチカチと鳴らし続けていた。

「寒すぎだろおおお、シぬうってえええ」

伝統あるローマスタイルも、寒さには弱い。

ノアは体温を上げる魔法を使えるので、俺は彼女へリーシェを預けた。


笑顔のふたりは、深く眠っているようだ。

ときおり、ノアはイビキをもらす。

死ぬ、冗談抜きで死ぬッ、体を動かそう。

俺は、その場でジャンプをしたり、筋トレをして体を温める。

体は温まるどころか、冷えていくように感じる。


俺は野営所の周りをランニングする。

息が上がり始めると、寒さはやわらいだ。

「ねえ、こんなところに呼び出して、何?」

ふと、アンジェリカの声が聞こえる。

野営所から少し離れた場所。

アンジェリカとリッグがそこにいる。

俺は岩陰にひそむ。

「そろそろ、返事を聞かせてもらえないか。

 僕には、君が必要なんだ」

空気をペロっとなめる、……甘い。

夜風が俺に吹きつける。

「リッグ、濁していたのだから、察して欲しかった。

 私は今の関係を変えるつもりはない」

「俺は、傭兵と役人のままでも別にかまわない」

彼女がため息をはいたように見えた。

「はっきり言う、私はあなたの気持ちにこたえない」

リッグが彼女の両肩を掴む。

「君だって、お金に困っていたじゃないか。なにを悩むことがある?」

「金なんかの為にすることじゃない、正気なの?」

彼女は、肩にある手を払う。

リッグが笑う。

「キモッ」

「なあ、アンジェリカ。君は協力するしかないんだ。

 純度の高いモノを精製する方法は、ゲルヴァシャ国の人間しか知らない」

「で?」

「もう一度だけ言おう。

 僕とアレを作って金持ちになってよ」

「絶対にイヤッ」

アンジェリカが野営所に戻ろうとする。

リッグが、右手を顔の位置まで上げる。

「記憶をもらう——ムネモシュネの慈悲じひ

その右手が緑色に光る。

突然、彼女が倒れてしまった。

おろかな魔女だ。しょせん、頭に愛だの遊びだのしか詰まっていない」

「私は……、いったい」

彼は、彼女へマントから取り出したビンの中身をぶっかける。

「くっさッ、なによこれぇ……、あまた、くらくら……」

意識を失ったのか、彼女が無言になった。

「シャコウのメスのフェロモン剤さ。オスがすぐにでも寄ってくるだろう」

俺は彼に近づいてゆく。

「ん? 旅のヒトか。

 アンジェリカが倒れていたんだ、助けを呼んでくるから、彼女を見ててください」

彼が野営所へ戻ろうとする。

————プロメテウスの炎剣————

背後から彼の首筋へ炎剣をそえる。

「シャコウの夜食にはならない」

リッグが右手を顔の位置まで上げる。

「ふざけているのか、人命が失われるかも知れないんだぞ!

 最低だな、君は——ムネモシュネの慈悲」

彼の右手が緑色に光るよりも早く。

俺はプロメテウスでその手を焼き切る。

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