奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

10ー1 三英雄①

倒した女性の案内で研究所へ向かう。

場所はちょうど戦った広間の真下だ。

ノアがなぜか俺にくっついてくる。

「歩きにくいから離れてくれ」

「ちょっとだけ協力して、お願い!」

ノアの考えが分からない。

ときおり、女性はこちらをちらちらと見ていた。

「あの女性さ、見た目はお上品だけど、すごく陰湿な性格なんだ」

「チョロの字のあの女性が?」

「うん、視界は奪うし、手足は折るし散々だったよ」

……、それは拘束しようとしたけど、ノアがタフすぎただけで……。

「だからって、なんでくっつくんだ?」

「あの人、恋人できたことないから、きっと悔しいはず」

リア充爆発しろの法則か。

階段をいくつか降ると、錠のかかっている大きな扉が見えた。

「ここが、話にあった研究所です。開けますね」

女性は、錠を掴む。

黄色い光が、その手にともった。

魔法で開錠したようだ。

俺たちは部屋の中を歩いてゆく。

室内には、ガラス製だろう透明な管や、標本などがあった。

やがて、「素材保管庫」と書かれた板のあるドアを見つける。

そのドアを開ける。

いくつもの檻があった。

目を閉じたリーシェが、檻の中で横になっている。

女性が、魔法で開錠してリーシェを檻から出す。

「眠っているんですか?」

「恐らく、薬の作用で意識を失っているのでしょう」

命に別状はないらしい。

突然、杖を床につく音が聞こえた。

「ポーロ、プライベートは不干渉の約束だ」

入口では、杖をついた老人が立っていた。

「ジェイク、それは失礼しました。

 ですが、この奴隷についていくつか聞きたいことがあります」

ポーロという名前には、聞き覚えがある。

「お姉さん。もしかして、剣魔・ポーロ?」

女性が俺にリーシェを渡す。

「そうです。私は、アポテネス三英雄のひとり、剣魔・ポーロ」

リーシェはすやすやと寝息を立てていた。

「それで、聞きたいこととは何かね」

「こちらの女の子は、本当に警備部隊から買われたのでしょうか」

「そうだ。疑うなら書類を見せてやろう」

ジェイクの目が、冷たそうに見えた。

「ジェイクさん。俺とこの子は、役人の罠にハメられました」

「いきさつなど知らん」

「金銭ならお支払いしますから、どうかリーシェを返してもらえませんか」

ジェイクが杖で床を強く突く。

「くどいぞ、小僧ッ! ポーロの顔に免じて話はきいてやった。

 いい加減に、ここから出ていけ!」

リーシェを床に寝せる。

「ジェイクさん、あなたに非はないと俺は思っています。

 ですが、冤罪でふたたび奴隷となったあげく、リーシェが魔法の実験動物として扱われるのは我慢できません」

歯を噛みしめるジェイクが、俺の顔に杖を投げる。

「よかろう、オマエも素材だ!」

ポーロが叫ぶ。

「ジェイク! 何をそこまで、憤ることがあるのですか!?」

「あのメスは聖痕を持っている。

 研究の為には、どうしても手放すワケにはいかんのだ!」

リーシェを檻に入れているあたり、生死に関わるような実験もするだろうな。

「アンタも、烈火の竜騎兵だかと同じだな」

ジェイクが自らの膝をなぐる。

「あんな狂人と同列にくくるな、ガキィ!」

ノアが、こっそりとリーシェを抱きかかえて、こそこそと部屋を出てゆく。

俺は、サムズアップを彼女へ送る。

ノアは、笑顔で拳を作ることで答えた。

ポーロが、今にも泣きそうな声を出す。

「ジェイク、ローランドは狂人ではない。

 戦争で、あまりにも多くの命を奪ったことに、精神が耐えきれなかっただけ。

 他の仕事にもつけず、軍にもいれず……、彼だって戦争の被害者なのよ」

「同族には、なんとお優しい。

 ヘメラの光で、何十万人の植物人間を作った軍人の言葉とは思えぬ」

ポーロは涙を少しだす。

さて、俺も逃げるか。

ジェイクが、黒く光る右手を上げる。

「気づいていないとで思ったか。

 とらえろ——タナトスのしもべ」

どこからか出た黒い霧が、床から立ちのぼり、人の姿に変わる。

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