奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

9ー2 暗闇の女性②

ステンドグラスの様な装飾そうしょくから、陽光が入り始める。

涙目の女性は、慌てながらスリッパを口から取った。

「汚いでしょう、それに突然モノを投げるなんて!」

もしかして、チョロの字?

俺は彼女の側へ近づく。

「なっ、なに、この男、怖いっ」

——プロメテウスの綿棒めんぼう———

赤く光る綿棒で彼女のワキをつついたり、こすったりする。

彼女は体をそらせて、「ひゃんっ」と声をもらす。

俺はそれを見て、ふきだしてしまった。

こんなオモシロイ彼女が、リーシェを拘束しているとは思えない。

敏感肌びんかんはだなんですね、おじょうさん」

「ひいい、トリ肌がっ、なんなのコイツ!」

ノアがこちらへすさまじい速さで来る。

「大丈夫だったか、心配したぞ」

ノアは目の端に涙を浮かべるなり俺に抱き着く。

「それ聞いて、嬉しくなる自分がキライ」

女性が俺とノアをちらちらと見ていた。

「あの……、おふたりは、いわゆる恋人なのですか?」

答えを間違えると、今後の人間関係がメンドくさくなるパターン。

「まだ知り合って日は浅いですが、とても良好な関係です」

ノアが一瞬だけ口角を引く。

「僕たちは膝枕もしたし、ふたりきりで夜も過ごしました」

…………、ノアさーん?

何か嫌なことでもあったのかい?

女性は上を静かに見る。

「そう、仲が良いのはいいことです」

そして、剣を地面にさす。

「——リュクスの暗がり」

視界が一瞬で暗転する。

「またこの攻撃、僕キライッ! 殴らせて!」

ノアの声が聞こえる。

どこか別の場所へ飛ばされたワケではなさそうだ。

「あきらめてください、治安維持部隊へ引き渡します」

俺は前へ走る。

何かにぶつかった。

女性の笑い声が聞こえる。

「方向感覚はないですよ。平衡感覚も奪っておきましょう」

突然、立っていられなくなる。

だが、俺の炎は自動追尾だ。

————赤爆の火片————

葉の様な赤黒い火をひとつ、魔法で作り出す。

その火を女性へ放つ。

「誰もが同じ反応をする。——ヘメラの光」

急に、俺は無気力になってゆく。

魔法の火が維持できない。

「これ以上は抵抗しないでください」

「なにをした」

「前頭葉から視床へ流れる電気信号の制限」

脳が魔法で攻撃されて、俺は植物人間になりつつあるのか。

暗闇の中、地面に寝るのがやっとだ。

何かが動く音が聞こえる。

「僕のこと忘れているでしょ?」

「あなた……、自己強化と治療に長けているのね」

「僕の戦意を奪うなんて、誰にもできないのさ!」

殴りや突きなど、戦いの音が聞こえ始めた。

どうやら、ノアは自己強化と回復を使って、抵抗できるようだ。

————赤爆の火球————

赤黒い球体を手の平に浮かべる。

そして、金髪の女性の「武器と魔法」を焼くように念じる。

「ノア、当たるんじゃないぞ」

「撃つなら、いつでもいいよ!」

火球を放つ。

それは、彼女に向けて進んでいったはずだ。

「なんだ、この魔法!」

………、走りまわる音が鳴る。

「かわしきれなッ……、いやああアア!」

爆発の音がすると、視界が戻った。

傷ついた服を着た女性が、床に座り込んでいる。

また、建物のいたるところが爆風で損傷してもいた。

ノアが拳を握りながら、彼女に近づく。

「早いとこ、リーシェちゃんの居場所を言わないと……」

そして、握った拳を彼女のアゴにそえる。

女性が手をこちらにつきだす。

「リュクスの暗がり、ヘメラの光」

しかし、何も起きなかった。

「どうして!」

「その魔法自体を焼いたから、もう使えないかもな」

女性は泣くと、指で涙を取りながら笑顔で「ありがとう」と言った。

……、どういうこっちゃ?

「ノア、この人は何も知らないと思う」

「でも、フクロウはここに止まったままだよ」

俺は頭を抱える。

「あの、もしかしたら、ジェイクの研究室かもしれません。

 昨日の夕方、警備部隊から奴隷を買ったと言っていました」

————プロメテウスの綿棒。

「それだけは止めて! それくらいしか、心あたりがないのです!」

隣にやってきたノアが、背伸びをして俺の耳元に口を近づける。

「ねえねえ、その棒さ。今晩あたり、僕にも体験させてよ」

プロメテウスをノアの鼻へ突っ込んだ。

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