奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

2ー3 風のアッシュ

————プロメテウスの炎剣————

その腕を一閃して、焼却。

「実力を測れる様になってから挑んでこい」

「うわあああああ、いやああだああ、死にたくなああああい!」

「おい、アッシュさんよんでこい!」
「アッシュさああああん!」
「アッシュ! アア、アッシュッ!」

何人かの男が逃げ出した。

「魔法で不意打ちなんて良い度胸じゃねえか!」

男は手のひらを俺に向けると、雷を放つ。

雷は音速で迫り、俺の服を貫くと、店の壁をもぶち抜く。

「その才能を別のことに活かせ」

男は「ビビってんじゃねえよ!」と言って、また放雷する。

それを魔法に包んだ片手で受け止めると、相手へ打ち返す。

返した雷は、相手の胴に大きく穴をあけて、店の一面を吹き飛ばす。

「ちくしょうおおお、エリートがああああ!」

彼が静かになったとき、店の入り口で琵琶の様な弦楽器が鳴る。

「みごとな魔法だねえ、遺書かいてくるの、忘れたよ」

入口では、ハットを被った男が楽器を適当に弾いていた。

「アッシュさん!」
「アッシュさん!」
「アア、アッシュッ!」

男は、指先から出た魔法の火で、タバコらしきものに火を点けるなり吸い始めた。

「オレはアッシュ……。まあ、自己紹介してもピンとこないあたり、よそ者かな」

よく見ると、後ろには何人かの女たちがいた。

「アッシュ、はやくやっつけて飲みなおしましょ」
「アッシュ兄! かっこいいとこみせてー」

————プロメテウスの炎剣————

炎で切り裂こうとする。

アッシュは俺の手を蹴り上げて、斬撃を止める。

そして、距離をとり、笑顔のままハットのつばを人差し指で押し上げる。

「不意打ちはなしだぜ、そんなに俺に負けるのが怖いのかい?」

「さすがアッシュね!」
「きゃー、アッシュ兄!」
「アア、アッシュッ! 素敵、抱いて!」

自称大陸一の炎つかいとは、違うようだ。

アッシュが手を払う動作をする。

俺の衣服が切れてしまう。

「あれま、かわすと思ったんだけどなあ、買いかぶりすぎたかな」

「それで、全力か?」

アッシュは口角を思いっきり引き、「おー、こわ」と言う。

「がんばって、アカヤー」

リーシェが背伸びしながら両手を大きく振ってくれる。

アッシュが目を閉じて、顔の前で右手首を掴む。

すると、いくつかの光がその手に灯るなり目を開く。

「葬儀にはいかねえぜ、泣いてる女は見たくねえんでな!」

突風が店内で暴れる。

陳列された商品が壁へ全て押され、リーシェが衣服を抑えながら地面にへばりつく。

「ツバサを刻む——ボレアスの北風ッ」

アッシュが手を払うと、店は全て吹きとんだ。

夜の街へ、爆風と破片が流れ込む。

空に上がった破片は次々とかまいたちで刻まれてゆく。

風切り音が耳に入るなり暴れまわり、氷の様に冷たい風がまばたきを強制させる。

俺は、回転しながら飛ぶリーシェをキャッチする。

「まだだ! ——ノトスの南風ッ」

風爆がもう一度起こると、今度は熱い気流が物を溶かしながら俺たちを過ぎてゆく。

たちどころに、気圧差が生じたのか、周囲にあった宝石たちや木材が一瞬で潰れてゆく。

泣きながら抱き着くリーシェが俺の鎖をそっと引く。

「心配ないよ、俺が守るから」

 ————赤爆の火球————

巨大な火球が空に現れると、そこからはがれた火の粉が街へ降り注ぐ。

そして、暗夜を赤く染める。

「もはや、太陽じゃないか!」

火球から滴り落ちる涙の様な粒がアッシュへ雨の様に迫る。

「アッシュ!」
「アッシュ兄!」
「アア、アッシュッ!」

「来るな! 離れていろ、今守りの風を」

——プロメテウスの炎槍がアッシュを貫く。

そして、幾千もの火の涙に彼は焼き溶けてゆく。

「ああああああああああああああ、あああああああああ!」

その雨があがったとき、アッシュはどこにもいなかった。

「歩くほうがまだ疲れるな」

ところどころ裂けた服を着ているアンナが、俺に駆け寄ってくる。

「店や街を弁償しなさいよ!」

「アッシュだかの遺産を相続する人に請求してくれ」

アンナは泣きくずれてしまう。

「これからどうしたらいいのよ、お店全部なくなっちゃったじゃない」

リーシェを背負って魔石を探すが、どこかに飛んでしまったようだ。

「傷心のところ悪いけど、リーシェだけでも休ませてあげたいんだ」

目の細いアンナが首を少しかしげる。

「なに、休ませてあげたら?」

「実は、無一文なんだ」

ため息の後、アンナは立つ。

「それくらい図太くないと、生きるって難しいのかも。

 私、今日は倉庫で寝るから、用心棒してくれるなら、一泊ぐらいならいいよ」

俺の背中から寝息が聞こえた。

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