無能の烙印-Until the world changes-

どくろん

第3話 祐介の学園生活。Part1

「……………ぷあっ!」


祐介は慌てて布団から飛び起きた。


「…………朝から嫌なもん思い出しちまったぜ……」


初めてチャクラを覚えたあの日。祐介としては思い出したくもないキツい記憶なのだが、やはり強烈な体験であったため、このようにときたま夢に見る。


「……くーっ……」


今の時間は五時半。ラミアはまだ寝息をたてていた。


(……いつもより早いが、やるか)


二度寝するにも、微妙な時間だ。それならと祐介は布団から出て、軽く運動ができる格好に着替えた。


(さて……)


ユリも宗介もまだ寝ているようだ。二人を起こさないように、庭に出た。


(今日は空手の型でもやってみるか)


祐介は日課の体術の練習を始めた。


「ふっ!」


仮想の敵を想像し、そこに型を意識しながら攻撃を加える。つまるところ、ボクシングのシャドーボクシングだ。


「シッ!」


蹴り、掌底、回し蹴り、突き。空手をやっている者が見ても鮮やか! と言うレベルの、完成度の高い技を連発する。これは祐介が日々の鍛錬を怠っていない証拠だ。空手の上段蹴りなどは、股割りと呼ばれる柔軟を三年ほど行い、股関節を柔らかくしていないとできない技である。もちろん、持ち前の運動能力の高さゆえということもあるだろうが、それだけではこの域には達することはできない。
しかし、祐介は空手の有段者には勝てない。どれだけ練習しようと、本筋の人間には勝てないのだ。だから、祐介の戦い方は自己流だ。もちろん、このような武術も使うが、それを発展させたものがほとんどだ。
武術というのは、ものにもよるが、大抵は『演舞』に力を注いでいる。例えばテコンドー。どれだけ技をかっこよく、美しく見せるかがポイントとなっている。
それに、武術には『ルール』がある。レスリング、ボクシング、柔道、空手……どれにも禁じ手が存在している。それが競技であるなら、当然のことだが、祐介が戦う場所ではそんなルールは無い。下手に武術に足を踏み入れると、その禁忌に触れまいと無意識のうちに攻撃をためらってしまう。それが実践、ましてや敵の前では命取りになる。だから祐介は技の練習はしようとも、その技を使うことはほとんど無い。


「ふー、こんなもんか」


一通りの型が終わったので、構えを解き、時間を確認する。


(お、意外と時間が残ってるな……よし、剣術もやっておくか)


最近は時間がなく、触れていなかった木刀を持ち、独特の構えをする。


「ふぅー……」


脱力し、右手で剣を握り、左手を木刀の中腹あたりに添える。剣道の構えに似ていないことは無いが、ここまで変則的だと減点を食らってしまうかもしれない。
先程も言ったが、祐介は『競技』をしたいわけではない。しかし、剣道やフェンシングなどの剣技は別だ。剣道では、中学生以下は『突き』禁止という縛りはあるものの、それ以外の縛りは特に無い。さらに、二刀流なども存在し、なかなかに自由度も高い。
しかも、これらの剣技には寸止めなどはない。木刀やフルーレにに刃が付いているわけでもないし、防具もつけている。だから、攻撃してはいけない場所がほぼ無い。実践でも、動きを阻害しない。だから、祐介は剣技系……槍術や薙刀などは積極的に習得している。


「シッ!」


鋭く、速く。それを意識し、木刀を上段から振り下ろす。そのまま突きを繰り出し、返す刀で切り下ろしを行う。ここまでは剣道の動きだ。しかし、ここからは違う。


「セイッ!」


急に腰を落とし、捻りを加えた突きを繰り出した。そう、フェンシングの突きに酷似した突きである。
本来フェンシングに使われる細剣……フルーレやエペ、サーベルなどはしなりがあり、スピード×しなり=攻撃となる。細かいことは割愛するが、祐介は踏み込みにすべてをつぎ込むフェンシングを型とし、木刀で再現していた。そして――


「はっ!」


前のめりに木刀を突き出し、そのまま片足で踏ん張り、先程の上段蹴りを左足で繰り出した。
これこそ、祐介が編み出した武術と剣術の集大成である。剣を扱いながら、拳で戦える。これが、実践を意識した祐介独自の型である。


「……すごーい! おはよう! 祐介!」


ふいに、二階から声が聞こえた。


「おう、おはようラミア」




◆◆◆




「あー、いい汗かいたぜー」


さっさとシャワーを浴びて制服に着替えてリビングに行くと、まだ少し眠そうなラミアがトーストをかじっていた。


「おはよう祐介」


宗介はコーヒーを飲みながら、新聞……といっても、いまや紙媒体が廃れつつあるため、タブレットでニュースを読んでいた。


「おはよう父さん」


祐介は宗介が少し疲れて見えるのは、昨日夜までヒートアップしていたからなのか……? と考え、想像しないように首を振った。


「はい、おはよう祐介。残念ながら、あなたの分のウインナーは無くなったわ」
「え? トーストのみで食えと?」
「そうね。ラミアちゃんが全部食べちゃったのよ。いいことだわ」
「よくねーよ。ジャムも切らしてんだから、そこはちゃんと注意してくれ」


祐介は自席の前に置かれたマーガリンも塗られていないトーストを見て、げんなりする。


「流石に冗談よ、今から目玉焼き作るから待ってなさい」


やれやれ、とぼやきながらユリは冷蔵庫から卵を取り出す。


「ラミア、後で覚えとけよ?」
「んー? なんのことかしらね?」


あくまでラミアはすっとぼける。


「あ、もうこんな時間。ユリさん! ごちそうさまでした!」
「はーい。また食べにいらっしゃいな」


ラミアは階段を勢いよく登り、窓から自分の家に戻っていった。


「祐介、できたわよー」
「お、さんきゅ」




◆◆◆




「遅いぞ。急がないと遅刻だ」
「わかってるわよそんなこと。それよりも祐介、今日提出の課題、終わってるんでしょうね?」
「……完全に忘れてた」


キメラのせいですっかり忘れていた祐介は、頭を抱える。


「まあ、きっと許してくれるだろ。な? ラミアも終わってないんだろ?」
「……なーに言ってるのかしら? 私はとっくに終わっているわ」
「なん……だと?」


優等生のラミアもやっていないなら怒られないだろうとたかをくくっていた祐介の顔をは青ざめた。


「ま、今からやってっも間に合わないわね。ご愁傷様〜」


勝ち誇ったようにラミアは祐介の頭をぽんぽんと叩いた。
しかし祐介は言い返す気力もないのか、はぁ、と大きなため息をついた。


「おはよーお二人さん。朝から熱いねー」


突如後ろから陽気な声が。


「……スカルか。脳天叩き割るぞ。それに、そのセリフはそっくり返しておくぜ」
「おお怖い。でも、割られるならできればラミアちゃんに――」
「ほら、時間無いんだからさっさと行くわよ。そんな変態放置しといて」


ラミアはもう慣れたとばかりにスカルをスルーし、スタスタと歩いていってしまった。


「ああ、つれないなーラミアちゃん。キツめの一撃を打ち込んでほしいだけなのに」
「あ? なんなら俺の一撃を入れてやろうか? デュクシ!」
「危ない! 僕の頭が本当に割れちゃうよ!」


くねくねと器用に回避しながら身をよじる骸骨――スカル。


スカルは先程も述べた通り、『骸骨』である。ただし、死霊の類では無い。どちらかと言うと、怪奇。妖怪だ。祐介とは幼い頃から仲がよく、今では祐介の数少ない親友だ。白い髑髏の頭に闇のように黒い肉体と、この超常現象や怪異が溢れる世界でもかなり異質だが、祐介たちと行動を共にし、今ではすっかり馴染んでいる。


「もー、早いよ! あ、おはようラミアちゃんっ!」


女の子が小走りでラミアの横に来た。


「おはようセリアちゃん」


ラミアは『このバカ共…』と男二人を見て頭を抱えていたが、セリアが来たことにより、笑顔になった。


セリア・アークレイ。彼女は人間と変わらぬ見た目を持つが、実はアルラウネである。アルラウネとは、植物が人の形をかたどったモンスターである。精霊だという説もあるが、定かではない。彼女は近所の山に住んでおり、普通に高校に通っている。この世界では別に珍しいことはなく、一般的に受け入れられている。なお、スカルの恋人である。


「もー祐介! わたしのスカルを取らないで!」
「あ、わりぃ。朝から熱いなお二人さんよ」


祐介も先程のお返しとニヤニヤしながら言い返す。


「……あ! やべぇ! 時間がない!」


ふと気がつき、オデウを見ると、遅刻まであと五分という、ギリギリな時間になっていた。


「やべぇー! 行くぞ!」


祐介は真っ先に翔ぶように駆け出す。その速度は、下手な速度上昇系の能力者にも匹敵するほど速い。これはすべて持ち前の運動能力である。


「あー! もう! こんなことしてるから!」


ラミアも続いて綺麗なフォームで走り出した。そこまでのスピードはないが、そこそこのペースをしっかり維持し、祐介に追いつく。


「さ、僕らも行こう」


スカルはセリアをおんぶし、足に力を込める。そして――


「とぉ〜っ!」


大跳躍。住宅の家をも超える、スーパージャンプである。
スカルの能力は、『炭素を操る』ことである。自分以外の人の肉体をいじることはできないが、自分はいじれる。もともとほぼ炭素で組成された体をしたスカルは、足の骨となる部分の強度をあげ、逆に筋肉の柔軟性を増やした。さらに、炭素で編んだ人工筋肉で筋肉を増量し、大跳躍をした。走るよりも体力の消費が少ないからである。
祐介も飛べることは飛べるのだが、ラミアが飛行魔法でばててしまう上に、スカートの中が見えてしまうので飛ぶことは出来ない。


「それじゃ、お先にー」
「おさきにー」


二人はアメコミのように、ぴょんぴょん飛び跳ね、あっという間に学校へ。


「くっそー! ずりい!」
「この速さならまだ間に合うよ!」


二人は滑り込みセーフ。しかし祐介だけは頭に痛いゲンコツを一発先生から頂いた。




◆◆◆




「おー痛ぇ……」


祐介はHRを聞き流しながら、頭をさする。


「以上。授業はちゃんと聞けよー」


HRはほぼ聞いていなかった祐介だが、言いたいことは理解していた。


「保健室行くか……」


氷嚢でももらってこよう、と祐介は席を立ち、保健室へ。




◆◆◆




「……はい、どうせなら治癒を持つクラスメイトに治してもらえばいいのに」


保健室の先生にお小言を言われながら、氷嚢をもらう。


「こんな些細なことに能力使ってくれる人はいませんよ。ナイチンゲールじゃあるまいし」


大昔の能力者、ナイチンゲール。昔は能力者がそこまで一般的でなく、かつ、そこまでの力を持っていなかった。しかし、彼女は今から見ても強大な治癒の能力を持ち、戦場を駆け回ったと言う。敵味方関係なく、怪我の大きさも問わず。時に自分の足が大砲などで吹き飛ぼうとも、自分の足を治し、負傷者のもとへ。そんな逸話の残る伝説の治癒能力持ちだ。


「ごめんねぇ、先生、こう見えて治癒能力持ちだけど、皮膚限定なのよー」
「いやー、そこまでの怪我じゃないんで。ありがとうございました」


氷嚢を持って冷たくなった左手をポケットに入れ、右手で氷嚢を押さえ、頭につけておく。


「一限は国語か……」


面倒だ、と祐介はげんなりした顔で教室に戻った。



◆◆◆




「……このとき、作者の李白はだな――」
(……くっそ暇なんだが)


祐介は迫りくる睡魔と戦っていた。今の時間は国語。祐介が一番嫌いな教科だ。今日は、昔の漢詩を勉強しているが、あまりに退屈なのでクラスの大半はウトウトと浅いまどろみを繰り返していた。
祐介も一応ノートは取っているものの、まったく理解ができない。


(今回のテストは終わったな……)


早々に今度のテストを諦め、授業中だと言うのにこっそりスマホをいじりだす。


(げ、ドラくるメンテ中じゃん)


祐介は今ハマっているアプリゲームをやろうとしたが、生憎メンテ中らしい。そこで、ラミアに意味もなくチャットを送る。


《あびゃー》


何かしらのレスポンスを期待し、画面を見つめる。


《…………》


既 読 無 視!


一分足らずで既読は付いたが、返信は来なかった。スルーされた。


《あびゃー》


仕方ないので今度は同じ文面をスカルに打つ。すると、すぐに返信が。


《授業はちゃんと聞くものだよ? 今度はテスト前に教えてあげないからね》


まるで今しがたスマホをいじっていたのかと思うぐらいの返信スピード。


《ラミアが既読無視する。悲しい(T_T)》
《そんなにラミアが恋しいのかい?》
《あ? 頭蓋骨陥没させんぞ?》
《冗談だよ。とにかく、ちゃんと授業受けなよ?》


スカルからこれ以上返信はなかった。


「であるからして、ここの場面は――」
(せめてもっと面白い授業にしてくれ……)


数分はスカルの言う通りに授業に集中してみたが、あまりにも退屈なので、教師の腕の悪さのせいにし、再びぼーっとし始めた。




◆◆◆




──────同時刻 ラミア 一年A組──────


(この範囲、この前予習したから、聞かなくてもいいか)


ラミアは綺麗な姿勢のまま、机にペンを置いた。


(普通ならこういう時、近くのクラスメートと話をしたりするんだろうけど、どう時間を潰そうかしら……)


ラミアは入学してから半年たった今でも、このクラスに馴染めずにいた。別にハブられているとか、シカトされているとかそういうわけではない。ただ、親密な人がいないのだ。つまり、友達がいない。もちろん、必要最低限の会話などはするが、プライベートの話や、いわゆる友達としての会話はゼロに等しい。
幼い頃から祐介にべったりであったため、交友関係は絶対に祐介が絡んでいる。祐介の知り合い、もしくは友達。そのため、祐介無しでどう人に接していいか、よくわからなかったのだ。人はそれをコミュ障、と呼ぶが、そうではない。別に会話も問題なく行える。しかし、祐介なしだと、人に興味が湧かないのだ。コミュ障とは違う、別のなにかである。
そのため、周りには清楚に振る舞い、作り笑顔を振りまく。
まるで、祐介といるときは別人と思わせるほどの豹変っぷりだ。
ラミアもそれは自覚していた。しかし、直す必要は無いと思っていた。


(さて、板書も写したし、本格的にやることが無くなったわね……)


こっそりスマホを取り出し、適当にネットサーフィンをしていると――


《あびゃー》


祐介から謎のチャットが来た。


(……アイツは何も悩みがなさそうでいいわね……》


祐介のメッセージを生暖かい視線で見つめ、返信することなくスマホをポケットにしまった。既読無視である。


「……あ、あの、ラミアさん」


突如、隣の男子が意を決したような顔でラミアに話しかけてきた。


「……何……かしら?」


思わず邪険に扱いそうになったのをこらえ、できるだけ丁寧に返す。本当は話しかけてきてほしくはなかったが、一応清楚で通しているため、そういうわけにはいかない。
話しかけてきた男子は、顔もそこそこの、どこにでもいる男子だった。


(祐介の方がまぁ、マシかもね…)


ラミアは無意識のうちに祐介というものさしで隣の男子を測っていた。


「えっと……教科書、その、貸していただけませんか?」


クラスメートだと言うのに、敬語を使ってくる。それに少し苛立ちを覚えた。
ラミアは清楚に振る舞い、誰にでも平等に優しく接するので、クラスメートから評判は良かった。男子には『高嶺の花』だとか、『大和撫子』なんて呼ばれている。もっとも、ラミアはその呼び方が凄く嫌いだが。


(……今更? もう授業の半分は過ぎているんだけど……?)


今の授業は数学。たしかに、教科書がなくともなんとかなるが、今日は初見の範囲をやっているため、教科書は必須。


「忘れたの? ……必要ないから貸してあげるわ」


どうせ既習範囲だ、とラミアは教科書をそのまま渡した。しかし――


「い、いえ。で、でも、それだとラミアさんが見れないので」
「いいの。別に私は――」


そう言おうとしたとき、いそいそと隣の男子が自分の机を、ラミアの机にくっつけようとしていた。


(……ああ、そういうことね……)


ラミアは少々うんざりしながら、男子の意図を察した。
よく見ると、男子の横にかかっているカバンからは、先程まで使っていたのであろう、教科書が無理やりねじ込まれていた。
わざわざ嘘を付いてまで教科書を仮に来ようとするあたり、なにか話すきっかけが欲しかった、ないしは、接するための理由を作ろうとしたのだ。
『祐介なら、もっと自然だし、そもそも素で忘れるタイプね…』と、また祐介と比べてしまう。


実の所、祐介は極度のトラブルメーカーや巻き込まれ体質なので、何がなんでも人と関わってしまうのだが、ムードメーカーな一面もあるのでそれが功を奏して、広い人脈を偶然持ってしまっただけなのだが。


隣の彼の安直な考えに頭が痛くなってくるものの、ラミアはそれを顔に出さない。


(好意を持ってくれるのは嬉しいけど……ねぇ)


別に好意を持たれるのは嫌なことではない。ただ、視線が嫌なのだ。
わかりやすく、胸顔胸の順で見られれば、嫌気もさす。不快感のほうが勝るというものだ。


(こうもほぼ初対面のような相手にやられると嫌ね……)


祐介も似たような感じではあるが、祐介はちゃんと『ラミア』を見てくれる。顔とか、胸で人を判断しない。──鼻の下は伸ばすが。
しかし、別にラミアは祐介の視線は嫌ではなかった。というか、ラミアは祐介を誘惑するような行動を取っていたり、付き合いが長かったりと、ちゃんとした理由があるので不快感より『しょうがないなぁ』としか感じなかった。


「あの、ラミアさん。突然で申し訳ないんですけど……」
「……どうかした?」


あくまで他人行儀に、でも冷たくならないように細心の注意を払いながら返事をする。


「その……ほ、放課後って、空いて、ますか?」


男子は真面目な顔でラミアに問う。


(……面倒くさい)


ラミアは内心では凄く嫌な顔をしつつも、丁寧に断る。


「申し訳ないけど、断らせていただくわ。それと、女性を口説きたいなら、段階を踏んで頂戴。こんないきなり誘わないこと」


興味すら湧かないので、即断る。しかし、それだとまた言ってきそうなので、他の女の子でも誘いなさいと、ラミアは軽い助言も挟む。つまり、もう私を誘うな。そう言いたいのだ。


「そう、ですよね……すいません」


男子は予想していたのか、そこまでショックな顔をせず、黒板のほうを向いた。
これがラミアが高嶺の花と言われる所以だった。男子……のみならず、女子の誘いもすべて断る。断る理由としては、興味が無いし時間が惜しい。
しかし、人は噂好き。みんななぜラミアが誘いに乗らないか考える。その中で一番有力と言われているのが、『祐介との関係』だった。
最上級クラスのラミアと最下級クラスの祐介。その二人が幼馴染、かつ両親の付き合いがあると、まるで母子、もしくは兄弟のように見られてしまう。
要は『親の関係と幼馴染という立場から、祐介の世話で忙しいのでは?』ということとなっている。
単に、付き合っているという憶測もあったが、このご時世、無能力者と付き合うなんてことはまず無い。ましてや、ラミアほどの能力者ならありえないと思うだろう。
公になれば、軽蔑を受けるかもしれない。という、自分たちの社会の尺度で考え、二人をそういう目で見ることはほとんどなかった。普段から祐介とラミアのやり取りを見ている生徒は別だが。


横目で男子を見ると、少し落ち込んだ表情のまま、授業に集中し始めていた。
しかし、ラミアはなんの罪悪感も抱かなかった。むしろ、断って当然とさえ思っていた。
早く祐介とくっついて、こういう誘いを撲滅したい……と一人悶々と考えるラミア。しかし、肝心の祐介は、どこかまだためらい……というより、『なにか』あるようで、なかなかそうなれないでいた。


(あの様子だと、絶対いけるはずなんだけどなぁ……)


昨日のことを思い出し、つい嬉しくて顔がニヤける。しかし、それを誰も見られたくないのでラミアは収まるまでうつむいたままでいたのであった。

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