無能の烙印-Until the world changes-

どくろん

第2話 幼馴染の二人

──────久遠家2階 ラミアの自室。──────


薄暗い部屋で、ラミアは頭を抱えていた。


(思い返すとすごいことしてたわね私……)


先ほどの行いを思い出して、今更悶絶していた。


「……よし、落ち着いた」


少し落ち着くと、クリーム色のセーターを脱ぎ、ため息をつく。


「……次は何してやろうかしら」


悶絶したばかりなのに次どう誂うかを愚考しながら、シャワーを浴びた後のための衣類を準備し、風呂場へと向かう。喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、まさに彼女のためにあるような言葉である。基本ラミアは、その時が楽しければいいという考え方だからこそでもあるが。


「……」


ぱさり、と洗濯機の上に準備した衣類を置くとセーターを籠に投げ入れ、シャツを脱ぐと豊満なFカップの胸が顕になる。
ブラを外してもさほど垂れることの無いハリのある胸は、まさに『美乳』であった。
しかし、豊満故か、当の本人は自身の体型に少し悩んでいた。
ぎりぎりくびれこそはあるものの、『むっちり安産型体型』が彼女の悩みだ。


(少し太った……?)


全裸になった自分の身体を見て少し顔を顰めると、風呂場に入りシャワーを浴びる。
熱めのシャワーを浴びて赤らんでいく肌はとても艷やかで、普段はゴムなどでポニーテールに結いている肩甲骨あたりまで伸びたオレンジ色の頭髪とよく馴染んでいた。
少しスッキリすると、風呂から上がりラミアは祐介の部屋で泊まる準備をし始めた……。




◆◆◆




──────同時刻 二階堂家宅 祐介の部屋──────


祐介はラミアを迎える準備に勤しんでいた。といっても普段から片付け程度はしていたので、掃除機をかけたり消臭スプレーをする程度ですぐ終わってしまっていた。
一階に降りると、1人の女性──母親のユリに声をかけようとするが、スマホで誰かと通話をしていた。


「……えぇ、わかったわ。祐介に伝えておくわ……念の為に結界とかも張っておくわね?」


ユリはそう一言伝えると電話を切る。
そして、祐介を見るなり、ユリは少し安堵したような表情で祐介を見る。


「祐介……大変な目にあったんだってね? 今回の騒ぎの原因だとか」
「……ごめん、心配かけたよな……」


ユリの気持ちも考えずに行動してしまったことを謝る。


「ううん、生きて帰ってきてくれてよかったわ。で、理事長さんにも言われたと思うけど、今度からは気をつけなさいな……一人で勝手に突っ込んで、ラミアちゃんを護れないでどうするの」
「……気をつける」


その通りだ。今の祐介にラミアを護ることはできない。それどころか、ラミアに守られる可能性だって十分にありうる。


「……はい! この話はおしまい! 結界も張っておくから安心なさい。それで、何か用事あったんじゃなくて?」


暗い雰囲気が嫌になったのか、ユリは手を叩いてこの話を終わらせる。


「あ、ああ……母さん、ラミア来るからなんか作ってくんね?」
「あらそうなの? ちょうどドーナツ作ってるから、ラミアちゃんが来たら持って行くわね」
「お、マジで? ありがとう」
(あとはグラスぐらいか)


祐介は食器棚からグラスを取り出そうとすると、ユリ止められる。


「せっかくだからこれ使いなさいな」


そう言って渡されたのは、祐介とラミアが小さい時に作った不恰好な陶器のグラスだった。


「またそれ? ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「なにをそんなに恥ずかしがってるのよ〜。懐かしくていいじゃない?」


ユリは向かいを思い出すような表情で、祐介を説得する。


「いや、まだそういったのを懐かしむ歳じゃないし! 母さん位の歳になったら感じるかもな──あ」
「……ほー? 『私位の歳』? 聞き捨てならない言葉ね……私がそこまで歳を取っていると言いたいのかしら……?」


地鳴りでも聞こえてきそうな程のユリの怒りのオーラに当てられ、祐介は思わずたじろぐ。
祐介は踏んではいけない地雷を踏んでしまい、とっさに逃げ出す。


(さ…三十六計逃げるにしかずぅぅぅぅ!)
「ゴルラァ!! 祐介ぇ!!」
「いやちょっとキツイっす!! ご慈悲を!! アァーー!!」




◆◆◆




ユリのお仕置きから開放され、部屋で折りたたみテーブルを広げていた祐介は、まだズキズキと痛むこめかみを擦っていた。


「痛ぇ……。加減つーもんをそろそろ覚えてほしいぜ……」


そんなことをしていると、ベランダ───といっても改装で渡り廊下になってしまっているが───へ繋がっているドアがガチャリ、と開かれる。


「おまたせっ」


ドアの影からひょこっと顔を出したのはラミアだった。
準備を終えた祐介は、「あぁ」とそっけない返事をする。


「いろいろ持ってきたわよ? ゲームのコントローラーとかもちゃんと……勿論、着替えもね? ふふっ、楽しみにしておいてね?」
「……え? こ、ここで着替えんのか……?」


ラミアの誘うような発言に祐介は戸惑う。


「なーに言ってるの? 自分の部屋で着替えるに決まってるじゃない」
「じ、自分の部屋で着替えるのになんで持ってくるんだよ」
「勘違いさせて、困惑させたかったからかしら?」
「その目的の為だけかよっ!!」
「それ以外何があるのよ。まさか本気で着替えるとでも思ってたの?」
「んなわけ───」
「……変態」
「……う、うがぁー!!」


またしてもラミアに弄ばれる祐介だった。




◆◆◆




夕暮れの住宅街に、一人の男が車を走らせていた。
二階堂宗介、それが彼の名で、苗字から察しはつくが、彼は祐介の実の父親である。
技術開発局に務めている彼は、仕事を早めに済ませ、愛する家族の元へ帰っていた。


「今日も静かだな……この街は……」


あまりにも静かすぎるこの街にふと声を漏らす。
しかしその独り言を聞く者はおらず、ただ虚しく車内に響くだけだった。
自宅につくと何やら聞き慣れた騒がしい声が二人。


『───あはははっ!! 祐介ほんとに面白い反応するよね~!』
『あーもー! 勘弁してくれ! なんでいつもそんな俺に期待させるようなこと言うんだよ!?』
(……はぁ……全く祐介はいつも誂われているな……尻に敷かれてしまうぞ……)


自分の息子の誂われ様に、思わず溜息をつく。


『祐介だって男の子だもんね、仕方ないよね』
『うぉぉおおい! 俺はまだ何もしてねぇ! 冤罪だ冤罪!』
(……不純異性交遊とみた。あー砂糖吐きそう。おろろろ)


祐介たちの喧騒を聞きつつ、一人ぼやく。
車庫に車を戻し自宅に入ると、ユリが出迎える。


「おかえり、宗介」
「あぁ、ただいま。上のバカ二人は相変わらず今日もいちゃついているのか?」
「えぇ、そうね……事に及ばないのがおかしいぐらいの会話の内容ね。あの子達学校でもああらしいわよ……」
「関係をわきまえて手を出さないあたり、祐介は立派だが、あれでは尻に敷かれるな」


二人はリビングに向かい、宗介はソファでどっかりと腰を下ろす。すると、今日一日の疲労が抜けていくのか、「あー」と幸せそうな声を漏らす。


「心配するところそっち? まぁ……尻に敷かれてるところは父親の貴方にそっくりね」
「ほう、私が尻に敷かれていると……?」


聞き捨てならんな、と宗介は体を起こす。


「いい加減認めなさいな」
「ふん、今夜覚悟しておくんだな」
「あらあら、口と下半身はいっちょ前なのにねぇ……子供達の前では大人ぶってる癖に、私の前ではホント子供なんだから」
「うぐっ……」
「それとも…いま決着つける……?」


そう言うと、ユリはソファでくつろぐ宗介の膝の上にまたがり始める。


「ちょっ!! まだ夕方だぞ!?」
「もう夕方よ。それに、どの時間でも関係ないでしょ? 大昔は外でヤッたくせに」
「い、今と昔は違うだろう!?」
「んっふふ……かわいいっ」


宗介の様子を観察して我慢できなくなったユリは、自分の唇で宗介の唇を塞ぐ。
宗介は突然のキスに驚いたものの、優しく抱きとめて受け入れる。


「母さん、飲み物他に──」


リビングのドアが開かれ、飲み物を取りに来た祐介にキスの瞬間を見られてしまう。


「「あ」」


夫婦揃って間抜けな声を上げてしまう。
余程深いキスだったのか、二人の口から唾液がつーっと糸を引いていた。


「ご、ごめん!!」


祐介は咄嗟に状況を理解し、そそくさと逃げ出す。


「祐介? どうか──ユ リ さ んっ!?」


騒ぎを聞きつけたラミアも二人の様子を見てしまい、思わず口を抑える。


「ラミアちゃん、こ、これはね――」


必死に弁明しようとするユリ。しかしラミアは――


「あぁ……ユリさん……尊い……死んじゃいそう……」


ユリが弁明しようと開いた口を閉じる。そしてラミアは一人ヘブン状態に陥り、悶絶し始める。
それを見て宗介は──


「ゆ、祐介……俺達はこれから『夫婦の営み』をするから部屋で神妙に待ってなさい。大丈夫。防音の結界も張っておくから」
「何だこの父親……母さんどうにか──」
「無理ね。私も昂ぶってきちゃったし、もう抑えられないわ。悪いけどラミアちゃんを連れて上で大人しくしてて頂戴」
「えぇ……俺の親まじやべぇよ……」


祐介は事の一部始終に錯乱しつつも、ラミアを自室に連行する。途端に幸せそうな二人の声が漏れ聞こえる。


(……早いとこ防音結界張ってくんね?)


親のダメさに頭が痛くなってきたのか、こめかみを押さえる。


「ユリさんが尊すぎて生きるのが辛い」


まだ顔を上気させているラミアの額を痛くないようにペチッとはたく。


「あ痛っ」
「お前は少し黙ってろっ」


ふくれっ面するラミアを他所に、『はぁ……』と、ため息をつく祐介。
ラミアのユリへに対しての反応は今に始まったことではない。
彼女の中ではユリが理想の女性であり、宗介とのやり取りを見て『自分もああいうやり取りがしてみたい』という憧れの結果、このようなことになってしまっているのである。


もちろん、自分の母親のことも尊敬してはいるのだが、性格があまりにも違う。


(こういうの早く無くなんねぇかな……巻き込まれるこっちはたまったもんじゃねぇ……)


叶わぬ願いを頭に巡らせるが、おそらく叶うことはないだろう。
祐介は重い足取りで階段を登っていくのであった……




◆◆◆




しばらくの間、祐介とラミアはゲームで時間を潰していた。


「ラミア、死にそう」
「知ってる、治してあげるから踏ん張って」


ゲームの音声と最小限の会話しかない部屋に、カチャカチャとコントローラーのボタンを叩く音のみ響く。……時折結界の維持に支障がでるほどの『なにか』をしているのか、自分の親から絶対聞きたくない嬌声が聞こえてくる。


(ああ、もう死にたい……)


祐介は集中できないままコントローラーのボタンを叩き続けるも――


「「あ」」


ラミアの回復が間に合わず、全滅してしまう。


「あらら、誰かさんがボスしか狙わないせいで周りのモンスターの処理で、回復間に合わなかったじゃない」
「これについては正直すまんかった」


『集中力を著しくかき乱す声が時折聞こえるもんでな』と祐介は頭を抱える。


「まぁ、二人で挑むボスじゃないし、しょうがないといえばしょうがないわね」


んー、とコントローラーを置き、伸びをする。
ラミアの伸びの声や動きで揺れた胸で祐介はチラチラと見て鼻の下を伸ばす。


「…なに見てんのよ」
「いや…? なんでも…?」


態とらしく目を逸らす祐介をジトっとした目で見るが時計を見て結構な時間が経っていることに気がついた。


「……あら、もうこんな時間ね。祐介、お風呂入ってくるわね」


ラミアは立ち上がると、着替えを持って部屋のドアから出ていく。


(当然のように俺ん家の風呂使っていくんだな……)


祐介は自分の着替えを準備すると、そそくさとリビングへ降りる。


(流石にもう大丈夫だろう……大丈夫だよな?)
(また誂われたら面倒だからな……親父たちの目があるところに待機してれば問題ないだろう……というより、親父と母さんの……アレは終わったか? 終わってないとかなーりキツイもん見ちまうからな……)


こっそり聞き耳を立てる。


(…………うん、大丈夫そうだ)


安堵し、大きなため息を吐く。どうやら『二回戦』は自室で行っているらしい。


「あー、まじつらたん」


ソファーに寝っ転がるように座る。疲れがどっと押し寄せてきたのだろう。
『たまには虚を突いてラミアを怯ませてやろう』と祐介は一人リビングで考える。


(ラミアは俺を誂うために変な格好で、部屋にいない俺を探し始めるはずだ……此処にいれば安心だろう──)


しかし、その考えは甘かった。


───ピロリン♪


5分ぐらい色々していると、スマホから通知音が鳴る。


“ラミアさんから新着メッセージがあります”
「ラミアからだな……」


通知の内容を確認するべく、スマホを開く。


“なにこれ? ”


チャット画面にメッセージと画像が表示されている。その画像とは――……肌色成分多めの際どい雑誌……俗に言う、エロ同人というやつである。友達から譲り受けた至高の逸品である。


(は!? なんで俺のお気に入り……じゃない、エロ同人が!? っていうか、風呂から上がってくるの早くね!?)


ラミアはここに来る前にシャワーを浴びているからなのだが、そのことを祐介は知らず、パニックを起こし、部屋につながる階段を走る。


(マズイマズイマズイ!)


祐介は必死に言い訳を考える。陳腐な言い訳でも、言わないよりマシだろう。

「ラミア、それはだな──」


言い訳を口にしようと扉を開け、一応隠し場所である戸棚を見る。しかし、戸棚には触られた形跡がなく──


「……ぷっ」


大慌てで部屋に駆け込んで来た祐介を見てラミアは吹き出す。


「…………まさか」
「そう、罠よ〜。ふーん、そんなところに隠してたとはね」
「あ……」


……してやられた、と祐介は頭を抱えた。
大方スカルのツテかそのままネット検索で画像だけ手に入れたのだろう。撮られていた床が祐介の部屋では無い。


「今更気づいたの? ホント単純ね〜」


腹を抱えて大爆笑のラミアを見て祐介は落ち込む。『またやられた』と。
ラミアはご機嫌な様子で祐介にさらにちょっかいをかける。


「どう? 興奮する?」


祐介は、そう言われ、お湯が滴って色っぽくなっているバスタオル姿のラミアから目を逸らす。本当はジッと凝視したいはずだが、我慢し目をそらす。
予想通りの祐介の反応に気を良くしたラミアは、バスタオルの胸元を掴むとズイっと谷間が見える程度だけ下げ、いつものように祐介に対して蠱惑的な誘い方をする。


(し、刺激が強すぎる……!)


いくら幼馴染で反応が面白いからと言って、これはやりすぎではないかと祐介は考える。
だから、あまりしたくはなかった手段を取ることにした。


(嫌われる可能性もあるけど……やむを得ないか)


祐介は意を決すると、ラミアの腕を掴んで壁へと押しやる。険しい顔で。


「ちょ……祐介!?」


いつもとは様子が違う祐介にラミアは困惑をしている。しかし、祐介は止まらない。
ドッ、という鈍い音を立てて、ラミアの体が壁に押し付けられる。
ラミアが逃げないように、本気に見せるために腕をがっしり掴み、顔を近づける。


「ラミア…毎日こんな誂い方してるけどよ……誘ってんのか?」


祐介は『俺は狼だ、狼だ』とひたすら鼓舞する。ドクドクと鼓動は激しくなる。緊張で汗は吹き出し、呼吸は荒くなる。
自分の中で何かがはじけそうな気がしたがそれは超えないように抑える。


「……知らないわそんなの。祐介はそう思ってるの?」


しかし、困惑したのはほんの一瞬だけ。また挑発的な顔をする。


「毎日毎日こんなことしやがって……覚悟はできてるんだろうな……? 男は狼だとさっき言っただろ?」
「……」


ラミアは黙って祐介を見つめる。最初からこうなると分かっていたかのように。むしろ、待ち望んでいたかのようだ。
慎重さのせいで上目遣いに見えてしまい祐介は目を逸らしたくなるがそれはしないようにする。


(なんで抵抗しないんだ……? 抵抗してくれよ…)


普通なら、祐介を突き飛ばすなり、悲鳴をあげるなり、泣き出すなりと、自分の貞操を守るための行動に移るはずだ。
しない、と言うことは自分に体を許すまでに好意を抱いてくれているのかと、祐介はラミアの気持ちを考えた。嬉しかったが、確証はないし告白は自分からしたい。
しかし、確証が欲しかった祐介はその理由を尋ねてしまう。


「なぜこんなことをする……?」
「……面白いから」


いつもその言葉で丸め込まれてきた。でも、祐介はその言葉の裏に潜む言葉にある程度気がついていた。問答を重ねるごとに、それは確定に近づいていく。


「それはもう聞き飽きた。他にも理由はあるだろう?」


祐介はラミアの眼を真っ直ぐ見据える。
ラミアも祐介を見据える。
数秒の沈黙の後、ラミアは口を開く。観念したように。


「……私ね……あんたのいろんな表情を見るとすごく幸せなの……」


うっとりと、先ほどのユリを見ているのと同じ顔をする。
寸手の所で理性を保った祐介は自分を褒めた。


「私とあんたと二人のときに見れるのがすごく心地よくてね、他のひとに見られたくなくて、こんな誂い方をして、あんたを束縛してたの……」


ラミアは祐介の眼を見つめたまま、ゆっくりと気持ちをぶつける。
ラミアは自分が独占欲が強い女だということを自覚している。でも、だからといってその気持ちを押さえることはしない。なぜなら祐介は受け入れてくれるからだ。祐介が気にしないなら、どうだっていい。
そして祐介は『なんでこんなことまでしてラミアの気持ちを聞き出してしまったのか』と今更ながら後悔する。
こんな純粋で綺麗な気持ちをぶつけられては、祐介の心が締め付けられて壊れてしまいそうだった。


「だから私、あ――むぐっ!?」


ラミアが次の言葉を紡ごうとした瞬間、祐介は反射的にラミアの口を塞ぐ。


「いい、いいんだラミア。それ以上は……言わなくていい」


祐介はそのまま自分の唇でラミアの唇を塞ぎたくなったのを抑えながら、ラミアの口を塞いでいた手と腕を掴んでいた手をゆっくりと離す。


「すまん。こんなことまでして止めるべきじゃなかったな」


祐介は反省したように声を落とす。


「ただ、今後は俺を誘うような誂いは二人きりの時は少し控えてくれると助かる……その…抑えられなくなるからさ……」
「うん……ごめん」


ラミアも顔を赤くし、約束する。


(……風呂でも入ってすっきりしよう……)


祐介は逃げるようにそそくさと部屋から出ていった。


「……意気地なし……」


不満そうにラミアは口を尖らせ、先程の祐介にされたことを思い出して、ラミアは胸がきゅう、と締め付けられる感覚を覚える。


「……」


ラミアのボソリと言った最後の一言は、部屋の外で様子を伺っていた祐介の耳に届いてしまっていた。


(すまん…今の俺ではお前に相応しくない……無能を見下す奴らに認めさせるんだ……能力を持っていることが人間の程度の判断基準じゃねぇって事を……今のままお前と一緒になれば……お前は俺と同じように軽蔑されるかもしれない……友人関係の今のままでいいんだ……)


祐介は自分の中でそうラミアに謝る。祐介はこれがエゴであることは重々承知している。でもそうでないと祐介は納得できないのだ。そう思いながらできるだけ音を立てないように階段を降りていった……




◆◆◆




しばらくして祐介は風呂から上がると、ラミアと就寝の準備を始めた。


「ねぇ……お願いがあるんだけど」


少し恥ずかしそうにラミアはパジャマの裾を掴み、もじもじと祐介を見る。


「ん? どした?」


ラミアは少し間をおくと、遠慮がちに口を開く。


「その……同じ布団で寝たいな、って……」


祐介はそれを聞いてしばらく思案する。


(さっきは断ったけど……今思い返すと、怖い思いをさせたな……ここは聞いてやるか……)


いつもなら絶対にNO!と言っていただろう。しかし、先ほどのこともあった手前、頷くしか無かった。


「しょうがねぇな……ほら、入れよ」
「う、うん……」


祐介は布団に先に入ると、掛け布団を持ち上げてラミアを誘う。
ラミアは遠慮がちに布団に入ると、祐介はラミアに背を向けるように寝る。


「じゃあ、電気消すぞ」
「……うん」


祐介はリモコンを操作し、電気を消す。
暗くなった部屋で、ラミアは同じ布団に入るだけでは足りないのか、祐介を背中から抱きつくように寄り添う。


(そんなひっつかれたら寝れないんだけどなぁ……)


祐介は背中に感じる柔らかいものに悶々としながら眠りにつくのであった……。

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