この世には、数字にできないことがある

一刻一機

第15話 ユース③

 ユースの「公開処刑」の会場であったはずの、室内訓練場は静寂に包まれていた。

 【強化魔法】を使っても、全く魔力の片鱗も見せなかったユースが、業火の如く魔力を黄金色の魔力を噴き出していたアラサムを、たった一振りで叩きのめしたからだ。

「あれ……おかしいな。副団長、自信満々だったのにな」

 そんな中、ユースは純粋にアラサムの「弱さ」に首を傾げていた。

 ここでアラサムを含め騎士団、貴族達、そして王族ーー更にユースすら勘違いをしていた点がある。

 それは、ユースが余りにも強過ぎることだ。

 入団前から騎士団長と「互角」に戦い、その後も団長と「特訓」を受け続けて来たので、誰も彼もが、「団長と同レベルの凄い新人(ユース)」程度の認識であるが、その実態は入団試験では騎士団長を「圧倒」し、団長がユースに「挑戦」し続けていたのだ。

 先輩騎士達は、ユースに負けることを恐れて手合わせを嫌がっていたので、実はユースは騎士団でまともに手合わせを行なったのは、団長しかいない。

 そのため、ユース自身すらも、ユースの実力を理解していなかったのだ。

「ぐっ……この餓鬼ぁ……殺せ!お前ら来い!全員でこいつをぶっ殺せ!」

「なっ!?副団長!?さすがにそれは……!」

 剣を杖代わりに立ち上がったアラサムが、訓練場の入り口に向かって叫ぶと、武装した男達がわらわらと現れた。

 審判役の騎士が慌てて静止するが、剣を抜いた男達の勢いは止まらなかった。

「くそっ!?どうすればいいんだ!?」

 こういった時、馬鹿貴族の暴走を止める役の騎士団長は貴族派の策略で町の外にいる。

 たかだか一兵卒である審判役の兵士では、どれだけ理不尽で法に触れていても、ヴィンダイス公爵家に逆らうことはできない。

 武力的にも権力的にも、この場でアラサム達を止める事ができる騎士はいなかった。

「あ、先輩お構いなく」

 だが、審判役の先輩騎士が血相を変えおろおしているのにも関わらず、ユースは軽く声をかけるだけだった。

 ユースの主観からすれば、騎士団長よりも大きく力量が劣る副団長、更にその副団長よりも身のこなしが悪い武装兵が何人やって来ても、特段何の脅威も感じていなかったのだ。

「よいしょっと」

「ぎゃあああああ!?」

 【強化魔法】が発動したままになっていたので、そうっと優しく剣を横薙ぎにふるったところ、数人の男達が血反吐を撒き散らしながら、アラサム同様に壁まで吹き飛ばされていった。

「ん。やばいなぁ。手加減が難しいや」

 アラサムは、ヴィンダイス家の家宝【竜鱗鎧】を着込んでいたため打撲程度で済んだが、普通の金属鎧程度であればあ、ユースの前では紙屑と大差がない。

 気を抜くと、刃引きの剣でも誤って斬り殺しそうになるため、ユースは最大限の集中力を持って剣を振るっていた。

 人数が人数だったので、ユースの注意が男達に集中してしまったのは、やむを得なかっただろう。

 だから、この後の不幸な事故も、仕方がないことだったのだ。

「死ねぇぇぇ!」

 ユースが男達に立ち向かった、その背を狙ってアラサムが全力で剣を叩きつけた。

「ユース!」

 誰もアラサムに注意を払っていなかったため、審判役の騎士もその凶行を察知することができなかった。

「うわぁぁぁ!?」

 訓練場にユースの驚きの声が響き渡り、アラサムは狂気に満ちた眼で勝利の笑みを浮かべた。

 【無斬きれぬものなし

 驚きの余り、ユースは騎士団長であるギリアムから、「絶対に人間に使うな」と厳命されていた技を放ってしまった。

「あ?」

 そもそも【無斬】は、斬る動作と魔法の動きを、脊髄反射レベルで同期させることで、初めて使えるようになる技だ。

 ついつい、一般人でも身の危険を感じれば反射的に顔の前に手を出すように、ユースは自然と【無斬】を撃ってしまった。

 呆けた声を上げたアラサムの右腕は、くるくると弧を描きながら宙を飛び、ポトリと地べたに落ちた。

「え……?え?。私の……腕が……私の腕があああああああ!?」

「危なかったぁ。殺しちゃったかと思った」

 アラサムは無くした腕を見て絶叫しているが、ユースは人殺しをせずに済んだ事に安堵していた。

 尚、敢えて語るまでも無いが、アラサムが死なずに済んだのは彼の実力ではなく、彼の着込んでいる【竜鱗鎧】の力である。

「両者そこまで!」

 死屍累々(誰も死んではいないが)となった訓練場に、威厳のある大声が響いた。

 今まで事態を静観していた、国王が立ち上がったのだ。

 未だに地べたをのたうちまわっているアラサム以外、全員がその場で跪いた。

「噂の若者の実力を見ようと、敢えて静観していたが、これ以上の愚行は見ておられん」

「そ、そうでしょうとも陛下!公爵家に手をかけたあの愚かな小僧を今すぐ捕縛します!」

 明らかな怒りの表情を浮かべる国王の元にいた、貴族派の1人がそう言った。

「黙れぃ!愚か者は貴様達だ!たかが、成人したての子供1人に汚い手を使って、しかも返り討ちにあいおって。そこの副団長は、決闘侮辱罪で騎士団から追放せよ!その転がっている連中は全員縛り首だ!あの副団長に手を貸した愚か者共は、全員調べ上げて、後日必ず何らかの厳罰を処すからな!」

 しかし、国王は貴族の妄言を一蹴すると、怒りも露わに訓練場を後にした。

 そしてその後すぐに、慌てて団員や城の常駐兵が、慌ててアラサムとその仲間たち捕縛。

「私に何をする!?公爵家に逆らうつもりか!?」

 適当な【魔法薬ポーション】で応急処置を受けたアラサムは必死に抵抗していたが、王命があるため、反貴族派の兵士達が喜々としてきつめに拘束し、地下の留置場へ連行していった。

 
 ◆

 
 後にユースは語った。

「え?【恐慌】の魔法が何故効かなかったかって?

 ああ、あのペンダントが光った時は、訳もわからず叫び出したくなるような、そんな衝動に駆られましたが……もっと怖いモノを知ってますからね。効きませんよ、そんなの。

 はあ、俺の方がよっぽど怖いって……そんなわけないじゃないですか。

 そりゃあ団長、本当に怖いモノを知らないからですよ。

 俺には、弟と妹がいるんですが、その弟と比べれば、俺なんか全く怖くないですよ。

 俺の弟は、普段はにこにこして笑顔を絶やさないし、孤児院でも治療院でも……あ、そこの教会で治療の手伝いをやってるんですけどね。とにかく、どこでも他人に、特に子供や動物に好かれる優しい男なんですよ。

 ……ですがね、妹のことになると、本気で怒るんですよ。

 それも、別に声を荒げるでも無いし、表情も笑顔のままなんですが、眼が全く笑わなくなるんですよね。

 一回だけ、ミリア……妹を悪戯で泣かせたことがありまして、その時に弟に本気で怒られたんですが……

 あの眼を向けられた時は、俺は本気で死んだかと思いましたね。

 ……いや、そりゃあ単純な腕力じゃ俺が勝ちますよ。

 でも、そんなの関係無いですね。

 うちの弟が本気で怒れば、多分、いや絶対うちの弟が勝ちます。

 腕力なんて発揮するまでもなく、剣なんて抜く暇も無く、気がついた時には、きっと俺が負けて謝らされてますね。

 そんな弟がいるから、俺は安心して剣を振り回していられるんですよ。

 だけど、それは相手が俺(かぞく)だから喧嘩の勝ち負けの話で済みますが……もしも万が一、妹に危害を加える馬鹿がいたら、弟は躊躇無くその関係者全員を死んだ方がマシだ、っていう目に合わせるでしょうね。

 団長、王都の治安を本気で考えるなら、間違っても貴族派の手が俺の家族に向かわないようにして下さい。

 貴族派の家が2、3個潰れるぐらいなら笑い話ですにますが、弟の怒りが国に向けられれば、下手をすれば国家が転覆しますよ。

 あ、もちろん、そうなった時は俺も本気で暴れるんで、そこんとこもよく承知しておいて下さいね?」

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