この世には、数字にできないことがある

一刻一機

第11話 死紋蜘蛛

 召喚魔法 5/10
 魂 49/100,000
 ↓
 召喚魔法 7/10
 魂 29/100,000

「……思ったよりも、【召喚魔法】が上がりませんね」

 戦力の追加投入を図るべく、【召喚魔法】の上達を【魂】で無理矢理早めたが、20人分もの魂を使っても、2段階しか上げることができなかった。

「私の寿命10年分で5段階も上げることができたのですが……悩んでいる暇もありませんか。ローズ、すいませんがスケルトン達と一緒に、その辺の死体を集めてきてもらえませんか?」

「はい……わかりました」

 悪魔を【召喚】した際、私兵達の死体を使った事を思い出したのだ。

 【召喚魔法】は、生贄を使えば更なる高レベルの【召喚】が行えるのだろう。

 ローズが小さな体で盗賊1人を引きずってきた他、スケルトン10体も1人ずつ死体を持ってきたので、11人分の死体が集まった。

「死体と同数の【魂】と……あと何か鍵(キー)が足りない気が……ああ、こいつにしますか」

 アインの【召喚魔法】が、これから吐き出す魔物を喚ぶためには『何か』が足りないと訴えている。アインは足下に落ちていた、手の平サイズの大きな蜘蛛の死骸を拾い上げた。

 蜘蛛の腹に靴の型がついているため、恐らく盗賊の誰かに踏み殺されたのだろう。

「お前も怨みがあるのですか?死んでも怨みを持ち続けるとは、蟲のくせに見上げた根性です」

 【死霊術】の影響か、アインには死んだはずの蜘蛛が放つ怨念に気づいていた。

「その怨み、晴らす機会を差し上げましょう……『死でも消せぬ怨みよ。地獄の火よりも燃え盛る怒りを持つ蜘蛛よ。果てぬ呪いを抱き生まれ変われ』【死霊創造】【召喚】」

 魔法が要求するままに、アインは【死霊術】と【召喚魔法】を強引に同時発動を行った。

「ぐ、ぐぅぅぅ!これは、結構きついですね!」

 アインの持つ莫大な魔力で、強引に2つの魔術1つへと纏め上げる。

 すると、盗賊の死体から血が吹き出し、蜘蛛の死体を中心に赤い・・魔法陣が描かれ、紫色の鈍い光を放ち始めた。

 11体もの盗賊の死体は、まるで見えない糸に引かれているように、ずるずると地面を滑りながら、魔法陣まで引き込まれ肉団子となって中心部に飲み込まれていく。

 蜘蛛の凹んだ腹を埋めるように、盗賊の死体が蜘蛛に取り込まれる度に、腹の傷が戻り、やがて体全体も膨れ上がっていった。

 魂 29/100,000
 ↓
 死紋蜘蛛 × 1
 魂 18/100,000

 全てが終わった頃には、先程よりは3回り程大きな、子犬並みの大きさになった蜘蛛が生まれていた。

 全体的に黒に近い紫色だが、その背には真っ赤な髑髏が描かれっており、非常に不吉な印象を見るものに与えてくる。

「うわぁ……これは……」

 普段はあまり感情を表に表さないローズが、アインの足下の蜘蛛を見て、恐怖に染まった顔を見せていた。

「ローズ、この魔物を見たことがあるのですか?」

「本……それも物語の中ですが……紫色の体に赤い髑髏……恐らくそれは死紋蜘蛛と呼ばれる魔物……だと思います」

「そうですね。私の魔法でも、その死紋蜘蛛だと出ています」

「やっぱり……なら、すぐにそいつは捨てた方が、いい……と思います」

「何故ですか?かなり強力そうな気配を察していますが」

 アインの言う通り、戦闘の素人であるアインでもわかる程の不吉なオーラを蜘蛛はバラ撒いている。

「そいつは、……一夜で小国を滅ぼした伝説を持っています……強力と言う範疇を超えています」

「ふむ。それはわかりますが。この蜘蛛からは、【召喚】で付与された強制的な忠誠以上の感謝?ですかね……とりあえず懐かれているのを感じます。恐らく大丈夫でしょう」

 実際蜘蛛は大人しくアインの指示を待っている。

 拠点から湧いて出てきた盗賊達に対しては、凄まじい殺気ーーいや怨念を放っているが。

「そんなに待ちきれないなら、行っていいですよ。ただし、あの乱戦の中に2体のアンデットがいますが、貴方の先輩です。間違って攻撃してはいけませんよ?」

 そして、その怨念を放つ蜘蛛は、一刻も早く暴れたいと体を静かに震わせていたので、アインは優しく慈愛の篭った声で言った。

「さあ、好きなだけ復讐をしなさい」

 ◆

 倒しても倒しても湧いて出てくる盗賊達に、フィオナと悪魔は恐れるどころか、むしろますます調子を上げて、絶好調に剣を振るっていた。

 周囲にそれなりの死体の山が出来た頃、気がつけば2人の周りには、誰も近寄る人間がいなくなっていた。

 それはそうだろう。

 フィオナに斬りかかれば、腕に手を添えられただけで、盗賊の短剣は仲間を刺すし、矢を放てばいつのまにかフィオナの立っていた場所に味方がおり、やはり味方が死んでいく。

 全身を黒い鎧で覆われた悪魔は、近寄らなくても黒い剣が飛んできて、一振りで二、三人が死んでいく。

 つまり、何をしても味方が死んでいくので、盗賊達は攻めあぐねて動きが止まってしまったのだ。

「ギヒッ、膠着しちまった。今のところ、俺が32人で、お前が31人だろ?俺を出し抜くた抜くためには、斬り込んで行った方がいいんじゃないか?」

「ふざけるな悪魔め。さすがに、あの人数に正面から突っ込むほど馬鹿じゃない」

 盗賊の集団に囲まれながらも、余裕の軽口を叩きあっていたフィオナと悪魔だが、盗賊達の後方から突如噴き出した禍々しいオーラに双眸を鋭くした。

「ギヒッ!ただの剣術バカだと思っていたぜ……ん?なんだこの妖気は?まーたご主人様がやらかしたのかぁ?」

「ぐっ!これは……ご主人様の魔力か。どうやら悪魔(おまえ)並みのモノを喚び出されたようだな」

「馬鹿言うな。受肉してなければ、俺の方がよっぽど強ぇよ。だが……厄介さなら、コイツの方が上っぽいな」

 軽薄な笑みを浮かべたままだったが、悪魔のこめかみには冷や汗が滲んでいた。

「ひっ!?なんだ……なんだ!?」

「これは蜘蛛?こいつ邪魔だ!邪魔だ、あっち行け!」

 対する盗賊達は、そんな呑気な気持ちにはなれなかった。

 いつの間にか、夥しい数の子蜘蛛が盗賊達の体を登っていたのだ。

「こいつっ!こいつ……痛っ!くそっ!蜘蛛に噛まれ……痛ぇ!?痛ぇぇぇええ!?」

「肉が、俺の肉があっ!」

「ぐっ……はぁはぁ、へっ、所詮虫だろ踏み潰して……ぎゃああああ!?」

 赤い髑髏を背負った小さな指先サイズの蜘蛛達は、わさわさ、うじゃうじゃと盗賊達にしがみつきながら、少しずつ肉をみ始めた。

 もちろん、それでも所詮は小さな蜘蛛なので、盗賊達に手や足であっさり踏み潰されたが、なんと潰れた蜘蛛が紫色の火となって盗賊達の手足を燃やし始めたのである。

「あああああ!俺の手が!手が燃えるぅぅ!?」

「ひぃっ、ひっひゃああああ!痒い、痒いよお……ああ、手が、手が腐ってきたああああ!?」

「足があああっ!ああっ、やべえ!やべえ痛い!」

 蜘蛛の復讐の炎は、現実となって盗賊達に襲いかかったが、決して盗賊達を燃やすことはなかった。

 ただ、炎の触れた箇所が激しい痛みと共に、目に見えて肉が腐り落ちていく。

 何人もの盗賊の手足が骨だけになった頃、既に誰も戦おうと言う意思は無くなっていた。

「ギヒッ……こりゃあ、死紋蜘蛛だな。敵意には敵意を、殺意には殺意を返す、地獄でも有名な【毒魔法】のスペシャリストだ。ただし、善意には善意で返す、義理堅い種族でもある。あの子蜘蛛を、間違っても踏み潰したりするんじゃねえぞぉ?」

「わかっている……だが、どうする?ここにはもう、戦えそうなのがいなくなったぞ?」

「ギヒッ!なら、このまま中に入ろうぜぇ。まだご馳走たましいが、残ってるかもしれねぇからな」

「賛成だ。そうしよう」

 ◆

 アインの目の前には、盗賊の頭だったと思われる、立派な体格をした男と、その仲間達、計10体の死体が転がっていた。

「終わってしまった!くそっ……もう少し盗賊達がいれば……!いや、スライム達がもう少し遠慮してくれれば……!」

「ギヒヒッ!42対44で俺の勝ちだ!ご主人様。やっぱり俺の方が役に立つぜぇ!?」

「うーん。100人以上の大規模な盗賊団を、ほぼ2人ので片付けておいてその言い草ですか。いや、良い事ですけどね。これでこの街道も安全になるでしょう」

 建物内の人数 1
 内 盗賊 0

 アインの【数魔法(マス・マジック)】でも、盗賊が全滅したことを知らせいる。

 アインは敵がいなくなった事を確認した後は、スライム達に盗賊の死体を食わせながら、自分は周辺の物色を始めた。

 今回手に入れた【魂】の数は119人分にもなった。

 戦に明るくないアインでも、この人数を維持するための金銭がどれほど莫大なものになるか想像がつく。
 ならば、必ず隠し金庫か、それに類するものがあるだろうと考え、アイン達は盗賊の頭の部屋を漁っていた。

「ご主人様……ここだと思う……」

「ああ、なるほど。さすがですね」

 室内には大きな金庫があり、アインが鍵を探しても、中々隠し場所が見つからなかったが、ローズがあっさりと見つけてきた。

 見た目が少年なので、孤児院の子供達を思い出して、ついつい頭を撫でてしまった。

「……ありがとう、ございます」

 少し恥ずかしそうなローズを尻目に、アインが金庫の鍵を開けると中には、かなりの量の金銀財宝が詰められていた。

「ギヒッ!これだけあれば、しばらく遊んで食えそうだな!」

「ご主人様。これは全て持って帰りましょう。軍資金は、あって困るものではありません」

 暗い室内でも光眩く財宝を見て、悪魔とローズが持ち逃げを提案してきたが、アインは首を横に振った。

「ダメです。こんな宝石や金細工を持ち出しても、換金できません。むしろ、盗難を疑われて逮捕されるのが落ちでしょう。もっていくなら、貨幣だけですね」

 そう言って、金貨の詰まった袋を放り投げつつも、アインはまだ金庫の中を探していた。

 換金に困るほどの財宝を、この盗賊団が換金する手段を持っているはずだった。

 でなければ、100人を超える規模の食い扶持を維持できる筈がないのだ。

「ありましたね」

 金庫の一番奥には、厳重に封をされた封筒が隠されていた。

 貴重品である紙がふんだんに使われており、身分を示す蝋印などは無かったが、かなり身分の高い存在が関与していることを匂わせている。

「はてさて、どこの腐れ貴族の仕業でしょうか……」

 アインは、封を無造作に破って、書類を取り出した。

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