この世には、数字にできないことがある

一刻一機

第10話 気楽な競争

「いいなあ。俺たちも宴会に参加したかったよなあ」

「仕方がねえ。かしらは、見た目はああだけど、用心深い性格たちなんだ。それに俺は元騎士だっらから。見張りとかそういうのは慣れてるよ」

「はっ!出た出た、元騎士様発言。いい加減もう忘れろよ、昔の栄光なんてよ」

 宴会に参加できなかった盗賊達10人が、だらけきった姿勢で見張りをしていた。

 だが、騎士団が動けば、すぐに手を組んでいる貴族から連絡がくるはずだし、自分達の討伐を依頼された冒険者がいれば、それこそ大人数を集めているうちき情報が入ってくる。

 つまり、ここに突然現れるのは、精々道に迷った旅人か、少数で大盗賊団に突撃しようとする頭の狂った奴のみという事になる。

 そしてーー彼らにとって非常に残念な話ではあるが、その常識から外れた、狂ったモノ達がやって来た。



「なんだ?」

 深い森からふらりと現れたのは、申し訳程度の防具と剣を腰に帯びた見目麗しい優男ーーフィオナと、全身甲冑に身を包んだ人間ーーに見える悪魔の2人組だった。

「敵か?」

「まさか、たった2人で何するんだよ」

 見張り達は、一瞬敵襲を知らせる笛を吹こうかと思ったが、たった2人のために宴会にケチをつければ、かしらに怒られる。

「おい、あんたら何のようだ?ここは行き止まりだだぜ?さっさと今来た道を引き返しな」

「いや、大丈夫だ問題ない」

「ギヒっ!さっそくたくさんの餌がいますねぇ」

 見張りの1人が声をかけたが、侵入者は動きを止める気配は無い。

「ちっ。何だあいつら馬鹿か?」

「どうせ、この場所が知られたからには、殺すしかないんだ。さっさとるぞ」

「おう」

 見張りをしていた盗賊達は、慣れた動作で短剣を抜くと、不審な2人組に襲いかかった。

「死ねやぁ!」

 この木が多い森の中で、ロングソードを振り回すのは、正真正銘の馬鹿だ。

 盗賊達は、己の常識と経験則に基づいて、未だ剣も抜いていない優男を、確実にこの一手で殺す事ができると判断していた。

「っぐ……馬鹿な……」

 だが、結果は真逆であった。

 鞘に入っていたはずのフィオナの剣はいつの間にか抜かれており、切りかかって来た見張りの腹を貫いていた。

「よっと」

 フィオナは慣れた動作で、はらわたを軽く掻き回してから剣を抜いた。

 乱戦で気をつけるべき事の一つに、死んだと思っていた敵が、実は生きているパターンがある。そいつが、最期の力を振り絞って邪魔をしてくると、既に死を覚悟しているため、大変な抵抗力を見せるのだ。

 そのため、腹を刺して敵を倒した場合、腹の中をかき回すか、再度心臓や首を刺し直し、確実に殺す必要がある。

「まず1人」

「ギヒッ!じゃあ、次は俺の番だな!【黒剣】」

 澄まし顔で成果を誇るフィオナを見て、未だ名前無き悪魔は、剣を抜き【闇魔法】を使用した。

「一瞬で1人やられた!?あいつら手練れだぞ!弓を使え!前に出る奴は連携してかかれ!」

「残念。判断はいいが、もう遅いぜぇ?」

 シルバーの全身甲冑を身につけていたはずの悪魔は、気が付けば全身を黒い炎のようなものに覆われていた。

 これが【闇魔法・黒剣】の効果であり、【黒剣】とは、使用者の装備を黒い魔力で覆い、また、影を操り刃と化す魔法であった。

「ぐはっ!」
「そんな……馬鹿な……」
「弓がっ!?」
「こんなはずが……ぐっ……」

 悪魔が剣を一振りしただけで、無数の黒い刃が生まれ、四方八方から見張り達を貫いた。

「おや、運良く躱した奴もいたか。ギヒッ!でも俺は3人殺ったぜぇ?」

 わざわざ面当てを上げてまで、フィオナに得意げな顔を見せた悪魔に、フィオナは冷たく笑い返した。

「ふんっ。別に魔法だけが、多勢を殺す術ではない」

 フィオナはそう言うと、混乱する見張り達が固まった所に突っ込んだ。

「馬鹿め!自分から飛び込んで来やがった!」

「今だっ!全員で行くぞ!」

 残った6人が一斉にフィオナに襲いかかったが、フィオナは慌てる事なく、最初の1人の腕を掴んだ。

「なんだぁ!?」

 その手に握られた短剣は、何故かフィオナではなくフィオナの後ろにいた味方に刺さった。

「ぎゃあ!何しやがる!」

「す、すまねえ!わざとじゃ……あ……」

 その隙を狙って放たれた矢を、腕を握っていた男の頭部で受け止めると、フィオナは死体となった男を敵の集団に投げつけた。

「何故だ!?何故こっちの攻撃が当たらないんだ!?」

 見張り達は大勢で囲っているにも関わらず、フィオナに傷一つつけられないことに戸惑っていた。

 むしろフィオナに武器を向ければ向けるほど、次から次へと味方が死んでいく。

「くそっ!こうなったら……!」

「ああ。それはダメだ。逃げられれば、ご主人様に叱られる。お前達、ソレは喰っていいぞ」

 仲間が残り僅かとなったところで、ようやく笛の存在を思い出した見張りが、その笛を手にしたのを見て、フィオナは男の横に立っている木に向けて指示を出した。

「なんだ!?うわ、木が、木がなんでええええ!?」

 すると、木の表皮がずるりと溶けて、笛を持った男に覆いかぶさって来た。

 もがく男を無視して、木の表皮はやがて半透明の液状生物ーースライムへと戻り、男をあっという間に溶かして平らげてしまった。

「ひいい!?」

「助け……ぎゃあああ!」

 その光景を見せられ、残った見張り達も腰を抜かし動けなくなったところを、すぐに他のスライム達の餌食となった。

「ああ!喰っていいのは、1人だけだ!くそっ!だが、これで4対3が私に一歩リードだな」

「ギヒヒッ!まだまだ餌はいっぱいいるんだ。少しぐらいハンデとしてくれてやるぜ」

 瞬く間に盗賊10人を喰らい尽くしたフィオナ達を見て、アインは身内ながら空恐ろしいものを感じた。

 特に、ゴダスの館で稼ぎ、まだ残っていた【魂】で強化したスライムは、意外に強かった。

 スライムの【擬態】 1/10
 魂 4/100,000
 ↓
 スライムの【擬態】 10/10 ×4匹
 魂 0/100,000

 何と【魂】ひとつで、スライムの持つ【擬態】と言う能力が限界まで上げられたのである。

 【擬態】は、スライムが一度食べたモノを真似する能力で、先程見た通り木の表皮などにも化けることができ、大変応用が利く。

「今の10人分の【魂】で、残りの6匹も強化してしまいましょうか」

 スライムの【擬態】 1/10  ×6匹
 魂 10/100,000
 ↓
 スライムの【擬態】 10/10 ×6匹
 魂 4/100,000

 アインは、すぐさま残りのスライム全員の【擬態】を引き上げた。

 今回のような奇襲戦では、特に効果的だと思ったからだ。

「ご主人様……私達も……行きましょう」

 小柄な少年に憑依したローズが、くいくいとアインの袖を引いた。

 気がつけば、フィオナと悪魔は、緊張感無くギャアギャアと騒ぎながら、どんどんと盗賊の拠点を目指して進んでいる。

「そうですね。では、ローズ先導をお願いしますよ」

「はい……お任せください」

 今のところは作戦通りだ。アイン達は他の見張りを駆除しながら、拠点の裏側を探ることになる。


 ◆

 ローズは、【暗殺サイレントキリング】の達人というお墨付きをフィオナから得ており、実際にゴダスの館でも30人を超える私兵達を一切の物音を立てずの皆殺しにした実績もある。

 だが、あの時はアインの見ていない密室での出来事だ。

 初めてその実力を目にしたアインは、思わず口を開けて見入ってしまう程、ローズの技術は鮮やかなものだった。

「ご主人様……またいました。こちらでお待ち下さい」

 森の奥に見つけた盗賊の拠点は、もともとの軍事用の建物であったのか、立派な石造りの2階建ての建物であった。

 その周囲を見張りが3人から4人程度の規模で立哨している。

 最初10人も居たのは、たまたま合流したタイミングであったのだろう。

 盗賊を見つけたフィオナは、影の位置と死角を見つけて、するすると1人の盗賊に近づくと、鼻と口を塞ぎながら首を掻き切った。

 すぐにその盗賊を藪の中に引き込むと、何事も無かったかのように、他の盗賊達も瞬く間に首を切り、藪の中に放り込んだ。

「素晴らしい技術ですね」

 アインが手放しで褒めると、ローズは珍しく表情を動かす程喜んで見せた。

「こいつら程度なら……楽勝です。それに、仲間(ゴースト)達から……情報も入ってきますし」

 主人であるはずのアインには、ゴーストとの意思疎通は一切できないのに、何故かローズはゴーストと漠然とした内容ではあるがコミニュケーションが取れるらしい。

 木も壁も、ありとあらゆる障害物を関係なく侵入でき、しかも一般人には見る事もできないゴースト達は、単体では何の攻撃力も無いが間違いなく最強の斥候である。

「50人以上の集団が……この拠点の奥で……宴会をしているそうです」

「50人ですか、流石に厄介ですかね?」

 あらかたの見張りを排除した頃、ゴーストが新たな情報を持ってきた。

 予想外にも、何故か大規模な宴会を開いているらしく、相手の戦力が集中してしまったらしい。

 しかも、そのタイミングで建物の裏側が騒がしくなってきた。

「どうやら、フィオナ達の陽動に乗ってくれたようですが……」

 できれば、もう少し各個撃破したかったが、思った以上にあの2人は張り切っていた。

「さすがにあの2人でも、50人を一度に相手をするのは厳しいでしょう。加勢できますか?」

「フィオナ様なら……心配無いと……思います。それに……私は乱戦……苦手です」

 アインもどうせあの2人は(どちらもアンデッドなので)死なないと思っているが、かと言って放置するのもいたたまれない。

「そうですか……新たな戦力が必要でしょうね」

 魂 49/100

 気がつけば、かなりの数の【魂】が蓄積されている。

 アインは【召喚術】を使用すべく、魔力を集中した。

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