この世には、数字にできないことがある
第7話 死霊術
『そりゃ本当か!?ギヒヒッ!今回のご主人様は本当に当たりだぜ!』
悪魔にゴダスの魂を食わせてやることを約束すると、悪魔は両手を打って喜んだ。
「ところで、貴方に喰われた魂はどうなるんですか?」
『そりゃあ、魂が美味しくなるように、俺の体の中で最高の恐怖を永遠に与え続けるけど?』
「永遠ですか?」
『どうしてもエネルギーが必要になった場合は、消化しちまうけどな』
「素晴らしい!では、そのメインディッシュは貴方の腹に永遠に入れておきなさい。エネルギーが必要になったら、また私がくれてやりますよ」
『本当か!?ならいつでも言ってくれ、その魂がどんな責め苦を受けているか、いつでも見せてやるからよ!』
アインも悪魔も両方が喜ぶ、最高の形になりそうだ。
アインは軽い足取りで、3階を目指し足を進めた。
◆
「ご主人様、何やら不穏な気配が致します」
3階に上がったところで、フィオナがアインの前に立ち歩みを止めた。
「どうしましたか?」
「強者特有の殺気を感じます。どうやら、我々の存在が勘付かれたようですね。いかが致しましょう」
「ふむ。そいつがどこにいるかわかりますか?」
「恐らくですが……中央の一番大きな扉の奥かと思われます」
フィオナが指を指した先には、気色悪いゴテゴテと派手な装飾が付いた扉があった。
「ああ、どうせあの悪趣味な扉がゴダスの部屋でしょう。なら、ゴースト達に動きを止めさせますか」
「いえ、精神力の強い強者であれば、【魂魄魔法】の効き目も薄いのです。並みのゴーストでは太刀打ちできないでしょう。ここは、私にお任せ下さい」
「それは構いませんが、その仮初めの体で本当に大丈夫ですか?」
「この体と剣ではかなり厳しいのも事実ですが、何とかしてみます」
「ふむ……では、最悪に備えて準備した方がよさそうですね。かと言って、私自身を強くしても、あまり意味が無さそうですし、スケルトン一体程度を強くしても、あまり意味がなさそうですし」
私兵達を簡単に屠れたことから、ゴダスの護衛達も大したことは無かろうと、アインは甘く考えていたが、フィオナの様子を見て只事ではないと判断した。
ただし、昨日自分の剣術を【等価交換】で引き上げた時の感触からすると、アイン自信を強化してもほとんど意味がないだろう。
かと言って、もともと最弱の部類であるスケルトン達を強化するにも限界がある。
『ギヒヒッ!俺の魂を無駄にするぐらいなら、俺がご主人様に【死霊術】を授けてやるよ!【死霊術】があれば、スケルトンやゴーストの再生や強化が魔力でできるぜぃ!』
「ふむ。それはいいですね。でも、無料じゃないんでしょう?」
『これぐらいは仕事の範囲内さ。流石に城を落とせとか、街を滅ぼせとか言われたら、追加料金を貰うけどな』
「そうですか。それなら有り難くもらっておきましょう」
悪魔が適当に宙で指を動かすと、紅い魔法陣が描かれ、するりとアインの胸に飛び込んできた。
「むっ……」
すると、若干の痛みと共にアインの精神の奥底に【死霊術】が刻まれたことがわかる。
アインは、他人に魔法を習得させるような技術の存在すら知らなかった。
思ったよりもこの悪魔は、良い買い物であったらしい。小物臭い雰囲気に反して、案外と格の高い悪魔なのかもしれない、とアインは考えた。
この時点で、アインは未だ自分の勘違いに気付いていないが、30人もの生贄ーーしかも魂付きのため生き餌扱いーーを用意した【悪魔召喚】は十分に非常識なエネルギーを召喚魔法陣に注ぎ込んでいた。
そこに尚且つ、アインの持つ莫大な魔力を使って喚んだ悪魔が、只の下っ端のはずがないのだ。
もっとも、悪魔は喚ばれた直後に、地獄の最上位である悪魔公爵と比較され、その時点で自己アピールをする気が失せているし、アインはアインで【魂】を使うことに何の疑問も覚えなくなってしまったため、その価値に気づくことができなかった。
死霊術 1/10
魂 9/100,000
↓
死霊術 5/10
魂 1/100,000
アインは悪魔から貰った【死霊術】に、持てる魂を全て注ぎ込み今の限界まで引き上げた。
剣術とは違い、アインに【死霊術】の才能があったのか、あっさりと5/10まで能力を引き上げることができたのだ。
おかげで、多少複雑な命令でも指示できるようになったので、スケルトン達にはスライム達と共に部屋の外で待機してもらうことにした。
できれば、スケルトン達は奥の手として、ギリギリまで隠しておきたかったのだ。
「ローズ、お前はターゲットが逃げ出さないように、見張っておきなさい」
「はい」
アインの準備が終わったのを確認したフィオナは、ローズに指示を出し、悪趣味な扉に手をかけた。
◆
「来たな王の犬共!儂は……儂は捕まらんぞぉ!?」
扉を開けると、中にはゴダスと思われる裸にガウンをかけただけの肥えた豚と、重装備の兵士4人。
そして、細長い剣を持った軽装の男が1人立っていた。
「ご主人様、あの男から強い気配を感じます。ご注意下さい」
白いツバを撒き散らしながら喚くゴダスを無視し、フィオナが注意を促した。
「へえ?そこの男達には見覚えがある。ゴダス様お抱えの私兵達だったな?まさか、王の犬だったとはな」
「王の犬……ですか?」
アインは男の言葉に首を傾げた。
「お前ら調査官のことだよ。正義ヅラして、世の中の事を何も知らない、あの大馬鹿野郎の言いなりになるお前らを犬と呼ばず、何と呼ぶ」
苛立ち、剣の柄を玩びながら、男は吐き捨てる様に言った。
「私達は調査官なんて上等な者ではありませんが……随分、現王に不満があるようですね」
「ふん。騎士団一の腕だった俺を、ちょっと街の喧嘩で二、三人殺しただけで有罪にしやがった。あんな軟弱が治めるようなら、この国はもう終わりだ。俺は小金を稼いだら、とっととこの国からおさらばするぜ」
「そ、そうだ、ビッヒガルド!こいつらを始末できればお前への契約金は2倍!いや、3倍にしてやる!だから確実にここで殺せぇ!」
「そういう訳だ。悪いがお前らには、ここで死んで貰う。お前らは、ゴダス様が人質に取られないように見張ってろ!」
男が声をかけたと同時に、重装備の兵士4人はゴダスを囲う様に動いた。
狭い室内で全員が戦いに参加すれば、逆に男の邪魔になると考えたのだろう。
それだけ、男の腕が信頼されている証でもあった。
「させません!」
真っ先に一番弱そうなアインを狙って来た男の前に、ロングソードを持ったフィオナが立ちはだかった。
「むっ!?俺の剣を止めるか……王の犬には惜しい腕だ!」
「私は王の犬などではありません!ご主人様の忠実な僕です!」
「ご主人様?調査官ではないのか?……その小僧は何者だ?」
術式で縛られた絶対的忠誠を見せるフィオナに、男は得体の知れない不気味さを感じたようだ。
「私は只の復讐者ですよ。昨日のお礼参りに来ただけです」
アインは微笑を浮かべながら、壁際で震えているゴダスを睨みつけた。
「ひっ!……昨日?昨日も何も儂はお前なんぞ知らん!見たこともないわ!」
アインの底知れぬ冷たい瞳に震えたゴダスは、その震えを誤魔化すように強気に言った。
「昨日、貴方が、自分の兵隊に街で暴力を振るわせた女性が居たでしょう。私はその家族です。私兵達は既に全員地獄へ送っていますので、次は貴方の番です」
「私兵共が……?ああ!もしや貴様あそこの教会のガキか!?貴様らの養父である神父が、成人したら娘を金貨50枚で売ると言っておったのだぞ!?それなのに、あの娘はこの儂に向かって唾を吐きかけたのだ!何の後ろ盾も無い孤児の分際でだぞ!?あんなクソガキ、妾どころかペットとしてでも要らんわ!」
相手が刺客では無く、近所の孤児だとわかった事でゴダスはようやく落ち着きを見せた。
相手が何の権力も無い子供だとわかって、安心したのだろう。
愚かな事に。
孤児であろうと暗殺者であろうと、殺意と武器を持って、己の面前で敵対していると言う事実は、何一つ変わっていないのに。
「やはり神父が関わっていましたか……それで言い残すことはそれだけでいいですか?」
ゴダスの発言を聞いても、アインは表情を変えることなく、ただ殺意を深めただけだった。
「なにを!?調子に乗るなよ小僧が!貴様のようなガキ1匹で何ができる!もういい、ビッヒガルド!さっさとそのガキを殺せ!」
「あいよ。ってわけだ、そこの奴もそろそろ終わりにしようや」
剣を肩に担いだ男は、傷だらけのフィオナに向かって肩をすくめてみせた。
「なめるな!貴様程度が、私に勝てると思うなよ!」
満身創痍のフィオナは、傷の痛みは感じないらしいが、左腕が千切れかけている。
「まあ確かに、お前もいい腕だったが、剣の腕に反して、所々で急に動きが硬くなる。まるで借り物の体で戦っているみたいにな。悪いがそんな奴には負けねえよ」
ビッヒガルドは、そう言うと得意げに笑い、剣を振り上げたが、その剣がフィオナに振り下ろされることはなかった。
「それは、相手がフィオナだけだった場合でしょう?来なさい、スケルトン!」
アインの合図に合わせ、10体の骸骨達が各々の武器を持って部屋に雪崩れて混んできた。
「何っ!?スケルトンだと!?小僧、お前ネクロマンサーだったのか!!」
アンデッドの一番厄介な点は、恐怖や痛みを忘れていることと、生者への異常な妄執である。
スケルトン達のうち2体は、ビッヒガルドに一瞬で腕や頭を切り落とされたが、全く構わず押さえ込んだ。
「ちくしょう!お前ら!加勢しろ!俺を助けろ!」
「残念ですが、彼らも色々と忙しいようですよ?」
男が慌てて、ゴダスを守っていた兵士達に助けを求めたが、既にゴースト達に【憑依】されており白目を剥いて痙攣している。
「な……何が起きた!?」
「貴方の戦いに余程集中されていたのか、皆さん、あっさりとゴーストに【憑依】されてくれましたよ」
兵士達からすれば、戦いの状況次第で自分達の動きがガラリと変わるため、本来であれば戦いの行く末を見守っていたことは正しい。
ただし、そのため精神的な隙を生んでしまい【魂魄魔法】の餌食になった。
端的に言えば、明からさまな修行不足である。
「そして、こんな半端者達しか雇えなかった、貴方の自業自得と言うことですね」
アインは、スケルトンを見て半狂乱になっているゴダスを見た。
悪魔にゴダスの魂を食わせてやることを約束すると、悪魔は両手を打って喜んだ。
「ところで、貴方に喰われた魂はどうなるんですか?」
『そりゃあ、魂が美味しくなるように、俺の体の中で最高の恐怖を永遠に与え続けるけど?』
「永遠ですか?」
『どうしてもエネルギーが必要になった場合は、消化しちまうけどな』
「素晴らしい!では、そのメインディッシュは貴方の腹に永遠に入れておきなさい。エネルギーが必要になったら、また私がくれてやりますよ」
『本当か!?ならいつでも言ってくれ、その魂がどんな責め苦を受けているか、いつでも見せてやるからよ!』
アインも悪魔も両方が喜ぶ、最高の形になりそうだ。
アインは軽い足取りで、3階を目指し足を進めた。
◆
「ご主人様、何やら不穏な気配が致します」
3階に上がったところで、フィオナがアインの前に立ち歩みを止めた。
「どうしましたか?」
「強者特有の殺気を感じます。どうやら、我々の存在が勘付かれたようですね。いかが致しましょう」
「ふむ。そいつがどこにいるかわかりますか?」
「恐らくですが……中央の一番大きな扉の奥かと思われます」
フィオナが指を指した先には、気色悪いゴテゴテと派手な装飾が付いた扉があった。
「ああ、どうせあの悪趣味な扉がゴダスの部屋でしょう。なら、ゴースト達に動きを止めさせますか」
「いえ、精神力の強い強者であれば、【魂魄魔法】の効き目も薄いのです。並みのゴーストでは太刀打ちできないでしょう。ここは、私にお任せ下さい」
「それは構いませんが、その仮初めの体で本当に大丈夫ですか?」
「この体と剣ではかなり厳しいのも事実ですが、何とかしてみます」
「ふむ……では、最悪に備えて準備した方がよさそうですね。かと言って、私自身を強くしても、あまり意味が無さそうですし、スケルトン一体程度を強くしても、あまり意味がなさそうですし」
私兵達を簡単に屠れたことから、ゴダスの護衛達も大したことは無かろうと、アインは甘く考えていたが、フィオナの様子を見て只事ではないと判断した。
ただし、昨日自分の剣術を【等価交換】で引き上げた時の感触からすると、アイン自信を強化してもほとんど意味がないだろう。
かと言って、もともと最弱の部類であるスケルトン達を強化するにも限界がある。
『ギヒヒッ!俺の魂を無駄にするぐらいなら、俺がご主人様に【死霊術】を授けてやるよ!【死霊術】があれば、スケルトンやゴーストの再生や強化が魔力でできるぜぃ!』
「ふむ。それはいいですね。でも、無料じゃないんでしょう?」
『これぐらいは仕事の範囲内さ。流石に城を落とせとか、街を滅ぼせとか言われたら、追加料金を貰うけどな』
「そうですか。それなら有り難くもらっておきましょう」
悪魔が適当に宙で指を動かすと、紅い魔法陣が描かれ、するりとアインの胸に飛び込んできた。
「むっ……」
すると、若干の痛みと共にアインの精神の奥底に【死霊術】が刻まれたことがわかる。
アインは、他人に魔法を習得させるような技術の存在すら知らなかった。
思ったよりもこの悪魔は、良い買い物であったらしい。小物臭い雰囲気に反して、案外と格の高い悪魔なのかもしれない、とアインは考えた。
この時点で、アインは未だ自分の勘違いに気付いていないが、30人もの生贄ーーしかも魂付きのため生き餌扱いーーを用意した【悪魔召喚】は十分に非常識なエネルギーを召喚魔法陣に注ぎ込んでいた。
そこに尚且つ、アインの持つ莫大な魔力を使って喚んだ悪魔が、只の下っ端のはずがないのだ。
もっとも、悪魔は喚ばれた直後に、地獄の最上位である悪魔公爵と比較され、その時点で自己アピールをする気が失せているし、アインはアインで【魂】を使うことに何の疑問も覚えなくなってしまったため、その価値に気づくことができなかった。
死霊術 1/10
魂 9/100,000
↓
死霊術 5/10
魂 1/100,000
アインは悪魔から貰った【死霊術】に、持てる魂を全て注ぎ込み今の限界まで引き上げた。
剣術とは違い、アインに【死霊術】の才能があったのか、あっさりと5/10まで能力を引き上げることができたのだ。
おかげで、多少複雑な命令でも指示できるようになったので、スケルトン達にはスライム達と共に部屋の外で待機してもらうことにした。
できれば、スケルトン達は奥の手として、ギリギリまで隠しておきたかったのだ。
「ローズ、お前はターゲットが逃げ出さないように、見張っておきなさい」
「はい」
アインの準備が終わったのを確認したフィオナは、ローズに指示を出し、悪趣味な扉に手をかけた。
◆
「来たな王の犬共!儂は……儂は捕まらんぞぉ!?」
扉を開けると、中にはゴダスと思われる裸にガウンをかけただけの肥えた豚と、重装備の兵士4人。
そして、細長い剣を持った軽装の男が1人立っていた。
「ご主人様、あの男から強い気配を感じます。ご注意下さい」
白いツバを撒き散らしながら喚くゴダスを無視し、フィオナが注意を促した。
「へえ?そこの男達には見覚えがある。ゴダス様お抱えの私兵達だったな?まさか、王の犬だったとはな」
「王の犬……ですか?」
アインは男の言葉に首を傾げた。
「お前ら調査官のことだよ。正義ヅラして、世の中の事を何も知らない、あの大馬鹿野郎の言いなりになるお前らを犬と呼ばず、何と呼ぶ」
苛立ち、剣の柄を玩びながら、男は吐き捨てる様に言った。
「私達は調査官なんて上等な者ではありませんが……随分、現王に不満があるようですね」
「ふん。騎士団一の腕だった俺を、ちょっと街の喧嘩で二、三人殺しただけで有罪にしやがった。あんな軟弱が治めるようなら、この国はもう終わりだ。俺は小金を稼いだら、とっととこの国からおさらばするぜ」
「そ、そうだ、ビッヒガルド!こいつらを始末できればお前への契約金は2倍!いや、3倍にしてやる!だから確実にここで殺せぇ!」
「そういう訳だ。悪いがお前らには、ここで死んで貰う。お前らは、ゴダス様が人質に取られないように見張ってろ!」
男が声をかけたと同時に、重装備の兵士4人はゴダスを囲う様に動いた。
狭い室内で全員が戦いに参加すれば、逆に男の邪魔になると考えたのだろう。
それだけ、男の腕が信頼されている証でもあった。
「させません!」
真っ先に一番弱そうなアインを狙って来た男の前に、ロングソードを持ったフィオナが立ちはだかった。
「むっ!?俺の剣を止めるか……王の犬には惜しい腕だ!」
「私は王の犬などではありません!ご主人様の忠実な僕です!」
「ご主人様?調査官ではないのか?……その小僧は何者だ?」
術式で縛られた絶対的忠誠を見せるフィオナに、男は得体の知れない不気味さを感じたようだ。
「私は只の復讐者ですよ。昨日のお礼参りに来ただけです」
アインは微笑を浮かべながら、壁際で震えているゴダスを睨みつけた。
「ひっ!……昨日?昨日も何も儂はお前なんぞ知らん!見たこともないわ!」
アインの底知れぬ冷たい瞳に震えたゴダスは、その震えを誤魔化すように強気に言った。
「昨日、貴方が、自分の兵隊に街で暴力を振るわせた女性が居たでしょう。私はその家族です。私兵達は既に全員地獄へ送っていますので、次は貴方の番です」
「私兵共が……?ああ!もしや貴様あそこの教会のガキか!?貴様らの養父である神父が、成人したら娘を金貨50枚で売ると言っておったのだぞ!?それなのに、あの娘はこの儂に向かって唾を吐きかけたのだ!何の後ろ盾も無い孤児の分際でだぞ!?あんなクソガキ、妾どころかペットとしてでも要らんわ!」
相手が刺客では無く、近所の孤児だとわかった事でゴダスはようやく落ち着きを見せた。
相手が何の権力も無い子供だとわかって、安心したのだろう。
愚かな事に。
孤児であろうと暗殺者であろうと、殺意と武器を持って、己の面前で敵対していると言う事実は、何一つ変わっていないのに。
「やはり神父が関わっていましたか……それで言い残すことはそれだけでいいですか?」
ゴダスの発言を聞いても、アインは表情を変えることなく、ただ殺意を深めただけだった。
「なにを!?調子に乗るなよ小僧が!貴様のようなガキ1匹で何ができる!もういい、ビッヒガルド!さっさとそのガキを殺せ!」
「あいよ。ってわけだ、そこの奴もそろそろ終わりにしようや」
剣を肩に担いだ男は、傷だらけのフィオナに向かって肩をすくめてみせた。
「なめるな!貴様程度が、私に勝てると思うなよ!」
満身創痍のフィオナは、傷の痛みは感じないらしいが、左腕が千切れかけている。
「まあ確かに、お前もいい腕だったが、剣の腕に反して、所々で急に動きが硬くなる。まるで借り物の体で戦っているみたいにな。悪いがそんな奴には負けねえよ」
ビッヒガルドは、そう言うと得意げに笑い、剣を振り上げたが、その剣がフィオナに振り下ろされることはなかった。
「それは、相手がフィオナだけだった場合でしょう?来なさい、スケルトン!」
アインの合図に合わせ、10体の骸骨達が各々の武器を持って部屋に雪崩れて混んできた。
「何っ!?スケルトンだと!?小僧、お前ネクロマンサーだったのか!!」
アンデッドの一番厄介な点は、恐怖や痛みを忘れていることと、生者への異常な妄執である。
スケルトン達のうち2体は、ビッヒガルドに一瞬で腕や頭を切り落とされたが、全く構わず押さえ込んだ。
「ちくしょう!お前ら!加勢しろ!俺を助けろ!」
「残念ですが、彼らも色々と忙しいようですよ?」
男が慌てて、ゴダスを守っていた兵士達に助けを求めたが、既にゴースト達に【憑依】されており白目を剥いて痙攣している。
「な……何が起きた!?」
「貴方の戦いに余程集中されていたのか、皆さん、あっさりとゴーストに【憑依】されてくれましたよ」
兵士達からすれば、戦いの状況次第で自分達の動きがガラリと変わるため、本来であれば戦いの行く末を見守っていたことは正しい。
ただし、そのため精神的な隙を生んでしまい【魂魄魔法】の餌食になった。
端的に言えば、明からさまな修行不足である。
「そして、こんな半端者達しか雇えなかった、貴方の自業自得と言うことですね」
アインは、スケルトンを見て半狂乱になっているゴダスを見た。
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