自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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遠目でクロエの魔法の練習光景を眺める。横目でゴブリン達の置き土産を回収するハリス達の行動を確認しつつ、たまにチラリとアリアンナの様子を伺う。
アリアンナは真面目なのか、それとも熱心なのか。あれから休みなしでずっと瞑想し続けている。

そんな監視役的な立場をしつつ、俺は一人で優雅に紅茶を楽しんでいた。
アリアンナの家から帰る時、セバスから餞別に貰ったお古の紅茶セットで作ってみた。

案外悪くはない。でも、セバスが作った方が何倍も美味しかった。あれは…癖になる良い味を醸し出していた。

ほんの数日しか経ってないのに、もう物乞いしいなんて…中毒になり掛けているような気がする。でも、あれは一口呑めば誰だって中毒になりそうだ。

さて。そんな事は兎も角。

魔法の練習を終えて満足そうにして帰ってきたクロエに、俺はふと気になった事を聞いてみた。

「クロエ。お前は黒い。なぜ?」

クロエにゲンコツを落とされた。

「ブツわよ?」

殴ってから言うなよ。

「で、なんなの?」

ん。と言いながら手を差し出された。取り敢えず、俺の手でも置いておく。

「違うわよっ」

ベシッと手を弾かれた。

「それ、私にもくれるんでしょ?」

あぁ、そう言うことね。
言ってくれないと分からないっての。まぁ、入れてやるけど。

「これ、アンタが使ってたやつよね?」

それしかないんだよ。

「なに?私に間接キスして欲しいわけ?」

「嫌なら飲むな」

「別にそうじゃないのなら別にいいわよ。ありがたくもらうわ」

素直にありがとうぐらい言ってくれても良いんだぞ?

「あ…美味しいわね」

その感想だけでも満足だ。
自分が作った物を褒められるのは悪い気がしない。むしろ、心地良い。

っと、そうだったーー。

「で、さっきのは、私が黒いってのは何?」

うん、今話そうとした所だから。

「お前のマナリ…」

「ぷふっ。マナリって何よ」

うるさい。噛んだんだ。

「お前の魔力は黒い。魔法も黒い。関係があるのか?」

「あー、さっきの黒いってのは、そう言う事だったのね」

それ以外に何があるって言うんだ?

「そう言えば魔力が見えるってアンタ言ってたわね…。そうね、関係はあるわよ。例えば…ハリスは火で、サーファは風の適正があるわ」

「祝福の儀か?」

「それ以外に何があるの?」

そうか。相手のマナを視れる奴はそう多くないのか。
それで…ハリスは炎。サーファは風だったか?

ここからハリス達のマナを確認してみると…確かに蝋燭に灯したような火のようなマナを持っている。続いてサーファだけど、風ではなく、木だ。まだまだ発展途上で弱々しい木が見える。木の葉には水滴が付いているな。

って事は…だ。

「ハリスは灯し火。サーファは木と水…か?」

「さっき私言ったわよね?ハリスは火属性に適性があって、サーファは風属性に適性があるって」

「聞いた」

「だったら、どうしてそうなるの?」

「見たからだ」

「あぁもう。その話し方なんとかならないの?」

「努力はしている」

「はぁ…」

溜息吐くなよ。俺だって頑張ってるんだ。クロエみたくスラスラと言葉が出ないんだよ。

って、コイツは女神を自称する胡散臭い奴に翻訳機能的なのを貰ったのか…羨ましい…。

「もういいわ。じゃあ、私の属性を当ててみて」

「黒」

「闇よ、ヤ・ミ。見れるのならわかるでしょ?」

いや、これ絶対黒だって。闇って言うと、電気を消した時の暗闇だろ?でも、そんなんじゃない。クロエのは、もっと真っ黒。例えるならブラックホールだ。何もかもを吸い込んで黒一色に塗り潰してしまいそうなほど黒い。

「どうしてそんな顔するのよ。別に嘘なんて言ってないわよ?」

納得いかないけど、闇なのか。
サーファを風と言ったりしていたし…おそらく、そう言う括りでしか判断できないんだな。

判別の仕方なら…っと、ここから先を俺が考えたって、どうしようもない話だ。
そんな事よりも、もっと有用性のある知識を貰うのが先決だ。

「属性は種類がある。魔法も違うのか?」

「それは使える魔法って事?」

そう言ったはずなんだけどな?

「無理よ。適正属性以外の魔法は使えないわ」

それなら、どうしてクロエは氷の魔法を使うんだ?

「あ、私は特殊よ?言ったでしょ?私は『チート』持ちなの」

そこだけ日本語で言うなよ。頭がこんがらがるだろうに。
でも…そうか。チートか。羨ましすぎる。

「この際だから言っておくけど、私の魔力量は10万ぐらいよ。普通の人が10やそこらだから、その一万倍はあるわ。それと、光属性の魔法以外の全ての魔法を使えるわ。まっ、そのせいで祝福の儀じゃ魔力量が測定不能でアーティファクトの水晶を割っちゃったんだけどね」

なるほど。数値を言われてもピンと来ないけれど、これで10万か。確かに多い。常人の1万倍と言い張るのも虚言じゃないだろう。

そこで気になってくるのは俺のマナ量。クロエが10万だとすれば、俺は…どうなるんだ?
ここだけの話、俺は俺自身のマナ量を把握しきれていない。原因は俺のマナが無色透明であり、圧縮した状態で保管しているからだ。

まぁ、俺自身の事はどうでもいいか。使えれば問題はない。

それよりも、だ。闇属性だと光属性以外の魔法を全て使えるのか。なら、アリアンナは光属性っぽいから、闇以外なら全て使えそうだ。

「他にも、身体は頑丈にしてもらったし、精神攻撃無効のスキルとか色々付けてもらったわ」

ドヤ顔で自慢されてもな…。ただただ羨ましいとしか言えない。

「その代わり、ちょっとお使いを頼まれたんだけど…アンタなら話してもいいか。あのね、『邪神の復活を企ててる奴等がいるから、それを阻止して欲しいそうなのよ』」

………そんな話は聴きたくなかった。しかも、わざわざ日本語に翻訳してまで…随分と使い熟してる。

「アンタは私より強いし、話を聞いたんだから手伝ってくれるわよね?」

は?

「そんな露骨に嫌そうな顔をしないでよ」

じゃあ声に出して言ってやる。

「嫌だ」

「どうしてよ。アンタの力があれば余裕でしょ?手伝ってくれるわよね?」

余裕?そんな保証はどこにもない。これは現実だ。少しヘマをして死んでしまえば、そこで人生は終了なんだぞ。
そんないかにも危険そうな臭いがプンプンする頼み事の手伝いなんて御免被る。

「俺は危険を伴う行為はしない主義だ」

『ヘタれかよ』

口悪いな。それに、機嫌も悪く見える。

「ああ、そうだ」

「アンタそれでも男なの?チ**付いてるの?」

「見るか?」

「変態」

いや、聞いてきたのはお前だろ。どうしてそこでジト目を向けられなきゃいけないんだ。
あ、そうか。転生者って事はクロエも前世はそれなりの年齢だったって事だよな。だとすれば、この反応が一番正しいのか?

実家ではマリンやアックと全裸で身体の拭き合いとかしてたし、所詮は子供の体だからって余り深く考えてなかった。

「はぁー…アンタと話していたら疲れるわ…」

さっきのは俺が悪いとは思うけれど、それは俺のセリフだ。俺だってクロエと話をすると疲れる。

「俺の言葉だ」

キッと睨み付けられたけど、相手する気も起きなくて険しい眼差しを無視する。

暫くすると、諦めてくれたようで溜息を一つ付いて言った。

「分かったわよ。もうアンタには頼らないわ。正直、ガッカリよ。あーあ…悪の組織倒すのに力を貸して欲しいって言えばホイホイと付いてくると思ったんだけどなぁ〜」

心の声が漏れてるぞ。

まぁ、そんなクロエは放っておこう。

「アリアンナ」

「は、はい…?」

気まずそうに薄眼を開けて俺を見やるアリアンナ。

「聞かなかった事にしろ」

「わ、分かりました」

聞き分けが良くて宜しい。今度、マナの圧縮保管の方法も教えてやろう。

「あ〜あ、一人で悪の組織壊滅だなんて大変だなぁ〜」

当然ながら、チラチラと俺を見て独り言を呟く痛い子ちゃんは無視だ。


○○○


更地となったボス部屋で一泊し、次の階層へと向かった。

そこは入るなり意識が遠のき慌てて鼻と口を塞ぎたくなるような異臭が充満する場所だった。
俺は体内のマナを少しばかり操作してやるだけで問題はないんだけど、他の奴等はダメだった。

一瞬でノックアウトされ、アリアンナに至っては余りの酷い臭いで呼吸困難に陥って意識を失ってしまった。

そんな感じで、またもや戻ってきたボス部屋。

そこにアリアンナ達を待たせて、俺とハリスだけで先行して次の階層を少し調査する事にした。

「やっぱ、くせぇ…」

「喋る暇があるなら、進め」

鼻をつまんで先へ進むのを躊躇するハリスの背を押す。非常時は戦う事も厭わないけれど、極力戦わないのが俺だ。

マナ感知で魔物と思わしきマナをあちこちから感じ取れる。だけど、場所が曖昧で、魔物がいるはずの場所を通ってもマナを宿した死体しかなかった。
いや、その死体を俺が魔物と勘違いしてただけだ。

臭いの原因は、腐臭。その腐乱死体から発せられているのは間違いない。詳しい事は分からないけれど、この階層のあちこちに落ちている死体が原因だと判断できる。

だとすれば…。

「一度戻るぞ」

「お、おう!」

ハリスの顰めっ面が若干嬉しそうになった。だがーー。

「いや、待て」

「ん?どうし…って、うわぁっ!?な、なんだアレ!?」

ついさっき跨いで通った死体。ただの死体のはずなのに…動いた。
ヒタヒタと音を立てて、まるでゾンビ映画に出てくるゾンビの如く歩み寄ってくる。

って、そのまんまゾンビだな。

「倒せ」

「ちょっ!?マジで言ってんのかよっ!」

「いいからやれ」

「ちっ!分かったよ!やるよ!やればいいんだろっ!『鉄の剣!』」

剣を取り出すと、半ばヤケクソで「うおぉぉっ!」と気合の篭った一声と共にゾンビを一太刀で切り裂く。
やっぱり身体が全体的に腐っているから骨も脆かったんだろう。あっけなくゾンビは真っ二つになって左右に両断された。

がーー。

「マジかよ。まだ生きてやがる」

半々になっても、モゾモゾと動いて俺達に向かって来ようとする。随分と執念深いゾンビだ。

「放っておけ。急ぐぞ」

「お、おうっ!」

行きに見てきた死体は全てがゾンビとなって蘇り、帰り道を邪魔するように俺達の前を立ち塞がる。

だけど、ゾンビ達は肉壁にもならないほど弱く、ハリスだけでも難なく突破でき、ボス部屋まで戻ってこれた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

横目で疲れ果てて大の字になって寝転ぶハリスを見つつ、俺は次の階層からゾンビが這い上がって来ないかを見張る。

だけど、待てども待てども現れない。

「ちょっ!腐っ!?アンタ達、下で一体何してきたの!?」

クロエか。何をしてきたって、まだ何もしてない。

「今からするところだ」

「は?」

何言ってるか分からない。みたいな顔をするな。実際に見れば分かる。

ポケットを弄り、取り出すのは350mlの缶ジュースと同サイズのエーテル缶。
それに筆記魔法を描いた鉄板ともう一個、多少仕組みを加えたエーテル缶を組み合わせて、一言。

「『起動』」

鉄板の端から燃えるような光が灯るのを確認してすぐに下の階層へと放り投げる。
俺だけはそそくさと避難。出入り口の前には立たないようにする。
他の奴等も何かを感じ取ったのか、そんな俺に伴って逃げて来る。

あの鉄板は導火線だ。後から取り付けたのは爆弾だ。
そこから導き出される答えはーー。

途端、轟音。下の階層に繋がる剥き出しの出入り口からチリチリと炎が漏れたかと思えば、火炎放射器の如く炎が噴き出す。

「アンタ…何やってんの!?ねぇ!?何やってんの!?」

俺の襟首を掴むや否やガクガクと揺らして来るクロエ。
酔いそうだ。

クロエの手を弾いて、服の乱れを正して俺のした事を教えてやる。

「熱処理をした」

「違う!そう言うのを聞いてるんじゃないのよっ!」

俺の返答を聞いても納得できないのか、キッと睨み付けてきた。
そこに息を整えたハリスがクロエの肩にトンッと手を置いて現れる。

「クロエ。少し落ち着けよ」

「うるさいわね!どうせバカなハリスじゃ答えれないでしょっ!っと言うか、触らないでっ!汚いっ!!」

汚いの一言が心に突き刺さったのか、見るからに落ち込んでしまった。

「あの、クロエさん!その言い方はいけないと思います!ハリスさん達は私達の為に先へ進んでくれたのに…酷いと思います!」

おお。言うようになったな、アリアンナ。でも、そのハリスを避けるような態度はやめてやれ。さすがに可哀想だ。

「ハリスは大活躍だった」

「うっ…」

ハリスの活躍を聞いてたじろぐクロエ。

「ハリス。そ、その、だ、大丈夫?元気出して」

サーファは良い子だ。臭いのを我慢してハリスを慰めてている。
アリアンナとクロエは近寄ろうともしないのにな。

少し待ってもクロエがハリスに謝ろうとしないから、その件は放っておいて、もう少し下の階層について詳しく説明しておく。

「動く死体がいた」

「動く死体って言うとゾンビですか?」

「ああ。ゾンビは良く燃える」

「ふ、ふんっ!それならそうと早く言いなさいよっ!」

俺に説明を求める事自体が間違っていると気付け。

さて。下は今頃、地獄のような業火に晒されているだろう。投げ込んだのはマナ爆発に燃焼効果を加えたものであり、前世で言う所の焼夷弾のようなものだ。マナ爆発が起きると同時に液化させた可燃性マナ物質が飛散し、急激に燃え上がる。

今回は投げ込んだ量が量なので、おそらくだなんて推測をしなくとも中に入れば呼吸をするだけで肺が焼かれるような地獄絵図が広がっているはずだ。

なら、それを解消してやる必要がある。

俺はその辺りの解決でも取り掛かっていよう。その間にでもクロエはハリスに謝るだろう。
人は気持ちを一度心を落ち着けて冷静になると、後になって『こうしていれば良かった』と後悔する生き物だ。

かく言う、俺がそうだ。

俺は別にクロエに謝罪を求めてるわけでもなければ、俺にとって謝罪なんてどうなっても良い話だけど、おそらくはこれからの関係維持の為にクロエはハリスに謝罪する。

だから、邪魔にならない所で作業に取り掛かる。

まずはそうだな…。冷却からだな。











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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    次も楽しみにしてます!

    1
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