自称『整備士』の異世界生活

九九 零

53



変な夢を見た。

へっぽこ騎士。初級魔法も使えない魔法使い。的すらまともに当てられない弓使い。そして、小間使いの雇われ傭兵。計6名が、小さな砦に取り残され、ゴブリン達の襲撃を受ける夢だ。

彼等は必死に奮闘し、そして惨敗した。

女はゴブリン達に犯され、玩具のように扱われる。男は残忍な方法で殺され、晒し者にされる。

ああ、なんて胸糞悪い夢なんだろう。

ほんの小さな砦なんて一瞬の間も保たずに崩壊させられ、ゴブリン達の巣窟となった。全て蹂躙された後になって、ようやく助けがやってくる。

黄金に輝くような剣を携えた黒髪黒目の人間。俺は・・ソイツが憎い。後からやってきて『助けてやったぞ』と恩着せがましく言ってくる貴族が憎くて…。片手片足を。人間としての全てを失って生還した俺を『可哀想』だなんて言葉で済ませた人間を憎悪した。

俺を見殺しにした奴等。俺を犯した奴等。俺をこんな目に合わせた奴等…。みんな…みんなみんなみんなみんなみみみんなみなみんな!許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許セナい。許せない。許せない。許セない。許せない。許せナイ。許せない。許せない。許せない。許せない。許せナい。許せない。許せナい。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せなイ。許せない。許せなイ。許せない。許せない。ユルせない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許セナい。許セナイ。ゆるセナイ。ユルセない。ユルせナい。ユルセナい。ユルせナイ。ユルセナイ。ユユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセナイ。ユルセセナイ。ユルセナイイ。ユルセナイイイイイ。


○○○


「ーーさんっ!エルさんっ!!」

「……っ…」

驚いて飛び起きた。

どうして驚いたのか。どうして飛び起きたのか。分からないけど、俺は飛び起きた。

どんな夢を見たのか覚えていない。けど、なんだか…凄く嫌な夢を見たような気がする。

「アンタ、すごくうなされてたわよ。大丈夫なの?」

「…ああ」

体に問題はない。思考も妙に明瞭としていて、久方ぶりに熟睡した後のような気持ち良くて清々しい気分だ。

夢の内容は覚えてないけど、心のつっかえが外れたように気持ちが良いのは確かだ。

「何時間だ?」

「時間…?」

「寝てた時間よね?」

「ああ」

ごめん。少し言葉が足りなかったみたいだ。

「10分も経ってないわよ」

ホラと言わんばかりに周囲に落ちてる物を拾い集めるハリスと、荷物持ちをさせられてるサーファを指差す。
彼等の手に持ってる収穫物を見る限り、本当にそんなに時間は経ってなさそうに見える。

「本当に大丈夫なわけ?」

「ああ。問題ない」

倒れた原因は分からないけれど、今は問題なさそうだし、きっと大丈夫だ。

「エルさん…」

呼ばれてアリアンナを見やれば、顔を俯かせて両手拳を強く握りしめていた。と、思えば、突然ガバッと顔を上げ、覚悟を決めた顔で言った。

「私!私も戦います!私に戦い方を教えて下さい!」

「あ、ああ」

これは…一体どんな心境の変化なんだ?どうして突然戦うだなんて…それも、起き抜けの俺に対して言ってくるんだ…?戦うだなんて、普通に考えて危ないだろ?

これも女だからの考えなのか?だとすれば…女心ってのは…やっぱり分からないものだ。


○○○


基本的に、俺は全て独学である。誰に教えを請うわけでもなく、自分で考えたり、色々と見る事で学び、その全てを糧として力にしている。

なので、俺は他人に物を教えれるような人ではない。もっと言えば、俺が学ぶ側でもある。

だけど、俺はアリアンナに頼られた。要求は簡単で、強くなりたいわけではなく、前に出て戦いたいと言うものだ。

俺としては、自らそんな危険行為を進んでやらなくとも、役割を持った者に全部任せてしまえばいいと思っている。だけど、それは言うまい。
アリアンナにも何か考えがあって言ったんだろうしな。

そんなわけで、アリアンナに戦い方を教えようと思うんだけど…何から教えればいいのか俺にはサッパリで、現在進行形でお手上げ状態だ。

取り敢えず、アリアンナに剣を持たせて素振りさせてるのは良いんだけど、ここからどう教えればいいのか分からない。

俺が知ってるのは筋トレとマナの操作方法ぐらいだ。戦い方と言えば、武術とかそう言うのに当たるんだろうけど、俺は武術を人に教えれるほどマスターしてるわけじゃないんだ。

………取り敢えず、それっぽい事でも言っとくか。

「剣先がブレないよう気を付けて、全力で振れ」

「は、はい!」

真面目に取り組んでるアリアンナには悪いと思うけど、教える側の人間に俺を指名したのが間違いだったと諦めてくれ。

俺の専門分野は物作り…もとい、バイク製作を目指す整備士なんだ。俺が持つ戦闘技術なんて所詮は付け焼き刃で何の役にもたちやしない。

教えを請うなら、もっと俺なんかよりも優れた適任者に請うべきだ。
うん、きっとそうだ。だけど、頼まれたから一応は面倒を見る。

っと言ってる合間に、アリアンナが開始から素振り5回も満たずにバテて、勢い余って地面に剣先を突き刺してしまっていた。

よくよく考えたら、そりゃそうか。アリアンナは剣すら握った事ない箱入れ娘的な存在だ。体格を見るからに、俺なんかよりもよっぽど非力に見える。

だとすれば…何から教える?
何を教えれば…。

「アンタ、見掛けによらずちゃんと面倒を見るのね」

ほっとけ。
…ん?ちょっと待って。見掛けによらず、面倒を見る…?

あ…。その手があったか。

早速、剣を地面から引き抜こうとするアリアンナを手招きで呼ぶ。
アリアンナが剣と俺を何度か順次していると、見兼ねたクロエが剣を引っこ抜いてシッシッと虫を払うみたいにアリアンナをこっちに寄越してくれた。

さて。アリアンナが虫説はさておき、ハクァーラで覚えたアレをやるか。

「お前に足りないのは力、だ。だから、マナ…魔力を操作できるようする」

「はい!」

分かってなさそうな顔で返事をするなよ。これは忠告だ。どうなっても知らないぞ?

「魔力を操るって、何言ってんの?そんな事出来るわけないじゃない」

じゃあお前もついでにやるか。

「座れ。クロエもだ」

「なんで私まで…」

なんてブーたれながらも素直に俺の指示に従うクロエ。

「魔力を流す。耐えろ」

「え…?」
「ちょっと。それ、どう言うーー」

アリアンナは理解していない。これは確実だ。そして、クロエは何かホザいてる。これはどうでもいい。そんな二人の状況なんて捨て置いて、さっさとマナを二人の体内に流し込む。

毎度お馴染みの悲鳴が木霊する。

今回は隷属の腕輪がない分、少し制御が大変だ。でも、俺だって成長しているんだ。この程度で根を上げたりなんてしない。

もっと精密に。正確に。左右の手に流すマナの量を微調整しつつ、二人の体内にマナを循環させる。
少しでもミスしてマナを多く流してしまえば、スプラッターな殺人現場になってしまうから慎重に行わなければならない。

特に、アリアンナだ。クロエはマナの保有量だけはズバ抜けている。だから、余り遠慮する必要はない。例えるなら、そう。俺の体の一部だとイメージしても大丈夫だろう。
でも、アリアンナは難しい。非常にマナの量が少ない。少なすぎて、流し込む量を必死に抑えなければならない。

あ、そうだ。余った分はクロエに回せばいいか。まだ流しても大丈夫そうだし。

クロエの悲鳴が絶叫に変わった気がしなくもないけど、そこはスルー。

これを試したのはハクァーラの他に、マリンとアックだけだ。でも、それだけで色々と学べたから手順の簡略化が可能だったりする。

で、その簡略化したのをこの二人で試している。相当辛いのか、俺の手から必死に逃れようとするクロエ。対して、アリアンナは号泣しながらも必死に耐えている。

クロエは兎も角、アリアンナは度肝が座っている。将来、頑張りと努力さえ怠らなければ俺なんか容易く超えて、その遥か先に行きそうだ。

それを見るのが少し楽しみに感じる。

ふふふ。楽しみだな。ああ、楽しみだ。
そんな事を考えながら、二人のマナの謎機能がぶっ壊れるまで続けた。


○○○


「ふむ…」

予測通りと言うべきか。見事にマナの機能がぶっ壊れたようで、なによりだ。
二人はまるで蛇口の元栓が壊れて水が出たままのような状態になっている。

クロエはそれでも大丈夫だろうけど、アリアンナはマナの保有量が明らかに少ないので、少しフォローしてやらないといけない。厳密に言うと、俺のマナで補填してやらないといけない状態だ。

「起きないな…」

そして、そんな二人は気を失っている。

アリアンナは眠るように気絶してて見た目は良いから別に気にしてないけど、クロエは酷いもんだ。口を半開きにしながら白目を剥いている。付け加えるなら、股付近が濡れている。何で、とは敢えて言わないけど。

酷いもんだ。

「うぅ…」

まず初めに目を覚ましたのは、アリアンナだった。正直、助かった。
このままマナを流し続けるのは神経を擦り減らすから大変だったんだ。

クロエは…まぁ、放置だ。

「起きたか」

「えっ…あっ!す、すみまーー」

「離すな」

アリアンナが俺の手から逃れようとしたから、咄嗟に強く握ってしまい、少し顔を歪めさせてしまった。
どうやら少し痛かったみたいだ。そこは謝る。だけど、今手を離すわけにはいかないんだ。

「深呼吸しろ」

「は、はい」

言われた通り、深呼吸をするアリアンナ。吸って、吐いて。また吸って、吐いて。またまた吸って、吐いて…。って、何回やるんだ?

「もういい。落ち着いたか?」

「はい」

よし、いけそうだな。

「目を瞑り、体内に意識を向けろ。マナ…魔力を感じろ」

「魔力…もしかして、今エルさんから流れてきてる…これ…ですか…?」

「ああ」

よし、感じ取れたな。
それじゃあ、あとは仕上げだけだ。

「操れ」

そう言って手を離す。あとは本人の頑張り次第だ。
間に合わなければ、また意識を失うだろう。そうなれば、また俺がマナを補填してやればーー。

「あっ!動きました!動かせれました!エルさん!」

お、おう。早かったな。

「今は魔力が垂れ流しだ。蓋をしろ」

「フタ…蓋をする…」

容量良すぎるだろ…。
まさか、こんなにも早く出来るとは思ってなかった。もっと言えば、あと何度か失敗して意識を失ってを繰り返すとばかり思っていた。

チラリとクロエを見やる。マナ容量はまだまだ余裕そうだ。……そうだな。その間にでもアリアンナにマナの扱い方と身体強化の方法でも教えておくか。


○○○


アリアンナは本当に物覚えが良い。これぞ世の言う天才と呼ばれる存在なのだと思う。

一つ物を教えれば、追加の説明もなく全てを容易くこなしてしまうんだ。正直、物凄く羨ましい。

そんなアリアンナの持つマナだけど、いつ見てもとても綺麗で、優しさが感じられる。
濁りのない純白色で。でも、見ていても辛くはならない優しさと温かさの感じられるマナ。

クロエとは真逆だ。

クロエの場合は、濁りや汚れなんて一切見えないほど真っ暗で何も見えやしない。まるで、墨で黒く塗り潰したような…いや、それよりももっと黒い。色が無いんじゃないかってほど真っ黒だ。

「出来たみたいだな」

「はい!これ、すごいです!エルさん!体がすっごく軽く感じます!」

何かを思いついたかのようにハッするアリアンナ。すると、クロエの近くに置いてある剣を手に取って、素振りをし始めた。

さっきは5回も満たなかったのに、ブンブンッと軽快に振り回せている。

俺が教えたのは、マナの扱い方。主に、俺が常日頃から行なっているマナを体内循環させる方法だ。
それに加えて身体強化と呼ばれる魔法も教えてやった。で、それを使ったアリアンナが上機嫌で剣を振り回しているのが今の現状だ。

一応、身体強化と呼ばれる魔法は…他人のを盗み見て覚えたんだけど、俺の使っている身体強化とは大きく違って全身を包むようにマナで覆って、擬似的に強化するものだった。
だから、マナが続く限りは全体的な筋力が増大したように感じるし、防御力も飛躍的に上昇し、目の色が変わったようにも見える。

対して、俺のは身体全身を強化する。それこそ、筋肉だけでなく、内臓や骨をも全てひっくるめて強化するんだ。名前が被っててややこしいから、これからは循環強化にしとこう。

身体強化と循環強化の違いを簡単に説明すると、マナを消費しつつ身体の外側を強化するのが身体強化。マナを消費せずに身体の内側を強化するのが循環強化だ。

似てるようで、かなり違う。

「程々にしろ。倒れるぞ」

「は、はい…」

注意を促すと、ショボンと落ち込んで大人しくなった。

魔法の身体強化にはデメリットがある。それは一言で表すなら、効率的ではなく、消費が激しい。一応は部分的にも可能だが…常にマナを垂れ流し状態になる面で実用的ではない。

「アリアンナはマナ…魔力容量が少ない」

長く身体強化を続けるには、二通り方法がある。一つはマナの最大容量を増やす。もう一つはマナの制御能力を上げること。

「ど、どうすれば多く出来るのでしょうかっ?」

物凄い熱意を感じる質問だ。マナ容量を増やす方法も俺の知る中でも幾つかある。だけど、その中に危険な方法もあるから、それだけはしないように釘を刺しておかないとな。

取り敢えず、指を一本立てて基本的な事から教える。

「魔法を使う」

魔法を使って魔力を減らせば、その分だけ時間で回復する。その度に僅かだけ上昇するんだ。

二本目の指を立てる。

「体内で循環させる」

常にそれが可能になればマナタンクは減っている状態になる。マナが回復しマナタンクを満タンにした状態で、循環させているマナを全てマナタンクに返すと一時的に増え、最大容量は無理矢理膨張させられる。が、その際は多少なりとも痛みを伴う。

三本目の指を立てる。

「体内に他のマナタン…魔力を溜める場所を作る」

そうすれば、予備タンクとして実に有用性のあるよう働く。二番目と組み合わせると、痛みは伴うものの、マナの容量は現在の二倍に膨れ上がる。

四本目の指を立てる。

「魔力を使い果たす」

これが一番堅実なマナの上げ方だと俺は考えている。
マナを使い果たせば人は昏倒する。原因は分からない。だけど、その間にマナの最大容量が一番や二番よりも増えるのを確認済みだ。

そして、最後。五本目の指を立てる。

「魔力を暴走させる」

「暴走…ですか?」

「ああ」

やり方はとても簡単で、手っ取り早くマナ容量を増やす事が出来、そしてなにより、とても危ない行為だ。

「使ってはいけない」

マナを体内で暴走させる。即ち、制御しきれない量のマナをマナタンクから取り出すと起きる現象。ただ、これはマナタンクから取り出すに限られた話ではなく、外部からマナを与えられても起きる現象だ。

今のアリアンナのマナ量じゃ意識しての実行は無理な話だけど、これは念の為の忠告だ。下手をすると死んでしまうからな。

「使ってはいけない…のですか?」

「魔力を暴走させるな。死にたくないならな」

ゴクリと生唾を呑み込む音が聞こえた。

「全部やり方を教える。だが…」

「わ、分かりました。魔力の暴走は使いませんっ!」

それでいい。

マナを暴走させると、どれだけマナを使っても減る事はない。それは、大気中のマナを身体が勝手に吸い取ってるからであって、決してマナが無限にあるわけでも、湧いて出るわけでもない。
常に大気中のマナを吸い取っているからこそ、マナタンクは常に満タンをキープし続け、常に制御できない量のマナが溢れ出し、暴走状態が解除できずに負の連鎖となる。

大気中のマナの吸収方法を覚えた俺が言える事じゃないんだけど、本当に危険な行為だ。

他人で実証済みだからこそ言える。

ちなみに言っておくと、実験体は皆、体内から溢れるマナに耐えきれずに死亡した。まるで、体内でマナ爆発が起きたようだったとだけ言っておこう。


○○○


アリアンナにマナ容量の増やし方をある程度教え、マナ暴走以外を実際に体験させてみた。
現在は、マナの操作をより上手くなれるように瞑想をしつつ、体内のマナ操作を頑張ってもらっている。

っと言うのも、なかなかクロエが起きないからだ。

コイツが起きないから、なかなかこの部屋から移動できない。まぁ、担いで運べば済むような簡単な話なんだけどな。

でも、戦闘を熟す者が不足した状態になるのも困る。ハリス一人じゃ手に負えないだろうし、そうすると必然的に俺が戦わなきゃいけなくなる。

俺は自分の実力に自信があるんけじゃないし、なにより危険な行為はしたくないから安全圏で荷物持ちでもしときたい。

わざわざ危険に首を突っ込んで戦おうなんて気は起きない。戦闘を避けては通れないのなら、クロエやハリスと言った戦える者や戦いたいと志願する者を前に出せばいい。そして、俺は第三者か傍観者に徹する。

卑怯だ臆病者だなんかんだと言いたい奴は好きに言っていればいい。俺はそう言う人間だ。
卑怯で結構。臆病で結構。最後に笑うのは生存者だ。

「…ぅっ…」

っと。そろそろクロエが目を覚ましそうだ。

特にうなされてるわけでもなさそうだけど、なぜか辛そうな顔をして瞼がピクピクと動いている。
余りにも退屈でさっさと起きて欲しいと思っていた俺は、遠慮なく彼女の顔面に冷水を浴びせる。

「ーーうひゃぁっ!?」

ワタワタと両手を暴れさせ、悲鳴を上げながら飛び起きるクロエ。

バッバッと左右を確認し、最後に正面に立つ俺と目が合う。

「な、なにするのよっ!?」

「起こしただけだ」

「普通、可愛らしい女の子に対してこんな起こし方!普通する!?」

自分で自分を可愛らしい…。ふっ。

「なんで笑ってるのよっ!!」

また顔に出てたか。子供だからか、ポーカーフェイスがまだ難しい。

「可愛らしい女の子」

「なによっ!どこからどう見ても私は可愛らしい女の子じゃないっ!」

生意気で強気な男の子の間違いじゃ…?とはさすがに言わない。

「なによ!何か文句があるのなら言ってみなさいよっ!」

「じゃあ言う。クロエは男っぽい」

ポカーンとアホ面を浮かべるクロエ。まるで予想外な事を言われて反応が追いついていなさそうな顔だ。
でも、文句があるのなら言ってみろって言われたし…。俺は正直に話しただけなんだけどな…?

俺、何か間違ったか?

クロエが反応しなくなって数秒が経った頃。ようやくクロエの起き抜けの脳が再始動を開始した。
そして、徐々に表情が険しくなり始めーーすんっと無表情になり、笑顔を浮かべた。

「なんですって…?」

とても良い笑顔だ。特に、目が全く笑ってない所とか、握り拳が強く握りすぎてプルプルと震えてる所とか…。うん、凄く怒ってるのは理解した。

『次言ったら殺すわよ?』

日本語で怒られた。

「すまない」

どうやら、俺の言葉のどれかが気に障ったようだ。一体、どれに対して怒ったのか…。思い当たる節がない。

水を掛けた事に関しては、まぁ怒るのは分かる。だけど、それ以外は思い返して怒るような事を言っていない。
クロエを男っぽいとは言ったけど、アレは彼女が言えと言ったから言っただけで、怒られるような事ではないはずだ。っと言うか、アレで怒られるのはお門違いだ。

……女の子は本当に分からない。

まぁ、そんな事はさておき。クロエにもマナの操作方法を教えておかないとな。


○○○


「なによ、これ。前より魔法が使い難くなってるじゃない」

と、言いながらジト目を向けてくるクロエ。

まぁ、それもそうだろう。車で例えるなら、ATオートマ車からMTミッション車に乗り換えたみたいなもんだ。
ATは変速シフトDレンジドライブに入れてアクセルを踏むだけで前進する。でも、MTは自分で現在の速度や回転数や状況から判断して変速シフトを入れてやらないと前進や加速が行えない。

アリアンナはどうかは知らないけど、クロエは元から魔法が使えた。だから、これまでは魔法を発動させるたびに勝手にマナが放出されていただろう。

けれど、今は全て自分の意識下で行わなければいけない。マナを自分の意思で必要分を考えて送り出してやる必要があるんだ。
クロエの魔法の使い方は良く知らないけど、今発動させようとした魔法に詠唱はしていない。

一応マナ操作方法と外に漏れ出すのを防ぐ方法を教えたけど…アリアンナに比べると物覚えの差は酷いもんだ。まぁ、凡人と天才とを比べる時点で間違えているけれど。

「あれ?でも、これって…込める魔力量を調節すれば、魔法の強弱を調整して撃てるの?」

「ああ」

実際にやって見せてやりたい所だけど、遠目にハリス達の姿が見えるし、すぐ近くには瞑想中のアリアンナがいる。

残念ながら実証は出来ない。

「そう考えると…これも良いかも知れないわね…」

ふっふっふっ。と、悪巧みでも考えてそうな笑みを浮かべて笑うと、「少し練習してくるわ」と言ってハリス達の居る方向とは真逆の方へと歩いて行った。

暫くして、背後から爆発音が連続して聞こえてきた。

さて。凄く今更な感じのする疑問が一つあるんだけどさ…ここはいつから修練場になったんだ?
ダンジョン…だよな?遭難中だよな…?なぜ?

……まぁいいか。一日や二日程度どうせ同じだ。









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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です
    誤字報告です
    これまでは魔法を発動させるたびに勝手にマナが放出されいただろう。
        ⬇️
    これまでは魔法を発動させるたびに勝手にマナが放出されていただろう。

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