自称『整備士』の異世界生活

九九 零

51

遂に明日から皆様は三連休ですね。

でも、台風が近付いてるとかなんとか…。台風対策は大丈夫ですか?

私はちゃんと手持ちのバイク全て家の中に入れておきました。これで家が飛ばされない限り大丈夫だと…

追伸。今日から五日連続で投稿できそうです。








ゴブリン層を抜け、次の層もまたゴブリン層。名付けるなら、ゴブリン層1。ゴブリン層2だな。
それが、ゴブリン層5まで続き、その際奥。大きな門の前に辿り着いた。

ここに辿り着くまでに2日も掛かってしまったけれど、それは何も言うまい。

この先はマナ感知で把握できない空間になっていて、階層全てを感知して確認すれば違和感しかない。
まるで、そこだけブラックホールにでも呑まれてしまったかのようにマナが感じ取れないんだ。

「これ、絶対ボス的な奴がいるわよね?」

っとクロエ。

「ボスって親玉の事だよな?って事は、ソイツを倒したらダンジョンクリアだよな?」

誰に宛てたわけでもない疑問を口にするハリス。

「ゴブリンの親玉は…えっと…ゴブリンキングだったような…」

そう言ってブルリと身体を震わせるサーファ。それを聞いたクロエやハリスの顔に緊張が張り付いた。

「ゴブリンキングって…なんでしょう?」

最後に、アリアンナが素っ頓狂な質問をして皆の緊張を和らげる。

「………」

何を隠そう。俺もそのゴブリンキングとやらを知らない。名前からしてゴブリンの王と考えれるんだけど…イメージ的には普通のゴブリンに王冠を被せただけの魔物か?

「はぁ…あのね、ゴブリンキングってのは、冒険者ギルドにAランク指定されてる魔物なのよ。それこそ、Aランク冒険者で構成されたパーティーで倒せるか倒せないかってぐらい強いのよ?」

それは…少し警戒すべき相手だな。
Aランク冒険者がどれほど強いのかは知らないけれど、おおよその推測ぐらいはできる。

ハクァーラは冒険者ランクはFだと言っていた。度々村の付近に出没するゴブリンを適当に処理させていたが、無傷で帰って来れる実力ぐらいは持っている。

そこから推測するに…ハクァーラより階級が6段階上もあるAランクとは化物を指すに違いない。

「取り敢えず、一休みしてから策を考えましょ。考えるのはその後よ。エル。食料と飲み水をちょうだい」

「ああ」

適当に干し肉と水を出しつつ、対策を考える。

ゴブリンキングは名前からしてゴブリンの上位個体であり、実力のほどは伺えないものの強い部類に入るだろう。化物であるAランクのパーティーが苦戦するほどの猛者…。そうなれば、おそらく。いや、間違いなく、クロエ達に勝ち目がない。

なら、俺が戦った方が手っ取り早く済むかもしれない。いいや、戦うと言えば少し語弊があるかもしれない。

だけど、その方が確実で危険が一番少ない。

横目チラリと暗い雰囲気を醸し出しながら食事をする皆を見やる。
雰囲気を感じ取れば分かる。彼等も勝ち目がない戦いだと理解しているんだ。

だとすれば…。

「ねぇ、エル。アンタの奥の手でどうにかできないの?」

彼等から視線を外して自分の分の干し肉を用意したタイミングで聞いてきた。まさな、このタイミングで聞いてくるとは思わなかったけど…良いタイミングだ。

「…可能だ」

そう言って干し肉を齧る。塩っ辛くて、あまり美味しくはない。ビールのツマミには良い味かもしれない。
でも、この味は俺は好みじゃない。

「そうよね。さすがのアンタでも…って、出来るのっ!?」

「ああ」

俺はいつ何時なんどき何があろうとも常に奥の手を幾つも準備している。

口の中に残る塩っ辛さを水を飲んで洗い流しつつ、クロエ達の様子を横目で見ると、安堵の表情が伺えた。

「さ、さすがね…」

クロエだけ引き攣った笑いを浮かべていて、まだ不安が残っているように見える。

「問題ない。安心しろ」

そう。何も問題はない。ただ一つ問題があるとすれば、使用する武器をどれにするか、と言う点だけだ。

こんな洞窟の中でド派手な花火なんてあげれば、下手をすると生き埋めになってしまうかもしれないからな…。


○○○


ダンジョン。それは不可思議な物体X的な存在だ。

壁にはダンジョン内部のマナでしか発光しない石があったり。一階層毎に未知の力で区切られていたり。死亡した魔物はダンジョンに吸収され、ダンジョン内部のマナと化したり。
疑問を挙げればキリがない。

だけど、今現在進行形で俺がこの左眼で捉えている光景は、その中でも群を抜いて意味が分からない。

「え…?空がある…?」

「エルさん!エルさん!外ですっ!外に出れましたよっ!!」

「外っ!?外に出れたのかっ!?」

「バカハリス!そんなわけないでしょっ!さっきまでダンジョンの中だったんだから、ここもダンジョンの中に違いないわっ!どこかにボスがいる筈よ!」

「わ、分かってるってのっ!」

ちょっと言ってみただけだって。と、呟くハリス。

だけど、彼等の言う事は一理ある。

一見すればここは外だ。目の前には聳え立つような石壁があるものの、その上は何もなく、赤く染まった夕焼けのような空がある。左右を見渡しても、剣や槍が立て掛けられた武器置場や弓や矢筒。変わったもので大砲の弾や火薬が入ってそうな麻袋なんてのもある。

だが、後方の開け放たれた巨大な扉を見れば、その先は薄暗い石造りの迷宮が続いている。

ここはダンジョン内部だ。間違いない。それは、見る、聴くなどせずとも、この辺り一帯に充満するマナがダンジョンのそれと同じだから確信を持って言える。

しかし…。

「見当たらないわね…」

「ああ。近くにいない」

ボスのようなゴブリンはおろか、ゴブリン一匹すら見当たらない。
いや、もっと言えば、虫の小一匹。どこにでもいるネズミすら見当たらない。

空を見上げても、生物は存在せず。この付近にいる生物は俺達だけだ。
それがまた不気味で、気持ちが悪い。

「あ、あの…ここ、砦に似てると思うんです…けど…」

「砦…?」

言われて気が付いた。

武器置場と言い、大量の弓矢や大砲の弾。それに加え、この眼前を覆い隠すかのように聳え立つ石壁。

振り返り、上を見上げれば…物見櫓ものみやぐらのような建物。

ああ。小さな小さな砦だ。まるで、ここがお前らの死地だと言わんばかりに僅かな物資しか置かれてなく、食料なんて一切置かれていない。

嫌な予感がして、眼前にある石壁の上に跳び乗る。と、そこには大砲が三門。バリスタが一門。物見台が左右に一つづつ。

壁の向こう側には、地平線にまで届きそうなほど広大な草原が広がっていた。

振り返れば…中央の塔を囲うよう建てられた石壁。四方に物見台。左右前後に同じ数の大砲とバリスタ。

その向こうに見えるのは林。奥へ行けば行くほど木々の密度は深くなり、森となっている。

「はぁ…」

こればかりは予想外だった。どうやらこれは…。

「なんて脚力してるのよっ!」

どうも物見台には階段があったようだ。それを使って俺がいる石壁の上に登って来たクロエ。と、遅れて、ハリス、サーファ、アリアンナ。

俺が今しがた登って来たばかりのアリアンナを視界に収めると同時に、周囲を一通り見渡し終えたクロエが「嘘でしょ…」と呟き、言った。

「これって、もしかして…」

クロエが俺の推測と同じ答えに辿り着いているとすれば、その考えは正解だ。

「防衛戦…」

ボソリとクロエが呟いた声が、聴覚を強化していた俺にはやけに大きく聞こえた。

そう。そうだ。そうなんだ。

「む、無理よっ!こんなの勝てるわけないじゃん!こっちには子供しかいないのよっ!?そ、そりゃ、例外はいるけど…それでも、アンタ一人でなんとか出来るもんじゃないわっ!兎に角、逃げるわよ!」

横目でクロエが皆をこの場から逃がそうとする。おそらく、向かう先は、現在進行形で勝手に閉まり始めた目下に見える石造りのダンジョンと繋がる大扉だろう。

俺は何も言わずにクロエを視界から追い出して砦を挟んで反対の森を見遣る。

「何してるのよっ!エル!アンタも早く!」

「問題ない」

「はぁ!?何言ってるのよっ!こんなの勝てる訳ないじゃない!防衛戦なんて出来る訳ないじゃないっ!ただでさえ足手纏いが3人もいるのよっ!?カッコ付けるのもいい加減にしてよっ!」

ギャーギャーと煩い奴だ。

そんな奴は置いとき、鞄に手を突っ込んである物を取り出そうとする。

敵の数は正確には把握しきれず、草原の中にも潜んでいる。もっと言えば、俺が感知可能な範囲外にも潜んでいるはずだ。

だから…。

「ねぇっ!!聞いてるのっ!?」

ガシッと肩を掴まれて、無理矢理振り向かされる。

「逃げるわよっ!」

視界の片隅に心配そうにしているアリアンナや、不安そうな顔をしているサーファが映る。
ハリスは…アイツはバカだから、今がどう言う状況か全く呑み込めてなさそうなアホヅラをして辺りを見回している。

「もう無理だ」

取り敢えず、クロエには現実を見てもらう為に入ってきた時の大扉の今の状態を教えておく。

「そ、そんな…」

サァーッと絶望に染まる表情。それは少し唆るものがゲフンッ、ゴホンッ。
そんな事よりも、俺は言ったはずだ。問題ないと。もし無理なら即座に引き返す選択をしている。

そうしなかったのには、それなりに理由があるから。決して、無謀な戦いに挑む為ではない。

「問題ない」

何も問題はない。
なんせ、俺はこう言う時の為に備えてきたんだからな。

鞄に突っ込んでいた手を引き抜き、例の武器を取り出す。

それは至って普通の鉄剣にしか見えない。だが、これこそが、改良型"剣を生み出す剣"。

壁の外。背の高い草原が生い茂り、敵が潜む空間へと向け、適当に剣を振るう。と、上空に無数に同じ剣が複製され、無差別に降り注き始める。

改良した点の一つは、一度に複製できる剣の数を増やした。

もう一つはーー。

「なによ…それ…」

今の今まで隠れ潜んでいた敵魔物が、姿を見せる事も厭わずに逃げ惑い、そして、追ってきた剣の餌食となる。

追尾機能。感知したマナの元へ向かう機能。これは元々"追撃型爆撃槍"に搭載していた代物だ。

だが、いかんせん。制御が曖昧でなーー。

「ちょっ!エル!こっちに来る!?来てるっ!!」

こんな事も起こり得る。

攻撃目標付近に敵が居なくなると、律儀に戻ってくる奴がいるんだ。こう言う時は新しい標的を作って再出発・・・させてやる必要がある。

軌道から外れてクロエの元へと向かった剣達の柄を一本ずつ丁寧に掴んで後方へと投げて標的を変更してやる。

「あ、危ないじゃないっ!」

クロエが背後で何か言ってきているが、無視して横目でアリアンナ達の無事を確認してみる。どうやら、見張台の中に入っているおかげで無事なようだ。

大切な事なので言っておくが、この剣は壁越しだからって彼女達のマナを感知してないわけじゃない。ただ単に障害物に苦手なだけだ。

マナの持ち主を貫かんと向かうが、彼女達を守るように囲う壁に当たって落ち、また登り、また当たり。を繰り返している。
おそらく折れるまでやり続けるだろう。健気なものだ。

クロエの元に飛んでくる剣が無くなったのを確認してから、健気にアリアンナ達の元へ行こうとする剣達も行き先を変更してやる。

っと言っても、行き先は適当だ。適当に俺達から離した場所に向かって投げてやれば、あとは自分達で獲物を見つけて役目を全うする。

最後の一本を適当に蹴り上げて明後日の方向へと吹き飛ばして「ふぅ」と一息。マナ感知に集中する。

「ちょっとエル!なんなのよっ!それっ!私達まで突き刺そうとするなんて、不良品じゃないっ!」

うるさい。これでも改良しまくった代物なんだ。まだ改良点は沢山あるものの、それをするには少しばかり知識が足りなくて今は不可能な状態なんだよ。

文句を言ってくるクロエを視界から外して、不良品扱いを受けた可哀相な"剣を生み出す剣"を鞄に仕舞うフリをしながら異空間倉庫に仕舞い込む。
そして、そのままの流れで新たに次の武器を取り出す。

「今度は何を…ちょ、ちょっと待って。本当に何なの、それ?」

何って聞かれても困る。だって、ただの爆撃機なんだから。

とある改良済みの槍を満載に積んだ砲台。自分で投げるよりも打ち出した方が遥かに楽で効率が良いと気付いて作り出した。

見た目は、大人の男が頑張ったら入れなくもなさそうな大きさをした長方形の木箱だ。まるで棺桶に見えなくもない。

向きは、砦に隠れて見えない森の方面。木箱の頭付近に取り付けている立脚ステップを立てて、頭が斜め方向を向くよう角度を適当に調節する。そして、左右に開けれるようにしている木箱の蓋を開くと、準備は完了。

左側に槍のストック…要は弾倉みたいなもの。右側には筒状の発射台。っと言うか、筒がポツンと置かれているだけで他の補助装置なんて一切ない。

だって、まだ試験運用すらしてないもん。

でも発射装置の起動と、物を飛ばす事ぐらい可能なのは確認済み。
仕組みは簡単だ。発射台である筒の内側に螺旋状にしながら筆記魔法を描いただけ。内容は、寝る前のノリと勢いで描いたものだったからうろ覚えだ。
確か、空気の圧縮やら圧力やら発射の向きや発射の際に必要なマナ量の設定やらと色々したような気がする。

兎に角、沢山描いた。
それに加えて、発射装置はこれ一本しか作ってなくて複製は不可能。

同じ物を作ろうとしたら、絶対違う物が出来上がる自信がある。どうしてこれを作ろうと思ったのかすら覚えていないぐらいで、なんとなく発射装置にしただけだからな。使い方を間違ってるような気がしなくもないが、そこはスルーしておく。

さて。ではでは早速起動させますか。

筒の下部にある蓋を開けて、そこにエーテル缶を設置する。まるで、懐中電灯の電池をセットするようにも見えなくはない。
ケースを閉じ、筒の口から槍を入れーー。

「『起動』」

なんとなく目的地付近の上空を指差して言ってみる。

設定した呪文通りに俺の言葉に従い、パシュッと音を立てて槍が空高々と飛んで行った。

「うっ…」
「んなっ!?」
「くぅ…」
「ひゃっ!?」
「………」

これ、使う度に思うんだけど、発射する度に箱の下部上側から出る衝撃波をどうにかできないものか…。

あちこちから悲鳴に似た言葉が聞こえ、数人がなぎ倒される。それもそのはずだ。これには作用反作用の法則が適応されている。発射する際に必要分の力が反対側にも発生すると言ったものだ。
分かりやすいよう簡単に説明すると、筒の内側で爆発のような事が起き、上下の出口に向かって衝撃波を放つようになっている。作用反作用の法則の説明としては違う気がするけれど、これは、それを応用して槍を打ち出す発射装置にしたに過ぎない。

以前、発射装置のみでの試験をした際は、下部に取り付けているエーテル缶の所から衝撃波が放たれ、エーテル缶が暴発した事がある。そんな事もあって、衝撃を逃す場所を上部にしたんだが…それでも、これは一種の危険行為に近い。

なんせ、完全で爆風のような衝撃波が放たれるんだ。安全なわけがない。鉄製の立脚が悲鳴をあげながら地面にめり込むのも納得できる。

まぁ、そんな事はさておき。

着弾を確認しないままさっさと次弾をセット。

「『起動』」

発射する。

またもやパシュッと軽い音と共に、全く軽くも優しくもない衝撃波が発射装置から発生する。

クロエ達は先の一発目で学んだのか、物見台の中に避難済みだったようで、そこから顔だけを覗かせて様子を見ている。

取り敢えず、俺もこの二発で様子見をしてみよう。

少し待つと、遠くの方で爆発音が聞こえてきた。
これがまた、ただの爆発音じゃない。なにせ、これは改良型の槍ーー"追撃型爆撃槍"と"部分分離型爆撃矢"を合体させた代物だからな。

始めの発射に必要な力は、衝撃波が強すぎるため弱くした。そのせいで、飛距離が極端に短くなってしまったのを、空中で分離しながら勢いを増して突き進む機能を持った"部分分離型爆撃矢"で補った。

その為、着弾まで僅かに時間が掛かる。

本来のこの槍は"追撃型爆撃槍"であり、投げる為に作った物だった。なので、頭の矛先が重たくなっても構わない作りにしていた。が、改良を加えて、矛先を軽く尻の部分…石突を重たくした。

そうする事で、発射後は勢いが弱まると、石突部分が下に下がり、矛先が上を向く。そのタイミングで石突に組み込んでいる一次加速装置が起動して上空に目掛けて加速。上空まで辿り着くと、重しである石突を切り離し、暫く垂直飛行。後、次の二次加速装置が遅れて起動し、速度を増して飛翔。エネルギーが切れて二次加速装置が落ちると、矛先が下を向き、目下に見える一番反応の強いマナの元へ向かって一直線に加速しつつ降下。着弾時にはーー。

砦に隠れて見え辛いけども、その奥でカッと一瞬だけ光った。…来るぞ…。

一拍置いて、なにもかも吸収せんとブラックホールの如き穴が砦越しに見え、それが手当たり次第に木々や他の物まで呑み込む。そしてブラックホール擬きが収縮しーードンっと強烈な衝撃波を発生させた。

どれだけ力強く踏ん張っていても俺なんて軽く吹き飛ばす威力の衝撃波によって、背後の壁に背中から打ち付けられーー。

…って、あぶっ!?

予想外すぎる出来事に咄嗟に身を逸らすと、すぐ真横を発射台が通り過ぎて壁から落ちて行った。

あぁ…。たった一機しかないのに…。壊れてない事を願おう。それと、あとで回収しよう。

そんな事を考えてる間に視界を塞いでいた砦が衝撃波の力だけで一部崩壊し、轟ッと暴風が吹き荒れると瓦礫を天高く持ち去ってしまった。危うく俺まで持っていかれそうになって、少し焦った。

これにて一発目は終了。見る限り威力はそれなりにあるようで、先を見通せなかった森は綺麗さっぱり消し飛び、砦付近にあった林は全て薙ぎ倒されて、どこからが林で、どこからが森なのか分からなくなってしまっている。

だけど、まだ安心するのは早い。

なんせーーもう一発あるんだからな。
着弾する前に、さっさと壁から降りて発射台の回収に向かう。と、砦を挟んで反対側から先程と同じ現象が起き、衝撃波が俺を襲う。

発射台を持ったまま、地面をゴロゴロ。ズザザザーッと発射台をスノボーとかに使うボードのように乗りこなして草原を滑走。からの、ハリケーンを彷彿させるような爆風によって空へと持ち上げられーー。

あ…空…飛んでる…。

発射台は本当の意味でボードの役目を果たしてくれた。余り良い気分はしないけど。

強風によって空に浮かされているだけだから、少しでもバランスを崩せば落ちてしまいそうだ。だけど、問題はない。

ちょちょいと風魔法を使って周囲の風を操作して、危なげなく元居た砦を囲う壁の元に発射台に乗りながらズザザザーっと上手い具合に着地する。

って、あっ!!

発射台を足場にして着地しちゃだめじゃんっ!?なにしてんの!?俺!!

大丈夫だよなっ!?壊れてないよなっ!?

急いで一台しかない発射装置を点検して…ホッと息を吐く。
発射装置には傷一つ付いていない。それは良かった。でも、予備弾倉として剥き出しにして置いていた槍を何本か落とした。

言い訳が許されるなら、これでも落とさないように足で踏みつけていたんだけど、さすがに全部をカバーするなんて到底無理だった。

探す気は出ないし、まぁ、数本ぐらい別に良いと思う俺がいる。さて、どこ行ったんだろうな?
落ちてるのを見つけたら回収しとこう。


●●●


エル達が到達したボス部屋のボスにはゴブリンエンペラーと呼ばれる、ゴブリンキングの上位種が潜む場所だった。
彼の元にはゴブリンキングが三体。ゴブリンクイーンが三体。他にも、ジェネラルやロードと呼ばれる猛者達が居た。

エンペラーは、敵が侵入した事を逸早く察知し、敵が現れるだろう場所に伏兵を逸早く設置した。迅速な指示により部下達を持ち場に付かせて、どんな敵が来ても絶対に負ける事はないと思っていた。

が、敵が現れて攻撃指示を出そうとした瞬間ーー悲報を報された。
潜ませていた伏兵が殲滅させられた、と。

エンペラーは一瞬。ほんの一瞬だけ己の耳を疑い、再確認を取った。だが、帰ってきた報告は同じ。伏兵は全滅。後方で控えていたゴブリン達も、同様に半数程がやられた、と言うものだった。

だが、さすがはゴブリン達の上位個体。焦らず、落ち着いて状況と戦況を見極め、次の指示を出そうと手を前に突き出しーー途端、手を突き出した方向の空が光ったと思った刹那。何もかもが消え去った。

たった一瞬の出来事で思考が追い付かないまま、正体不明の物体に吸い込まれそうになった。だが、ゴブリンエンペラーは他と比べて一際体格が大きく、それに伴い体重も重たかった。
それが幸いしたのか。それとも、彼を守る為に犠牲になったゴブリン達の活躍によるものか…。彼は謎の空間に吸い込まれずに済み、代わりとして空間が収縮した後に起きた暴虐とも言える衝撃波に呑まれて、持ち前の巨体が後方へと吹き飛ばされ致命傷を負った。

戦争開始から3分も経たず、敵と遭遇する事もなく起きた出来事だった。

しかし、彼の思考が追い付く間もなく死を運ぶ暴風に晒されて、巨体を軽々と浮き上がらせ、上空から地面に叩きつけられる。

真っ白に染まる思考に反して、真っ赤に染まる視界。見える限り何もない。抉られて何もかもが無くなってしまった真っさらな地面。

彼がこれまで築いた国が。作り出した環境が。部下が。何もかもを一瞬のうちに失った。

既に彼は瀕死に近い重傷を負っている。しかし、節々から悲鳴をあげる体に鞭を打ち、憤怒に燃える雄叫びを上げて立ち上がった。

立ち上がりーー絶望した。

また。まただ。また、あの光。逃げ場はなく、隠れる場所も、守ってくれる部下もいない。全てを失った彼を待つのはーー死。

その瞬間、彼は全てを悟った。悟った上で、勝てないと。生き残る術は存在しないと確信した。
だが、白旗を上げようにも。助けを乞おうにも。降参したフリをして隙を突いて不意打ちしようにも…肝心の敵が見えない。存在しない。

もう…もう訳が分からなかった。

自分の存在意義はなんだったのか。なんて、考えてしまうほど非情な現実から目を背けて、夕焼けに染まる真っ赤な空を仰ぎ見る。

エンペラーは生まれて初めてホロリと涙を流した。だが、それは誰も知る事も知られる事もない光景。

全てが白く染まる。世界が白く染まる。何も見たくなくて目を瞑り、死を運ぶ奔流に己が身を任せる。

…。

……。

………。

…………生きてる…?

自分の生命力に驚くべき喜ぶ所なのか。それとも、こんな状況ですら死ねない自分の生命力を呪う所なのか…。エンペラーは辛うじて生きていた。

しかし…腕はない。いや、腕どころか、右半身を全て失っていた。喋る事も、唸り声を上げる事も、立つ事すらできない。
彼に残された道は、このまま自己回復のスキルで回復するか、それまでに死ぬか。の二択だけ。

それでも彼は…残った左腕を駆使して前へと進んだ。このままでは死ねない。せめて…せめて、死ぬ前に一目だけでも自分をここまで追い詰めた敵の姿を見ておこうと。

右半身が疼き、身体が徐々に再生して行くのが感じられる。

いいぞ、その調子。その調子だ。と、心の中で自身の回復能力の有能さを実感し、このままいけば敵に遭遇するまでに完治できそうに思えた。

だが、彼は知らなかった。

彼の敵は、おそらく世界一臆病で警戒心が強く用意周到な者で…そして、少しドジなところがある人物である事を…。

エンペラーは必死に身体を引きずりながら左半身だけで前へ前へと進む。進みながら右半身を回復させる。そうだ。その調子だ。と、口元を歪ませて、意識を右半身に向けていた彼はーー気付けなかった。

遥か上空から飛来する数本の槍の存在に…。

彼にとって幸いだったのは、きっと、死ぬ瞬間を覚えていない事だろう。
気が付けば。そう、気が付けば死んでいた。どうやって死んだのかなんて彼は知らない。誰も知らない。

ただ、彼の亡骸は跡形もなく消え去り、空っぽになった空間でこれまで以上の強烈な衝撃波と爆風を撒き散らされていた。




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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    台風対策は出来てますよ!……多分
    5日連続更新とか感謝の極み
    明日からの楽しみが1つ増えましたよありがとうございます。
    また次も楽しみにしてます!

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