自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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誤字などの報告ありがとうございます
<(_ _*)>








「たあぁぁぁっ!!」

ゴンっと音がダンジョン内に響き、敵が一頭倒れる。

「はぁぁぁっ!!」

アイアンクロー。からの、壁に叩き付ける攻撃で、また一頭。

「『水弾』!」

ジュリッ!と生々しい音を立てて水弾が命中した敵は頭部を失って膝から崩れ落ちた。

「ギャギャァッ!!」

そんな隙間を縫って棍棒を振り上げながら俺に向かって襲い掛かって来る緑色の肌を持った魔物をーー股間を蹴り上げ、固まった所で振り上げていた腕を掴んで背負い投げをし、地面に叩き付けた後、喉元を踏み潰して殺す。

この階層の魔物。それは、ゴブリンだった。小さくて弱くて知能もない。俺の中でトップ10の内、堂々と映えある1位に輝くほど弱い魔物だった。

かと言って、油断は禁物だ。

「トドメは確実に刺せ」

まだ僅かに息があるゴブリンの喉を踏み潰して呼吸をできなくさせると、程なくして生き絶える。

それを見届けて、ようやく勝利だ。

「お、おう」

本当に分かっているのか?
これは命の奪い合いだ。容赦なんて必要なければ、慈悲の心なんて糞食らえ。

「死にたくなければ躊躇うな。容赦なく確実に敵を殺せ」

「っ…。そ、そう言われても、これじゃあ無理だろ…っ!」

棍棒。ハリスが使っている武器は、ついさっきゴブリンと揉み合いになりつつも奪った棍棒だ。
そのおかげで、クロエとアリアンナと俺が戦闘に出る羽目になってしまった。

「ふむ…。何が欲しい」

「勿論、剣っ!」

「持ってるだろ」

持ってるだろ。その右手に。ついでに言うと左手に盾まで持ってるじゃないか。

「どこがだよっ!?」

「ハリス、アンタもしかして忘れてるの?アンタの着けてるソレ、ただの飾りじゃないのよ?」

「んあ?」

「だーかーらーっ!その魔道具よっ!"鉄ノ剣クロガネのケン"って言ってみなさいよっ!」

「『鉄の剣』?」

何気なく呪文を口にした途端にマジックリングが起動し、ハリスから物凄い勢いでマナを吸い取りーーハリスが白眼を剥いてぶっ倒れた。

あぁ…そう言えば、製作時に爆発の危険性を少しでも抑えるためにエーテルからマナを抜いてたんだった。

倒れたのはマジックリングに急激にマナを吸われたのが原因だろう。

「えっ!?ちょっ!ハリス!?」

戸惑いの含まれたクロエやサーファの声をBGMにして、俺は遠い目をしながらハリスから目を背けた。


○○○


ハリスが気を失ってから。クロエはハリスの看病に付きっ切りとなり、他も心配そうな顔でハリスの顔を覗き込んでいた。

そんな一同を横目に、ちょっと俺のせいな所もあって後ろめたく思ったから、色々と準備してやる事にした。

まず準備するのは、鞄だ。肩から下げれるタイプのもの。

しかし、これはただの鞄じゃない。少し特殊な効果を持った鞄。ハクァーラにも一つ渡していて、これはその改良版になる。

そこに片手を突っ込んで適当に手持ちの食料と水を放り込む。定期的にハクァーラに買って来させている保存食と実験用の水だ。もしもの時の為を想定して準備していたのが幸いした。

ダンジョンからの脱出なんてのはさすがに想定外だったけどな。

あと用意するのは…これと言って思い付かない。魔法が使えれば大抵のことは何とかなってしまうからな。
それに、いざとなったら転移魔法で外に出れば良い。

極力、俺が魔法を使える事は隠しておかないといけないからな。

さてっと…それじゃあ、コイツ等が安心して休めていられるように近くの危険要素でも排除しとくか。暇だし。


○○○


「らあぁぁぁあぁっ!!」

ハリスが魔法で出来た仮初めの鉄剣を振るって、一頭…二頭のゴブリンの胴体を切り裂く。

「ハッ!」

クロエが残った最後の一頭の頭を後ろ回し蹴りで蹴り抜き、素早いステップを踏んで軸足を切り替え、かかと落としで決着を付ける。

武器が変わるだけでここまで違いが出るもんなんだな。改めて武器の有用性を感じた。
俺もそろそろ試作品止まりの武器を仕上げておかないとな。

途中に小休憩を挟みつつ、俺達は順調にダンジョンを突き進んでいた。

戦闘はハリスとクロエ。荷物持ちは俺。道案内も俺。索敵も俺だけど、特に不満があるわけでもない。

ゴブリンの死体がダンジョンの地面に溶け込むのを眺めつつ、コップに入れた水をゴクゴクと一気に飲み干す。

ダンジョンと言うのは随分と変わっていて、面白い発見が沢山ある。

例えば、現在進行形の眼前で地面に溶けて行くゴブリンの死体。まるでダンジョンに吸収されるが如く呑まれてゆく。
そして、最後に残るのは決まってゴブリンの魔石。

その他にも、死体が吸収されると、地面の中で死体がマナに変換されて大気中へと放出される。
パッと見ただけだと、死体がマナの粒子に変換されて霧散しているようにしか見えない光景。

とても興味深くて、面白い。

吸収されるのは魔物に限った話なのか。それとも、人や動物も対象なのか。
大気中のマナは魔物の持つマナとほぼ同質。だとすれば、このダンジョンが意図的に魔物を創り出しているのか。それとも、偶発的に出現するのか。
そもそも、ここに居る魔物達はどこから現れているのか。いや、そう考えると、外の世界に存在する魔物達も同様に、どこから湧いて出てくるのか。

次から次へと疑問が湧き出してきて、俺の中の探究心をくすぐる。

「ねぇ、ずっと不思議だったんだけど、エルって人間なの?」

「ん?」

唐突にクロエに話し掛けられたけど、彼女達の雑談を俺は全く聞いていなかった。
気が付けば、全員の視線が俺を向いていた。

「知っての通り、私は見たまんまの魔族と人間のハーフよ。その私と互角…いえ。私を打ち負かす実力…本当に人間なの?人の皮を被った悪魔とかじゃないわよね?」

何言ってんだ?

「俺は人間だ」

「じゃあ、どうして魔力なんて見えるの?魔力が見えるのは魔眼持ちぐらいよね?」

……マガン?

「知らん」

「それなら、アンタのその右眼はなに? どうして閉じたままなの?」

「見えないからだ」

「ちょっと見せて」

「ああ」

見られても困るもんでもないし、別段気にする事なくずっと閉じていた目を開く。

すると、言い出しっぺのクロエが顎に手を置いて何か考え込む仕草をする。

「見間違い…?いや、でも…」

などとブツブツと呟き始めた。

「なんかクロエと似てるよな」

言われてみれば、今のクロエは黒目黒髪だ。以前見たときは赤目黒髪で、おまけに翼まで生えてたのにな。
っていうか…凄い今更気が付いた事なんだけど…。

「クロエは女だったのか?」

「は?」

鋭い眼光で睨まれた。

「ずっと男だと思っていた」

「張っ倒すわよ?」

「………」

怒られた。そりゃまぁ…怒るよな…。俺の考えなしの言葉がいけなかった。すまない。

「悪かったわね。男勝りな性格で!」

「いや、髪と胸」

指摘した途端にバチンッと小気味よい音が頬で炸裂した。

ちょっと痛いけど、我慢するほどの事でもない。すぐに痛みが引く。

「引っ叩くわよっ!?」

叩いてから言うなよ。

ハリス以外の女性陣からジト目を向けられ、なんとも言えない心境になる。

「っと言うか、アンタ、どこで性別を判断してるのよっ!?頭おかしいんじゃないのっ!?」

そこまで言うか…?

「髪と胸」

「それが間違いだって言ってるのよっ!それなら、サーファは!?サーファはどうなのよっ!?」

「女」

「どこがよっ!?」

え、違うのか?

「ぼ、僕、男です…」

申し訳なさげに男を自称するサーファ。でも、全くそうは見えない。体格が華奢そうに見えるからか?

「帰ったら眼科…医者に眼を診てもらう事を勧めるわ」

「なぁ、眼科ってなんだ?」

「うるさいわね。言い直したでしょ?」

気になる事を聴いただけのハリスをキッと睨み付けて黙らせるクロエ。

眼科…。眼科、ねぇ…。

「クロエ。3+5は?」

「何よ、唐突に」

「答えろ」

「なんなのよ…。8よ。これでいいでしょ?」

不服そうな顔をしながら答えてくれた。ほぼほぼ即答だから、簡単な暗算はできるっと。

「3×5」

「だから、なんなのよ」

「答えろ」

「15」

掛け算も暗算で出来ている。

「82」

「64」

この辺も出来るのか。なら、これはどうだ?

「x+5=4」

「えーっと…1?」

違う。-1だ。この問題は4-5になる。クロエのだと、5に1を足す形になるから6になってしまう。
まぁいい。次だ、次。

「x2+3x+2」

「え。ちょ、ちょっと待って…」

あたふたとし始めて周囲を見渡し始めたので、紙とペンを貸してやる。
と、スラスラと式を書き始めーー解いた。

この世界の人達だと誰も解けないはずの問題を。
ちなみに、答えは(x+1)(x+2)になる。中学生辺りに習う問題だ。

それを楽々と解いてしまうと言う事は…だ。

「なんでこんな問題ばかり出してくるの…あっ…もしかして…」

「ああ」

「まさか、私以外にも居たなんてね…」

なんか残念そうだな。俺は予測通り同類が居た事に内心で嬉しく思ってるのに。

「なぁ、二人して何の話してんだ?」

「お前が知る必要はない」

「そうよ。アンタには関係のないから少し黙ってて」

そう言ってから、小さく溜息を吐いて俺を見やるクロエ。

「ちょっと場所を移すわよ」

「ああ」

他の人に聞かれて、それを言いふらされてもしたら困るもんな。
俺だって父ちゃんや母ちゃんには知られたくない。

アリアンナ達に話し声が聞こえない辺りの場所まで移動し、再びクロエと向き直る。

『言葉は通じる?』

おおっ!日本語!懐かしき日本語っ!!

『この方が話しやすくて助かるな』

『何よ。普通に話せるんじゃない』

『こっちの言葉が難しいんだ。仕方ないだろ』

『何言ってるのよ。共通言語翻訳のスキルぐらい持ってるでしょ?』

『持ってたらこんなにも苦労してない』

そんな便利なスキルがあったら、喉から手が出るほど欲しい。

『こっちの世界に来る時、女神様に貰わなかったの?』

質問に質問で返すようで悪いけど。

『…頭大丈夫か?』

神様?はっ!そんな存在を信じるわけないだろ。

『なんで疑うのよっ!アンタだってこの世界に来る際に転生特典のチートを貰ったでしょ!?』

は?何を言ってるんだ?そんな物は知らん。
もし貰えるのなら是非とも貰いたいものだ。そのカミサマとやらが居るのならな。

そう心の中で愚痴る。

『じゃなきゃ、私に勝てるわけないじゃないっ!それとも何?言いたくないの?別にそれでも構わないけど、それなら私も言わないわよ?』

俺の態度が気に食わなかったのか。それとも別の何かが気に食わなかったのか。クロエがプイッとそっぽを向いてしまった。でも、横目で俺をチラチラと見てくる。

……少し冷静になって考えてみれば、俺は単なる嫉妬をしていただけなのかもしれないと気付いた。

カミサマとやらが居るのかはさておき、俺と同じ同郷の人間が、俺の知らない事を知っていて少しばかり腹を立ててしまっていたかもしれない。

今更だけど、その点に関しては反省した。

そんな俺を見て思う所があったのか、それとも彼女も俺と同じように自分の過ちに気付いて反省を覚えたのか。クロエが俺に向き直ってくれた。でもなぜか、眉を潜めながら俺をジックリと爪先から頭の天辺まで観察するように見てきた。

『もしかして…本当に知らないの?』

『知らない』

『この世界の説明も受けてない?』

『受けていない』

『ステータスの見方も?』

知るわけがない。と伝える風に首を横に振るう。

『それは何か?ステータスって言えば出るのか?』

『なによ、知ってるじゃない』

え?マジで?冗談で言ったつもりだったんだけど?
と、兎に角試してみよう。

『ステータス』

………うん、出ないな。

『ね?出たでしょ?』

『いや、出ない』

何も出ない。でも、クロエを見る限りじゃ嘘を言ってるようには見えない。なんせ、ドヤ顔を浮かべるほど自信満々な顔をしたんだから。

今や、その顔も崩れてきているけど。

『嘘でしょ…?』

それは俺が言いたい。内心、俺は嘘を言われていて、それに乗っかっている俺を見て嘲笑っているんじゃないかって疑いたくなってきているんだ。

『鑑定でも詳しい事は何も分からないし…。アンタ一体何者なの?』

『見ての通り、ただの人間だ』

『そう言うのを訊いてるんじゃなくて…はぁ…もう良いわよ』

呆れられた?それとも諦められた?
とにかく深い溜息を吐かれて匙を投げられてしまった。

余所見をするようにチラリとアリアンナ達の動向を気にするような素振りを見せてから、クロエは再び俺に向き合う。

『詳しい話は後で聞くとして、最後にこれだけは教えて』

一拍。ふぅ、と軽く息を吐いて最後の質問を口にする。

『アンタは私より強いのに、どうして戦わないの?』

なんだそんな事か。
もっとエゲツない質問が来るのかと思って身構えていた俺がバカみたいじゃないか。

えっと?戦わない理由…理由…ね。碌でもない事実なんて口にするわけにもいかないので、適当に誤魔化しておこう。

『俺はお前達が思ってるほど強くないからだよ。…ただ奥の手を多く持ってるだけだ。だから、あくまで俺の存在は最終手段と考えてくれ』

『奥の手…ね』

思い当たる節があったのか、その返答で満足してくれたみたいですんなりと引き下がってくれた。

「分かったわ。じゃあ、アンタの言う、その最終手段とやらを取らないよう頑張らないといけないわね」

嫌味っぽく言われたけれど、そうしてくれると俺としては助かる。

「ああ」

危険な行為は極力したくない…だなんて、言えば殴られそうだったからな…。

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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です!
    誤字報告です
    それを見届けてよくやく勝利だ
       ⬇️
    それを見届けてようやく勝利だ

    間違いなく的確に
    的確にと言うなら相手側に迷いや躊躇を感じる言い回しの方がいいかもです
    躊躇いなくとか迷いなくとか躊躇なく等

    次も楽しみにしてます!

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