自称『整備士』の異世界生活

九九 零

48



目を瞑って神経を研ぎ澄ませる。馬車が風を割く音。翼が風を叩く音が妙に大きく聞こえる。
馬車ごと連れ去られた際の進行方向から補正された感覚はなく、今はただ真っ直ぐ目的地があるかのように一直線に飛行している。

マナ感知を可能な限り最大限に広げても頭上のドラゴンから漏れ出す莫大なマナによって周囲のマナが掻き消されてしまって何も感知できない。

諦めて窓を開けてみれば突風が入り込んできて容赦なく顔面を殴りつけてきた。それに抗いつつ、外の景色を軽く見渡して、最後にドラゴンの視線の先を確認してから即座に窓を閉め、席に座り直す。

「ふむ」

おおよその現在地とドラゴンの目的地は把握した。

「どこかに掴まれ。揺れるぞ」

忠告はしたけど、反応したのはアリアンナだけで、すぐに俺の腕にしがみついてきた。他の三人は無反応。

忠告はしたぞ。

刹那。全身が浮遊感に包まれる。ドラゴンが滑空を始めたようだ。

現在地はシバル山。目的地は…火口。っと言っても、山は木が生い茂っていたから活性火山ではない。
だが、山の頂上に火口の名残りのような縦に空いた空洞があったから火口と呼んでいるだけだ。

人の話を聞かないバカ三人が馬車の中で揉みくちゃにされているのを横目に、俺は同じようにならないよう椅子に手を掛けて踏ん張る。

数秒後ドラゴンが停止し、容赦なく全身に重力がのしかかる。
バカ三人組は床に叩きつけられて気を失い、アリアンナは俺の腕を掴んだまま辛そうにしている。

それらを確認し終えたタイミングで、ゆっくりと下降して行く感覚がした。おそらくドラゴンが山の火口跡へと降りて行っているんだろう。

試しに窓を開けようと思ったが、俺の腕を掴むアリアンナの手が震えていたので、無理矢理引き剥がすのも可哀想だと思ってやめた。

そして暫くーー。

馬車が地に車輪を着けると同時にゴロゴロと転がされ、何かにぶつかって止まった。

ドラゴンは…。まだ近くにいる。今窓を開けるのは不味そうだ。風が窓を叩く。おそらくドラゴンの鼻息だ。カリカリと天井を引っ掻く音が聞こえる。おそらくドラゴンが爪先で触れているんだろう。

馬車に何かあるたびに戦々恐々とするアリアンナが驚いたように俺の腕を強く抱く。

子供に慕われるのは悪い気はしないけれど、できればそろそろ離してほしい。念の為にバカ三人をもう少しの間起きないようにしておきたいんだ。

でも、俺が動こうとする度にアリアンナが引き止める訳で、それは叶わない。三人が起きない事を祈るしかないか…。


○○○


ここに連れて来られて1時間ぐらいが経った。

「落ち着いたか?」

ようやくアリアンナが腕を離してくれた。その間、三人の内の誰も起きなかったのは幸いだった。

「は、はい。すみません…」

「構わない」

ついついマリンやアックが落ち込んだ時にやるように、シュンと落ち込むアリアンナの頭に手を置いて元気付けてやる。

さて。アリアンナからも解放されたし、そろそろ出るか。

「待ってろ」

「えっ…ま、待って!下さい…」

扉に手を掛けたタイミングでグイッと腕を引っ張られて強制的に足を止めさせられた。

「エルさん一人でなんて危険ですっ」

危険?今の現状が一番危険だと俺は思う。だからこその行動だ。
それに、誰かを連れて外に出るよりかは俺一人で様子を見に行く方がよっぽど安全だと思う。

「少し待てば助けが来るはず…それまで…それまで待ちませーー」

「待てない」

言葉を遮って悪いとは思うけども、助けは待てない。なぜなら、ここは山の中だからだ。山頂にポッカリと空いた縦長の洞窟のどこかにある横穴。そんな目印も何もない場所に助けなんて来れるはずがない。っと言うか、そもそも期待すらしていない。

助けに来る可能性はあるにはあるが、そんな運任せな事に俺は命を預けたくはない。

「様子を見るだけ。待っていろ」

この洞窟内は色々なマナが入り混じりすぎて、マナ感知がほとんど働かない。だからこその様子見だ。
音や匂いからして洞窟内にドラゴンが居ないのは確認済み。行動を開始するなら今しかない。

一人でこの馬車で待たされるアリアンナの抱える不安も分かるけれども、今しかないんだ。そんな俺の気持ちが伝わったのか、よくやく解放してくれた。

さっさと確認して安心させてやるか。

あと、余裕があればバカ三人組も起こさないとな。


○○○


ざっと確認した洞窟内部は簡単に言ってしまえば薄暗く、凄く広かった。
広さは目算でおおよそ直径200mほど。高さは50mほどだろうか。
太陽の光は入ってこないものの、外壁付近にちらほらと光る石が確認できた。

天井には氷柱ツララを彷彿させる刺々しい岩肌。土や岩が入り混じった外壁には良く分からない動物の化石が埋まっている。

洞窟と言えば洞窟だ。出入り口らしき外に繋がる穴も見つけた。だが、そこは吹き抜けの大穴だった。下は底の見えないほど深い。上を見上げれば遠くに空が見えた。

位置的には山の中腹辺りだと思う。外側ではなく内側からの推測だから確証はない。

振り返ると、馬車のある付近に幾つか人工物のような物が目に入った。
馬車の背後に隠れていて見えなかったが、どうやら例のドラゴンは光物を集める趣味があると推測できた。

そこにあるのは金銀財宝や武器や防具などで、どれも綺麗で美しい物ばかりだった。中には一見普通の装備のように見えるけど、中にはふんだんにマナが篭められている物もある。

そして、もう一つ。

少しマナの篭った物品が気になって物色している時に気が付いた、馬車のすぐ裏手にあった人工物。

扉だ。しかも、普通の扉じゃない。岩肌のように見える壁は、まるで自動ドアを彷彿させるーー隠し扉があった。
ドアノブのような物はどこにも見当たらないけれど、少し調べたらマナで動かせれるよう細工がされている事が判明した。

その扉の下部は地面にめり込んでいるけれど、そう言う仕様のようだ。地面にマナを流し込んで詳細を把握してみると、多少砂利が入り込んではいるけれど人力でも動かせれそうに思える構造だった。でもそんな重労働をする必要はない。開けるだけなら扉にマナを流すだけで済む。

もっと詳しく言うと、扉を開くためのエネルギーが来ていないから動かない状態になっているので、代わりのエネルギーを注いでやる必要がある。と言う事だ。

扉の先がどうなっているかは判らないものの、背後の大穴を登るわけにもいかない。いや、俺一人ならどうにかなる問題なんだけども、残りの四人にそんな体力があるとは思えない。

だから、選ぶべき選択は扉の先を進むしかないわけで…。取り敢えず、バカ三人組とアリアンナにこの事を話してから崖を登るか扉の先に進むか決めさせよう。


○○○


アリアンナとバカ三人組を連れて自動ドア擬きの前に立つ。

「おい見ろよっこれ!これで俺達大金持ちだぞっ!?」

「と、盗っちゃダメだよハリスっ」

「っんだよ。別に良いだろ」

「でも、誰かの物なのかもしれないし…」

「こんな場所に置く奴がいるかよ」

そう言って財宝をポケットに次から次へと詰め込み始めるハリス。やっぱりバカだ。
自分が遭難している事にそろそろ気付けよ。

その横でサーファは不安を隠そうともせずオロオロとしている。
助けが欲しいならそう言えよ…まったく…。

「ねぇ、ここに扉があるってホントなの?」

「エルさんは嘘なんて吐きません!」

「でも、これ、普通の岩よね?少し大きいだけで、変わった所とかないし」

「そ、そうですけど…でも、エルさんは嘘なんて吐きません!」

こっちはこっちで何の話をしてるんだ?
今のこの状況で俺は関係ないだろ?

はぁ…まったく…。

お前らは自分達の置かれている状況が理解できてないのか?

「ハリス。動くのに邪魔だ。一つにしろ」

「ちっ」

「サーファ。落ち着け」

「う、うん…」

「アリアンナ。俺も嘘を吐く時がある」

「え…」

最後に。

「クロエ。見ていろ」

「………」

全員の視線が突き刺さる中、扉の前に立って手を当てる。

マナの通る回路へと俺のマナを優しく流してーーバガンッと音を立てて扉が砕け散った。

なぜだ。納得いかない。

「すごい破壊力ね。でも、隠し扉は関係なくない?」

うるさい。

「な、何だよ…今の…な、なぁっ!今のどうやったんだ!?どうやったら出来るんだ!?」

知るかよ。マナを流したら壊れたんだよ。

「あっ。奥に道が…」

そりゃそうだ。今吹っ飛ばしたのは扉だったし、奥に道か何かがあるって予想ぐらいはするだろ。

「エルさんが嘘吐きだったなんて…エルさんが…」

アリアンナはアリアンナでブツクサと一体何を言ってるんだ。

はぁ…先が思いやられる…。

各々が扉の先へと向かう為に足を進め始める。その最中、俺は扉を潜る前にチラリと馬車を見やった。


○○○


扉を潜った先は、石畳の床に石を敷き詰められた壁、と。人工的なものだった。
だが、この建物がどう言った理由で造られたものなのかが判らない。

扉自体は人が三人並び余裕を持って通れるほどの広さだった。なのに、そこから繋がる通路は人が通るには不相応なほど広い。
それこそ、例のドラゴンが歩いて通れるほどの広さはある。

灯りは壁にハマっている石から休まず放たれていて、辺りは薄暗いけど見えない事はない。見通しは悪いけどな。
それにしても、あの石。原理は判らないけど、光を放つ代わりに微弱に周囲のマナを吸い取っているようだ。少し観察してみると、アリアンナ達が体内から無自覚で放出するようなマナではなく、この辺り一帯に充満する一風変わったマナだけを吸収している。

変わった石だ。一個だけ…と言わず、何個か持ち帰っておこう。

「ねぇ、ここって迷宮(ダンジョン)じゃないの?」

休憩と称して小石穿りをしていると、周囲を見渡していたクロエが疑問を発した。

っと言っても、俺はダンジョンが何かすら分かっていない。
ちなみに言っておくけど、俺の知らない言葉は「****」とノイズが入ったように聞こえるんだ。言葉をなんとか聞き取って真似できたとしても、言葉の意味が分からない。

まるで言語を理解させまいとしているような何者かの悪意を感じる。いや、これは言い訳だな。俺が普通の事も出来ないほどバカすぎるだけだ。

っと。そんな余談はさておき。

「ダンジーイヨンとは、なんだ?」

「誰の名前よ…。ダンジョンよ。ダ・ン・ジョ・ンっ」

うるせー。発音が難しいんだよ。

「絵本とか読まないの?まぁいいわ。ダンジョンって言うのは凶暴な魔物達が跋扈する箱みたいなのを想像して。それがダンジョン。でも、魔物を倒せば素材が手に入るし、他にもダンジョンの中には宝箱とかアーティファクトとかが眠ってるって事で、一攫千金を狙う冒険者達御用達の場所になってるの」

なるほど。そう言えばカッカも同じような事を言ってたな。

要するに、死と隣り合わせの宝探しゲームみたいなものだろ?俺の認識的には前世の映画で見た某トレジャーハンターに近い。

あまり気乗りしないな…。

「ダンジョン…財宝…金持ち…うおぉぉっ!滾るぜぇぇっ!!」

「何バカ言ってるのよ、ハリス。そもそも、発見済みのダンジョンに財宝なんて残ってるわけないじゃない。もし残ってたとしても、そんなの、私達じゃ到底手の届かないような危険な場所ぐらいよ。私にすら勝てないアンタじゃ無理。帰るのよ」

「ちぇーっ」

そんな二人の会話をBGMにして辺りを散策していると、ちょっとばかし不味い事になってるのに気が付いた。

「ど、どうしたんですか…?」

サーファが終始浮かべている不安気な表情のまま疑問を投げかけてきた。

これは…言うべきなのか…?

「エルさん?」

サーファの声に反応してか、アリアンナも俺の顔を覗き込むようにして見上げてくる。

うぅむ…。

「ん?どうしたの?」

「なんだ?」

騒がしかった二人もサーファとアリアンナの様子に気付いて寄ってきた。

……良い報告じゃないから余り言いたくない。でも、認めたくないが、もう少しこの場所を詮索すれば必然的に皆が知るだろう嫌な事実なんだよな…。

仕方ない…か。

「この階層・・に上へ登る道はない」

「どう言う事?」

不味いって感じさせるような雰囲気だけは伝わったようだが、どうも俺の説明が短絡的すぎて内容が伝わっていないようだ。

「………」

少し説明の仕方を考える。

そうだな…。まず初めに、これから説明するべきか…。

「ここは手付かずのダンジョーンだ」

はぁ?と意味が分からないと言わんばかりの顔を浮かべるのがクロエ。対して、ガッツポーズを取って喜びを体現するのがハリス。
相変わらず不安気なサーファに、神妙な顔をして頷くアリアンナ。

各々が違う反応を見せてくれて面白く思う反面、今の現状だと全く笑えない。

「上へは登れない。下へは行ける」

要するに?と言わんばかりのクロエの顔。薄々は理解している癖に、敢えて俺に言わせようとしているようだ。

「下に向かうしか道がない」

「そうじゃないでしょっ!ここは、ダンジョンをクリアするしか出れないって言う所でしょっ!」

クリアしたら出れるのか?それなら一安心だ。

「何一人でホッとしてるのよっ!」

「なぁ、クリアってなんだ?」

ん?

「え?あー、攻略って意味よ」

「クロエってたまに変な言葉使うよな」

「煩いわね。ブツわよ?」

そう言ってクロエに睨み付けられたハリスは、そそくさと俺の背後に隠れた。

もしかして…クロエは…。いや、この疑問はひとまず置いておこう。

「エルさん…もしかして、私達でこのダンジョンを攻略するのですか…?」

今の話を聞いてアリアンナが不安を抱えてしまったようだ。その不安を拭えるかは分からないけれど、頭にポンっと手を置いて安心させるような言葉を掛けてやる。

「問題ない」

いざとなれば俺が転移魔法を使えば済む話だ。

アリアンナの表情が僅かに緩んだような気がした。でも、まだ全快と言うわけではなさそうに見える。

「すごい自信ね。でも、期待してるわ。この中でマトモに戦えるのは私とあなただけだと思うから」

そう言って軽く一同を見渡すクロエ。

確かに、サーファもアリアンナも戦闘向きではなさそうな体格をしている。ハリスは…一応戦力に数えておこう。

「それじゃあ…作戦会議よっ!!」

そして唐突に始まった作戦会議。題目は勿論、ダンジョン攻略についてだ。


○○○


ハリスが煩く騒ぎ、それにクロエがキレたりして。っと、色々あったりしてて会議と呼べるような会議でなかったけども、ハリスの意見も尊重した結果。

ハリスが前衛に決定。

ハリスの援護にクロエ。俺は戦わない宣言をしたので後衛で戦う能力を持たないサーファとアリアンナの護衛となった。

そんな感じで決まった瞬間。

『グラアアァァァァァァッ!!!』

ダンジョン全体が揺れたように錯覚するほど大きな怒気の篭った咆哮が来た道から聴こえてきた。

誰がなんて考えなくとも分かる。ドラゴンの咆哮しかないんだから。しかも、相当怒ってる風を受ける。

咆哮が終わった後でもピリピリと地肌が騒つき、周囲のマナが徐々にドラゴンのマナに侵食され始める。

「ね、ねぇ。これ、あのドラゴンよね?なんか怒ってない?」

そう言ってから、何かを思い出してハッとすると、腰を抜かして座り込んでいるハリスを睨み付けた。

「ハリス!一体あそこで何を盗ったのよっ!」

「べ、別に何でもいいだろっ!」

「良くないわよっ!早く出してっ!!」

クロエが催促するように手を出す。でも、ハリスはなかなか強情なようでドラゴンから盗った物を出そうとしない。

そんな事をしてる暇なんてないんだけどな…。

「来た」

視線で来た道を見やると、吊られて全員が同じ方向を見る。

耳を澄ますと聞こえてくる地鳴りのような足音。石壁を砕くような破壊音。遠方から次々と消えて行く薄暗い灯り。

その暗闇には…ギラリと憤怒に燃え盛る赤い双眼が覗いた。

「ひゅっ…」

「ちょっ!?に、逃げるよ!ハリス!サーファも!早く立って!」

「エ、エルさん…」

アリアンナ…お前も腰を抜かしたのか…。仕方ない。背負ってやる。置いてかれる前に乗ってくれ。

「あ、ありがとうございます…」

「あーもうっ!」

俺がアリアンナを背負い終えたタイミングで、クロエの焦りパラメーターが上限を超えたようで、遂に腰を抜かして立ち上がれない状態のハリスとサーファの首根っこを掴んで走り始めた。

俺もそれに追随する。

「だからやめておいた方が良いって言ったのにっ!アンタが盗るから!」

「クロエは言ってないだろ!言ったのはサーファだ!それに、盗ったのは一個だけだ!別に一個ぐらい良いじゃねぇかよっ!!あのドラゴンがケチなだけだ!やーいっ!このケチドラーっ!!」

『ガギャアアァァァァァァッ!!!』

ハリスの声が聞こえた訳ではないはずだけど、ドラゴンの怒りの咆哮がーーいや、咆哮じゃない。

「衝撃に備えろ」

「えっ!?ちょっ!?」

狼狽えながら俺を見てくるクロエを横目に、片手をドラゴンの居る方向へと向ける。

「『防御』」

防御魔法越しに伝わる衝撃波。突き出した右手にドンっと衝撃が襲い掛かり、後方へと10mほど飛ばされた。けど、俺はアリアンナを背負ってるから転けるわけにはいかずに両足で上手く着地。と、同時に防御用の魔法の指輪マジックリングが壊れてポロリと指から溢れ落ちた。

「ふぅ…」

拾う余裕なんてない。受ける範囲を広くしすぎた所為で右腕が痛む。

顔を上げてクロエ達の安否を確認した後、横目でアリアンナの安否も確認する。全員が両目を強く瞑って縮こまっている最中のようだ。

真っ先に目を見開いたのはクロエ。

「このバカっ!!置いてくわよっ!?」

ハリスの頭にゲンコツを一発落として、喝を入れるクロエ。
さすがに懲りたのか、ハリスは涙目でクロエを睨みつけながらポケットから小さな首飾りを取り出してクロエに渡す。

「アンタがこんな物なんて盗るからっ!!」

そう言いながら首飾りを持った手を引き絞りーー投げた。

目にマナを送って遠視で首飾りの行方を見送ると、見事にドラゴンの鼻の穴にスッポリと入っていた。
ホールインワンだ。偶然にしてもすごい。ドラゴンも驚いた顔をして狼狽えている。

「こ、これでもう追ってこないわよ…ね…?」

ね?と同意を求めるように俺を見てくるクロエ。でも、その考えに対して俺は素直に首を縦に振れない。

『ガルアァァァァァァァァッ!!』

あ…不味い。さっきの行動でより怒りを買ってしまったみたいだ。
急いでクロエ達の前に移動し、アリアンナを背中から振り落としながら前方の地面に簡易スクロールを数枚設置する。

「『盾』っ!」

簡易スクロールが俺の言葉に反応して、実態のない盾を作り出す。でも、これだけじゃ足りない。

ポケットから予備のマジックリングを両手から溢れるほど取り出して、全て発動させる。

「『防御』」

これでもまだ安心できない。もういっちょ追加だ。
痛む右腕を左手で支えながら大口を開けて構えるドラゴンに向ける。

「『制限解除。聖域を発動』」

刹那ーー目の前が真っ白に染まる。

一瞬の内に簡易スクロールの盾は破られ、ほんの少しの抵抗をした防御魔法も破られた。でも、ギリギリ間に合った。

この攻撃を俺は知っている。ブレス攻撃だ。以前、似たような攻撃をしてくる魔物と戦った事がある。とは言え、その時の魔物とは威力は段違いだ。

予想以上に威力が高く、簡易スクロールや防御魔法で緩和したとは言っても、抑えきれなかった衝撃が右腕を蝕む。

これは俺の奥の手の一つ"魔法の腕輪"。内蔵している魔法を任意で発動可能な代物だ。しかも、これは一度や二度ぐらい使っても壊れないよう対策をしている。

まぁ、こんな無茶な使い方をした時点で壊れるのは確定だけどな。
俺達を覆う半透明のシールドに罅が入ると同時に、右手首に嵌めている腕輪にヒビが入る。ついでに言うと、俺の右腕が裂けて血が吹き出した。

「ちっ…」

ズルズルと地面を踏みしめる両足が圧されて後退する。でも、これ以上の後退は許されない。
背後にはアリアンナやサーファやクロエ、ハリスがいる。

コイツ等を守らなきゃならない。なんてイカした事は言わないし、考えてもない。
だったら、どうして守るような事をしてるのか…。それは自分が助かるついでに助けるだけだ。

「……っ!」

だから…だから、一歩。力強く前進する。

負けるか。負けてたまるか。と、負けず嫌いをここぞとばかりに発揮し、根性で押し返して行く。

何秒。何分耐えたんだろう。そう思えるほど長い時間のブレス攻撃を耐え続けると、前方から掛かる圧力がふっと消えた。

バランスを崩して両膝を地に着ける。

「ふぅぅ…」

久し振りに全力を出した所為で体内が異様に熱い。その熱を逃がそうと口から長く息を吐く。

振り返ると、全員が両目を見開き口を半開きにしたまま固まっていた。

「おい」

「ハッ!?い、生きてる!?私生きてる!?」
「や、やべぇっ!ヤバすぎだろ!!マジでやべぇって!!」

声を掛けると、クロエとハリスが真っ先に声をあげた。
サーファは股付近を濡らして泣きそうな顔をし始め、アリアンナはまるでアイドルとかを見るような瞳で熱烈な視線を向けてきた。

「次が来る前に逃げるぞ」

「そうね!そうよねっ!早く逃げなきゃ!」
「おぉ?お、おう!」
「………」
「は、はいっ!エル様!」

サーファだけ今にも泣きそうな雰囲気で、これじゃあ何を言っても動きそうにない。あまり気は進まないけど…背負うか…。

逃げてる途中に思ったんだけど、アリアンナが俺を呼ぶ名前…変わってなかったか…?

気の所為…だよな?

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コメント

  • Grape

    1話目から思ったこと言ってもいいですか?




    あっ、(察し
    これ面白いやつやん

    2
  • トラ

    更新お疲れ様です
    やっぱりクロエは女の子っぽい印象が抜けないですねー
    次も楽しみにしてます!

    1
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