自称『整備士』の異世界生活

九九 零

47

ごめんなさいっ!46話が抜けていました!








俺がこの屋敷に居るのも今日までの予定だ。明日には帰ると決めている。
この屋敷…っと言うよりは、この街には今日来たばかりだが、特にこれと言った用事はなくなったから帰る。

そんな俺が勝手に決めた最終日の夜。随分と早くカッカが報告を持ってやってきた。

「早かったな」

「それも仕事の内なんでね、っと」

そう言って俺の対面にあるソファの背を飛び越えて、着地と同時に座った。

「早速本題に入らせてもらうぞ?まず、旦那の元で整備師として働きたいやつだが…」

まぁ、あんな事をした後だ。居ないだろう。

「二人居る」

え、うそ。マジで?

「二人とも旦那にボコられたガキだ。旦那に色々教えて貰えるって聴いた途端、目の色変えて飛び付いてきやがった」

なにそれ。俺が教える前提なの?いや、でも確かに整備士になるにな実際に見たり触ったりしなきゃ知識や経験は付かないしな…。

でも、俺必要なくね?

「次は旦那の作った物を売る…説明としては店の経営や行商をしたい奴を探したんだが、一人しかいなかった。あとは冒険者に憧れるガキと自分で決めるって言うガキだけだったな」

「そうか」

そっか。まぁ、普通は自分達で何とかするのが当たり前だもんな。俺なんかが手を貸すほどの事じゃない気もするけど…まぁ、それは言わないでおこう。

「最後に、旦那に朗報だ。ここの執事が俺達の味方に付いた」

ん?え?なんで?どうやって?ってか、え?本当になんで?どうしてそうなったの?

「アイツの情報収集能力は俺も高く買っててな、それが欲しくて誘ったんだよ。それに、向こうも俺達の縁を切りたくなさそうにしてたからな。部署は諜報部に回した。当分はこの街が活動地点になる」

「そうか」

難しい話は分かんないから適当に相槌を打っておく。

「そんな執事から面白い情報が幾つか入ったんだが、ついでに聞くか?」

「ああ」

面白い情報…面白い話かな?
カッカの話す英雄譚とか冒険譚は面白いから好きなんだ。ちょっと興味が唆られる。

「旦那は魔剣って聞いた事ないか?」

いや、知らないな。

「魔剣ってのは、簡単に言ってしまうと魔法が封じ込められた剣だ。呪文一つで杖なんてなくても、誰でも簡単に魔法を発動できたりする。まっ、中には使った代償で身体に異常を引き起こす物もあるらしいが、そう言うのは一般的に呪いの武器って呼ばれたりする。で、だ。今回の話は呪いの武器じゃなく、魔剣の方だ」

ほほう。面白そうな話じゃないか。魔力を流すと力を引き出すような剣か…あれ?それって俺が暇潰しに作ってるアクセサリーと同じような…?

「王都のオークションに出す予定だった大量の魔剣を載せた荷馬車が、つい最近マミヤ平原でドラゴンに荷馬車を丸ごと掻っ攫われたらしい」

うへぇ。そりゃ災難だったな。それで御者は無事だったのか?

「次に、最近新しいダンジョンが発見されたらしい。場所は…確かこの近くだったな。シバル山脈の中腹にあるんだってよ」

え、今ので終わり?まぁいいけど。それで…ダンジョンってなんだ?

「つってもシバル山脈つーと、どの街からも距離があるし、マミヤ平原で荷馬車を襲ったドラゴンもその山を棲家にしてるらしくてな。ギルドも手をこまねいているんだってよ。遠いし、危険すぎて誰も近寄れず、発見されただけで誰も足を踏み入れれていないらしいぜ」

ダンジョンってなんなんだ?

「あとは、魔物の動きが活発化してきているらしいのと、魔王の復活を噂されてるぐらいか?いや、教国の動きも最近キナ臭いってのもあったな。まぁ、あくまで全部噂なんだがな」

最後は随分とザックリと話したな。まぁ、俺に関係なさそうだから別に良いけど。

それより、

「ダンジョンとはなんだ?」

「おっ。やっぱりそこに興味を持つか。さすが旦那。お目が高い」

焦らさないで教えてくれ。その知らない言葉が気になって仕方がないんだ。

「ダンジョンってのはな、簡単に説明しちまうと魔物が無限に湧いてくるような場所だな」

なんて危険な場所なんだ。

「でもよ、魔物が出るっつー危険要素はあるけどよ、そこには大昔の遺物とか魔剣とかが眠ってて、そいつを売りゃ大金持ちも夢じゃねぇんだぞ?」

いや、不安しかない。

「それに、まだ誰も手を付けてないって事は、今なら取り放題って事だぜ?」

あー、うん。そっか。行ってらっしゃい。

無茶無謀をしていた前世はどうあれ、今世ではせめて親よりは長生きしたいんだ。だから、そんな危険な橋は渡るわけにはいかない。

こういうのは、事前情報を入念にチェックしてから、確実に勝てると確信した時だけ行動するに限る。

それに、そんな事をしなくとも至って平和で平穏で平凡なこの現状に満足しているんだ。

「旦那程の力があればドラゴンなんて敵じゃねぇだろ?」

「行かない」

ドラゴンがどんなものかすら知らないし、ダンジョンなんて危険が未知数な存在に挑む気なんて更々ない。

「折角の儲け話だったんだがな。まぁ、旦那がそう言うなら俺はそれに従うだけだ」

ほんと、聞き分けが良くて助かる。グダグダと同じ事を言われ続けるのはイラつくからな。その点、カッカは一言言えば大人しく引き退ってくれるから、良い拾い物をしたと思える。

「若干話は逸れたが、報告はこれで全部だ。で、孤児院の返事はどうする?」

「…待て」

忘れてた。

「なんなら明日でも構わないんだぞ?ちっと俺の部下が旦那と孤児院の間を何度か往復すりゃ済む話だからな」

それはそれで面倒だろうに…ちょっと待て。今考える。

……そうだな。

「希望した奴を連れて帰る」

「それは…ちと酷じゃねぇか?」

「………」

よくよく考えたらそれもそうか。

カッカの言う通り、友との別れの挨拶とか旅支度とかあるもんな。
俺が相手の立場になって考えてみれば、突然現れた奴が勝手に選択肢を与えて、その一つを選んだ突然着の身着のままで旅立たなきゃならないなんて…うん、腹が立つな。

「ま…」
「まっ、旦那がそう言うには何か案があるんだろう。分かった。旦那が帰るまでに間に合わせるようにしておく」

そう言うと、取り急ぐように影に紛れるように立ち去ってしまった。

……待って、欲しかった。

ちゃんと言い直そうとしたんだけどなぁ…。

はぁ…。追い掛けるのも面倒だし、まぁ、こうなってしまったら仕方ない。明日は明日の俺に任せよう。

寝るか…。


○○○


「どうしてこうなる…」

視界に一杯に広がる大空。目下には広大な草原の景色が見える。
風圧が強すぎて、窓から顔を覗かせるだけで酷い顔になってしまうのが自覚できる。

窓を閉めて馬車内を見渡せば、頭を抱えて縮こまるアリアンナと少年少女達。初めこそは騒いでいたのに、今ではこの有様だ。

なぜか。それは俺達が空の旅をしている真っ最中だからだ。

空飛ぶ馬車。聞こえは良いと思う。だがな…俺はそんな機能を付けた覚えなんてない。
そもそも、まだ空を飛ぶような乗り物を開発していない。

なのに空を飛んでいる。

ここで大事なのは浮いているのではなく、飛んでいると言う事だ。

「はぁ…」

さて。どうしたもんか…。


〜〜事の発端は数時間前に遡る〜〜


予定通りタングの街を後にした俺達は、サルークの街を目指して北東方面へと馬車を走らせていた。

馬車は俺が手を加えた…っと言うよりも、作り変えた物をレイエルが貸し出してくれた。
馬車の周りを囲うのは、行きにも世話になった騎士達やお馴染みの御者で、同乗者にはアリアンナもいる。

行きと同じメンバーだ。ただ、行きと違う点もある。

「な、なんだこれっ!?すげぇ!なぁ!すげぇぞ!クロエ!」

ソファの反発力を実感して大袈裟に驚きの声を上げたり、エアコンのスイッチをポチポチと弄っては大袈裟に驚いたり、終いには荷物置きに入り込もうとまでする活発な赤髪の少年ーーハリス。

「ええ、そうね」

そんなバカに付き合いきれないと言わんばかりに生返事を返すだけで、ずっと俺を睨み付けてくる黒髪黒目・・の少年ーークロエ。
俺が知ってる彼は赤目だったはずだけど、その件は後で聞こう。

「うわぁ…」

最後に、馬車に乗ってからずっと窓から顔を覗かせたまま外の景色を眺めて幸せそうな声を漏らす臆病そうな翡翠色の髪と蒼い瞳の少女ーーサーファ。

この3名が同乗していて、行きよりもずっと騒がしく賑やかだ。
それに、今回は俺も馬車に乗っているしな。

「ふふっ。なんだか楽しいですね」

「……」

楽しくはない。無駄に騒がしいやつがいるし、睨み付けてくる奴もいるし、外は外で度々魔物と遭遇したりしていて一時も安心できない。

「ふひゃっ!?」

突然サーファが声を上げてひっくり返った。その顔にはベッタリと赤黒い液体が付着していて…返り血でも受けたんだろう。

転んだ拍子に頭をぶつけたのか、涙目で後頭部を抑えて縮こまっている。

「はぁ…世話がやける…」

手持ちの布で顔の血を拭き取ってやってから立たせ、ぶつけた後頭部を簡易スクロールを使って治してやる。

「魔法…」

そんな呟きが聞こえてアリアンナの方へ視線を向けてみると、寂しそうな顔でサーファの後頭部を見つめていた。

「どうした?」

「いえ。なんでも…ないです」

ギュッと拳を握り締め、感情を押し殺したような嘘まみれの笑みを向けてくる。

その顔は『なんでもない』顔ではないのは一目見て明らかだ。それを見て何とも思わないと言ったら嘘になる。
けど、なんでもないってアリアンナが言ったから、俺はこれ以上の追求はしない。

「そうか」

と言って話を終わらせる。

誰だって踏み入って欲しくない領域ぐらいあるもんだ。俺はそこにズカズカと踏み入るような事はしない。

「薄情なのね」

クロエか。

そうだな。人によっては俺は薄情者に見えるかもしれない。だから否定はしない。肯定もしないけどな。

外での戦闘が終わったようで再び馬車が進み始める。

「あっ!ここってもしかしてマミヤ平原じゃねぇか!?知ってるか?つい最近、ここで魔剣の積まれた馬車がドラゴンにーー」

「ハリス。少しは大人しく出来ないの?」

「なんだよ。ちょっとこの辺りでドラゴンが出るって噂話をしただけだろ?」

「はぁ…このバカ…」

なんかよく似た話をつい最近聞いたような…。

そう思っていた矢先に外が酷く騒がしくなり、馬車がガクンっと大きく揺れた。
設計上、ここまで酷い揺れ方をするような作りはしていないので、予測できるのは事故ったか、車輪を窪みなどに落としたかなんだが…ここは異世界だ。俺の知ってる世界ではなく、俺の常識や予想なんて簡単に覆されてしまう。

そう。例えばーー。

「ド…ドラゴン…っ!?」

窓の外に顔を覗かせたサーファが青い顔をして尻餅を着く程の巨大な存在が現れたりする。

そう。ついさっき噂に出ていたようなドラゴンに馬車を丸ごと空へと運ばれる…なんて事が簡単に起きてしまったりするんだ。

俺だって少しは驚いている。まさか、マナ感知は範囲外から急速に迫られると感知しきれないだなんて欠点があるなんて思いもしなかったんだからな。

ハリスが恐る恐る窓から頭上を見上げると、静かに席に着き、頭を抱えて黙り込む。
続いてクロエも外を見て、心ここに在らずと言う状態で馬車の隅で縮こまった。

「エ、エルさん…ど、どうしましょう…」

アリアンナはオドオドとしてはいるが、この中では一番マシな反応をしている。
あの三人みたく口から魂を放り出して諦めてしまうよりかは、どうしていいか分からずに人に聞くアリアンナの方が何倍もマシだ。

マナ感知で捉えているのは巨大なマナの塊だ。俺が持つマナよりも何倍も多く、側にいるだけで相応の威圧感を感じさせられる。

だけど、それだけだ。

窓から見える景色を見て、顔を覗かせて地上を見て、頭上のドラゴンらしき存在を見ても、ただ大きいだけの存在にしか見えない。

もしもこの高さから落とされたと想定したとしても、確実に無事で居られる自信がある。他四人も多少の怪我はするだろうけど、少し手を貸せば命に関わるような大怪我は負わないだろう。

もしドラゴンと戦闘になったとしても、相手が生物である以上、幾らでも対処法は存在する。

ただ問題があるとすれば、その二つの対処法は魔法を使わなければならないと言う点がある事だ。
俺は魔法が使えない。っと言う事になっている。だから、他人の目がある所では決して魔法を使用しない。

まぁ、見られても目撃者を消せば良いだけの話なんだけどな。

でも今回はそうもいかない。目撃者を消すわけにもいかないし、魔法の使用は極力避けるべき案件だ。
魔法を使用しないとなれば…うん。無理だな。落とされれば間違いなく俺以外の全員が死ぬ。戦ったとしても、他四人を守りながらだと勝率は0に近いだろう。いや、守りながらじゃなくとも、魔法を使わないと言う条件下では勝率は限りなく低い。

………成るように成る、か。

取り敢えず、外の風が強いから窓をシッカリと閉めてから元居たアリアンナの隣の席に座り直す。

心配そうな顔を向けてくるアリアンナが横目に入って少し相手をするのが面倒くさく感じたけど、一応は声を掛けておく。

「心配ない。今は待つ」

「わ、分かりましたっ」

ふんすっと可愛らしい鼻息を立てて気合を見せるアリアンナ。

信用されてるのは分かるんだけど、そんなに張り切る必要なんてないと思う。

さて、このドラゴンはどこに向かっているんだろうな…。確か、カッカが言うにはなんとか山って迷宮のあるとこだったっけ?

面倒な事にならないと良いんだけどなぁ〜…。




「自称『整備士』の異世界生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です
    46話抜けてません?
    もしそうなら間がすごく気になります

    1
コメントを書く