自称『整備士』の異世界生活

九九 零

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ってなわけで完成しました!
マナ駆動式自動走行車(試作品)!略して、マナ自動車!

暇潰しで作っちゃったよっ!

「キャハハハハッ!」

そして、それを乗り回してハシャぐミリア。どうして乗ってるのか…。俺にも分からない。

気が付いたら乗ってた。そして、運転してた。

うん。なぜ?

マナ自動車は、前世の乗り物で例えるなら、ゴーカートと呼ばれる車両に近い。
適当な鉄パイプで車体を作り、動力源、ハンドル、車輪、ブレーキ、アクセルを取り付けただけの簡易な代物。

要するに、オモチャだ。
エーテルを電池と例えたとして、電力でモーターを回すようにマナで回転エネルギーを生み出している。その回転エネルギーを生み出すには…っと、詳しい説明は省こう。

最高速度は俺が乗った場合だとおおよそ60km/h。フルアクセル時エーテル缶一つでの走行可能距離はおおよそ120km。フルパワー状態での走行可能時間は約二時間。

あくまで試作品だが、今の俺でも楽々と作れてしまう代物オモチャだ。

それと作っている最中に閃いた事がある。俺は普段エンジン内部の潤滑油を魔法で変質させた水で代用していた。が、それを応用して、ゴムのような物を作れないか?と思ったわけだ。

まぁ、結果を先に言うと、水では無理だった。
タイヤの形の固定化を持続させつつ走行させるのがエネルギーの効率や消費率から考えて困難だからだ。
だからってタイヤ用にエーテル缶を取り付けたとしても、水の固定化をし続けるだけで消費率が多く、実用的ではない。

なら何が出来たのか。

答えは簡単、空気の膜だ。
わざわざ水を生み出して使用するまでもなく、原料は大気中に存在する空気をそのまま使えばいい。
圧縮すれば高圧の空気エアとなり、使い方によっては人を軽々と吹き飛ばす威力をも放出できるものだ。

実際に、前世で俺がトラックの整備士をしていた頃に何人かタイヤの破裂に巻き込まれて吹き飛んでいた。みんな重症だったのは今でも覚えている。

空気の力と言うのは圧縮すればそれほどまでに威力が膨れ上がる。そのくせして、柔軟性があり、弾力がある。

実際にタイヤの中は、エアーを利用していて、ゴムでそれを外側に漏れないようにしつつ、空気圧とゴムの反発力でタイヤの役割を果たしていた。

それは即ち…エアーのみでもタイヤの代わりになるのでは?と思った。

路面を走行するのではなく、空中を走行する。そう言った空想の産物が現実で作れるんじゃないか?

と、思ったわけだ。

まぁ、それを試すのはまだ先の話で、まだ試してはいない。今はミリアが乗ってるマナ自動車で満足してるからな。でも、実家に帰ってから試作品を作ってみようとは思っている。

「エルお兄ちゃんって、やっぱりすごぉい!」

そう言って試作品マナ自動車1号機で遊ぶミリアを遠目で眺め、ちょっと褒められた事に嬉しくて頬を緩ませる。

「ここに居たのか。エル少年」

「ああ」

このマナの気配はレイエルだな。
ずっと屋敷の中をウロチョロしていたのに、今更になって何の用だ?

もしかして、もう出るのか?

そう思って隣に立ったレイエルを横目で見やると、苦笑いを浮かべてミリアを見ていた。

「それにしても…また凄い物を作ったな」

「ただのオモチャだ」

「これがオモチャか…。やはり君は…いや、何も言うまい」

え?なに?途中で言うのを止めるなんてするなよ。すげぇ続きが気になるんだけど。

「………」

楽しげに試作品一号機を乗り回すミリアを無言で見つめるレイエル。
俺もさっきの話をわざわざ掘り返す事はせずに、黙って試作品一号機の使用状態の様子を見つめる。

「君は…アリアンナをどう思っているのだ?」

ふと、レイエルがそんな質問をしてきた。

どうと言われても…。

「友だ」

「そうか…」

ん?なんだその期待外れみたいな反応は。
もしかして、また俺は言葉を間違えてしまったのか?
ちゃんと友達って言ったよな?間違ってないよな?

「実際のところどうだ?そこに恋愛感情はあるのか?」

「有り得ない」

子供に欲情するわけがないだろ。

強いて挙げるとするなら、そうだな…あのメイドさんが告白してきたら迷いなくOKしてしまう自信はある。
万が一にもないと思うけど。

「そうか…」

結局のところ、レイエルは何を言いたいんだ?
俺にはその意図が掴みかねる。その答えが出ないまま再び無言の時が訪れそうになる。

なので、今の内に聞きたい事を聞いておく。

「出発はいつだ?」

「ん?あ、ああ。君には伝えてなかったな。皆の準備もあるだろうから、明日の朝に出る事にしている」

さっきまで急いで準備していたのは何だったんだ。

「分かった」

まぁいい。少し暇な時間が増えただけだ。

借りてる部屋にでも篭ってマナエンジンの改良版でも作っていれば、朝になっているだろう。

「エル少年。アレは持って行かなくていいのか?」

アレ?って、ああ。ミリアが乗ってる試作品一号のマナ自動車の事か。

「ああ」

欲しかったらやる。次の試作品を作るから、一号機はもう要らない。

さーて。やるかっ!趣味の時間だ!


○○○


普通とは一体何を指すのか。

何を基準にして普通と言うのか。普通とは、集団を足して割った、平均値を言うのか。それとも、隣人が軽々とこなしてしまう事を普通と言うのか。

俺には全く理解ができないし、理解する気もない。

結局のところ普通なんてのは個々人が勝手に決めた基準であって、わざわざ他人に合わせる必要なんてないって事だ。

「ねむ…」

だから俺は…。


●●●


「あの、お父様…?エルさん、どうしたんでしょう?」

アリアンナが心配そうに壁に寄りかかって無愛想な面で寝入っているエルを見やり、不安を訴えかけるような眼差しを父であるレイエルに向けた。

馬車の車輪が小石を弾いて小さく跳ねる度にコクンッと頷くように頭を上下させるエルを見て、レイエルは呆れを含めた軽い溜息一つ吐いてアリアンナの質問に答える。

「セバスが言うには、徹夜で魔道具の制作に励んでいたらしい」

「だからって…あんなにフラフラになるまで…」

アリアンナの言う通り、屋敷を出発当初のエルは足取りが覚束ないほどフラフラだった。
目の下に軽いクマをつくり、気色の悪い半笑いを浮かべながらセバスに手を引かれ、用意された馬車に乗ると何者にも有無を言わさぬ速さで寝たのだ。

優しいアリアンナは、それを見てしまって心配だったのだ。

その原因を知っているメイドのシルはなんとも言えない気持ちを抱え、しかし、顔色を変える事なく淡々と言う。

「アリアンナお嬢様。エル様なら放っておいても大丈夫だとは思いますが、一応、騎士達からお話しを伺ったところ、どうもエル様は道中一度もまともな睡眠を取ってないらしいです」

「え…?で、でも、私と一緒に来て頂いた時は普通に寝ていましたけど…?」

確かに寝ていた。気持ち良さげに、騎士達が用意してくれた寝袋すら使わず、近くの木に背中を預けて寝ていた。そうアリアンナの目には映っていた。
だが、事実は違う。

「では、試しに頬を突っついてみて下さい」

言われた通りアリアンナがエルの頬を突つこうとすれば、寸での所でペシッと弾かれる。
『え?』となりつつリベンジするも、やはりハエか何かを追い払うような仕草で弾かれる。

「ちなみにですが、魔物が近寄ってくると起きるらしいです」

「はははっ。この歳で気配察知持ちですか。さすがはエル様です」

皆が驚いて御者席に座るセバスを見やる。
それは本当かっ!?と、みんなの瞳が語っている。

気配察知なんて、そうそう手に入るスキルではない。それこそ、

「一体どんな劣悪な生活をすればこの様に育つのか全く想像が付きませんね」

自分よりも強い凶悪凶暴な魔物が跋扈する地帯に単身で乗り込み、そこで一月以上修練を積んでも手に入れるのが稀と言われるほど、レアなスキルだ。
だが、今のセバスの発言で馬車内の雰囲気が急激に暗くしてしまった。

エルがその様な環境下で暮らしていたかを匂わしてしまったせいで…セバスはそれすらも織り込み済みで続きを話す。

「しかし、その様な環境で育ったとは思えないほどお金に頓着しませんし、ほんと、エル様は分からない方です」

内心では全く笑えない冗談に近い存在が、背後で臨戦状態になりながら寝ている。なんてシルの話を聴き、実際にアリアンナによって試されたあとでも未だに信じられない。

セバスはエルが食後に修練を積むのは昨日の間で学んだ。だが、納得いかない。なんだって10歳前後の子供が気配察知を身に付け、そこらのゴロツキなど相手にならないほどの戦闘能力をも兼ね添えているのだろうか。

しかも、これはセバスしか知らない情報になるが、何者かに一晩で潰されたと言われていた闇ギルドを従えているときた。

詮索はしないものの、気にならないかと問われれば嘘になる。

「うぅん…」

寝心地悪そうに眉をひそめながらゴロンッと寝返りを打ってエルの膝の上に頭を置いたミリア。それを察してか、エルは優しくミリアの頭の上に手を置いて優しく規則正しく撫で始めた。

本当に寝ているのか、と疑問しか浮かばない光景。しかも、反対の手で壁を弄り窓を開けてみせた。

馬車内に篭った空気が入れ替えられ、ミリアの歪んだ表情は安らぎを取り戻し、エルの寝顔が若干穏やかになった気がする。

そんな感じでノンビリと馬車は進む。


●●●


タングの街…街と言っていいのか考えてしまうほど廃れた街。

まず初めに見えて来るのが崩れた石の壁。その後、大きな欠伸をしながら壁に寄りかかる怠慢な兵士達。

確認の一つもなく素通りで街に入れば、もはやゴミ溜めのような景色が広がっている。

路上にはゴミや肥溜めがあちこちに点在しており、今も家々の窓から糞尿が無造作に路上に捨てられていたりする。
住民達の服装は簡素と言うよりもボロ切れ。

他の街々と比べて圧倒的に人気は少なく、家々の隙間の路地から覗く鋭い眼光や、路上で倒れている人々。何かの病気を持っていそうな咳をする人達。
路地から覗く眼光以外の者達の瞳に正気はなく、まるで死に掛けの街と命名したくなるような街だった。

第一印象を簡潔に言うと、最悪だ。
いや、印象で例えなくとも、実際に最悪な環境だった。

馬車が止まったのは、これまで見てきた屋敷なんかよりも一際目立つ大きな屋敷。
門前には職務を全うせんと仁王立ちする屈強そうな騎士が居座り、そこを通過すると、これでもかっ!と言わんばかりに金がかかってそうな噴水に、手入れの行き届いた庭園。その奥に聳え立つ、まるで白亜の城を彷彿させる豪邸。

ここまで格差のある街を見たのは初めてだ。

この屋敷以外は全てスラム街に化しているようにしか見えない。
見ていて良い気はしない。

なので、俺は終始寝たふりを決め込んだ。

「エルさん、起きて下さい。着きましたよ」

「………ぁぁ」

小さく返事を返しながら重たい体をムクリと起こす。と、俺の膝を枕にして寝ていたミリアも目を覚ました。

起こす手間が省けたようで何よりだ。

「んみゅ…もう着いたの…?」

まだ眠そうに目を擦っている。

「ミリアお嬢様。寝室までご案内しますので、そちらでお休みになられて下さい」

メイドがミリアを連れて屋敷に向かった。
俺も…いや、俺は頼まれてた事を先に済ますか。それに、その頼まれ事の見返りになりそうな情報も貰ったしな。

「エル少年も部屋へ案内させよう。セバス」

「はい。では、こちらへ」

と言いながら馬車から降りるのを手伝うように手を差し伸べるセバスの手を無視して、地面に降り立つ。

「用事がある。帰るしたら紅茶を頼む」

「そうですか…分かりました。行ってらっしゃいませ、エル様」

「ああ」

セバスが首を垂れるのを尻目に、俺は豪邸から目を背けてスラム街と化した下町へと足を向けた。

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コメント

  • トラ

    更新お疲れ様です
    読むたびに続きが気になって仕方ないです
    次も楽しみにしてます!

    1
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